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断章 第47話 欧州会議編 ――闇夜の戦い――

 リチャードの提案を受けて行われた、カイト・ヴィヴィアン組とシメオン・ゲオルギウス組でのお茶会。それが行われていた裏では、ルイス達とウリエル達による悪魔憑き対策の話し合いが行われていた。

 そんな話し合いの結論を聞いたカイト達であったが、これについては自分たちに害を成すものではないとわかっていればこそ、普通に許諾の意志を示していた。そんな彼らの一方。シメオン達も自分達のお茶会の裏で行われていた会談について聞く事になっていた。


「そ、その様な事が……」

「ああ……向こうさんもこれで飲む、とのことだ。ま、流石にここまでの時間だ。サリエルもそんなあっちに手出し出来る様な結界は作れん」

「これでも、悪魔憑きに対応出来る様にするだけでもすごい手間なんですがねぇ……本当にこれが終わった後はお休みが欲しいぐらいには、大急ぎで作りましたよ。まぁ、そう言っても補佐に連れてきた告死天使達が必要にもなりますし……」


 本当にルル様の許可があって良かった。サリエルもウリエルも語らなかったものの、内心で深くそう思っていた。基本、こういった告死天使達を大々的に動員する様な事はミカエルの許可が必要になる。一応ウリエルが代行としての権限を貰っていたが、事前の報告は必須だ。

 が、そうなると今度はミカエルに状況の報告をしたり、今の状況だと確実に酔っ払いの巨乳天使(ガブリエル)まで絡んで来かねない。そうなると面倒な事この上なく、それがなくとも時間は食う。しかしルイスの許可がある、となると話は別だったのである。


「は、はぁ……そ、それでその、何時行われるおつもりなのですか?」

「あ、それは今日の夜です。向こうさんが対応出来ないだろう速度で実施します。すでにノア陛下の許可も得ていますし、リチャード陛下も拒みはされないでしょう」

「きょ、今日の夜……」


 それを平然と認めたノアもノアというか、一切気にせずゴーサインを出す事に同意したカイト達もカイト達というか。シメオンはもう誰にどう呆れれば良いかさっぱりだった。

 なお、サリエルも言っているが、リチャードは拒むどころかこの話を聞いて逆にそれはありがたい。内通者が居ればもう割り出せるのか、と喜んでいたぐらいだった。


「あははは……確かに、些か稚拙ではあります。が、それだけこちらは出遅れている。相手は数百年単位で我々を学んでいるのに、こちらはまだ相手の動きを掴んで一ヶ月も経っていない」

「ああ……些か稚拙だろうと、こちらはその遅れを取り戻さなけりゃなんねぇ。となると、まず相手にこれ以上勝手をさせない、ってのが重要だ。些か強権だろうとな」


 ここら、やはり武闘派のウリエルが今回の最高責任者で良かった、というのは後のミカエルやガブリエルの言葉だ。やはり彼は一番の武闘派という事で様々な現実を見てきていた為か、相手に対処される前に現場の判断で行動する重要性――勿論上の判断を仰ぐ事の重要性もわかっているが――を理解していた様だ。今回はその現場の判断が重要と理解していたらしく、自身の権限を最大に活用している様子だった。


「さぁて……じゃ、ま……一つ踊ってもらいましょうかね」


 ウリエルが楽しげに牙を剥いた。そうして、こちらもこちらでは様々な事が起きながらも、一日は終わりを迎える事になるのだった。




 さて。時は僅かに進んで、夜遅く。本来なら誰もが寝静まった時間帯だ。その時間に、警備兵に隠れて動く影があった。しかもそれは一つではなく、複数だ。


『今、巡回はこのルートだ。ここを通れば、一気に行ける』

『武器の類は?』

『既に隠している。後は、部屋に入るだけだ』


 一人の問い掛けに、また別の一人が答える。その片方は城の警備を行う兵士の格好をしていて、巡回ルートも彼が調べた物だった。

 と、そんな城に勤める者たちで構成された集団の中に一人、普通に外の一般人と同じ格好をしている者が居た。


『結界が展開されるのなら、それより前に動け。それが王の命令だ』

『分かっている』


 一般人と同じ格好をしていた悪魔憑きの言葉に、先に話していたとはまた別の悪魔憑きが告げる。王。やはりカイト達が見通した通り彼らは何者かの指示を受けているらしく、些か拙さは見えても一端の軍事行動と見做して良い動きだった。その拙さも、彼らが他者の肉体を操って動いているのなら仕方がないのかも、しれなかった。


『にしても……これでようやく動き難いこの身体からおさらば出来る』

『まったくだ。どうして人間はこうも動き難い身体で満足出来る』

『満足出来ないから、我らと契約し力を得ようとするのだろう?』

『……違いない』

『笑わせるなよ……』


 不平不満を述べた一人の言葉に反論したまた別の悪魔憑きの言葉に、誰もが思わず呆気に取られて声を小さくしながらも笑い合う。


『良し。ここだな』


 そんな集団がある種和気藹々と歩く事しばらく。悪魔憑きで構成されるちぐはぐな集団は、とある部屋の前に立ち止まる。それは言うまでもなく、カイト達にあてがわれた部屋だった。

 そうして、彼らは自分達が知られていない存在だったからこそ知り得たどこか知られぬ空間に接続し、各々武器を取り出した。


『……良し』


 武器を持ち服を着替えて、一度全員が同意を確認する。そうして、彼らは一気にカイトの宿泊する客間へと踏み込んだ。



「よぉ、こんな夜更けに野郎しか居ない部屋に、何の用事だ?」

『ウリエル!?』

「それだけではありませんよ?」

『サリエルまで!』


 何が起きている。悪魔憑き一同はカイト達の部屋に入ったはずなのにそこに悠然と腰掛けていた二人の天使達を見て、思わず瞠目する。


「くっ……あっはははは! なんで、って顔してんなぁ」

「それはそうでしょう。部屋が入れ替わっているのですからね」

「「……」」


 ウリエルとサリエルの楽しげな会話に対して、シメオンとゲオルギウスの二人が扉の左右に立っていつでも攻撃に移れるように準備をしていた。そんな彼らに、悪魔憑きの一人、一人だけ一般人の格好をしていた者が問いかける。


『どうやった? 空間を捻じ曲げたのか?』

「正解は正解だ……が、想像とは少し違うと思うぜ?」


 問い掛けに対して、ウリエルは楽しげに笑いながらワインを傾ける。ルイスの土産だった。もうこの状態だ。彼らの勝利は揺らがないし、彼の指揮は既に必要のない段階だ。サリエルと共に、一足先に勝利の美酒に酔っていた。


「俺たちはお前らの事を過小評価していない。必ず、扉の繋がりが弄られてたら気付くと思っている」

『っ……』


 ウリエルの言葉に、悪魔憑きの指揮官が顔を歪める。それはそうだ、としか彼には言えなかった。空間がねじ曲がる事もなく、今一歩部屋の外に足を踏み出せば普通に出られる。

 外に見える光景も、カイト達の部屋で間違いない。そんな光景に、悪魔憑き達は内心で困惑を得ていた。そんな彼らに、ウリエルが事の真相を語る。


「部屋を入れ替えた、ってわけじゃない。部屋の住人を全部入れ替えたのさ」

『何? だが、どちらもあの後一歩も出ていないはずだ』

「そりゃ、お前……企業秘密って奴だろう」


 思わず問い掛けたらしい悪魔憑きの言葉に、ウリエルは笑いながらそう突っ込んだ。これについてであるが、言うまでもなくルイスによるものだ。

 彼女の転移は通常とは異なる。そして喩えルシフェルを知っていてその力を知っていようと、彼女の復活まで知っているとは思えない。それ故に、これだった。


『ちっ……念の為に、入れ替わったのか』

「いえ、違いますよ。情けないというか、当然と言いますか……流石に私でもそんな大掛かりな結界を作るのに半日やそこらでどうにかなるわけもありません」


 クスクスと楽しげに、サリエルは結界が万が一機能しなかった場合に備えていたらしい事に毒付いた悪魔憑きに、肩を竦めて見せる。


「ま、わっかりやすく言ってやるぜ。最初から結界なんぞ無かったのさ。開発は勿論、してるけどな」

『なぁ……』


 ウリエルの言葉に、悪魔憑きが思わず言葉を失った。とはいえ、それはそうだ。いくら彼らとてティナの支援もなくそんな数時間やそこらで実用化に漕ぎ付けられる筈もない。

 無論、先の話し合いでも実用化とは言い難い、という様な言言い方ではあった。が、そもそもあの時点では実は開発さえ未着手だったのである。というわけで、苦労したと言いながらその実何もしていなかったサリエルが、言葉を失った悪魔憑き達にどこか茶化す様に告げる。


「おや……これは有難い。まさか貴方達に過大評価して頂けるとは」

「いやいや……俺達だって奴らを過大評価してたんだ。向こうだってそうだろうぜ」

「そうですね。とはいえ、おかげでのんびり休めましたよ。久方ぶりですねぇ、何もするな、と命ぜられて昼から寝たのは」


 楽しげなウリエルに、サリエルはどこか何時もより調子良さげに笑う。基本彼は脳内で結界の思案をしているフリを見せていたそうで、その実態は寝ていたらしかった。

 なので本当に何時もより調子が良いらしい。しかも今は夜。彼の時間だ。謂わば彼は絶好調と言って過言では無かった。


「さて……それで、どうする? ああ、言っておくが、俺達は手を出さねぇぜ」

「そうですね。既に飲んでいますので」


 くるくる、サリエルはワイングラスを回す。これに、悪魔憑き達はどうするか判断に迷った。この様子だ。ウリエルもサリエルも本当に手出ししない可能性が高い。となると、敵はシメオンとゲオルギウスの二人だけだ。


『熾天使以外の天使は……居ない』

『……どこだ?』


 今回、天使達の主力となっているのは主天使達以下中位の天使達だ。が、その全てがどこにもいなかった。と、そんな悪魔憑き達の疑問を聞いて、ウリエルが楽しげに窓の外を指差した。


「ああ、あいつらか? それなら……」

『っ!?』


 気付かれていたのか。悪魔憑き達が揃って顔を顰める。とはいえ、それもそのはずだ。当然の話であるが、これだけの戦力でカイトを仕留めるなぞ彼らも思っていない。そんな事をすれば戦力を大きく削がれてしまうなぞ誰でもわかる事だ。

 なので狙ったのは、城中を混乱に陥れての同士討ちだ。それ故にカイトの部下を装った様な悪魔憑き達も城内へと入り込んでおり、暴れまわっている様子だった。その対処に、主天使達は動いていたのである。


「ま……後はお前らの好きにしろよ。ここで討ち死にするも良し。こっちの降参して情報をゲロるのも良し……お前らの好きにしろ」


 ウリエルはどこか冷酷に、悪魔憑き達を見下ろす様に告げる。そうしてそれを合図と見て取ったのか、シメオンとゲオルギウスの両名が一気に悪魔憑き達へと襲いかかった。そんな彼らに対して、悪魔憑き達は一切迷いなく取り憑いていた義体を抜け出した。


「ちっ!」

「それが、本当の姿か!」


 まるで抜ける様にして現れた人影に、シメオンが声を荒げる。現れたのは、物語に語られる悪魔の姿。魔族の真の姿を解き放った姿によく似ていた。


「さて……じゃ、お手並み拝見と行くか」


 交戦を開始したシメオンとゲオルギウスを見て、ウリエルはそう呟いた。そうして、城の各所で本来の姿に戻った悪魔憑き達との戦いが開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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