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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第18章 神話の戦い編

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断章 第28話 リライト ――対峙――

 ラーマの要請により構築された世界中の英雄達による連合軍。それは道中でラーヴァナによる妨害を受けたものの、ひとまずはインドまで無事に到着。その後はインドの神界にあるインドラの神殿にて一泊すると、インドで合流したクリシュナらと共に改めて裏のセイロン島へと進行する事になっていた。


「さて……」


 改めてヴィマーナに乗って移動する最中。カイトは甲板の上から、神界を眺めていた。そんな彼に、ラーマが歩み寄る。


「なにか、見えるか?」

「ん? ああ、ラーマ殿。どうしました?」

「気が逸ってな。なんとも不思議な感覚ではあるが……興奮が抑えられないようでもあるし、血が猛っているようでもある」

「そうですか……ああ、そうだ。そういえば一つ聞いておきたかった」

「何だ?」


 カイトの問いかけに、ラーマが彼に並んで先を促す。それに、カイトが問いかける。


「ラーヴァナはどんな奴なのですか?」

「どんな、か……まぁ、流石に貴殿も所詮神話は神話。物語だという事は知っているだろう。なので、実際の所を話そう」

「そうしてくれないと、参考になりませんよ」


 ラーマの言葉に対して、カイトは一つ笑ってそれが目的と明言する。実際、彼としてもすでにラーヴァナの神話は読んでいる。なので知るべきは物語としての神話ではなく、ラーヴァナの真実と事実だ。そして協力して貰う以上、ラーマも情報提供を惜しむ事はなかった。


「そうだな……うん。ラーヴァナは一言で言えば荒くれ者で良いだろう。神々の中の荒くれ者。一時のインドラ神を更に荒くした男……で間違いない」

「知ってるんですか?」

「再誕の折り、ヴィシュヌ神の知識が一部流れ込んでいるんだ。それ故、私の頭の中にはかつてのヴィシュヌ神が得た記憶が知識として蓄えられている」


 どこか面白げに、ラーマは自身の頭をとんとん、と叩いた。まぁ、それ故にかつては持ち得なかった神仙の力を得ているわけだし、同時にそれ故にこそラーヴァナに勝てなくなったのもまた事実だった。というわけで、そんな彼が告げる。


「実際、敵としての奴以外の奴に関しては、私というよりヴィシュヌ神の知識が多い。存外、奴についてはさほど知らないんだ。役に立てなくて申し訳ない」

「いえ……とはいえ、一度は戦っているんでしょう? 敵としてのラーヴァナについて、わかる事は?」

「そうだな……」


 カイトの問いかけに対して、ラーマは遥か昔を思い出す様に目を閉じる。が、そうして思い出してみて浮かんだのは、只々苦笑いだった。


「……正直、もう奴とは二度と戦いたくはなかった。全く以て嫌になる」

「何がですか?」

「奴の忍耐力だ。奴は荒くれ者という評判の癖、忍耐力はずば抜けて高い。おそらく私以上に忍耐力であれば高いのではないか、と思う」


 どこか楽しげに、しかし苦味の乗った色でラーマが笑う。と、そんな彼がふと、どこか恥ずかしげな顔でカイトへと告げた。


「……そうだ。一つだけ、良いか?」

「なんです?」

「戦闘の折り、街は破壊しない様にして欲しい。具体的には非戦闘員には手出ししない様に、という所か」

「別にしませんよ。無論、ラーヴァナが暴れまわって被害が出るならそこは流石にどうしようもないですが」

「それについては、なんとかはしよう。可能な限りで良い」


 カイトの返答に対して、ラーマはそれで良いと明言する。そうして、そんな彼は少し恥ずかしげに視線を逸して告げた。


「……へんな話だが、統治者としての奴はまぁ……悪い奴ではないのだ。ただ、傲慢なだけで。いや、傲慢なればこそ、奴は統治者としては良い者ではある」

「傲慢なればこそ、ですか」

「ああ……奴は傲慢さを有する羅刹族の王と言って良い傲慢さを持つ。だが傲慢だからこそ、傲慢に施しをくれてやる」

「くれてやる、ですか」

「ああ。一方的に、気前よくな。自分を慕う、もり立てる奴に対しては奴も気前よく与えてやる。ある意味、王としてのあり方としては優良と言えるのだろう」


 どこか苦味を見せつつも、ラーマはラーヴァナの認めるべきを認め称賛を述べる。ここら、彼もまたアルジュナに似た真面目さを持ち合わせている様子だった。


「だからまぁ……おそらく奴の領民は今もまた飢えも知らぬほどに栄えてはいるのだろう。そこに攻め入る我らが善か悪かは、わからないな」

「少なくとも、他人の妻を分捕って宝物庫に飾る事が善行とは言えませんよ。十分、戦争が起きる理由になり得る。実際、『ラーマヤナ』でもシータ殿を返す様に言われて返さなかったのが、全ての原因でしょう。それと同じ事をまたしている時点で、この滅びは必滅だ」


 先程より苦笑の色を深めどこか憂いを帯びたラーマに、カイトは一つはっきりと明言する。少なくともこの点においては、誰がなんと言おうとラーヴァナが悪いと断言出来る事だ。それを返せと言われて返さない時点で、ラーマがラーヴァナを攻めても不思議はない事だろう。そんなカイトの言葉に、ラーマも決意を固めた。


「そう……だな。これもまた、やはり奴の傲慢さに起因するものなのだろう」

「ええ……少なくとも、傲慢なればこそラーヴァナはシータ殿を物としてしか考えていない。いえ……他の女性についても、そうなのかもしれません」

「ん?」

「この世すべてを自分の物とでも考えていれば、誰の妻を奪っても気にはならないでしょう? それ以前として、妻を、他者を人とも思っていないからこそそんな事が出来る」

「……そうだな」


 自分は何を迷っていたのだろうか。ラーマはカイトの言葉で、少なくともラーヴァナの性根がかつてと変わっていない事を思い直す。そうして、彼は改めて決意を固めて前を向いた。


「少なくとも奴には私に討たれるだけの理由があり、討たれねばならないだけの理由がある。奴を放置しておく事は出来ない……また、私と同じ様な、かつての神仙達と同じ様な気持ちを味わう者が生まれない為にも、だ」

「ええ……少なくとも、ラーヴァナ神はもう時代に取り残された神だ。今には、そぐわない」


 ラーマの言葉に、カイトもまた一つ頷いて同意する。そうして、そんな二人は甲板から前方を見る。その視線の先には、巨大なヴィマーナが何十隻も浮かんでいた。


「……あれが、ラーヴァナが誇る『空飛ぶ戦車(プシュパカ・ラタ)』だ」

「あれが、『空飛ぶ戦車(プシュパカ・ラタ)』……なるほど。戦車というに相応しい」


 『空飛ぶ戦車(プシュパカ・ラタ)』。それはラーヴァナが異母兄弟クベーラと争った際にクベーラからランカー島と呼ばれる島と共に奪取したヴィマーナの一種だ。

 が、ヴィマーナより遥かに戦闘向けに設計されており、間違いなくヴィマーナでは勝ち目が無かった。それはすでに数十隻単位で陣形を構築しており、地球にも関わらず異世界のような様相を呈していた。


「おーおー……こりゃ凄い。オレが目指した飛空艇艦隊も出来上がれば、あんなのだったんかね」

「ヴィマーナを作ったのか?」

「数隻ですけどね」

「凄いな、貴殿は」

「オレじゃないですよ……オレは単に原案を出しただけ。それを形にした奴らが凄いだけだ」


 それでも、それを実現出来る形にした貴殿はやはり凄いと思うのだがな。カイトの返答にラーマはそう思う。とはいえ、それも一瞬だけだ。彼は即座に声を上げた。


「クリシュナ殿!?」

『想定内だ。艦隊の半数がここで残って応戦する』

「そうか」


 クリシュナの返答に、ラーマは一つ頷いた。そんなクリシュナの言葉に違わず、五隻のヴィマーナが前へと進み出て、一気に加速。敵陣ど真ん中へと進軍した。


「さて……この時点で相対戦力比は絶望的か」


 あの『空飛ぶ戦車(プシュパカ・ラタ)』一隻につき、どれだけの人員が乗っているかは定かではない。更にはあれが本物かどうかも定かではない。ラーヴァナが神としての力を使い呼び出した実体を持つ幻の可能性もある。


「相対戦力比は、であって実体なら互角かもね」

「互角? あはははははは! ありえねぇな。こっちは世界中の英雄を集めたんだ。数で負けてても、戦力じゃこっちが上だ」


 ヴィヴィアンの言葉に対して、カイトは獰猛に牙を剥いて笑う。こちらが来るだろう事は前からバレている。なのでこの可能性も最初から想定されており、残るのも想定内だった。そうして、半数を残して残る半数のヴィマーナが急降下した。


「っと! 二人共!」

「ポッケに避難!」

「私は、大丈夫かな」


 カイトの上着のポケットに避難したモルガンに対して、ヴィヴィアンはやはり近接を主体とするからか体幹が良いらしい。揺れるヴィマーナでも問題なく立っていた。そうして、始まった戦いを上に見ながらカイト達の乗るヴィマーナが速度を上げた。


『総員、プランはBへ移行。強襲に切り替える。到着次第、即座に戦闘になる可能性が高い。応戦用意を整えろ』


 この状況だ。もはや問答が出来るか、と言われればかなり微妙な所だろう。なのでクリシュナもラーヴァナの城が見えると同時に戦闘が始まると踏んだらしい。だがそんな彼の指示に、ヴィマーナ中が慌ただしく動き始める事はなかった。


「ま、誰もこの程度で慌てないよねー」

「そりゃ、この程度がこの程度と思える戦場を抜けてるからな」


 どうせこんな荒事は自分達にとっては日常茶飯事だったのだ。ヴィヴィアンとモルガンとて今生はともかく前世まではこんな荒事の連続だ。今更、慌てる必要なぞなかった。そうして、最高速に達したヴィマーナであったが、すぐに速度を緩める事になった。その原因を見ながら、艦隊の総指揮を執るクリシュナが問いかける。


『ラーマ殿……どうする?』

「……そうか」


 クリシュナの問いかけに、ラーマは全軍を居並ばせ、しかしこちらを待ち構える様に動きを見せないラーヴァナやその一党の神軍、彼らの眷属達を見る。それに彼はなんとも言えない顔で、一度だけ目を閉じた。


「……この様相……貴様は滅びを感じ取っているのか。良いだろう。お前が神としてこちらを出迎えるならば、私もまたかつて英雄であった者として応じよう。すまない! 全軍に整列を!」

『承った……と、言う必要は無いだろうがな』


 おそらく総戦力を差し向けたラーヴァナ軍を見ながら、クリシュナはわずかに苦笑を浮かべる。その威風たるや、まさしく神の軍勢に相応しいだけの威容があった。

 荒くれ者の長ではなく、神の一角としてラーマを、彼が連れてきた世界中の英傑達と相対するつもりだった。これを前に戦いの前の言葉をかわさないのは、戦士の名折れだった。そうして、全員が各々英雄としての風格を纏いながら、ラーヴァナから舞い降りる。


「……く」


 なんともまぁ、絶望的な小勢だ。カイトは数万どころか数十万を超えるだろうラーヴァナ軍と相対する自陣営を見ながら、思わず笑いがこみ上げた。これを相手に、こちらはたった五百人だ。

 本来なら、なぶり殺しの未来しかない筈だ。だのに誰もそんな可能性を感じさせないほどの覇気があった。そうして、各陣営の名だたる猛者達が前に進み出る。その中心には、当然ながらラーマが居た。そんな彼が、大きく口を開いた。


「ラーヴァナ! 我が声が聞こえるか!」

『我に破れし小僧が何用か……しかも今度はそのような小勢で』

「用なぞ決まっている! これが、最後の通達だ! 今ならまだ、シータを返せば許そう! だが、返さねば待つのは必滅ぞ!」

『くっ……あっはははははは! わ、笑わせてくれる! かつてインドラに、ヴィシュヌに兵を借りて無様にも逃げ帰ったではないか! 今度はそのようなどこの馬の骨とも知らぬ者共の力を借りるなぞ! かつて一度は我が身を貫いたラーマともあろうものが、落ちぶれたものよ!』


 ラーマの最後通牒に対して、ラーヴァナと思しき嘲笑が周囲に響き渡る。それに、ラーマもまた笑ってみせた。


「これは驚いた! ラーヴァナは物を知らぬと見える! ここに並ぶはこの地球において知らぬ者なぞ居ない英雄達! 喩えかつてより数が少なかろうが、一人一人が千の兵にも、万の兵にも匹敵する猛者達よ!」

『ははははは! 尚の事、笑わせる! 所詮はか弱き人の子! それが群れた所で神には叶わぬ! ゆけ! 傲岸にも神に弓を引きし不遜なる者たちを一息に飲み込んでやれ!』


 ラーヴァナの命令に、ラーヴァナ軍がそこかしこで鬨の声を上げる。そうして、それを合図として無数の矢が放たれ、上空からは『空飛ぶ戦車(プシュパカ・ラタ)』の砲撃が始まる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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