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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第5章 日本騒乱編

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断章 嵐の前編 第7話 ソラの家出

 それは、皐月とのデートの翌日、彩斗達カイトの家族が大阪に来る少し前の出来事だった。そろそろ着くかな、と連絡を待ってスマホに意識を集中していたカイトだが、案の定スマホに着信が入る。


「おーう、なんや。もう着く頃ー?」

『・・・あ?』


 今の時間帯に電話なのだから、自分の親しか居ないだろう。そう思い込んでいたカイトはヘッドセットで応対してしまったが故に、相手の困惑を招いた。相手の声は若い少年の物だったのである。


『あー・・・天音か?』

「は? ああ、天城か。どうした?」

『いや、お前・・・いや、まあお前大阪長いっつってたから、関西弁がデフォなのか・・・』


 ついうっかり地の関西弁が出たのを聞いて、ソラが少しだけ笑いを堪えた様な感じで一人ぶつくさと呟いていた。それにカイトは少ししまった、という感を滲ませ、即座に本題に入らせる事にした。


「そりゃ、どうでも良い。で、何の用事だ。あれか? 暇だからゲームでもするか、って話か?」

『あー・・・いや、ワリィ。今から会えねえ?』

「は?」


 言われた言葉が理解出来ず、カイトは思わず電話越しなのに怪訝な表情で首を傾げる。


「お前アメリカ、行ってんだろ?」

『あー、いや、その予定だったんだけどな。今ちょっと色々あって日本に居る』

「だからって、お前東京都だろ。こっちは大阪府だ。無茶言うな」

『いや、その・・・な? 実は俺も今大阪居る。でだ・・・すまん! ぶっちゃけ恥を偲んで頼む! どっか当分タダで落ち着ける場所教えてくれ! つーか、頼む! 今えーっと・・・新大阪? とか言う駅なんだよ! 迎えに来てくれ! こっちの地理ぜんっぜんわかんねえ! つーか、大阪と新大阪って何が違うんだよ!?』

「はぁ!?」


 ソラの言葉を聞いて、カイトはこの夏休み何度目かの驚きの声を上げる。もしかしたらこの時が一番驚いたかもしれない。そもそもアメリカに行くはずのソラがなぜこんな所に、となるし、色々と疑問もある。だが、既に夕方も過ぎ、夏とはいえそろそろ出ないと中学生としては怪しまれる時間帯だ。


「はぁ・・・ちょっと待ってろ。一回切るぞ」

『すまん』

「どうしたんじゃ?」


 急に驚いて動き始めたカイトを見て首を傾げたティナに向けて、カイトは事情を説明しながら用意を始める。

 カイトは本当は今日は出掛けるつもりはなかったので部屋着から着替えても居なかったのだが、大急ぎで着替えると少し急ぎ足に新大阪駅へと向かう。すると、そこには確かに言葉通りにソラの姿があった。


「・・・でだ。なんでお前がここに居る?」

「・・・すまん、聞かないでくれ」


 ソラはとんでもない苦虫を噛み潰した様に顔を顰めると、かなり申し訳無さそうに頭を下げる。どうやら彼は彼で何らかの深刻な事情があるのだろう。

 カイトはその顔にかなりの悩みを見て取ると、何も聞かない事を選択する。彼は名家の子息だ。こんな所に一人で居る時点で、何か訳ありであることは確実だった。


「・・・はぁ。わかった。親父さんとかには?」

「一応、親父にはアメリカ行かない、つってる。了承も貰ってる」

「そうか。なら、改めて俺も何も言わん」


 父親にきちんと伝え、そして了承をもらっている事は本当なのだろう。ソラの顔からは嘘は感じられなかった。なので、カイトは何も聞かないまま、電話を始める。


『何?』

「・・・ああ、エリザ。悪いな。確か府内のセーフハウスは幾つあった?」

『そうね・・・今使っているのを含めて?』

「いや、今使える物で頼む。別に重要性は高くなくていい。それどころか、誰か居るとバレるの前提でも構わん。セーフハウスとしての期限を終えていても構わん」

『そうね・・・』


 電話の先から、パソコンのキーボードをタップする音が聞こえてくる。そうして3分程で返事があった。


『今使えて3つよ。場所を添付するわ』


 そうしてものの一分足らずでメールにリストが添付される。それは明らかに人付き合いが無くても大丈夫なマンションの部屋のリストだった。その中から、カイトはソラが潜めそうな一室を見繕う。


「真ん中の部屋を使えるか?」

『ええ。もう既に一回セーフハウスとして使ってるから、本当は解約する予定だったのだけど・・・ちょっと色々あって後3ヶ月はそのままにしている予定の部屋よ。もう誰も来ないわ』

「そうか。鍵は?」

『持って行かせるわ』


 どうやら本当にどうでもいい部屋らしい。カイトに対して殆ど何も聞かずにエリザは手筈を整える。そうしてそれを受けて、カイトはソラを引き連れて、移動を始める。


「はぁ・・・部屋は偶然夏休み出掛けるこっちの知り合いが貸してくれる、って言ってるから、そこ行くぞ」

「すまん」


 ソラはカイトの謝罪するとそれに従って移動を開始する。そうして暫くの間二人は無言で歩き続け、単身者用のマンションの一室へと辿り着いた。


「えっと、この辺に・・・あった。ほらよ。一応好意で貸してくれるんだから、あんま荒らすなよ。後、居座る代わりに新聞だけは回収してくれ、だと」

「マジか。色々スマン・・・新聞はきちんと出しとくよ」

「そうしろ・・・で、一つ思ったんだが、お前、お金あるのか?」

「え、あ・・・」

「はぁ・・・ほら、貸しといてやる」


 カイトは自身の財布から2枚の万札を取り出すと、ソラに手渡す。どう見ても着の身着のままに来た様にしか思えず、着替えや食糧費などが必要だと思ったのだ。


「ここからちょっと言った所に安い服屋があるから、そこで服は買え。食料品はデパートとかコンビニ行ってなんとかしろよ」

「すまん」

「じゃあ、オレは行くぞ。今日母さんとか来るんだよ」

「おう」


 ソラの返事を聞いて、カイトはソラに背を向ける。そうして去っていこうとするカイトに対して、ソラが少し悩んだ様子で声を掛けた。


「おい! わざわざ悪いな! えっとバ・・・カイト!」

「・・・くくく・・・あいよ、ソラ」


 どうやら照れくささが混じって『バカイト』を言おうとしたらしいのだが、思い直したらしい。そんな照れくさそうなソラに対して、カイトも友好の証として、ソラの下の名前で呼びかけるのだった。




 さて、なぜソラが大阪に居るのか、というのを説明するとなると、実はかなり時を遡らないといけない。それはまだ夏休みも始まるずっと前。ソラが大阪に来る2ヶ月程前になる。それは、総司がカイトや仲間達と別れて暫くしての事だった。


「ここが、鞍馬山か」


 少し調べれば、鞍馬山という所には有名な天狗が居る、ということは誰にだって知れる。それ故、総司はここにやってきていた。


「何か感じるな・・・」


 観光用の入り口に立ってから暫く。山入りして少しの事だった。彼は観光客に混じって歩いていると、違和感を感じる。それは、山に入った時に感じれる独特の匂いとは別だ。明らかに魔力に関連した何か、だった。それはここ当分山入りしていた彼にとって、初めて山で感じる気配だった。


「こっちか?」


 総司は観光ルートの一角の誰も気にしない所に、獣道に近い殆ど舗装されていない道を見つけ出す。それは誰にも気付かれる事なく、ひっそりと存在していた。が、誰も気付かないのは可怪しい。なにせ、そちらにもきちんと道は続いているし、全く封鎖もされていないのだ。それこそが、総司には魔力で隠蔽されている証に見えた。

 それから暫くの間、総司はただ自らの勘に従って獣道を歩いて行く。そうして辿り着いたのは、一軒の古びたお寺のような場所だった。手入れはされているらしく、うらぶれている感はなかった。


「・・・誰か居るか?」


 こんな所に居るのだから、魔力に関係する人物しかありえない。そう思った総司はかなり緊張しながら、お寺の戸を開く。そうして見たのは、何も無いただっぴろい部屋だった。ただただ、一つ修験者の服装の仏像があるだけだ。


「居ない・・・か」


 そうして踵を返そうとして、総司はとてつもない寒気を感じて、振り返った。


「なっ・・・」

「運・・・いや、感覚の鋭い奴だ。小僧、何奴だ?」


 総司が後ろを振り返れば、そこには修験者の服に身を包んだ無数の烏天狗が自身に向けて錫杖や刀などの各種武器の類を突き付けて立っていた。いや、立っているだけでは無く、逆向きに浮かんで武器を突きつけている者も居る。


「単に迷い込んだだけだろう。現に我らの隠形にも気付かなかった。陰陽師達もこんな何も知らぬ若造を送り込むはずは無い」

「ふん・・・呪法のじゅの字も知らん若造か・・・こんな所に辿り着いた己の不運を呪え」


 どうやらこの中で最も地位の高い烏天狗数人がどうやら元々居た事に気付けなかった総司を単に迷い込んだだけの若者と決めつける。幸いにして一人だった事もあり、即座に殺してしまおう、と考えたらしい。その中の一人が半分程度手を挙げる。


「やれ」


 身動き一つ取れぬまま、総司は一連の流れをただ見ている事しか出来なかった。それほどまでに、生の殺気は彼にとって感じたことの無い物で、逃れようのない力だった。

 そうして、烏天狗の一人が声と共に腕を振り下ろし、それに合わせて数多の武具が総司へと殺到する。ここまでか、そう、総司は意識のどこかで諦める。元々、この可能性は少しだけだが、可能性の中に入れていた。魔術という物に手を出す以上、死ぬ可能性は無いではないだろうな、と思っていたのだ。だが、どうやら総司はここで死ぬ宿命ではなかったらしい。


「まて」


 嗄れた老人の声が響くと、その瞬間で全ての武器が止まる。音速さえも超えていたはずの攻撃は、おそらく老人が声を出そうとした時点で全て止められていた。物凄い統率力と武芸の腕前だった。そうして、烏天狗の波が割れた。


「鞍馬様!」

「皆、下がれ・・・小僧・・・お主、何用だ」


 嗄れた声に合わせて烏天狗の波が引いていくと、一人の嗄れた老人が現れる。服装こそは修験者の着る服だったが、烏天狗達との共通点はそれだけだ。

 とは言え、彼も人間では無いだろう。異様なまでに鼻が長く、顔は赤かった。そうして老人が出てくるや、全ての烏天狗達は老人に傅いた。


「しゃべれんか・・・全員、その殺気を抑えよ。わっぱ一人に気後れする必要はあるまい」

「はっ」


 老人の一言で、総司の総身を苛んでいた殺気が雲散霧消する。それと同時に、総司はドサリと膝をついて冷や汗を滝の如く流しながら肩で息をする。あまりの殺気に、思わず総司は呼吸さえも忘れてしまっていたのである。そうして、彼が落ち着いた所で、再び鞍馬なる老天狗は口を開いた。


「小僧・・・こんな所まで何用だ? 儂は小僧の行動を全て見ていた・・・呪力は知っているな?」

「ああ・・・知っている」


 敬語も無い総司の言葉遣いに横の烏天狗達は無礼だ、と言いたそうだったが、鞍馬がそれを手で制する。


「ここに、鞍馬天狗という高名な武芸の師が居ると聞いた」

「ふむ・・・確かに居る。それで、何用だ」


 どうやら鞍馬はこの時、総司の様子から何かを感じ取っていたらしい。嗄れた声と嗄れた顔の中に、密かに歓喜を浮かべる。


「俺を、弟子にしてほしい! 勝ちたい奴が居る! そいつに負けたままでは、俺は・・・いや、俺達は先に進めない!」


 総司もどうやら目の前の老天狗こそが鞍馬だと気付いたらしい。自らの思いの丈を語ると、その勢いのまま、土下座した。それを見て、鞍馬は彼自身が思い描いた通りの若者だと、密かに笑みを浮かべる。


「ふん、鞍馬様がなぜ貴様の様な礼儀も知らぬ若造を」

「良いだろう」

「なっ!? 鞍馬様!?」


 自身の言葉を遮った鞍馬の即断での了承に、周りの烏天狗達は驚愕の顔で鞍馬を振り向いた。一方、総司もまた、嬉しそうな様子で顔を上げる。


「本当か!」

「おぉおぉ、良かろう。弟子入りを許そう」


 嗄れた老人は笑いながら、総司に頷いて、了承を示す。それに、烏天狗達は大きく驚く。彼が人間の弟子を取るという事は、ここ当分滅多になかった。


「だが」


 そうして立ち上がった総司だが、次の瞬間、若い声と共に老天狗の姿を見失う。


「まずは、小僧。貴様は礼儀作法を覚えてからだ」

「ぐっ・・・」


 老天狗を見失った次の瞬間。総司の目の前には一人の若者が立っており、まるで流れるような動作で総司のみぞおちに一撃を食らわせる。それを受けて、総司はそのまま身体をくの字に曲げて、前のめりに地面に倒れこみ、意識を失うのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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