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003 背中に何か温かいものが触れている


 まれに見せるれいの笑顔は、普段の美貌からは想像出来ないような、不自然で歪な表情で……初めて見たときは随分と驚いた。

 そんな無理に笑ったような、引き攣った笑顔を見るたびに、雪美の胸は……強く痛んだ。


 また、彼女をよく見ていると、クールな外見とは裏腹に、彼女は動く度に、始終、身体をどこかにぶつけいていた。

 そんな彼女のドジなところが、危なっかしく……愛おしくさえ思えた。

 

 不器用さ故に孤立する彼女を、雪美は憐情れんじょうと庇護欲と、僅かな軽蔑が入り混じった複雑な感情で──見守り──面倒を見続けた。


 彼女への想いは、日に日に強くなり……その感情は、いつしか、雪美の心の底に明確な形で、ドロリと横たわるようなっていた……

 雪美は、その想いに必死で気がつかない振りをした。


 だが、その暗く秘めた感情に、いつまでも蓋をしておくことは叶わなかった。



 八月に入り、毎年恒例の暑気払いが、行われる運びとなった。

 酒飲みの雪美は、当然の如く参加。

 雪美は教育担当の立場として、微かな期待を抱きながら澪を誘ったが、素気すげ 無く断られた。



 暑気払いの会場では、雪美はセブンスターを吸いながら、ひとり、手酌でロックの焼酎をあおっていた。

 時折、傍にやってくる上司や同僚と適当に話をし、彼らが去ればまた一人、手酌を始めるのが、雪美の飲み会での基本スタイル。


 この日、雪美はいつになく、痛飲した。

 酒宴の終盤、隣にやって来た伊藤(たえ)に、さんざん酌をされたのが原因だ。

 自分を慕う可愛い後輩が、ニコニコと酒を注いでくれるのだ。気分が悪い訳がない。


 そして、その後の記憶もない。



 ◇



 雪美は気が付けば、どこかの布団の上で眠っていた。

 遠くからガーゴー、ガーゴーという不快な音が聞こえてくる。


 朝から掃除機とか、誰だよっ!

 イライライしながら雪美が目を覚ますと、騒音はたちどころに消失した。騒音の発生源は、自分のイビキだった。


 なんだぁ、と思い、二度寝しようと布団に潜り込んだところで、ふと気がついた。

 背中に何か温かいものが触れている。


 雪美は弾かれたように、跳び起きた。

 見下ろした視線の先。そこには緋色のキャミソールに身を包む、可憐な少女の姿が。


 その少女は目を細め、含羞はにかんだような笑顔で、雪美のことを見上げていた。

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