004 可憐な花が次々と咲いていくような
眼差しの主は、伊藤妙だった……
「センパイ……おはようございます」
妙から放たれた言葉は、いつもの元気なそれとは異なり、少し媚びるような……甘ったるいものだった。
「あっ……あぁ、おはよう」
ふと周りを見渡すと、辺りは女の子らしいぬいぐるみだとか、化粧道具だとか……それとは正反対のテイストのキャンプ道具だとか、サッカーボールだとか……なんというか雪美の生活に……まったく馴染みのないものばかりで溢れていた。
守護神の黒霧島なぞ、どこにも見当たらない。
ここが自宅ではなく、伊藤妙の部屋であることは、二日酔いで働かない雪美の脳みそでも、すぐに分かった。
雪美は呆けたように、妙の部屋を眺めた。
妙はそんな雪美を見上げながら、クスクスと笑い──可憐な花が次々と咲いていくような──そんな笑みを浮かべていた。
……なんだよ、かわいいな。
妙はキャミソールの胸の部分を片手で押さえながら、ベッドからそろりと降りた。
見下ろす雪美の視線の先。
──そこには彼女の小柄な身体には不釣り合いな、胸の双丘が浮かんでいた。
妙は片手を胸に、もう片方の手で、キャミソールの裾を引っ張り下げるような格好で──。
恥ずかしそうな笑みを口の端に宿し。こう言った。
「センパイ、少しの間、後ろを向いててもらってもいいですか? 服、着替えます……」
「ん、あ゛ぁ」
変な声で返事をしつつ、雪美は後を向いて、妙が着替え終わるのをボーっと待った。
妙から「もう大丈夫ですよ」と、声を掛けられ振り向くと、部屋着に薄桃色のエプロンを着けた妙が、悪戯っぽく微笑んでいた。
「センパイ、朝ごはんは和食派ですか? それとも洋食派ですか?」
「……」
雪美は急な話の展開に、戸惑い、うまく言葉を出せないでいた。
「もし、拘りがなければ和食でいいですか?」
「う、うん」
よく状況を理解できていないまま、雪美は首を、何度も何度も縦に振った。