日記発見
その日も学校帰りに、上辺だけの友達とゲーセンに寄った。
暗くなってそいつらと別れ、その後どういう訳か三太は施設には帰らず、ブラブラと公園に入り砂場にごろんと寝転がった。
星1つ見えない夜空を眺めていた。
何時間も見つめていた。
だんだんとまぶたが重くなってきて、気づいたら朝だった。
朝日で目を細めながら体を起こす。
ぽっけに手を入れてみると財布が盗られていた。
ちょうど、その瞬間だ。
三太はこの生活から抜け出そうと決心した。
学校にも行かないし、施設にも戻らない。
東に行こうと思った。理由は分からない。お天道様は東から昇るのだから東に行けば何かあるだろうと思ったのかもしれない。
三太はただ、朝日に向かって歩きだした。
きっと頭が少しイカれていたんだと思う。
しばらく歩いて、三太は何が辛かったのか、そもそも辛かったのかも忘れてしまっていた。
同じ方向に向かってずっと歩いていた。何日間も歩いていたかもしれないし、あるいは小一時間だったかもしれない。
歩き続けていると視界がぼやけてくる。
道は歪み、街の外観は崩れ始める。
それでも足を進める。
視界は崩壊し、やがて真っ白になる。
脊髄と各器官との連結が外れる。
脳という脳が溶けて、感覚が無くなる。
ただ唯一、スッと自分の体が消滅したのを感じた。
洞窟にいた。学校の教室よりも少し狭いくらいの広さ。
入り口からはわずかに日光が届き、洞窟の黒い壁面が水滴で光っている。
僅かに誰かが生活していたような形跡が見られた。
洞窟の壁に沿うように木の箱がある。オンボロでしばらく使われてないようなやつ。
よく見ると、その上に錆びれたノートが置かれてあった。横には鉛筆がある。
周りには少しコケがついている。
1ページ目を開く。日本語の綺麗な字で綴られている。
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3日目
少し落ち着いたので日記を再開しようと思う。
新品のノートに日付を書けないのが残念。
ここに来たのは2日前。
急に視界がぼやけてきて、気づいたらここ。
笑えないから。真面目に。
助けを呼ぼうにも外は深い森の中。おとといは疲れてそのまま寝ちゃった。
辺りを散策したのは昨日。
森の香りは気持ちよかったし、泉が綺麗だった。
ここに居座るつもりはなかったから相当歩いたんだけど、数キロ先に村発見!
村人もいた。ただ、言語、文化は未知。スマホの電波も届いてない。
多分、ここ日本じゃない。21世紀でもない。
うん。笑える。
私、正気じゃないな。
お腹空いた。
今日はここまで。
三太は流れるようにページをめくる。
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4日目
食料問題は解決。近くに生えてる木の実、勇気出して食べてみたら案外イケた。たくさんなってるからしばらく拝借しようと思う。
泉で水浴びもしたし、寝床は今いるこの洞窟。
今のところ困ってることは特にないかな。
でもここにずっと住むのは無理。
しばらくしたら昨日の村人に接触してみようと計画中。
家族に会いたい。
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5日目
魚を見つけた。
泉で水浴びしてたとき。
流石に木の実はすぐに飽きるだろうと思ってたから良いニュースなんだけど。。
生で食べられるのかな?
ちょっと怖い。
火が使えるといいのになー。
3日目から一日も欠かさず何ページもこの綺麗な字で書かれてある。俺は戸惑いながらも夢中で読み続けた。
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10日目
村人に接触!
凄く良い人達だった!!
お腹をさすってジェスチャーで頼みこんだらたくさん食べ物を分けてくれた!!
このところ木の実しか食べてなかったから久しぶりに舌が蘇った!!
村は意外と清潔で、文明も思ったより進んでるっぽい。
ヨーロッパの中世辺りの文明だと予想。
随分人に会ってなかったから心地よかった。
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17日目
体が重い。熱っぽい。まあ、こんな暮らし続けてたら体も壊すか。
日本に帰りたい。
きついなー。
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24日目
村人の人に色々と分けてもらった。
火打石、釣り道具、食料、衣服などなど。
相変わらず言葉は通じないけど前に熱で倒れたときから毎日誰かがやってきてくれて、本当にありがたい。
大きな男の人がやってきて、襲われるかと思って叫んだら食べ物を分けに来てくれた村の人だった。 ほんとごめんなさい。。
片道30分近くかかる距離なのに、、、やばい、泣きそう
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47日目
この生活にも慣れてきた。
火も上手くつけられるようになったし魚も釣れるようになった。
村の人に狩りも教わった。
そろそろ村の人たちに甘えなくてもなんとかなりそうだけど、独りは辛い。
言葉もほんの少し分かってきた。おはようとありがとうは言える!
クラスのみんなはもう、高校に入学してる時期だなー。
もう戻れないのかな
コケとか湿り具合からこのノートは一年近くは触られてないだろう。とすると、この子と自分は同級生か、と急に親しみを覚える。ただ、ここが日本じゃないなんてさすがに信じられない。ページをめくる。
年 月 日 曜日
帰りたい
三太は体に悪寒が走るのをはっきりと感じた。
ただそれだけが情けない文字で書かれてあり、それ以降は何も書かれてはいなかった。
急に日本が恋しくなったのか、
それともこの日、何かが起こったのか。
ただ、今の三太にはあまり関係のないことだと思った。
この子に感情移入できるほど現状に追いついていない。
三太はノートを木箱の上に置き、背伸びをして立ち上がった。
洞窟の入り口から外に出る。
森林だった。
深い緑が辺りを覆い、澄んだ空気が心地よい。
地面にあぐらをかく。
頬を思いっきりつねる。
激痛で思わず手を離す。
静寂に包まれる。
何時間かそのままでいた。
「しゃーーーーー!!」
三太は歓喜の叫びを上げた。
日本から、あの嘘だらけの世界から抜け出せたことが何よりも嬉しかった。
「ぽぉぉぉぉぅぅぅぅーーーーーーーーーー」
狂気に満ちた声で踊り転げた。
踊り疲れて、土の上に大の字になって木洩れ日を見つめた。
よし。
ここで暮らそう。
日記に書かれてあった木の実はすぐに見つかった。
ちょうどいちごくらいの大きさの茶色い皮を被った実が手の届くところにいくつもなっていた。
味は、、案外イケる。
日記に書いてあることは信じてもいいみたいだ。
木の実を十分確保し、今度は洞窟の周りを歩いてみることにした。
道らしい道はなく、遠くから様々な生き物の声が聞こえる。
少し歩くと、泉に着いた。
おそらく日記に書いてあったものだろう。
太陽に照らされ、水面が虹色に光っている。
心地よい風が髪をなびかせた。
三太はしゃがんで顔を洗った。
開放されたことがあまりに嬉しくて、すっかり彼女のことを忘れていた。
日記の、突然ノートから姿を消した彼女。
彼女はどうしているんだろう。
顔を洗いながら三太はあのノートを返さなければいけないなと考えていた。




