冒険者になる
「こんにちは!本日はどのような要件でしょうか?」
明るく元気な赤毛の女の子は天使のような笑顔で話しかけてくれた。
しかも豊満な胸元は大胆におっぴろげており、いやでもそこに視線を吸いつけられた。
現実世界では、彼女いない歴=年齢だった。もしかしたら俺に気があるんじゃないか・・・?
ここらじゃ全然見かけない日本人らしい顔立ちだ。もしかしたらこの世界じゃモテモテのモテ男なんじゃないか?
そんな事を考えてにやけながら答えた。
「あの、冒険者になりたいのですが」
「はい、冒険者登録ですね。ではまずお名前を教えてください」
名前か、俺の現実世界での名前は秋伊寺 七太だ。
普通に現実世界の名前では面白くない。せっかくの異世界だ。ちょっと洒落た名前がいいなぁ。
だが一瞬でなかなかいい名前が思い浮かばず、咄嗟の事だったので適当に答えてしまった。
「アッキーデ・ナナです」
なんとも微妙だが、まあいいだろう。
「アッキーデ・ナナさん、ですね・・・えっ!?」
巨乳ちゃんパソコンのような緑色の機械に向かってカタカタと何かを入れてる途中で、突然唖然とした表情になった。
「え?どうしました?」
「あっ・・・えっと・・・少々お待ちください!!」
巨乳ちゃんは慌てて受付の奥の扉へと走って行ってしまった。
まさか何か大変な失言でもしてしまったか。いや、名前を言っただけだよな・・・。
もしかしたらここら辺じゃありえないような名前なのか・・・。
しばらくすると受付の奥から腰の曲がったおじいさんが現れた。
その後ろには巨乳ちゃんが付いている。
おじいさんの髭はお腹の方まで伸びており、紐のようなもので結ばれている。
その髭を大事そうに触りながら俺の前へとやってきて、しわがれた声で話し始めた。
「これはこれは、先ほどはメイが失礼しました。ナナ家の方とは露知らず。ささっこちらへどうぞ」
ナナ家?まさかナナという名前が悪かったのか?
その後俺は言われたまま受付の奥の部屋まで連れていかれた。
部屋の中は大きな絨毯がひいてありあり、大きなソファと机が向かい合うように置かれていた。
俺はソファへと座らされ、白鬚じいさんは机側の椅子へと座った。
メイと言われた巨乳ちゃんは部屋に入ってこなかった。
「さてさて、お茶でもいかかでしょうか?それともお酒の方が?」
現実世界ではまだ俺は18だ。お酒は二十歳になってからだぞ!
「い、いえお茶で結構です」
そう言うとおじいさんは手際よくお茶を淹れて俺の前に出した。俺も手伝った方が良いのかと思ったが、なんとなくそんな雰囲気ではなかった。
礼儀としてお茶を一杯飲んでみた。
このお茶は・・・現実世界では毎日のように飲んでいた・・・。
これは完全に・・・あ、綾〇だ!
あったかいし、茶葉の風味が鼻を過ぎる時の匂い。おいしい。
「お気に召していただいて光栄です。そのお茶はこのカーグワ近郊にある茶畑で取れた最高級のお茶なんですよ」
「へぇ~とってもおいしいです」
俺はすぐに一杯飲み終わると、それに気づいたおじいさんはおかわりを入れてくれた。
2杯目を啜ってるとおじいさんは話を始めた。
「ところで、ナナ家の方がわざわざこのギルドに何用でしょうか?」
「え、あのー、冒険者になりたくて・・・」
「それは!もちろんすぐに冒険者登録はさせていただきます!」
「えと、あとできればこの世界について色々聞きたいんですが」
「この世界について?ナナ家の方々の方がお詳しいのでは?」
「そのさっきから言っているナナ家ってなんですか?俺の名前は確かにナナですが・・」
「ナナ家といえば!アトーフ大陸の王族で、ギルド総本部の運営をなさってるのですよね!」
えーー!!なんだそよそれ・・・、そんなこと知らねえよ・・・。今更臍を嚙んだってどうしようもないかぁ。ええい、後の事は知らねえ!
「え、ええ!そうですよ!おれ・・・私がナナ家のアッキーデ・ナナです!」
一応、高貴な方ですよアピールのため自分の事を私という事にした。
「これは失礼しました私はここのギルド長をやっておりますドエゴと申します、以後お見知りおきを。それでアッキーデ様、何用でベーリエ大陸なんかに?」
「え、いやーその観光とかそんな感じで・・・」
「そうでしたか!ベーリエ大陸で一番大きな町、このカーグワ、観光はあまり栄えていませんが珍しい風景はたくさんあると思います!ぜひごゆっくりしていってください!もし何か困ったことがあればなんでも聞いてくださいね!あ、そろそろ冒険者カードもできたでしょう。すぐにお持ちいたします」
おじいさんはそういって部屋から出ていった。
しまったな。嘘で自分がナナ家の者だと言ってしまったが、そのせいでこの世界の事について色々聞けなかった。身から出た錆だ。
おじいさんはすぐに戻ってきた。
「こちらが冒険者カードでございます。ナナ家という事でプラチナランクになっていおります」
そういわれたカードは透明で薄くプラスティックのようなもので、その中に俺の名前が銀色に輝いている。
そのカードを渡され再び受付の場所へ戻ると、受け付けはすでに終了したのか列を成している所はなく、少し閑散としていた。
ギルドの外へ出てみるとすでに日は落ちており、街灯が規則正しく並んで光っているのが目に入った。
どうしよう。一文無しで丸腰に、冒険者カードだけ持っている。靴さえ履いていない。
この冒険者カードがどれだけ役立つのかも全くわからない。
俺はこの世界について知らないことが多すぎる。
ここがベーリエ大陸のカーグワという町だということだけわかった。
だが他にも大陸はありそうだし、王族とか言うのだから王国があるのだろう。
明日は少しでもこの世界について調べよう。
その時俺のお腹がハイエナが吠えるような音を鳴らした。
お腹空いたな・・・。もしかしたら俺はこの世界でこのまま飢え死にするのかな・・・。
現実世界から逃避したくてこの世界に来たのに。何もできないまま飢え死にだなんていやだな。
しかし今はもうどこの店も閉まっているし、第一お金がないのでどうしようもない。
俺は仕方なく路地裏の硬いタイルの上で体を丸めて寝た。