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断章 第42話 欧州会議編 ――対策会議――

 ひょんなことからノアの家族の写真を見る事になったカイト。そんな彼が興味を示したのはやはり、ヨーロッパにて最大勢力である聖ヨハネ騎士団の最高幹部に匹敵するというジャンヌ・ダルクを襲名した姫だった。が、やはりこの情報は国家機密として秘匿されており、色々と手を尽くしてはみたものの、結果としては何一つ得られる事のないまま、終わりを迎える事になる。

 が、それと同時に彼自身さえ知らず、かつて愛した女性の生まれ変わりである事を彼の魂は理解しており、それの発露を見せる事になってしまう。しかし彼自身はそんな事は知らず、彼は改めてシメオン達との会談へと臨む事になっていた。


「……と、いうわけだ。こちらからはこの様な形での対処が出来るのではないか、と推測が立てられている」

「ふむ……」


 一人乗り込んできた形のカイトから受けた提案に、ウリエルは一つ考える。とはいえ、これを考えた所で答えは一つしかなかった。


「サリィ。お前の目も同じ機能は持ってないか?」

「持っているか否か。有無で問われれば、持っていますが。ぶっちゃけてしまえば、かつて先代の天使長を封殺した時の手の応用というかモンキーと言えば良いかもしれませんねぇ」


 とどのつまり、ルイスを封殺した時の魔眼の亜種。サリエルは一切憚る事なく、はっきりと明言する。あれも少し違うが、魂を封ずる事で動きを止めてしまう物だったらしい。

 それでも相手が格上だった事で本来なら僅かな間しか通用しないわけであるが、彼らの場合はその一瞬で十分だったのだろう。


「となると、ひとまずはなんとかはなるか……告死天使共は?」

「んー……私ほど強固な拘束を考えるのでなければ、使えるでしょうね。と言っても、そこまで強くある必要はないので、十分でしょう。普通な者に影響を出さない程度で良い、とのことですし」

「よし。となると、後はどうやってこっちが使える程度に結界を落とし込めるか、という所だろうな……おい、誰かノアかリチャードに連絡を取ってくれ」

「はっ」


 ウリエルの指示に、シメオンの側近の一人が即座に応ずる。そうして指示を出した所で、彼はカイトへと告げる。


「その策。こちらが主導しても問題はないな?」

「もちろん。そもそもこちらに通用する奴は居ないし、その方がそちらも安心出来る。更に言えば、その方が角も立つまいよ」

「ああ……後はこちらで詰めさせてもらう。そっちは一切手出し無用に頼む」

「あいよ」


 カイトはウリエルの申し出に対して、両手を出してどうぞ、とジェスチャーで示す。ここは曲がりなりにも相手方の主要都市の一つだ。そこでカイト達が何かを出来るとは、最初から思っていなかった。


「さて……そうなると、こっちは何もしないで良いんだが」

「してもらっても困るがな」

「あっははは。たしかにな……で、少し気になるんだが」

「うん?」


 僅かに真剣味を帯びたカイトに、ウリエルが僅かに片眉を上げる。これに、カイトが問いかけた。


「よくそんな特殊部隊に悪魔憑きが潜り込めたな」

「……はぁ。返す言葉もない。が、俺達としてもついこの間まで悪魔共が復活していた、というのは知らなかった。多めにみておいてくれ」

「そうかい……まぁ、オレ達も知らなかったのだから人のことは言えんが……ヨーロッパの見張り、もう少しきつくした方が良いのかもな」

「善処しよう」


 カイトの言葉に、ウリエルは肩を竦める。ここらは一応はまだ敵対的な組織だからこそ、という所だろう。一応の苦言を呈しておいた、という所だ。そしてそれなら、とウリエルも返す。


「で……それなら言わせて貰っておくが、そっちは大丈夫なのか? ウチが言えた義理じゃないが、ウチより組む奴は多いだろう」

「本当に言えた義理じゃないな……が、まぁ、それはオレに言われてもな。知っての通り、オレの影響力はヨーロッパまでは届かん。精々フィオナや龍族の大御所達程度だ」

「それで通じん、という言葉に信憑性は無いな……」


 カイトの返答に対して、ウリエルは只々呆れ返る。これは素で反応していた。どれもこれも、教会の騎士達だけでなく天使達が対応に苦慮する勢力だ。大勢力ではないが、個体としての戦闘力が高すぎて手を出してしまえば被害が馬鹿にならないのだ。

 フィオナを見ればわかるがその癖誰も彼もが我が強く、対応が厳しい。一度揉めればミカエルやウリエルを筆頭にした熾天使達にまで対応が回ってくる事も多かった。


「そうかねぇ……ま、そこらの反応は人それぞれ。そちらが信憑性が無いと思うのなら、それで構わん。こちらはこちらが事実は事実として思う事をそのまま述べたに過ぎんからな」

「そーしておこう……で、改めて話を戻せば、そちらは大丈夫なのか?」

「だからヨーロッパはわからん、ってば」

「日本は」

「ふむ……」


 日本は。そう問われ、カイトは一度自陣営を見直してみる。確かに改めてそう言われてみれば、気になる事は気になるだろう。


「確かにな。そちらもわかっているだろうが、オレはまだ世に出て一年と少ししか経過していない。日本全土を掌握出来たか、と言われると否というしかない。まぁ、そもそも裏世界でさえオレは日本を全て統一しているわけでもないし、そうしようと思っているわけでもないがな。というより、言ってしまえばオレは単なる風来人なんだが……」

「それでも、お前さんに二人の首脳が頭を垂れた時点で、ってわけなんだがな」

「それはわかっているし、わかっているからここに居る」


 一応、対外的にはまだカイトは日本の三大勢力の長ではない。現時点でも<<最後の楽園(ラスト・ユートピア)>>、<<紫陽の里(しようのさと)>>どちらも対外的かつ公的にはエリザ・エルザの二人と蘇芳翁が治めている事になっている。

 諸外国は一応カイトがこの二つを統一したと見ているが、確定ではないのだ。何より、カイトは実務には殆ど関わっていない。必要な分はしているが、それだけだ。

 そこが事態を厄介にしていた。あくまでもアドバイザーと言われればそれでも筋が通るからだ。というわけで、カイトは一応の事、明言をしておく。


「ま……それでも背負った分はさせてもらうが。それで言えば、ウチの陣営のトップは安心してくれて結構。何より今はエレシュキガルの加護もある。オレの周辺でもし万が一、悪魔憑きが居ればそれ以前の段階でわかっていただろう。幸か不幸か、それが無かった時点でオレの周辺には居なかったと見做して良いだろう」


 カイトは自身の周囲にのみ『帰還する事のない土地(クル・ヌ・ギ・ア)』を展開し、自身の周囲での悪魔憑きが発生し得ないと明言する。これは先にルイス達との会議で述べた通りだ。

 彼の周囲ではまず間違いなく、この冥界の力が展開された時点で悪魔憑きはカイトの支配下に置かれてしまう。これを敵が知っていたとは思えないし、これはここ一年で手に入れた力だ。対処も出来ないだろう。


「なるほどな。それで、今回来ている奴も全員大丈夫、と」

「そういうことだ。まさか部屋で自分の力を使うぐらいも問題、とは言わないだろう? こちらの検査をそちらにさせるわけにもいかないしな」

「たしかにな。それについては、こちらも何も言えん」

「ま、そういうわけでな。こちらは問題無い、と改めて請け負っておこう」

「はぁ……わーった。そちらに問題無い、というのは俺の名ではっきり認めよう」


 カイトがどうか、と言う問題さえクリアできれば、カイト陣営の内今回会談に来ている面子が全員問題無い事は彼の力の時点で明白になる。そしてカイトが問題無いか、という点については先の時点でウリエルも問題がない、と論理的に判断出来る事を告げている。

 であれば、その時点で全員が問題無いと判断しても良かった。と、そんな事を言っていると、ウリエルの指示を受けて先に出ていったシメオンの側近が戻ってきた。


「ウリエル様」

「ああ、さっきノアかリチャードの所に行った奴か。どうだった?」

「はい。リチャード陛下が時間が空き次第、お話したいとの事です」

「わかった。何時頃になる?」

「は……」


 ウリエルの言葉を受けて、シメオンの側近が先に提示された時間帯をウリエルへと提出する。それを横目に、カイトは立ち上がった。


「じゃあ、後は任せる。こちらはもうすることも出来る事も無いだろうからな……まぁ、一応は現状この悪魔憑きに関しては共通の敵として認識している。それは良いな?」

「もちろんだ。そのために、こちらから情報をくれてやったんだからよ」

「なら、もし何かアドバイスや手が必要なら言ってくれ。こちらも尽力しよう」

「その時は、有り難く受け取ろう」


 後ろ手に手を振るカイトの申し出に、ウリエルが一つ笑う。とりあえずウリエル達はこれから悪魔憑きに対抗する為の結界なり魔眼の広域展開なりの試行に入ってもらわねばならない。なら、カイトはおじゃま虫にしかならなかった。というわけで部屋を後にする事になるのであるが、その途中でカイトへと城の従者の一人が声を掛けた。


「ブルー様」

「ああ、なんだ?」

「ノア様より、先のお茶会についての詳細が。他の方々については、先にもう連絡が行っております」

「わかった。伺おう」


 どうやらカイトがウリエル達と話し合いをしている間に、向こう側が詳細を詰めてくれていたらしい。移動しながらではあるが、話を聞く事にする。


「まず場所ですが、城の二階にテラスがありますので、そちらで。時間は15時……午後3時よりと」

「アフタヌーンティーか。わかった。こちらに問題は無い」

「ありがとうございます」

「ああ……それで、結局の所参列されるのは誰だ?」

「はい……それについて、一点ご相談が」


 カイトの問いかけに対して、従者が提案という形で口を開く。それを受け、カイトは一つ頷いて先を促した。


「ふむ……とりあえずは聞いてからとしたい」

「はい……シメオン様とゲオルギウス様も参加してはどうか、と。こちらについては先方の返答を待ってからとなりますが」

「ふむ……」


 わからないではないな。カイトはこのリチャード――ノアに扮しているが――の申し出に対して、内心で理解を示す。現状、シメオン達ともウリエル達とも事務的な話はしたし、そこでの少しの雑談を交わした事は交わした。が、これはあくまでも外面での会話。あくまでも社交的な話し合いというだけだ。

 それ以上にお互いを知る場を設けるべきだろう、というリチャードの進言はわからないではなかった。それにもしカイトがノアの正体がリチャードであると知っていれば、この申し出を彼らしいと受け取っただろう。とはいえ、それを知らずとも、答えは変わらなかった。


「こちらに問題はない。そもそもノア陛下のご家族を紹介していただける、というだけの話だしな」

「かしこまりました。ありがとうございます」

「別に構わんさ……こちらについてもウチの面子も把握済みか?」

「無論です。皆様、ご納得して頂いております」

「そうか。なら、尚更に問題はない」


 他の面子も納得しているというのであれば、カイトとしても何か否定する必要は見当たらない。実際、もう少しシメオンらの事を知っておきたいと思っているのも事実だ。

 ミカエルとルイスの和解をきっかけにしてウリエル達の事は知っているが、逆にきっかけが無いシメオン達の事は知らなすぎるのだ。知らなければ対策も立てにくいし、和解を行うにしても難しくなる。何をするにしても、知る事は必要だった。


「では、時間が近付いたら迎えを頼む。こちらでは二階にテラスが、と言われても何もわからないからな」

「かしこまりました。では、呼び止めてしまい申し訳ありません」

「いや……確かこの道をまっすぐだったな」

「はい……では、失礼致します」


 カイトの申し出に一つ頷くと、城の従者はその場を立ち去る。そうして、カイトは改めて自分に与えられた部屋へと戻り、時間までしばらくの間のんびりと過ごす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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