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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第18章 神話の戦い編

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断章 第8話 高天原の大宴会 ――宴も酣――

 インドラを筆頭に国外の神々やアルトリウスらを筆頭にした国外の英雄達の来訪を受ける事になった高天原での大宴会。そんな中、カイトは凡その国外の参加者達の紹介を終わらせると、そのままの流れでアマテラスとツクヨミと共に今年は諸事情により参加が難しい、となった太公望ら『蓬莱山』に属する仙人達の事を話し合う事になる。

 そうして話し合われた太公望達の事であるが、そんな話から派生して太公望の弟子であるという徐福の話をする事になっていた。


「なるほどねー。確かに、暴君ってのは後世の創作とは聞いちゃいるが。実際、事実は事実として悪政を敷いたというのもまた事実……ま、その悪政ってのも後世である今の基準に当て嵌めた話ではあるがね」

「そこらは、余ら後世の者が言うべきではあるまいな。当時には当時の事情があり、合法とされた事がある。遡及法とは法の大前提を犯す禁じ手よ。悪法もまた法なり、とは言うたもので、法である以上はそれを守る以上その状況下で裁く事はできん」


 アマテラスとツクヨミにより語られた徐福の旅の理由に、カイトとティナはなるほど、と納得を示す。


「まぁ、なんというか……らしいっちゃらしいか」

「でしょうね。あの子、なんていうか色々と根性はあるわね」

「無いと王様に嘘吐こうなんて思わんだろ」


 なにせ相手は最初に中原に覇を唱えた始皇帝である。よほど肝が据わっていないとそれを騙すなぞ到底叶うはずがない。


「にしても、女の子ねー。会ってみたいな」

「なんじゃ。ロリが良ければロリになってやろうか?」

「そういうわけじゃねぇよ」

「……じゃあ、ボクっ娘?」


 ティナの言葉に反論を加えたカイトに、シルフィが唐突に現れて問いかける。あいも変わらずの自由人っぷりであった。と、そんな彼女に対してカイトがため息を吐いた。


「ちゃうわい……って、唐突に現れるなよ」

「お祭りだからねー。一応、ご挨拶来ましたー」

「は、はぁ……」


 一応、アマテラスとしてもシルフィが大精霊だとはわかったらしい。が、それ故にこそ呆気にとられていた様子である。というわけで、そんな彼女に合わせて八人全員が集まる事になっていた。


「僕ら大精霊も今年から参加します。以後、よろしくね」

「お前ら本当にお祭り騒ぎ好きだな」

「お祭り、楽しいもんね」


 カイトの言葉に、シルフィが楽しげに笑う。そうして一つ言葉を交わした後、カイトは唯一面識が無かった最後の一人に視線を向ける。


「で……雷華」

「……飽きた」

「何に!?」


 唐突な一言に、カイトは思わずツッコミを入れる。誰の言葉なのか、というのは言うまでもないだろう。雷の大精霊。唯一カイトと契約の更新を行っていなかった雷華である。見た目はエネフィア側の雷華と似た様な感じだが、彼女を若干幼くした感じかつけだるげな様子があった。そんな彼女の指から雷が迸り、カイトの右手の指輪が雷を纏う。


「よく考えたら盟約と制約に従い契約は再更新されるんだから、先に与えてても問題無かった」

「ですよね!?」


 こいつもこいつで独特な雰囲気を持つ。カイトは地球側の雷華にそう思う。そもそもの話なのであるが、当初からカイトはどうせ最後には契約が元通りになる、と言っている。である以上、別にいちいち解除する必要はないのだ。だのに全員何を思ったのか再度見極めます、である。カイトとしてはこの一言しか出せなかった。


「……で、なんでそんなけだるげ?」

「地球、純粋科学による電気の文明だから。管理項目多くて」

「お、おぉ……そ、そりゃお疲れ様……」


 眠そうに自分にもたれ掛かる雷華に、カイトは思わずねぎらいの言葉を掛ける。確かにエネフィアとは違い、地球には魔導炉が無い。なのであちらであれば魔力により動作する道具類もすべて電力により賄われており、その分彼女に負担が掛かる、という事なのだろう。が、そんな道理に見える説明に対して、カイトははたと気が付いた。


「って、んなわけあるかよ。お前の処理能力、こんな惑星一つでどうにかなる程度か。銀河系一つの文明が一気に底上げとかならまだしもな。たかだか星一つの文明が電気だけで賄われてた程度でどうだってんだ」

「バレたか」


 てへっ。カイトの指摘に、雷華は楽しげに笑う。そんな彼女に、カイトは盛大にため息を吐いた。


「お前な……」

「まぁ、でも。契約の再更新については本当。本当に面倒だもん……というか、皆お祭りに参加出来るのに私だけ出来ないのやー」

「そ、そうか」


 気分屋、というところなのかな。カイトは雷華の様子から、なんとなくであるがシルフィと仲が良さそうだ、という印象を受けた。なんというか、どことなく小悪魔チックな様子があったのである。そして案の定であった。


「雷華ー。とりあえず外屋台あるってー」

「あ、行く行くー」

「……もう好きになさってください」


 ぱっと自分から離れた雷華に、カイトはため息混じりにその背を見送る。そんな彼に、ティナが告げる。


「これで、全員か」

「ああ……まぁ、こうなるだろうと思ったよ」


 さんざんっぱらに引っ張り回してくれちゃって。カイトはエネフィアの大精霊達とは少し違う地球の大精霊達を思い出し、僅かに苦笑を浮かべる。エネフィアの大精霊は抑えとなる大人組も居た様子だったが、こちらは大人組は抑えるつもりは無いのか我関せずの風潮が強かった。この様子だと、何時も以上にシルフィらに引っ掻き回される事になるだろう。が、そんな彼の顔はどこか楽しげだった。


「楽しそうじゃのう」

「ま、お前より長い付き合いだからな。そしてオレがオレである限り、永遠に逃れられんともわかってる。なら、面白おかしくやるしかないだろ」

「そか」


 まぁ、カイトが楽しいならそれで良いか。ティナはそう思う。そうして大精霊達が散っていって、更に暫く。アマテラスが唐突に声を上げた。


「あ!」

「な、何じゃ!?」

「どした!?」

「姉上……もしかして酔って漏らした、とか言うんですか?」

「幾らなんでもそんな事しないわよ」


 唐突な事にカイトとティナは目を見開き、ツクヨミはツクヨミでしかめっ面だ。周囲の神々に至っては何かヤバい事が起きるかも、と僅かに腰を浮かしていた。というわけで、そんな周囲に顔を顰めたアマテラスが、声を上げる。


「徐福! 帰ってきたの!?」

「あ、アマテラス様」

「こっちいらっしゃい! ほら、カイト。席空けて」

「あ、おう」


 どうやら噂をすればなんとやら、というところらしい。アマテラスが見付けたのは、どうやら徐福らしい。というわけで、周囲の神々もなるほど、と納得したらしく浮かしていた腰を下ろし、カイトがアマテラスの言葉に従って場を空ける。そうしてやって来たのは、白い長い髪を持つ女の子だった。

 容姿としては先にアマテラス達が言っていた様に見た目の年頃としては幼く、男装すれば美少年に見えなくもない。とはいえ、今は髪を下ろしているしアマテラスの改造巫女服に似た洋服と和服の間の子のような服を着ているので、どこからどう見ても女の子である。


「ほら! この子が除福! さっき貴方の話してたの!」

「ありがとうございます」


 どちらかと言えば昼のアマテラスの方がやりやすそう。カイトはやって来た徐福に、そんな印象を得る。と、そんな彼の顔を見て、アマテラスが笑った。


「皆そんな顔するわね。まぁ、私も思うけど」

「あ、ああ……え、いや……一つ聞かせてくれ。本当に君が除福なのか?」

「はい。秦の始皇帝を騙し、不老不死の妙薬を探すとこの地へ来た徐福です。稀代の詐欺師、と呼んでくださいね」


 あ、この子多分笑顔で人を騙せるしたたかなタイプだ。カイトは一切恐れもなく遠慮もなくはっきりと述べた徐福に、そう理解する。確かに彼女は一見するとおしとやかな深窓の令嬢と言うべき少女だが、声にはどこか芯の強さがあった。と、そんな彼女にアマテラスが問いかける。


「で、どうしたの? 確か南極行ってきます、とか言ってたわよね」

「「な、南極……」」


 どうやら見た目は深窓の令嬢だが、実際には超アクティブらしい。アマテラスの言葉にカイトとティナは思わず頬を引き攣らせた。確かにここまでの行動力と肝が据わるのであれば、間違いなく秦の始皇帝だろうと騙せただろう。そんな彼女は、アマテラスの問いかけにため息を吐いて首を振る。


「そうなんです……けど、にっちもさっちもいかなくて戻ってきました。あ、南極の調査隊には記憶に処置を施して、私は最初から居なかった、と記憶させてます」

「そこらは手慣れたものねー」

「慣れてますから」


 何この子怖い。カイトとティナは笑顔で平然と騙す事について語る徐福に、思わず呆気にとられた。やはり彼女も伊達に歴史に名を残した人物ではない、というわけなのだろう。とはいえ、何時までも呆気にとられてもいられない。なのでカイトはふと気になった事を問いかけてみる。


「にっちもさっちも? 確かに南極には誰も手を出していないだろうから魔物やらは居るだろうが……君の手に負えない奴なんて居るのか?」

「居ますよ。私、騙したりするのは得意ですけど、戦闘力からっきしですし。一応、宝貝(パオペエ)のレプリカなんかは持ってますけど……大抵道具頼みです」

「あ、<<打神鞭(だしんべん)>>」


 すっ、と懐から取り出した太公望の<<打神鞭(だしんべん)>>に似た物体に、カイトは僅かに目を見開く。これに、徐福が僅かに驚いた。


「ご存知なんですか?」

「ああ……太公望殿も来ているからな。今年は無理かも、って言ってたが、来てくださったらしい」

「お師匠様が?」

「ああ、そう言えば弟子なんだっけ」


 僅かに驚いた様子の徐福に、カイトはそういえば、と思い出す。先にアマテラス達が言っていたが、徐福は一応太公望の内弟子のような形らしく、この<<打神鞭(だしんべん)>>のレプリカも彼から与えられた物らしい。そしてこの様子なら、彼と頻繁にやり取りしているわけではなさそうだった。


「あれ? それだと知らないで戻ってきたのか?」

「はい。どちらかと言えば貴方目的で戻ってきました」

「オレ?」


 確かにカイトとしても伝説の除福と会いたいとは思っていた。が、彼女の側が会いたい、と思うのは不思議だった。とはいえ、そうであるのなら、とカイトは僅かに仰け反る様にして姿勢を変えて声を上げた。


「まぁ、良いや。その様子なら挨拶もしてないんだろ? おーい! コタマー!」

「はい、なんでしょう!」

「太公望殿呼んでくれ。お弟子さんが帰ったと」

「かしこまりましたー!」

「あ、後それと桃と酒おかわりー!」

「はい!」

「あ、ちょっ! 待って! 待って待って!」


 カイトの要望を受けたコタマ――小さな玉藻の前なのでコタマ――が元気よく消えたのを見て、一瞬呆気にとられていた徐福が盛大に慌てふためく。これに、ティナが首を傾げた。


「何故慌てふためく。師なのであろう?」

「そ、そうなんですが……」

「あー……」

「まぁ……ええ……」


 頬を引き攣らせて視線を逸らす徐福に、アマテラスとツクヨミも揃って僅かに視線を逸らす。と、そんなこんなで微妙な雰囲気が立ち込めるわけであるが、すぐに太公望が現れた。自身の弟子が来てアマテラス達のところに居るというのであれば、彼も同席せねば、と急ぎ駆け付けてくれたのである。


「おぉ、カイト殿。弟子とは失礼した。む」

「……お、お久しぶりです……」

「何じゃ、お主か」


 非常にバツの悪い様子の徐福に対して、太公望はしかめっ面を隠す事なくその場に腰掛ける。どうやら即座に踵を返すほどではないらしい。それに、カイトはおずおずと問いかける。


「……何かあったのですか?」

「別に何もないよ。今更性別偽り弟子入りした事なぞ気にする必要も無し。まぁ、感謝もしておるしのう」


 そんな風には見えないが。しかめっ面の太公望に、カイトはそう思う。そして流石に太公望も説明も無しにしかめっ面では自身の狭量を疑われる。なので彼はしゃーなし、という感じをありありと出しながら、少しだけ語る。


「一応、今儂らが本拠としておる『蓬莱山』はこやつが見つけ出したのよ。それについては恩こそあれ、それでまぁ、帳消しにしておる」

「え、えーっと……そ、そういう事なのです」

「ふんっ」


 こればかりは元々の太公望の女性嫌いの側面と、自身が弟子に騙された、というところが響いているらしい。が、一応人となりとしての相性は悪くないのか女性である事を抜きとすればどちらかと言えば太公望の様子は拗ねている様子があった。

 随分と未来、天桜学園の帰還より先に太公望と酒飲み話をしたカイト曰く、どうやら弟子に信じられてなかったのが気に食わなかったらしい。崑崙を去る際に<<打神鞭(だしんべん)>>のレプリカを与えていたり、と決して徐福を嫌っているわけでもない――去り際には女性と知っていた――のだろう。とはいえ、そういうわけなので太公望の苦言は留まるところを知らなかった。


「お主は人となりが駄目じゃ。まずお主は人を騙しすぎる」

「面目次第もございません……」


 これはなかなかに終わりそうにないかもしれない。カイトは太公望の苦言を聞きながら、そう思う。とはいえ、ここは宴会。何時までもこんな場にそぐわない話をされていても困る。というわけで、彼は口を挟む事にした。


「太公望殿。呼び立てた側でこう言うのも申し訳ないが、流石にそういった苦言は後にしないか? 折角コタマが持ってきてくれた酒と水蜜桃がぬるくなってしまう」

「む……それもそうじゃの。これは失敬した……ふぅ。まぁ、良い。徐福。たまにはこちらに顔も見せんか。お主が会いたくない、というのもわかるし、儂も会いたくない」

「え、えぇ……」


 会いたくない、とのたまいながら顔を見せに来い、である。流石の除福も思わず頬を引き攣らせていた。なお、会いに行けていなかったのは言うまでもなく徐福は現状日本の存在になるからである。存在としては道士になるのだが、日本に定住した事でこちら側に鞍替えした形になったのである。


「太公望殿。まぁ、駆けつけ三杯と言いますし。話をするから、盃が乾いていますよ」

「お、これはこれは」


 こういう場合、とりあえず酔わせて話を切り替えさせるのが一番。カイトはそれを長い経験から知っていた。というわけで、暫くの間カイトは太公望と飲みながら、話をする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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