005 女子力
妙は台所に立つと、トントントン……というリズムの良い、心地よい音をたて始めた。
程なくして、呆然とする雪美の前に、朝食が整然と並べられていった。
湯気が立っているほかほかのご飯。味噌汁。卵焼き。味海苔。たくわん。焼き鮭。納豆。
「さぁ、先輩、召し上がってください。お口に合わなかったら、ごめんなさいですけど」
妙が期待と不安が入り混じったような瞳で、雪美の顔を覗き込む。
雪美はおずおずと、味噌汁を啜すすった。
昆布でとった出汁と赤味噌の風味が、口の中にじわりと広がる。
……ものすごく懐かしい味だ……。具が、豆腐とワカメというのもいい。
何年ぶりだろう、こんなまともな朝食を食べたのは……。
焼き鮭のしょっぱさも、白米の甘味も……なにもかもが胃袋に沁みた。
「美味しくて、泣きそう……」
そんな思ったところを、素直に口にすると、妙は相好を崩して喜んだ。
「わぁい! ありがとうございます。先輩にそう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいです!」
かわいいこと言うなぁ。これが女子力とか言うやつか。
「うん。お世辞じゃなくて、本当に美味しいよ。いいお嫁さんになれるね」
「ありがとうございます……! そういえば、先輩、体調はどうですか? 昨夜は随分と、めれんに見えましたけど……」
「あぁ……いつもあんな感じだから平気。ちょっと頭痛いけど、昼にはよくなると思う」
「そ、そうですが……先輩は普段、食事はどうされているんですか? 自炊派ですか?」
「そんな訳ないじゃん。スーパーで値引きされた惣菜で焼酎飲んで、酔っ払ったら、寝るだけの毎日だよ」
「そ、そんなんでいいんですか?……アタシ、先輩のことが心配です……」
「あー、ありがと。でも、もう。ずっと、こうして生きてきたからなぁ」
「彼氏とか、いないんですか?」
「いる訳ないじゃん。見りゃ分かるでしょ?」
「そ、そんなことないですよ。先輩、美人じゃないですか。モテるように見えますよ」
「モテねぇよ!」