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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第17章 次なる世界へ編

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断章 第15話 欧州旅行編 ――裏と表――

 ひょんな事から関わる事になった、イタリアはナポリでリモンチェッロという酒を作るロッシーニ家のトラブル。それはカイト達がナポリの酒屋に詳細を伝えた事をきっかけとして、一気にナポリ全域に伝わる事となる。

 そしてそれを受けて、ナポリのマフィアであるカモッラのドン・コルネリオが動き出す事になっていた。そうして、カイト達がナポリの観光を行った翌日。カイトは昼頃になり、スーツを着用してナポリの街に再度入っていた。


「イタロさん」

「ああ、葵さんか。まさか、本当に用意してきたのか?」

「はい」

「ほへー……」


 どうやらイタロはカイトが動く事が半信半疑だったらしい。まさかの事態に思わず目を丸くしていた。そんな彼であるが、一転して気を取り直して、僅かにすまなそうに頭を掻いた。


「で……すまねぇな。実はこの話が昨日の夕方にコルネリオ……カモッラのボスの耳に入っちまってな。お前が来るって言っちまった」

「なんだ。それなら、丁度よいじゃないですか」

「いや……それがなぁ……」


 笑うカイトに、イタロが苦い顔でため息を吐いた。そうしてそんな彼のため息に呼び寄せられる様に、店の奥から数人の大男が姿を現す。誰も彼もが入れ墨を入れていて、ガタイもかなり良い。明らかに、真っ当な職業の者には見えなかった。そうしてそんな大男達の中から、クリストフが顔を覗かせる。


「……どうやらまだまだ俺は親父には勝てないか……っと、お久しぶりです、えっと」

「ああ、葵です」

「ありがとうございます。コルネリオ・カヴァルリの息子でクリストフ・カヴァルリです」


 カイトとクリストフはひとまずの自己紹介を交わし合うと、お互いにビジネス向きの笑顔で握手を交わす。それに、イタロが大いに目を見開いた。


「お前さん……クリスが何者かわかってるのか?」

「あはは……イタロさん。彼は、そんな真っ当な相手ではありませんよ。まぁ、企業は真っ当ですけどね。私が調べた限りでも、イタリア政府も出資しているまともな企業です。勿論、彼は正真正銘の会社役員ですよ」


 にこやかな笑顔で握手を交わしたカイトに大いに驚きを浮かべていたイタロに、クリストフが軽くカイトの概要を語る。それを聞きながら、カイトは内心で安堵していた。どうやらコルネリオは自分の提案に乗るつもりらしい、と。


「父が待っています。車も用意しました」

「わかりました」


 クリストフの案内に従って、カイトは酒屋の前にいつの間にか止められていた高級車に乗り込んだ。運転席にはブルーノが居て、乗ったのはカイトとクリストフだけだ。


「オレが誰かをご存知なら、よく一人だけで乗る気が起きましたね」

「私はまだ、信じてはいませんよ。が、父は貴方が我々とも違う世界の大物と判断し、どれだけ護衛を配置しても一緒だろう、と。更にはあまり多いとロッシーニ家に迷惑が掛かる、と」

「なるほど……お父君がナポリの街で慕われる理由がわかります」

「ありがとうございます」


 今はあくまでも、ビジネスの場だ。そんな話が一区切りした所で、クリストフが改めて問いかけた。


「……葵さん。一つ、お聞かせ頂いてよろしいですか?」

「どうぞ」

「貴方は、何者ですか? 父は貴方とご一緒だったご婦人達をモルガン・ル・フェイとヴィヴィアンと推測した。が、私はそれを今もまだ信じられていない。勿論、完全な与太話と思っているわけでもありませんが」


 何度か言われているが、クリストフは魔術の存在を認めていながらも怪異が存在するとは思っていない。そしてこれは父のコルネリオにも言える事であるが、二人共英雄達が今も世界の裏に生きている事を知らない。


「ふむ……まぁ、一つだけ言えるとすれば。私が貴方達とはまた違う裏の世界の住人という所でしょう。一つ、お伺いしますが……貴方は私の姿をはっきり認識出来ていますか?」

「は?」


 カイトに問われ、クリストフは改めてカイトの姿を確認する。が、そこで思わず目を見開いた。


「なんだ、お前……」

「そういう事です。オレが何者かをお答えする事は出来ません。が、少なくとも貴方達が知るべき存在では無いでしょう。まぁ、その上で言えば。あの二人は正真正銘のモルガン・ル・フェイとヴィヴィアンで間違いありませんよ。が、オレはアーサー王ではありませんね。友人ではありますが」

「……」


 少なくとも、この正体不明の男――それどころかクリストフには男なのかも定かではなかったが――は自分の想像の及ばぬ相手なのだろう。クリストフは本能的に、これ以上突っ込まない方が良いと理解する。そうして、そんなクリストフと共にカイトは車に揺られ、再びロッシーニ家の農園へと向かう事にするのだった。




 さて、カイトが車に揺られ移動すること、少し。彼がロッシーニ家に到着した頃にはコルネリオもまた丁度到着した頃だった。


「よぉ、昨日の兄さん。今日は仕事着かい」

「貴方が、コルネリオさんでしたか。葵です」

「ああ……どうやら、あの一杯が変な縁になっちまった様だ」


 やはり流石はカモッラのボスという所だろう。カイトと握手をする事にためらいが無かった。


「いえ……私としては良縁でしたよ。おかげで、セルジオさんの酒に出会えた」

「そうかい……まぁ、俺としてもあんたというか、イタロのやろうがあんたをけしかけたおかげで、北の馬鹿共が暗躍している事を知れた。お互いに縁があったってわけなんだろう」


 コルネリオはカイトをロッシーニ家の酒蔵へと案内しながら、そう口にする。そうして酒蔵の前にたどり着いた所で、コルネリオが改めて口を開いた。


「おい、お前ら。ジャン以外は外で待ってろ」

「「「はい」」」


 今ここにはカモッラのボスが居るのだ。故に兵隊達もわんさか屯しており、厳重な警備が敷かれていた。が、中にいるのは古くからコルネリオを見知っていようと一般人だ。威圧しない為にも、自身と側近だけで入るつもりだった。店の中ではルフィオが店番をしており、セルジオの姿は見受けられなかった。


「いらっしゃいま……せ……」

「おう、嬢ちゃん。悪いが、爺さん頼まぁ」

「何しに来たんですか?」


 どうやらルフィオもコルネリオの事は知っていたらしい。睨む様な顔で問いかける。


「あぁ、そう身構えねぇでくれ。爺さんに頭、下げに来ただけだ。で、この兄さんの話を聞いて貰いたくてな」

「葵さん……コルネリオさんとお知り合いだったんですか?」

「いや、そうじゃないよ。まぁ、少し理由がある、というのは事実だが」


 疑う様なルフィオに対して、カイトは苦笑気味に首を振る。とはいえ、彼が居た事は少しばかりは話を聞こうという気にさせたらしい。


「お爺ちゃんを呼んできます。そのまま、待っていて下さい」

「おう。ま、酒でも見ながら待たせて貰うぜ」

「では、失礼します」


 笑うコルネリオに対して、ルフィオの顔は相変わらず険しかった。そうして少しばかり待っていると、セルジオがやって来た。


「はんっ! クソガキが何しに来やがった!」

「あっははは! セルジオの爺さん、相変わらずじゃねぇか。元気そうで良かったぜ。俺にクソガキ呼ばわりが出来んのは、今じゃあんたぐらいなもんだ」

「はっ……お前が葵さんと一緒じゃなきゃ、こっちに来てやらんかったわ」

「あはは」


 セルジオのキツい言葉に、コルネリオが楽しげに笑う。彼がセルジオのこの物言いを許しているのは、ひとえに若い頃の彼に一度は足を洗う為に色々と手を尽くしてくれたかららしい。

 それなのに結局カモッラの道に進んだ彼の事を許していないそうだ。これについては自分が全面的に悪い、とコルネリオもわかっていたのである。

 が、なんだかんだセルジオも面倒見が良いのか、古くからの馴染みという事で苦言だけで酒は土産にくれるし話もしてくれたらしい。ルフィオが風当たりが強いのも、祖父が甘いと考えている事に起因する様だ。


「まぁ、爺さん。今日は爺さんの説教聞きに来たってわけじゃねぇ……まぁ、俺が来たってぇ時点で想像は付いてるんだろう」

「……」

「爺さん。葵さんは睨まねぇでやってくれねぇか。彼は関係ねぇ。いや、完全に関係ねぇか、というとそうでもねぇが……少なくとも、彼がチクったとかじゃねぇ」


 どうやらコルネリオが来た時点でおおよその事情は理解出来ていたらしくカイトを睨んだセルジオであったが、それにコルネリオが弁明を入れる。


「まずは、爺さん。ウチのシマでよそ者に勝手させちまた。すまねぇ。これはカモッラの不手際だ。今後、こんな事はねぇ様にシマはきちっと締めさせてもらう」

「……ふんっ。お前の頭なぞに価値は無いわ」

「あはは……ま、一応の筋ってもんだ。すまねぇな」


 裏の者として再度頭を下げたコルネリオに、セルジオは顔は不満げな様子を見せる。が、その態度には敵意やそういった感情は見受けられず、素直じゃないながらも受け入れている様子があった。あくまでもカモッラの男は認めない、というスタンスから来るものなのだろう。


「……まぁ、良いわ。それで、葵さんまでご一緒とは。何用じゃ」

「あぁ、爺さん。それで少し話があってな……葵さん」

「はい……まずはセルジオさん。お久しぶりです」

「昨日会ったばかりじゃがのう」

「あはは……」


 セルジオの言葉に、カイトが笑う。そうして、彼は早速と切り出した。


「実は私としては、セルジオさんには知られる事なく話を進めるつもりだったのですが……実は私、とある企業の役員をしておりまして」

「ふむ……」


 カイトの差し出した名刺をセルジオが受け取った。とはいえ、やはり合弁会社として新たに出来た企業だったからか、彼は知っている様子はなかった。


「まぁ、俺が一緒に居て説得力は無いかもしれねぇが……葵さんの企業はウチとは何ら関係ねぇ。が、それでも今回の話の関係上筋を通して、わざわざ俺に話を持ってきて下さってな。で、俺も爺さんに詫び入れるついでに、仲介人として立候補させて貰ったってわけだ」

「どんな会社なんじゃ」

「主に国外への輸出を行っている企業です。ネットで調べて頂ければわかるかと思いますが、我社にはイタリア政府も出資しており、カモッラとは無縁である事はイタリア政府も保証しております。それ以外にもイギリスの『ラウンズ・オブ・ヨーロピアン』、日本の天道やアルターなど幾つもの企業が提携し、新たに設立した合弁会社となります。それと共に、日本政府やイギリス政府も一部出資を」

「ふむ……『ラウンズ・オブ・ヨーロピアン』は儂もこの間ニュースで見たのう……」


 元々セルジオとしてもカイトが非常に若いのにイタリア語が堪能であった事には訝しみを得ていた。が、ヨーロッパ全域が活動範囲に含まれる企業の幹部に若くして就任しているのであれば、それもわからないでもないと思った様だ。

 なお、『ラウンズ・オブ・ヨーロピアン』というのはアルトが率いている企業連合の名だ。今回、カイトが使っていた身分はこことアルター社やゼウスの所の企業が集まって作った合弁会社の幹部だった。


「まぁ、儂にはそこらの細かい話はわからん。その幹部さんが何用じゃ」

「はい……今回の一件を聞いて、是非とも我社にてスポンサー契約をさせて頂きたいと思い、お話を」

「む?」

「実は、昨日寄せて頂いたのは確かに観光ではあったのですが……」


 カイトは目を見開いたセルジオに対して、昨日より前にロッシーニ家のリモンチェッロを知っていて、昨日の来訪はその内偵も含んでいた事。そこで今のスポンサーと揉めている事を知り、他のスポンサーに入られるより前に自分達の所で契約を結んで独占的に販売する権利を得たいと思っている事などを語っていく。

 ここらは流石カイトという所であり、一部には嘘を混じえながらもそれを感じさせない弁説で彼へとこれが前々から計画されていた事であると語っていく。


「というわけなのです。元々我社としましては、イタリアで新たな仕入れルートを探しておりまして、ナポリで昔ながらの製法で作られているリモンチェッロは目玉の一つになり得ると判断しておりました。そして昨日、新たに息子さんのリモンチェッロを知り、これは目玉として売り込めると判断。特に日本でなら親子二代で作る酒、と売り出せば良い宣伝となります。それ故急ぎ社長へと相談し、契約への優先権を得るべく動いたというわけです」

「な、なるほど……」


 あまりの動きの素早さについて、どうやらセルジオは逆にこれぐらいの手腕があるのは世界有数の企業のエリート達が集まっているからだ、と思った様だ。無論、それそのものには間違いない。そんな彼に、コルネリオが口を挟んだ。


「……と、いうわけでな。まぁ、他にもあるかもはしれねぇが……少なくとも葵さんの企業は悪くねぇだろう。爺さん、あんまそういう事わかんねぇだろう?」

「……知らんでも酒は作れるからのう」

「あっははは。それでこそ、爺さんだ。まぁ、詳しい話は俺が居ちゃ進まねぇだろう。とりあえず、俺はおすすめしておくぜ、って所だけだ」


 少しだけ恥ずかしげに口を尖らせたセルジオに、コルネリオは笑いながら立ち上がる。これ以上カモッラの一団が屯していては、カイトにもセルジオにも良く無いとわかっていた。なので彼は自身の要件を終えた事もあり、去る事にしたようだ。


「……まぁ、葵さん。あんたも立場ある身だろうが……ま、何か縁がありゃぁ、また一杯引っかけようや。あんたの飲みっぷり、悪かぁ無かったぜ」

「機会があれば、という所で」

「あはは……じゃあな」

「ありがとうございました」


 カイトはこの場ではあくまでも、ビジネスマンだ。故に笑いながら軽く去っていったコルネリオに対して、カイトは改めてセルジオの方を向いた。


「それで、どうでしょう。妨害についてはカモッラの皆様がなんとかしてくださる、という事でしたので……我社に乗り換えるというのは」

「ふむ……」

「いえ、何も今この場で決めろ、と申しているわけではありません。我社も今回は急いで申し出をさせて頂きましたが、今トラブルを抱えている関係でスポンサー契約には色々と踏ん切りが付かないでしょう。社の方で法律関係やそういった契約の専門家を用意しております。よろしければ、そちらの方で詳しいお話を聞いてくださるだけでも、と」

「……ふぅ。前の時も思うておったが、葵さん。貴方は中々に強引な様じゃ」

「企業の幹部となると、些か強引でなければ話が進められない時は多いですので……」

「ははは……そうなのかもしれんのう。まぁ、話ぐらいであれば、聞いても良いかもしれん」


 やはりカイトの話術という所なのだろう。セルジオも元々カイトがきちんと酒の味がわかっていた事もあり、話ぐらいなら聞いても良いかも、と思った様だ。

 特に今のスポンサーとこのまま契約を続ければ今回難を逃れられたとしても、何時次が起こるかもわからないのだ。このままで良いとは彼も思っていなかった。

 そうして、これから一ヶ月後。カイトが手配した専門家達との間で話し合いがまとまり、カイト達はロッシーニ家でリモンチェッロの新たな銘柄を幾つか作ってもらう事を引き換えに、ロッシーニ家――息子も含む――のスポンサーとなるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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