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断章 第11話 高天原の大宴会 ――二日目――

 徐福からもたらされた南極で展開されているという超巨大な結界。それを受けて太公望らと共に情報収集に務める事にしたカイトであったが、そんな彼は除福や教授達と共に南極やルルイエの話を暫く交わす事になる。が、それもあくまでも少しの間だけ。宴会の場で真面目な話を何時までも続けるのは、宴会のマナーを損なう事だろう。というわけで、およそ三十分ほど会話を交わした後は、再度教授は各地で知恵者として知られる英雄や知恵の神らとの話し合いを行うべく去っていった。


「ふむ……まぁ、幸いだったか」

「そう……でしょうか」

「ああ。少なくとも外なる神の物でなければ、こちらの手出しのしようもある。逆に外なる神になっちまうと、もうどうしようもないパターンがあるからな」


 徐福の言葉に、カイトは日本酒を一口呷りため息を吐いた。あのティナでさえ、パウリナに仕掛けられた術式の解析はほぼ不可能と言わしめた。そしてそれを応用した魔術の開発に、地球でこの後丸二年。更にエネフィアで十数ヶ月という時間を費やしたのだ。少なくとも地球の術式であれば、何とかなるだけマシだと言い切れた。


「とはいえ、そうならそうで色々と考えないと駄目な事も多いんだが……まぁ、もうそうなると後は現場に行ってみて、か。数年は諦めるしかないな」

「ですか」

「ああ」


 納得するような徐福の言葉に、カイトは一つ頷いた。事ここに至ると、もう現地へ行って確認するしか手が無い。となると今は無理で、今考えるべき事ではなかった。そうしてそんな会話の終わりをこの議論の終わりと見て取ったらしい。酔っぱらいがカイトに絡んできた。


「カイトー。終わったー?」

「はいはい。終わりやしたよ」

「はい、お酒。徐福も旅の事聞かせて?」

「かしこまりました」


 アマテラスの言葉に、徐福が一つ頷いた。そうして、二人は改めてアマテラスと共に酒を飲む事になるのだった。




 さて、南極の謎の結界についての議論を終わらせ、酔っぱらいことアマテラスの言葉により再度の酒盛りと相成ったわけであるが、それも一夜を明かすと若干だが落ち着いた形になっていた。そして勿論、アマテラス自身も昼の姿に戻っていたので絡み酒という事もなくなった。


「あ、カイト。おはようございます」

「ああ、おはよ。流石に朝っぱらから飲むのは稀か」

「神様だって肝臓は気にします」


 神無月の宴会場とはまた別。飲むとは別に食事をする者が集まる食堂のような場所にて、カイトはアマテラスと朝の挨拶を交わし合う。なお、この食堂もかなり大きなもので、大宴会場並に人が入れる様子だった。

 そして流石に昨日も夜まで飲み明かしたのに朝から飲みたくない、というのは神様達も人々も一緒だ。朝はこちらに、という者は少なくなかった。そうして彼がそんな食堂の椅子に腰掛けた所で、コタマが何時もの通りやって来た。


「ご注文をお伺いします!」

「朝餉は何がある?」

「大半揃います! でもお酒はやめてください! こちらは飲まない、もしくは朝から頭が痛い、という方がいらっしゃいますので!」


 どうやら棲み分けという所なのだろう。基本はどこもかしこも酒が提供されている神無月の高天原なのであるが、この場でだけは酒の提供が禁止されているらしい。そして勿論、こちらに来た以上はカイトはそれを承知だ。


「わかってる。オレも昨日飲んで朝から飲もうとは思わん。迎え酒はそこまで好きじゃないからな……お粥を頼む。軽めで良いよ」

「かしこまりました!」

「そう言えばティナちゃんとルルちゃんは?」


 カイトから注文を聞いて急ぎ足に膳の用意を開始したコタマを見送った後。アマテラスがそう言えば一人のカイトに問いかける。言うまでもないが、ここではカイトも客人だ。なので客室が用意されているわけであるが、別に別の部屋を用意する必要も無いので全員一部屋だ。というわけで、カイト一人なのが不思議だったのだろう。


「ああ、皆流石に今の時間は寝てるよ。昨日飲んでたしな」

「じゃあ、カイトは?」

「朝の鍛錬。その前に飯食って、って感じだ」

「ああ、なるほど……」


 確かにカイトは武芸者でもある。なので彼は何時も朝の鍛錬を行っており、酒を飲んだ後だろうがそれは欠かさないのだろう。そして現に彼は刀を持ってきており、ここから宴会に向かうには似つかわしくない格好だった。


「で、ヒメちゃんは?」

「私は何時もこの時間に起きてます。だから、この時間にご飯を」

「そうか」


 どうやらアマテラス側は何時もこの時間に起きていて、癖になっているのだろう。カイトはそう判断する。と、そんな彼にアマテラスが告げた。


「そう言えば……今日は皆さんで鍛錬を行うんですか? 剣神(信綱)ももう起きていますし」

「あー……いや、流石に朝の鍛錬はオレは独自にやるよ。信綱公ならまだしも、他の所だと朝っぱらから組み手とかになりそうだしな。多分、信綱公もそうだろうさ」


 基本的に朝の鍛錬は武芸者である限り大半がルーティンとして行っているものだ。なのでカイトや信縄のみならず、今回から参加の卜伝や彼の弟子達も普通に朝の鍛錬を行っているし、ケルトの英雄達やアーサー王伝説の英雄達も勿論朝の鍛錬を欠かさない。が、だからといって集まって稽古を、と言われるとそれは大半が首を振っていた。


「朝の稽古は激しく動く気はない。敢えて言えば、腕を落とさない為でも良いか。だから、時間も短い。そしてその良し悪しで体調を把握しておく、って感じか」

「はぁ……」


 言うまでもない事であるが、アマテラスは武芸者ではない。一応魔術は長けているが、それも戦士向きとは決して言えない。どちらかと言えば支援役という所だ。

 それについては朝昼晩どの彼女であっても変わらず、一貫されていた。性質は変わっても根っこが同じだから、というのが彼女の言い分だ。と言っても全部が一緒ではなく、バッファーかデバッファーかなどの細かな差はある。


「ま、こんなもんはその人それぞれ、という所は多い。朝から激しい鍛錬を積む奴もいれば、オレの様に慣らし運転という奴も居る」

「色々、居るんですね」

「まぁな」

「でも、まだ宴会は始まったばかり。そこも、忘れないで下さいね」

「勿論、わかっているさ」


 アマテラスの言葉に、カイトは一つ笑って頷いた。と、そんな話をしている間にコタマが粥を持ってきて、カイトは軽く朝食を食べておく。


「ふぅ……ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」


 来た時点でアマテラスもご飯を食べていたのであるが、やはりカイトは軽めだった事もあり食べ終わるのはほぼ同時だったらしい。というわけで食べ終わった膳を戻し、カイトは持ってきていた刀を手にする。


「もう行くんですか?」

「あまり、遅くなるのもな」

「……」

「どした?」


 どこかソワソワというか何か興味深げなアマテラスに、カイトが首を傾げる。それに、彼女が口を開いた。


「見ても良いですか?」

「楽しいものなんて何も無いぞ?」

「でも興味あります。思えば、剣神も何をしているかと教えてくれる事はありませんでしたし……」

「まぁ、良いけど……本当に何やってるか、と言われても困るぞ?」

「それでも、見てみたいです」

「ふーん……」


 見たいならそれはそれで構わない。カイトとしては誰がどこにいようと、やる事は変わらないのだ。というわけで、カイトはアマテラスを伴って高天原の奥。宴会場とは遠く離れた人気のない場所へと向かう事にする。


「随分遠くへ行くんですね」

「信綱公が教えてくださった場所だからな。神無月の間はどこもかしこも人だらけ。人気が無い場所が無いぐらいだ」

「確かに、本当に数百万人以上居ますもんね……」


 高天原の空を飛びながら、アマテラスは眼下に広がる光景を見てなるほど、と納得する。神無月に集まる事が決まった時から、アマテラスはこの宴会の主催者として毎年参加している。

 なので彼女はこの時期の高天原の事を誰よりも知っているわけで、どこもかしこも人だらけ、というのは言われなくても知っていた。が、同時にそれ故にこそ何も無い場所も知っており、ここらなら確かに誰も居ないとわかっていたのである。


「ま、流石にオレも鍛錬の間ぐらいは邪魔の入らない場所の方が良い」

「あ……じゃあ、一緒に来て迷惑でしたか?」

「まさか。邪魔されなきゃ問題はないからな。というより、逆に静かすぎても駄目だ、と信綱公にも言われてるし」


 どうやらカイトとしても渡りに船という所ではあったらしい。若干しまった、という様子を見せたアマテラスに対して彼は笑って問題ない事を明言する。


「そうなんですか?」

「ああ……流石にオレももう基礎の段階は終わっている。だから、次の段階。技としては応用だ。何時如何なる状況でも神陰流の<<(まろばし)>>を使える様に練習しないと駄目だからな……と言っても流石にこの状況下の高天原だとキツイがな」


 前にも言われていたが、カイトの習熟度の早さは信綱をして舌を巻く領域だ。これについては彼の神陰流への適正の高さも相まっての事ではあるが、それ故に彼はすでに次のステップとして精神集中をかき乱す状況下での訓練を行う様に言われていたのであった。

 無論、それでも訓練中の身だ。なのである程度の限度は必要だった為、この高天原では遠く離れる事にしたのであった。と、そんな事を話しながら進む事少し。高天原の僻地にある湖畔に、二人はたどり着いた。


「ここは……」

「何か知ってるのか?」

「何度か、昔来た事があります」


 どうやらアマテラスはここらに数度来た事があったらしい。それに、カイトは湖畔の適度な場所を見繕いながら、問いかけた。


「三人でか?」

「いえ、一人です。ちょっと一人になりたいな、って時に」

「そ、そうか」


 それ、言って良かったのだろうか。アマテラスの懐かしげな様子から、カイトはなんと返せば良いかわからず曖昧に笑うだけだった。とはいえ、そんな彼は適度な岩を見付けると、その場に腰を下ろす。


「刀を振らないんですか?」

「刀を振る事の方が珍しい。刀はそっと添えるだけ……勿論、型稽古もするけどな。どちらかというと今はもう精神鍛錬の時間が随分と長くなった。神陰流を学ぶ様になって特に、かな」


 この二年ほどを思い出し、カイトはアマテラスの問いかけに笑う。地球に帰ってきた頃にはまだ身体を動かす稽古の時間は長かったし、今でも欠かしているわけではない。

 が、それ以上に今では世界の流れを感じ取り、その流れに身体を乗せて動く事に重点を置く様になっていた。そしてそのためには必然世界の流れを読み取らなければならなくなり、自然精神鍛錬の時間が増えてしまっていたのである。


「身体はそれで大丈夫なんですか?」

「腕が落ちた事はない。それどころかより正確に自身の身体の動きを想像し、敵の動きを読み取って、数手先まで全てを見通せる様になった……最適解がわかる様になった、と言えば良いのかな。動きはより速くなり、繊細になった」


 目を閉じる事無くとも、今のカイトには世界の流れがかなり遠くまで見通せていた。これをどれだけ遠く、なおかつ正確に読み取れるか。それが戦闘時には重要だった。そうして、彼はアマテラスと語らいながら、それさえ糧にして鍛錬を続ける事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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