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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第18章 神話の戦い編

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断章 第43話 リライト ――再会と再出発――

 ラーマの要請により行われた彼の妻シータ救出作戦。それはシータ誘拐の首謀者たるラーヴァナの討伐やその子インドラジットであったメーガナーダの捕縛と再出発、様々な戦いの終結により、全ての戦いが終わりを迎える事にな

 る。そうして戦いも終わりたどり着いたラーヴァナの居城の最深部。メーガナーダが仕掛けた封印が解かれた先に、石像と化したシータの姿はあった。


「……」


 カイト達が大扉の前で見守る中、ラーマは無言でシータの所へと歩いていく。と、その一方でカイト達の方は残るわけであるが、そんな中。アルジュナは壁際に立ち敢えて階段側を見張っているような姿勢で、感極まった様子のラーマが気付かなかった最後の一人に声を掛けた。


「ハヌマーン殿。そこに隠れていらっしゃるのは、貴殿ですね?」

『あはは。気付いていたか。流石はインドラ様の子にして、インドにおいて二枚看板の一人アルジュナという所か』

「ありがとう……それで、貴殿はこのまま姿を隠したまま?」

『ああ……ラーマも居る事は気付いているが、あくまでも此度の戦いは貴殿ら人の子のものだ……本来、我ら神が関わるべきではない』


 あくまでも神として。ハヌマーンは全てが終わり全てを察している者たちの前にも関わらず、一切姿を露わにするつもりはないらしい。


「そうですか……せっかくなので、最後まで見られてからにしますか?」

『いや……もう大丈夫だろう。邪魔者は去るさ』

「邪魔者、なぞ誰も思いませんよ。貴方も紛うことなき今回の功労者だ」

『ありがとう、インドラ神の御子よ……とはいえ、せっかく人の子が掴んだ勝利。神の姿があってもな』

「すでにスクルド様がいらっしゃいますが」

『あはは。スクルド神はまぁ、良いのではないかな。戦乙女としての参戦だからな』


 楽しげに、ハヌマーンが笑う。まぁ、スクルドが神か戦乙女かと言われれば間違いなく前者だろう。が、それがわかっていても戦乙女なのでオーディン(上司)の命令には逆らえないのであった。と、そんな彼女の事を笑ったハヌマーンであったが、気を取り直してアルジュナへ告げる。


『インドラ神の御子よ。友に、それとなくで良いので落ち着いたらまた語らおうと伝えてくれると有り難い』

「必ずや」

『ありがとう……では、私はこれで去ろう。お父君がもり立てている彼には、またの機会があるだろう、と伝えてくれ』

「そちらも、必ず」


 ハヌマーンの要望を受けて、アルジュナは再度頷いた。と言ってもカイトもここにハヌマーンが居る事はわかっていたが、流石に状況が状況なので彼からは話しかけない事にしていたようだ。

 とはいえ、すでに縁は結ばれている。故にこの場は話す事なく去る事にしたようだ。そうして、ハヌマーンは再度風に乗って消え去った。


「去られたか」


 今絶対に話さねばならぬ、というわけでもないか。アルジュナはハヌマーンが去った理由をそう理解する。確かに今回、神々はラーヴァナの性質上脇役にならねばならなかった。

 その神様が今この場で出てきても、端役に過ぎない。ラーマの前に姿を見せても見せなくても一緒なら、出なくても問題は一切なかった。それ故黒子に徹する事にしたハヌマーンを見送り、アルジュナは再び階段を警戒している様子を見せつつ、ラーマとシータを待つ事にするのだった。




 さて、ハヌマーンが立ち去ったのを知る事なく前へと進み続けるラーマ。そんな彼であるが、数分歩き続けた先で立ち止まる事になった。


「……ふぅ……あはは……こうして近づいてみると、手も足も重いよ」


 後数歩。そこまでたどり着いていたラーマであるが、最後の数歩を踏み出す前に笑って立ち止まっていた。それは動かそうと思っても、動かせないような感じだった。


「数千年……君ともう一度やり直そう、今度はその手を離さない、と思ってここまで歩いた。この日が来る事を心待ちにしていた……なのに、今更怖いんだ」


 小さく、ラーマがシータにのみ語れる本心を口にする。事実、彼はここに来て得も言われぬ恐怖に苛まれ、震えていた。それはここまでたどり着けばこその恐怖だった。


「私はこれまで君に拒絶される事なんて考えてはいなかった……だがこうして君を目の前にして、拒絶されてしまうのではないか、という恐怖を抱いた。神々が私を哀れんで吐いた嘘だったのではないか、と思ってしまった」


 どこか縋る様に、ラーマはシータを前に小さく独白する。それはかつて民衆の圧力に耐えかねて捨ててしまえばこその後悔と罪悪感から来るものだった。


「君に会えたら、なんて言おう。愛しているか、それとも逢いたかったか……何度もシミュレーションしたんだ……でも実際の君を前にしたら、昔初めて君に会った時みたいに、なんて言えば良いかわからなくなってしまった。あはは……情けないなぁ……」


 もっと格好良く迎えに行くつもりだった。なのに身体はボロボロだし、伸ばそうとする手は震えている。ラーマはそんな自分を嘆き嘲笑いながら、それでも足を踏み出した。


「っ……」


 意を決しても、怖い。ラーマは震える足を引きずる様に、シータへと歩み寄る。そうして、最後の一歩を踏み出して、触れられる距離に立つ。


「捨てた男をそれでも愛してくれるなぞ都合の良い話……なんだろう。だがそれでも、私は君を愛している。だから……」


 山をも軽々持ち上げられるはずの腕が、まるで鉛の様に重かった。ラーマは震える手を持ち上げて、シータへと手を伸ばす。


「だから、もう一度だけ。やり直すチャンスをくれないか。今度はコーサラの王ラーマではなく、ただ一人のラーマとして。君の夫として、やり直すチャンスをくれないか。もう私は君以外の何も背負わない。今度こそ、君と添い遂げたいんだ」


 ボロボロと泣きながら、ラーマがシータへと触れる。それだけで、シータの石化が意図も簡単に解除された。


「……」

「……」


 石化が解かれ、わずかに浮かんだシータが地面へと緩やかに着地する。そうしてゆっくりと彼女は目を開き、そのまま見開く事になった。


「ラーマ様?」

「ああ……」

「ど、どうされたんですか? それに、ここは……」

「色々と……本当に色々とあったんだ」


 泣きながら、ラーマは困惑するシータにただそれだけを答えとして与える。今はこれを言うだけで精一杯だった。そしてその様子で、シータには大凡が理解できたらしい。まるで幼子を見るかのような慈しみと、僅かな歓喜を浮かべて口を開く。


「……私は、貴方の妻シータ。何時如何なる時も、貴方のお傍にいます。ですから、どうか勇ましく優しい私の夫に戻ってください」

「っ……シータ……貴殿は実は私を泣かせるつもりだろう」


 泣きながら、ラーマはシータの言葉に精一杯の笑顔を浮かべる。今は、これが精一杯だった。そうして、矢も盾もたまらずラーマがシータを抱き寄せる。


「ああ……私は君の夫ラーマ。ただそれだけで、それ以外の何者でもない」

「はい」

「ヴィシュヌもラクシュミーも関係ない。ただ君を愛する一人の男だ」

「はい」

「……だから、すまない。今しばらくだけ……こうさせてくれ」

「はい。ご存分に、この身を掻き抱いてください。それで貴方の恐怖が薄れるのでしたらシータは拒みません」

「ありがとう」


 ようやく取り戻したぬくもりを手に、ラーマは小さく咽び泣く。そうして、しばらくの間彼はシータをその手に抱き、ただ一人の男として様々な感情の入り乱れた涙を流すのだった。




 ラーマとシータが再会して、しばらく。涙を流しながらラーマはシータへと現状を伝えていた。が、流石の彼女も自身が石化して数千年の月日が流れたと聞いて、大いに驚きを得ていた。


「そんな事が……貴方の尋常ならざるご様子から相当な事があったのだとは思いましたが……ありがとうございます」

「何故君が礼を言うんだ。全て、私の責任だ。君をこんな長い間待たせてしまった。私が不甲斐ないばかりに、こんな地下深くの暗い場所で一人にしてすまない」

「いえ……良いんです。貴方が必死になって助けに来てくれた。それだけで、十分です。それに、石化している間意識はありませんでしたし……」


 少しだけ恥ずかしげに、シータが笑う。実のところ、ラーマは数千年の間に心変わりしてしまっているのではないか、と恐怖していたわけであるが、それは全くの考えすぎという所であった。そもそもシータは目覚めてすぐに石化した。なので彼女からしてみれば石化した事さえついさっきなのである。


「そうか……そうだったな。はぁ……どうにも私は君の事になると正しく判断できなくなってしまうようだ」

「ふふ」


 恥ずかしげなラーマに、シータが嬉しそうに笑う。数千年、西へ東へ渡り歩いて頭を下げて回ってまで自分を求めてくれたのだ。嬉しくないわけがなかった。そうして、そんな二人が宝物庫の外へ向けて歩く。が、その先の全員がどこか気まずい様子だったのは、気の所為ではなかった。


「すまない。またせた」

「い、いえ……」

「あ、ああ……」


 ラーマの謝罪に対して、アルジュナとカルナが珍しく揃って視線を逸らす。その顔が若干赤らんでいたのは、無理のない事だろう。が、そんな二人にラーマは訝しげだった。


「? どうした?」

「……これ、教えてあげるべきかな」

「……いや、良いんじゃない……かな」


 言ったら確実に二人して恥ずかしがるだろうし。カイトはヴィヴィアンの困ったような問いかけに、首を振る。当然であるが、中で何か起きない様に一同は宝物庫の外からラーマの動きを見守っていた。

 なので二人が抱き合っていた様子は一から十まで見ていたのであった。というわけでこちら三人も揃って若干気まずい様子だった。そんな三人と同様、一瞬で意見を一致させたアルジュナとカルナもまた、見なかった事にする。


「ま、まぁ……とりあえず。奥方が無事で何よりだ」

「え、ええ……シータ殿。インドラの子アルジュナです」

「名乗り遅れ失礼した……スーリヤの子カルナ。貴殿の夫ラーマ殿の要請により、助力させて頂いていた」


 気を取り直したアルジュナとカルナが、シータへと一応の名乗りを行っておく。相手は大英雄の妻だ。礼を尽くすに足る相手だった。


「ありがとうございます……ジャナカの子にしてラクシュミーが写し身シータ。インドラの御子とスーリヤの御子に感謝を」

「ああ……ありがとう」


 頭を下げたシータに続けて、ラーマもまた頭を下げる。そうして、そんな彼が続けてカイト達にもまた頭を下げた。


「カイト……それとモルガン・ル・フェイにヴィヴィアン。三人も感謝する。貴殿らがラーヴァナを倒してくれたおかげで、シータを救う事ができた」

「お役に立てたのなら、何よりです……物語はやっぱりハッピーエンドが一番ですからね」

「……そうだな。色々とあったが最後は大団円を迎えました、が一番良い。子供っぽかろうと、喩えご都合主義的であろうと……大団円を迎えられるのが一番だ」


 右手に掴んだぬくもりを握りしめ、ラーマははっきりとカイトの言葉に頷いた。喩えご都合主義的だろうと、この手のぬくもりがあるのなら問題なぞあろうはずもない。

 これを再度奪うのなら、喩え神が相手だろうとそれに抗う。それだけであった。と、流石にアルジュナとカルナは知っていてもこの三人はシータは知らなかった。


「彼らは?」

「彼らは私の友……君が眠りについた後に出た、おそらく人類で最も新しい英雄カイトと、遥か西の騎士達の王の姉モルガン・ル・フェイ、騎士達の王を庇護した<<湖の乙女>>の三姉妹の長女ヴィヴィアンだ」

「そうですか……ありがとうございます」

「いえ……わずかばかりでもお力添えできたのなら幸いです。それにラーマ殿にも申した通り、やっぱり物語はハッピーエンドで終わった方が気持ちが良い。最良の結末を迎えられたのであれば何よりです」


 シータの感謝に対して、カイトは笑って首を振る。そうして、シータの救出に成功した一同は宝物庫を再度閉ざし、その場を後にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。後は残す所エピローグのみとなります。

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