女性天皇と女系天皇の差異に関し、賢明なる『なろう』の諸氏は当然認識されているであろうな?
政治的立場を表明するものではありませぬ。念のため。
元号が令和に変わり、新たな時代を迎えました。
それと同時に、やはり来ましたね。
そう。皇位継承問題。
愛子様や悠仁様がお生まれになった前後も、この話題がメディア各所を席巻した感がありました。そして、今回の改元及び皇位継承を機に、再び火の手があちこちで上がっているようです。
この話題が巷間の人々の関心をさらうとき、常に気になるのが、
「女性天皇と女系天皇は違う」ってこと、ちゃんと認識してますか?
ってお話。
はいマスコミ君、きみは手を挙げなくてよろしい。
皇位継承を取り巻く種々の議論については、ネットを適当に検索すれば山ほど出てくるので、そっちを読んでください。
本稿では、女系天皇と女性天皇の違いについても触れますが、どちらかといえば主眼はそこではありません。男系相続と女系相続の違いについて、ネットの海やら周囲との四方山話で聞きかじった知識をもとに、私見を適当に垂れ流す。そういうのがメインです。
『なろう』に即した内容に仕上げたつもりではありますが、学術的検証なんぞ一切しちゃいませんから、くれぐれも真に受けることのないよう、暇つぶし程度に読んでください。
■男系と女系
で、まずは基本編。「男系女系」と「男性女性」の違いについて。
ひと言でいうなら、前者は世継ぎの選び方、後者は単なる個人の性別。
これだけです。
もう少しだけ補足するとしたら、
・男系相続=男系男子を正式な跡取りとするもの
・女系相続=女系女子を正式な跡取りとするもの
とでもなりますか。
■男系相続の例
男系とか女系とか、聞きなれない人もいることでしょう。
なので、例として家系図っぽいものを使って説明してみます。
国王 ─┬─ 妻
1A │
├───────────┬───────────┐
│ │ │
王女2A ─┬─ 夫 王女2B ─┬─ 夫 王子2C ─┬─ 妻
│ │ │
女子3A 男子3C 男子3E
男子3B 女子3D 女子3F
第2世代がどっかで見たことあるような姉弟構成ですが、気にしてはいけない。いいね?
さてさて。まずは、この王家が男系相続だとします。男系相続の場合、正統な後継者は常に「男系男子」となりますが、このときの王位継承権第1位は誰になるでしょうか?
そう。末っ子長男の王子2Cです。
ついでに第2位は、2Cの長男である3Eですね。
じゃあ、この王家が男系相続であると同時に「女性国王を容認している」となると、王位継承の順位はどうなるでしょう?
まず、王女2Aや王女2Bは女王になることができます。
もしそうなると、彼女らは「男系の女性国王」となります。
しかし、王女2Aや王女2Bが国王になったとしても、その後の王位継承順位は変わりません。
実はここが、女性天皇と女系天皇の違いを考えるうえで重要なポイントのひとつです。
王女2Aや王女2Bは「男系」ではありますが「女子」です。したがって、彼女ら自身は正式な王位継承権を持ちません。一応、女性国王を容認してさえもらえれば国王になることはできます……が、彼女らの子は国王になれません。たとえその子が男子であっても。
なぜなら、彼女らの子は「女系」になるからです。
そもそも、王女2Aや王女2Bが国王になる状況というのは、王子2Cが幼かったり、あるいは何らかの病気を持っていて公務に支障をきたす場合などが想定されます。彼女らは、言わばピンチヒッターとして「臨時的に」国王になっているだけなのです。
俗に言う「女性国王の容認」というのは、つまりそういうことです。正式な後継者は、あくまで男系の、しかも男子である、と。そして、男系相続の下では、男系女子の子孫については継承権を認めていないのですね。
■女系相続の例
じゃあ、今度は女系相続だった場合を考えてみましょう。
再びさっきの系図に登場してもらいます。
国王 ─┬─ 妻
1A │
├───────────┬───────────┐
│ │ │
王女2A ─┬─ 夫 王女2B ─┬─ 夫 王子2C ─┬─ 妻
│ │ │
女子3A 男子3C 男子3E
男子3B 女子3D 女子3F
こちらはかなり分かりやすいですね。王位継承権第1位は王女2A、第2位は女子3A、第3位は王女2B、第4位は女子3D、みたいな感じになります。
……はいそこのアナタ、騙されましたね?
今の説明は不正解です。
正解は「正統な王位継承者は存在しない」。
より正確に言うなら「正統な王位継承者がいるかどうか、上図だけでは分からない」です。
何故かって?
国王1Aが男だからですよ。
国王1Aが男系男子であれ女系男子であれ、女系相続は「女系女子」を正統な王位継承者とするものです。つまり、国王1Aはただのピンチヒッターにすぎないわけです。国王1Aに正式な王位継承権は無く、その子についても王位継承権はありません。たとえ国王1Aの子が女子であったとしても、です。
(国王1Aの妻が正統な王位継承者=女系女子であれば話は違いますが、その場合は1Aよりも先に、その妻が女王になる道理です。王配にすぎない1Aが国王の座についているのであれば、何か深い事情があるのでしょう)
そしてこの状況、女系相続下で国王1Aが亡くなった場合には、過去にさかのぼって女系女子を探し出し、本人またはその子孫の女子に正統な王位継承権を付与することになります。
■閑話
で、今なんで皇位継承が問題になっているかというと、男系男子が非常に少ないからなんですね。
ご承知のとおり、わが国の皇室は男系相続です。そして今、皇室の男系男子は非常に少なくなっている。もともと男系相続というのは、側室制度と切っても切れない関係にあります。というか、側室なくして男系相続は成り立ちません。現代の科学ですら産み分けをろくに実現できていないのに、常に男子を一定数確保しなければならないわけですから。
しかしながら、現代社会で側室の復活とかをやるわけにはいきません。
そりゃそうだ。
だから女性宮家の創設検討とか、廃止された宮家を復活させて男子を迎えようとか、そういう話が出てくるんですね。ちなみに、女性宮家創設の検討は、女系天皇容認論に立つものです。一方、廃止宮家の復活検討は、バリバリの男系論ですね。
皇位継承問題の議論の中心は、ここにあります。
で、その中で一番気になるのが「女性天皇を容認しよう!」と言ってる人たち。
この人たちは、知ってか知らずか、女系と女性をごっちゃにしてるフシがあります。まるで、本当に女系と女性の区別がついていない人に向けて、女系天皇を容認させようとしているみたいな……
まあ、女系天皇が容認されることに関して、個人的には正直どちらでもいいと思っています。しかし、これだけは気を付けてほしいところです。
継承議論の主題は、女系を認めるか認めないか。
ここで女系と女性を混同してしまうと、皇位継承議論の本質が見えなくなってしまいます。
相手方に反論しているつもりで実は相手と同じ立場だったとか、相手方と議論しているつもりで実は全然テーマの違うことを議論してて噛み合っていなかったとか……
こうなると、結論が明後日の方向に飛んでいってしまいます。
グッバイ結論。
だから、女性天皇と女系天皇の違いは、議論のためにも自衛のためにもちゃんと区別しましょうね、ってのが本稿の申し上げたいこと【その1】です。
なお、繰り返しになりますが、皇位継承議論についてはネットを探せば記事が山ほど出てきます。皇室にとって男系相続と女系相続のどちらがいいかという話は、個人的にも一定の興味を持つところなのですが、ここではしません。感想に書かれてもガン無視しますので、そのつもりで。
大事なのは、ここが『なろう』であるということ。
つまり……
そう。我々のライフワークであるところの創作活動、これに取り入れるうえで、男系女系の知識を持っておいて損はないよ、というのが、本稿の申し上げたいこと【その2】になります。
そんなわけで、次は男系相続と女系相続それぞれのメリットを見ていくことにします。
■男系相続のメリット
ここから述べるのは一般論です。
くどいようですが、皇位継承問題の議論とは切り離してお読みください。
閑話休題。
男系相続をするメリットというのは、ただ一点。
それは「王位継承の正統性(特に血筋の正統性)を周囲に理解させること」
です。
あなたは最初の王の血をちゃんと引いてるよね? 血統に問題はないんだよね?
そういう確認をしたいとき、男系相続は最も適しているといえます。
なぜかって?
ここで登場するのが遺伝の話です。
男性は染色体Xと染色体Yを持っています。
一方、女性は染色体Xだけを持っています。
男性であれば、男親のYと女親のXをひとつずつ受け継ぎます。
女性であれば、男親のXと女親のXをひとつずつ受け継ぎます。
で、このとき、男親の遺伝子を確実に受け継いでいるのは果たしてどちらなのか、という問題が出てきます。先ほどの家系図にもう一度だけ登場してもらいましょう。
国王 ─┬─ 妻
1A │
├───────────┬───────────┐
│ │ │
王女2A ─┬─ 夫 王女2B ─┬─ 夫 王子2C ─┬─ 妻
│ │ │
女子3A 男子3C 男子3E
男子3B 女子3D 女子3F
この家系図の例でいえば、第2世代の王子2CはXとYを持っています。Xは母親から、Yは父王から受け継いだものです。ということは、王子2Cは国王1Aの遺伝子を確実に受け継いでいることになります。
次に、王女2A、王女2Bはどうでしょうか。彼女らについても、確実に父王のX遺伝子を受け継いでいます。二人ともXを二つ持っていますが、それぞれ父と母からひとつずつ受け継ぐからです。
以上から、第2世代は全員、国王の正統な血筋を引いていることが確実です。
では、第3世代はどうでしょうか。
まず、王子2Cの子である男子3Eについて。彼はXを母親から、Yを父である王子2Cから受け継ぎます。王子2CのYを受け継ぐということは、国王1AのYを受け継いでいることになります。したがって、彼は国王1Aの正統な血筋であることが確実です。
次に、男子3Bと男子3Cはどうでしょうか。彼らのYについては、国王1Aとは無関係な父親から受け継がれますので考慮不要です(例外はありますが、話がややこしくなるので除外します)。一方、Xについては母から受け継ぐことになりますが、母である王女のXはふたつあり、国王1Aとその妻からひとつずつ受け継いだものです。したがって、男子3B及び3Cに国王1AのXが行き渡る確率は50%となります。
さらに、女子3A、女子3D、女子3Fについてはどうでしょうか。
王女の子である3A、3Dについては、片方のX遺伝子が母のものです。つまり、王女2Aや2BからXを確実にひとつ受け継いでいます。したがって、国王1AのXが50%の確率で入ることになります。しかし、女子3Fについては、国王1Aの妻のXと、王子2Cの妻のXを持ちますので、国王1A由来の遺伝子が一切入らないこととなります。
いかがでしょうか。第3世代の六人のうち、確実に国王1Aの血を引くと断定できる者は一人だけ。王族の一人は国王1Aの遺伝子を一切持たないという状況。そして、残り四人についても国王1Aの遺伝子を持つ確率は50%しかなく、これらは今後の代替わりで消失する可能性すらあるという状況。
このことから、血筋の正統性や保存性の観点を最優先するなら、男系男子に家を継いでもらう男系相続が最適解となるわけです。開祖となる男性のYの受け継がれ先を考えるだけで、その他のランダムな要素については一切斟酌する必要なく、血筋の正統性を簡素かつ簡潔に判断することができます。
これこそが、男系相続の最大にして唯一のメリットです。
まあ、実際はXだYだと言われる以前から、男系相続というのは広く取り入れられた王位継承方法でしたから、理論的な裏付けが古代からあったわけではないのでしょう。ただ、Y染色体を持っていれば高い確率で「親に似る」わけですので、これまで述べたような内容を、封建社会ではある程度体験的に理解していたのではないでしょうか。
そんなこと言っても、親子で似てないなんて現代でもザラにあるじゃないか。
そう反論したい方もいるかもしれません。
当然、例外もあります。しかしながら、男系維持のために近親婚を繰り返した例も歴史上多く見られ、男系相続下での王家の血筋は相当に濃くなるのが一般的であったようです。となると、親に似る確率は非常に高かったと考えられます。その意味でも「見て分かる」ことが当時は一番合理的だったのでしょう。
男系相続の弱点のひとつに、王妃の不義密通というのがあります。妻の側が他所の男と密通することで、あたかもカッコウの托卵のように、他所の馬の骨を王位継承者として扱ってしまうリスクが生じる。家系図上は正統な継承者なのに、実際は他所の子でしたー残念! みたいなやつです。
しかし、すでに血筋が濃くなっていれば、産まれた子の顔が似ていないというだけで追及が簡単にできます。中世においては「見て分かる」が最強だったんでしょうね。
■女系相続のメリット
では、女系相続のメリットはどういう点があるか。
女系相続の最大の利点。それは「優秀な遺伝子を外から取り込める」。
これに尽きます。
男系相続の最大の弱点は、子孫がボンクラとなる可能性が常につきまとうことです。現代でも至るところで見られる普遍的な現象ですね。
その点、女系相続であれば他所から優秀なムコを迎え入れ、その血筋に取り込んでしまえばいいのですから、自分の子供が優秀だろうとなかろうと関係ありません。帝王学も何もあったもんじゃありませんね。
それに、先ほど字数をかけて遺伝子うんぬんと延々グダグダ説明してきた内容も、女系相続の場合は一切考慮せず、一蹴してしまっていい。極めてシンプルで分かりやすい考え方です。
加えて、女系相続では当主となる女性自身の腹から正統な子孫が生まれます。なので、血筋の正統性でも男系相続とは違った部分で強みがあります。男系は記録的、女系は体験的とでも言い換えられましょうか。
また、いくら妻の側が不義密通をしようとしても、子を宿す当事者=当主なのだから、男系の場合と違って血統的には何の問題も生じません。
(倫理とか道義とか、別の問題は大アリですが)
実際、江戸の商家は女系相続の家が多かったようです。古代だとエジプトなんかもそうだったようですね。まあエジプトについては諸説あるようですが。
が。そんないいことづくめに見える女系相続も、歴史的には決して主流と言えません。
それもそのはず。
女系相続の標榜する実力主義は、中世ヨーロッパの貴族主義と真っ向から対立する概念だからです。
世界は長らく封建貴族という不逞の輩が支配してきました。今でもその風潮がどこかに残る社会は厳然として存在します。
(日本も決して例外ではありません)
そんな封建貴族の皆様にとって、どこの馬の骨とも分からない奴の血が常に流れ込んでくる、この生理的嫌悪感は半端なかったことでしょう。暴力で領地を占領した自分の先祖のことは棚に上げて、いい気なもんです。
で、彼らは気づきます。何も男系相続を廃さずとも、帝王教育のやり方しだいで、あるいはスペアを多数用意することで、ボンクラ息子への家督継承をある程度防げることに。
(そのぶん見合ったコストは生じますが)
となれば、尊い血筋を安易に絶やすことと秤にかけて、女系相続ではなく帝王教育つき男系相続を選ぶのはそんなに分の悪い選択ではないでしょう。
最悪、子どもがボンクラになったらなったで追放してしまえばいいのです。
みんな大好き追放下克上もの。『なろう』でもよく見かけますね。
権力者たるもの、権力には理由が必要です。乱世が終わって平和な世の中になると、腕っぷしだけじゃ評価されません。ある種の権威付けが必要となります。実力主義じゃ説得力がないってことです。となると、家系図で見たときにより正統性を持つのは男系か女系か?
確かに、女系相続には当主本人が正統性を認められるという利点があります。しかし、本人の実体験というやつは記録化しづらいのです。穿った見方をすれば、口裏を合わせることだってできます。時の権力者が好きなように記録を改ざんすることも可能です。
(まあこれは系図についても同じですがね)
記録となり歴史となったとき、正統な後継者を系図を見てさかのぼり、代々の男系男子をたどっていくほうが、歴史書を延々と読むよりも圧倒的に早く正統な血筋を把握できます。この利点が、近世に至るまでの長きにわたって重宝されてきたと考えられるわけです。
とはいえ、家の繁栄を最優先にした場合、優秀なムコが常に供給されるという前提条件さえ整っていれば、女系相続が極めて合理的で強力な相続方法であることに変わりはありません。封建社会で相手にされなかっただけ、というか形式を重んじる文化的土壌ゆえ実力主義である必然性が無かっただけなのかもしれませんが、ともかく女系相続は現代においてこそ血統主義より親和性が高いものであると言えましょう。
■『なろう』で小説を書くときに
ここまで、男系女系について書き連ねてきました。
最後に『なろう』向けの話を少しだけ。
(実はここが本題なのですが)
『なろう』といえば異世界ファンタジーです。
で、そこには当然のごとく王家やら貴族やらが登場するわけで。
ということは、自分の書こうとしている王家が、男系相続なのか女系相続なのか、どちらでもない直系長子優先主義なのか、はたまた遊牧民族顔負けの実力で奪い取れ主義なのか……
そのあたり、しっかり決めておく必要がありそうですね、ということです。
理由なく直系長子相続に落ち着いている人もいるでしょうが、その家の性質や時代背景、あるいは作品の方向性次第では、男系相続や女系相続とするだけで、手軽に強い説得力を生み出すことが可能でしょう。
(もっとも、直系でない者がしばしば後継者とされるため、かえって正統性を損ねかねないというのが、男系相続や女系相続の欠点ではあります)
また、側室がいるのに男女関係なく長子相続というのは、何となく違和感があるような気がしてなりません。男女関係なく相続できるのであれば、男子だけが欲しいとか、女子だけが欲しいとか、そういう産み分けの需要がないわけですから、この時点で側室の必要性はほぼ皆無となるはずです。
逆に子が多くなりすぎて、継承権争いの余計な火種となりかねませんし。
直系至上主義であれば、その延長で庶子はなお疎まれやすくなるでしょう。
まあ、それを活かして作品作りというのも手ですが。
あと、権力者ってのは好色ですから、単にそういう意味でそういう設定にするってのもいいでしょう。ただ、その場合は側室の子に継承権を持たせないのが自然かと。このあたりは個人の好みですかね。
とまあ、こんな感じで……
一番言いたいことが一番少ない分量になってしまいましたが、今回はこの辺で。