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断章 第5話 出会いの物語・出会い編3

 翌日。やはり案の定、カイトとソラの戦いは校内中を駆け巡った。まあ、最近上級生相手に売られた喧嘩を全て買った挙句、それらを全て自滅に追い込むカイトと、地域で一番ヤバイ不良と噂のソラの戦いだ。誰もが気にならに筈は無かった。

「ちっ・・・」

 面倒なことになった、ソラはそう思う。学校に来るつもりが無かった事もあるが、来て早々に職員室に呼び出しを食らったのだ。朝から再び監視つきで送り迎えをされた挙句、靴箱で待ち構えていた教師に掴まったのである。

「だから言ってんだろ?別に喧嘩はしてねえって。」

「うーん・・・まあ、天音もお前もそういうなら・・・」

 昨日の校舎裏での戦いの後、カイトが早々と帰宅した所為で、事情聴取が取られなかったのだ。カイトはティナを待たせており、放っておくと興味本位から勝手に動き出す彼女を一人にしておくのは非常にまずいからだ。更にはそんなカイトに教師達が唖然として、只々成り行きを見守ってしまった。それ故、朝から二人共呼び出されたのである。

「まあ、いいでしょう。確かに、見間違えただけかも知れませんからな。」

 校長がそう言って、朝からの呼び出しはお終いとなる。そうして、職員室から出た所で、ソラがカイトに問いかけた。

「おい。」

「何だ?」

「どうして嘘つきやがった?」

「別に?オレは手を出していないし、お前も此方に攻撃を当てられていない。実害は出ていない。いい運動になっただけだ。これの何処が喧嘩だ?」

 この当時、カイトは実害さえ出なければ、基本此方からアクションを起こすことはない。それ故、カイトは喧嘩と言えば長引く話をさっさと終わらせるため、勘違いと言い切ったのだ。

「わけわかんねぇ・・・」

 これは、ソラのカイトへの第一印象。転校当初から自分に一切ビビらず、それどころかアドバイスまでしてくる彼に、ソラは全く理解が出来なかったのだ。

「鞄、持って行ってやろうか?」

「あ?」

 カイトは当然ながらこの後は朝一から授業だ。それに対してソラは、恐らくサボるだろうと読んだがゆえのセリフだ。

「どうせ今日もサボりだろ?」

「・・・頼まぁ。」

 少し考え、別に何も入っていないし、好意から言っているようだからいいか、とソラはカイトに鞄を預け、昨日と同じく屋上へと上がっていった。

「ああ。」

 カイトは鞄を受け取ると、何時もと同じく、教室へと向かっていった。




「・・・珍しいな。」

 カイトはいつも通り、昼飯を食べた後に校舎裏へ行ったのだが、そこには誰も居なかった。呼び出した当人達も、である。

「・・・来る気配は無い、よな。」

 カイトは少しだけ魔術を使用して周囲を探り、誰も来る気配が無いことを確認する。

「どうしたもんかな・・・ま、いっか。」

 少しだけ悩み、別に時間が取られなくていいか、と思ったカイト。踵を返してティナの所へと向かう事にした。そうして、校舎へ戻った所で、上級生達に遭遇する。

「・・・はぁ。」

 今日は時間をロスしなくて済んだ、そう思った矢先の遭遇なので、カイトは少しだけ不機嫌になってつい、睨みつけてしまった。まだこの当時、カイトはそこまで完璧に魔力による感情の抑制が出来ていなかったので、かなり不機嫌な顔だっただろう。

「ひっ!」

 確かに睨みつけたのは事実なのだが、それにしてはかなり怯えた表情を見せた上級生達。彼らはそんなカイトを見るや、即座に謝罪した。

「あ、天音・・・すまなかった!もう一切手出ししねぇ!だから、許してくれ!」

 矢も盾もたまらず深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にする上級生たち。

「・・・はぁ。」

 気の抜けた声で、それに応じるカイト。どうしてここまで怯えられるのか、理解が出来なかった。

「じゃ、じゃあ、俺達はもう行くから!すまなかった!」

 そう言って上級生たちはカイトの返事も聞かず、足早に去って行った。そうして、釈然としないながらもクラスに戻っていったカイトだが、そこで待ち受けていたのは、何時もカイトに喧嘩を売っていた上級生たちの集団だった。

「・・・なんだ、これ?」

 彼らはカイトを見るなり、怯えた表情で勢い良く土下座した。さすがのカイトも、それにはぽかん、と口を開けて成り行きを見守るしか無かった。

「今まで理不尽な言いがかり、すまなかった!だから、許してくれ!」

 先ほどと同じく、上級生たちは謝罪の言葉を述べる。

「いえ、あの・・・別段構いませんが・・・」

 その言葉を聞いて、上級生たちは怯えた表情の中に安堵を見せ、その後も少しの謝罪の言葉を述べて、そそくさと逃げるように去って行った。

「・・・なんだったんだ?」

 カイトはただそれを呆然と眺め、首を傾げる。当たり前ながら、いきなりの豹変っぷりに、カイトも反応しようがなかったのだ。

「まあ、時間が空けられるなら、問題無いか。」

 とは言え、これ以上昼間に時間が取られないのなら、カイトは万々歳である。理由は気になるが、どうでもよいか、と流すことにした。

 なお、彼らがここまで怯える理由は、ソラとカイトの一戦でカイトが優勢だった、という話が伝わったからだ。彼らも、地域最悪の不良であるソラの事は知っている。それに比する相手に喧嘩を売った、という事実は、彼らにとって心底怯えるのに十分な理由となり得たのである。

「これ、荒れるな・・・」

 誰かが呟いた。それは、一匹狼で各地の不良たちに喧嘩を売るソラの地位が脅かされた事への言及であり、それと同時に、それに比するカイトが有名になる事が確実となった、という事の現れであった。




 翌日。漸く平静を取り戻すか、と思われた2年A組だが、落ち着きを取り戻すどころか、朝から逆に一気に静まり返っていた。それはなぜか。クラスに来た二人の少女が引き起こした騒動が原因であった。

「へぇ・・・あんた、来たんだ。良く顔出せたわね。」

 片方の少女は、きれいな明るいショートカットの茶髪で、丈の短いスカート、へそ出しルック。アクセサリーは高そうな宝石が付いており、化粧は薄めで、元々の顔立ちの良さもあって、かなりの美少女だ。彼女の名は三枝 魅衣。後にティナの親友となる少女の、中学時代の姿だった。

 が、今はそんな端正な顔でもう片方の少女を睨みつけていた。

「それは三枝の方でしょ?よくウチの前に顔出せたね。」

 もう片方の少女は、明らかに染めたと分かる金髪で、ホットパンツ、丈の短いTシャツを来て、上には黒の柄物の上着を羽織っていた。此方の少女は年頃の少女たちよりも発育がよく、顔立ちも整っていた事も相まって、非常に目のやり場に困る少女であった。彼女の名は、小鳥遊 由利。後に魅衣とティナの親友となる少女の一人であった。が、今の彼女と魅衣の関係は、最悪と言ってよかった。

 そうして、二人の少女を中心として形成される険悪な雰囲気。誰もが一瞬即発、と怯える中、カイトはいつも通り、平然としていた。

「おい・・・お前、こんな時まで何平然としてんだよ!」

 隣の席の男子生徒が、小声で平然と本を読むカイトに問いかけた。顔にはどうしてこうなった、という声にならぬ声がありありと浮かび上がっていた。カイトの騒動が終わった、と思った翌日にこれなのだから、致し方がない。

「別に何も起きてないだろ?」

「どう見てもこれから起きんだろ!」

 そうして、彼らは忘れていた。このクラスには、最近更に最悪の男がいた事に。そうして、教室の扉がガラガラ、と開き、三人目の男が、入ってきたのである。

「・・・あ?」

 入ってきて早々、ソラはクラスが静謐さを保ったまま、騒然となった事に気付く。誰もが顔になんでくんだよ、と書いてあった。こんな顔をするクラスメートには慣れっこなソラは、それに何も思わず、鞄を机の横に掛けた。彼は今日も今日とて、監視つきで登校させられたのである。なお、この監視は一週間続く事になる。

「・・・は?なんであんたがここに来るの?」

 茶髪の少女が、入ってきたソラを睨みつける。彼女達はここ数日学校に来ていなかった為、ソラの転校を知らないのだ。

「あ?そりゃこっちのセリフだ。なんでてめーらがここにいんだよ。」

「私は今日暇だったからだし。」

 問われた茶髪の少女が、憮然とした表情で答えた。

「んな事聞いてねぇよ。」

「なに?別に私が自分の中学居ても問題ないでしょ。」

「あぁ?まさか、小鳥遊、てめぇもか?」

「なに?ウチが居て文句あんの?というか、天城。ウチのゲーセンくんのやめて。この間何人かのしたでしょ。ここで仕返ししておこうか?」

「は、あそこあんたのじゃないでしょ。」

「あ?そもそも喧嘩売ってきたのてめえらだろ?」

 ちなみに、この二人の少女が同時に来たのは、完全に偶然だ。魅衣は偶然一緒に居ない時に何時も連れ添っている少女数人が補導され、その少女たちが家から出禁を食らった為、やることがなくなり、あまりにも暇だったので気まぐれに学校に顔を出したのだ。

 由利は不可抗力だ。とある筋から入手したバイクを乗り回している彼女―尚、当然無免許なので、警察に見つかると大問題である―だが、此方も仲間の数人が夜中に走り回った挙句、補導されてしまったため、由利の父親が強制的に学校へと送り届けたのである。尚、由利もこの時、少々別件で別の所にいたため、彼女も見つかってはいない。

 彼女の父親は警察で、由利と付き合いのある少女たちであると知ると、激怒して無理矢理連れてきたのである。なお、バイクは少し離れた場所に隠してある為、彼の必死の捜索にも関わらず、見つかっていない。

「・・・最悪だ・・・誰だよ、ゴ○ラとガ○ラとキ○グコ○グを一緒に呼び出した奴・・・」

 誰かが巨大怪獣に喩え、3人を表する。誰もが、三人が同時に来るという最悪のトラブルを想定していなかったのだ。三人が三人共、普通は学校をサボっているので誰も予想できなかった、という仕方がない事情もあった。

「ちっ、まあどうでも良いか。おい。」

 ソラは通常、学校に来た所で屋上待機なので、彼女たちが来ていた所でどうでも良いと判断。昨日はさすがにカイトの方に放課後も色々あったためリベンジ出来なかったソラは、カイトへとリベンジをするつもりだったのだ。

「今日、昼食ったら裏来い。どうせ今日からは空いてんだろ?」

「あ、何?あの噂ホントだったんだ。てか、そいつ?だれ、それ。」

「あぁ、ウチの娘達も言ってたね。天城が土付けられたって。ふーん、ウチのクラスの奴なんだ。」

 魅衣と由利が興味深げにカイトを観察する。彼女らにとって、カイトは興味の対象外であったらしいが、ソラを負かしたとなると、話は別であった。

 滅茶苦茶強い事で有名な不良のソラである。当然、敗北に近い形での負けは、数日も経たずに広く知れ渡っていた。尚、クラスが上がってから殆ど学校に来ていなかった二人は、当然クラスの殆どの生徒の顔と名前を知らない為、カイトの事を把握していなかったのである。

「あ?負けてねえよ・・・ってか、てめえはのんきにいつまでも本読んでんじゃねえ!」

 いつまでも呑気に読書をしていたカイトに、ソラがケリを入れようとする。が、衝突の直前。カイトの左手によって足首を掴まれ、そのままの姿勢で固まる。

「・・・何?」

 ソラの顔に、疑問が浮かび、魅衣と由利の目が見開かれる。今、ソラは全力では無いが、それに近い力でケリを放った。しかし、それがいとも簡単に防がれ、おまけに今度はその手を振り払えない。彼のこれまでで一度も無かった事であった。

「・・・はぁ。」

 カイトはソラの足首を掴んでいた手を離すと、立ち上がる。

「いい所なんだが・・・それより、昼じゃなかったのか?」

 別に戦うつもりは無かったのだが、どうやらソラは教室で戦うつもりらしい。既に彼は構えを取って、戦う準備が出来ていた。それを見たカイトは、周囲へ被害が出ないよう、即行で終わらせるか、そう判断した。

「はっ、よく考えりゃ、別に今でも問題ねーや。」

「・・・はぁ。」

 犬歯を見せて笑うソラに、カイトは溜め息を吐いた。戦うつもりは無かったが、相手がやるつもりならば、仕方がない。周囲の生徒達がそんな二人にざわめいているが、ソラは気にせず、カイトは少し申し訳なく思いながら、しかし、構えを取るつもりは無い。代わりに、首を鳴らして両手を開いては握りしめていた。

「へぇ・・・」

「ふふ。学校にも面白い奴いるじゃん。」

 この状況で、唯一止められるだけの胆力を持つ二人は魅衣と由利はそんなつもりは一切なく、逆に始まりそうな喧嘩を楽しげに眺めているだけだ。何時始まるのか、と待ちわびている感さえあった。だが、喧嘩が始まる事は無かった。昨日と同じように、体育教師を中心とした教師達がやって来たからだ。

「おい、貴様ら!」

 元々、魅衣と由利の所為で険悪な雰囲気が漂っていたのだ。それに気付いた生徒の一人が、急いで職員室に駆け込んだのである。職員室の教員たちはカイトのクラスであると把握すると、即座に教師を集めたのであった。

「これは・・・三枝と小鳥遊じゃない、のか?」

 聞いていた時よりも悪化している、教師の一人の呟きがそれを物語っていた。彼らが聞いていたのは、由利と魅衣だ。しかし、今はそれだけでなく、ソラとカイトまで険悪な状況であった。

「あぁ!?」

 ようやくカイトがやる気になった、それを見て笑みを浮かべていたソラだが、今度は教師達が来たことで一気に不機嫌そうな怒声を上げて、教師達を睨む。ソラの鋭い目付きと眼光で睨まれ、さすがの体育教師達も怯むが、そこは体力と胆力自慢の体育教師達だ。

「おい・・・あー・・・天城、だったか?ちょっと来い。」

「天音も、悪いが来てもらうぞ。」

「はい。」

「あぁ!?てめぇ!逃げんのか!」

「いや、お前も来るんだろう・・・」

 そうして、カイトが従った事により不承不承ではあるがソラも従い、二人は生徒指導室へと連行されていった。

「・・・二人は喧嘩はしていないんだな?」

「はぁ?別にウチらはなんもしてないし。」

「・・・ええ。」

 疑い100%の視線で教師の一人に問い掛けられた由利が不機嫌そうに教師を睨み、魅衣が続けて短く返した。魅衣の方はもうどうでも良さそうだった。その答えを教師達は嘘と思いながらも、実際に二人が険悪な状況な所を目撃できなかったので、この二人を連れて行く事が出来なかった。そうして、教師達は仕方がなく、カイトとソラだけを連れて、足早に立ち去っていった。

「ちっ、ウザ。」

「これから良い所だったのに・・・」

 魅衣が舌打ちし、由利が残念そうに呟いた。とは言え、折角自分達は連行されなくて済んだのである。それを口に出せば、確実に小言を言われる事ぐらいは、彼女らも理解していた。

「あー、じゃあ、授業・・・って、三枝!小鳥遊!」

 そうして、騒動が終わりを迎えた事を知った最上が入って来た。教壇の前に立って出欠を確認しようとした所で、魅衣と由利が足早に横を通り過ぎていった。

「帰る。」

「じゃ。」

 魅衣も由利もお互いが居るなら学校に居るつもりは無かった。なので、早々に早退すべく、さっさと出て行ったのである。そうして、この日一日、4人が教室に帰って来る事は無かった。

 お読み頂きありがとうございました。

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