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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第18章 神話の戦い編

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断章 第38話 リライト ――雷神を超えし者――

 カイトとラーヴァナの戦いが決着する少し前。彼らの戦いからはるか後方の連合軍陣営直前。そこでは変わらずオイフェとインドラジットによる魔術合戦が行われていた。が、それもカイト達の戦いが決着まであと僅かになった頃には、終わりへ向けて突き進む事になっていた。


「……」

「父が気になるか?」

「……気にならない方がどうかしている。父は雄々しく戦い、散るだろう。せめて散り様ぐらいは、最後に見届けたい。息子として、な」

「……そうか」


 不思議な気持ちだ。オイフェは今になり父の姿を記憶に留めようとするインドラジットに対して、少しだけ手を抜いてやるか、という気持ちが鎌首をもたげる自身に奇妙な気持ちを得ていた。そんな彼女に、インドラジットが問いかける。


「……なんだ?」

「……いや、そういう意味で言えば、随分と私より貴様の方が人間らしいと思っただけだ」

「うん?」


 単なる人が神の子たる自分を人間らしいと言うとは。その意図が理解出来ず、インドラジットは少しだけ困惑を浮かべる。別にこれが侮辱だとは思わなかったようだ。実際、これは侮辱ではなくどちらかと言うとオイフェが自分自身を卑下しているような様子があった。


「私は……いや、私とあのバカ姉は共に親の顔ももう思い出せん。スカサハに至っては、ウタアハの父の顔さえ思い出せん始末だ……親の死に様なぞ知りもしなかったし、おそらく聞いていても興味もなかっただろう」

「……」


 昔聞いたスカサハ・オイフェ姉妹の在り方そのものだと思えるが。インドラジットはオイフェの語る人物像がかつてラーヴァナが二人と矛を交えた時と同様だと思う。が、そこから時が流れ二人にも変化があったという事なのだろう。そうして、オイフェが楽しげにインドラジットに問いかけた。


「ほら。これではどちらがより人間らしいか、と言われると困るだろう?」

「……」


 そういう今のお前は自分が聞くより随分と人間に近くなった様に思うがな。インドラジットは口にせず、内心でそう思う。そしてそれはスカサハも同じだった。


「そうして話している姿……かつてのお前が見たらどう言うだろうな」


 おそらく激怒するだろうな。スカサハは笑いながら、しかしどこか神妙な顔で苦笑に似た笑みを浮かべる。そもそも戦いの最中に戦いを止めてのおしゃべりなぞ、昔の彼女を知っていれば考えられない事だった。が、それは昔であって今の彼女ではない。少しでも時間を長引かせて、せめて父の死に様を見させてやろうという感情がそうさせていた。


「やはり貴様は母になったのだ、オイフェ。子を想う親の気持ちが分かればこそ、親を想う子の気持ちに思い馳せた……」


 おそらくこの考えを理解出来る様になった自分もまた、変わったのだろう。スカサハはカイトとの出会いに始まる様々な出来事に思い馳せ、二千年前とは大きく違う自分達に僅かな苦笑を浮かべる。


「……さぁ、見せてくれ。お前は母となってよりも強いのだ、と」


 苦笑するスカサハは、姉妹で似た苦笑を浮かべるオイフェにそう告げる。そしてまるでその言葉が引き金になったかの様に、オイフェは槍を構える。


「……とはいえ、その様では貴様は父の敗北を悟っているようだな」

「さてな……まぁ、それはどうでも良いのだ。父が負けたのなら、俺が貴様とあの最も新しき英雄に勝てば良いまでの話だ」

「なら、やってみせろ」

「っ!」


 圧倒的な速度で肉薄していたオイフェに、インドラジットは思わず目を見開く。そうして放たれた一突きはインドラジットの胴体を完全に貫通する。が、その一撃を放ったオイフェの顔は全く仕留めたという実感を感じていない様子だった。そして、直後。巨大な雷がインドラジットの総身から迸った。


「ぐっ!」

「おぉおおおおお!」


 インドラジットが雄叫びを上げて、身に宿す雷を更に苛烈な物にする。これにオイフェも堪らず槍を消して後ろへ飛んだ。そこに、インドラジットは手のひらを向けた。


「ふぅ……」

「っ」


 来る。手のひらに強大な雷の気配を漂わせるインドラジットに、オイフェは正面を向いたまま地面を滑り女豹の様に手足を地面に着けて急停止。そこに、インドラジットはすかさず雷の光条を放った。


「はっ!」

「効かんよ」


 実のところオイフェが四つん這いに近い姿勢になっていたのは、地面にルーンを仕込む為だったらしい。彼女の四方に刻まれたルーンが即座にインドラジットの雷の光条を食い止める。そうして雷の光条を防いだ彼女はそのまま上に飛び上がって、弓矢を取り出す。


「ふっ!」


 オイフェは一息に無数の矢を放つ。それは放たれて数瞬で無数の矢へと分裂すると、一気にインドラジットへと襲いかかった。


「その程度!」


 迫りくる無数の矢に対して、インドラジットは身に纏う雷をまるでスパークの様に解き放ち撃ち落としていく。が、そうこうしている内にオイフェは地面に着地しており、ひときわ強大な力を宿す矢をつがえていた。


「む」

「……」


 この威力は中々にヤバいな。インドラジットは地面に着地して自身を狙い定めるオイフェの矢を見て、わずかに腹に力を込める。これを避けられるとは、彼も思わなかったらしい。故に彼は両手に雷を蓄積させ、更に目に全神経を集中させる。そうして彼が支度を整えるとほぼ同時に、オイフェが矢を放った。


「はっ!」

「……ふぅ。おぉおおおお!」


 深呼吸を一つして雄叫びを上げたインドラジットの両手から、強大な雷が解き放たれる。それにオイフェの矢は一直線に直進し、雷と真紅の光条となった矢が激突した。


「ぐっ!」

「……」


 弓道の残心の様に一瞬の停滞を生んだオイフェに対して、雷で彼女の矢を食い止めるインドラジットはわずかに顔を顰めていた。そうしてオイフェの矢がインドラジットの雷を切り裂いて直進し、丁度両者の半ばまで到達した瞬間。インドラジットが更に雷に力を込めた。


「おぉおおおおおおおお!」


 どんっ。そんな音が鳴り響いたかのような衝撃と共に、雷の圧が増して太さも一回りほど大きくなる。それに流石にオイフェの矢も耐えられなかったらしい。白い雷の束に飲み込まれ、真紅の矢は完全に蒸発した。が、別にオイフェは気にしていなかった。それもその筈だ。すでに彼女はその場に居なかった。


「っ!」


 わかっている。そうなるだろう。インドラジットは自身の雷と真紅の矢を隠れ蓑に自身に肉薄していたオイフェを見て、僅かな笑みを浮かべる。そうして、オイフェの短剣がインドラジットを貫いた。


「ぐっ!」

「ちっ。思う以上に軽かったか」

「おぉおお!」


 この俺の防御を一撃でくぐり抜けるか。刺さりが甘く仕留めきれなかった事に舌打ちしたオイフェに対して、インドラジットはわずかに走る脇腹の痛みに顔を顰める。

 オイフェの一撃は彼がその権能を使用して常に身体の一部を雷化し体重を見た目以上に軽くしていなければ、確実に危険だったほどの鮮やかさであった。

 そうして顔を顰めたインドラジットの雄叫びと共に再度雷が周囲に撒き散らかされ、同時に無数の雷が周囲に降り注いだ。これに、オイフェは地面を蹴って距離を取る。が、ここから先に驚きを得たのは、どういうわけかインドラジットの方だった。


「む?」

「何度も雷を見ていれば、対応はする」


 降り注ぐ雷が一切オイフェへと向かわないのを見て驚いたインドラジットに対して、オイフェは特段の感慨もなく自身が仕掛けたものである事を明言する。

 これに、インドラジットは即座に周囲を解析。地面の至る所――正確にはオイフェが立った場所――に、無数のルーン文字が刻まれている事に気が付いた。


「ルーン!? いつの間に!」

「別に足でルーンが刻めぬ道理はない。手一つ、足一つ、指一つ動けばルーンなぞ刻める」

「……中々に無茶な事を言う」


 オイフェの発言に対して、インドラジットは思わず乾いた笑いが浮かんでいた。ルーンを活用した魔術がどれだけの難易度なのか、というのは流石に神話が異なるどころか洋の東西の差さえあるインドラジットにはわからない。

 本来、古今東西の魔術を熟知し行使出来るカイトのような存在の方がおかしいのだ。それは特に己の領分を侵さないというある種の不可侵協定を結んだ神様達に多く、インドラジットもその例に漏れずルーン魔術については未知だった。だがそれでも、紋様を描いて行使する魔術であるぐらいは知っている。どれだけ無茶かは、おおよそ想像出来た。


「ふむ……名にし負う『雷鳴(メーガナーダ)』の雷……中々、良い威力だ」


 避雷針に落ちる雷を見ながら、オイフェは一撃一撃でルーンが破砕されていくのを見て笑う。本来、このルーンは避雷針の役割を果たすもので、カイトが来て現代地球の科学的な理論を得て、スカサハと共に開発した最新のものだ。

 地面に直接刻んでいる事もありその大半は地面に流れる仕組みになっているのであるが、それが耐えきれずに一撃で粉砕されているのであった。


「……」


 この威力。おそらく直撃すれば危険だろう。オイフェは降り注ぐインドラジットの落雷をそう判断する。その威力たるや、神雷と言うに相応しく、インドラが敗北を喫したのも無理もない力だった。が、だからこそオイフェは笑う。


「……ひさしぶりに……」


 ぺろり。オイフェは妖艶に舌を舐める。久しぶりに血が猛っている。彼女はそれを自覚する。そしてそれ故、彼女は鳴り響く雷鳴と降り注ぐ落雷の中へ、敢えて突っ込んだ。


「ぐっ!」

「!?」


 落雷の中を突っ切るオイフェの、インドラジットは思わず目を見開く。落雷はまさしく雨の如くに降り注いでいる。だというのに、彼女は一気に突っ込んでいるのだ。

 当然、その身に落雷を受ける事になり、全身が焼け焦げていた。が、その瞬間。唐突にオイフェの身体が輝いて、彼女の身体が一瞬で元通りになった。それに、インドラジットは先を遥かに上回る驚きを得た。


「何!?」

「ふっ!」

「ごふっ!」


 雷の残滓を纏い、幾度となく焼け焦げては復活を遂げたオイフェが一瞬で肉薄し、インドラジットを剣で切り裂いた。そうしてぐらりと揺れたインドラジットを、オイフェがわずかに飛び上がって蹴り飛ばした。


「はぁ!」

「ごがっ!」


 どんっ、と音速の壁を突き抜けて、インドラジットが吹き飛んでいく。その更に先に、オイフェは回り込んでいた。が、それにインドラジットは意識を取り戻し、神雷を纏い牽制する。


「!?」

「ぐっ! ふっ!」


 神雷の中に突っ込んで、オイフェは何が起きたかわからず困惑するインドラジットを打ち据える。それが繰り返されること、およそ十度。インドラジットは半ば昏倒状態で雷を放った。


「っ! おぉおおおおおおおお!」

「っ」


 一切避ける事なく、オイフェは雷を真正面に見ながら突っ込んだ。そうして、雷を突っ切って彼女は手を突き出したインドラジットの真正面に躍り出る。


「なぜ……だ」

「私の方が上の、魔法使いだったというだけだ」

「魔法……使い……くっ」


 なるほど。それは神様でも所詮魔術師止まりの自分では勝てないわけだ。先に斬られた傷跡と十字になる様に切り裂かれたインドラジットは、倒れ伏しながら自身が魔術で劣っていた事を理解する。

 オイフェがなんの魔法を習得していたかは定かではなかったが、少なくとも魔術の面で劣っていた事だけは理解出来た。そうして、身体を十字に切り裂かれた彼は満足げな顔で、地面に倒れ伏すのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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