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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第17章 次なる世界へ編

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断章 第8話 欧州旅行編 ――イタリア――

 ここ一年近く続いていた戦いに次ぐ戦いの連続での精神的な疲れを癒やすべく、シメオンらとの会談の前にヨーロッパを自由気ままに旅する事にしたカイト達。そんな彼らはそれぞれがしたいことをするべく、別個に活動を開始する。そんな中、カイトと相棒達は自由気ままな旅をするべくくじを引いて行き先を決め、最初の目的地となるナポリを目指して転移していた。


「っと……」


 地脈から飛び出したカイトはとんっ、とヴェスヴィオ山の山頂に着地する。が、そうして着地してみて、カイトは感覚からここが現実とは違うどこか別の空間である事を理解した。


「これは……大神殿?」

「みたい……だね。私は現世で来るのは初めてかな」

「私も」


 カイトと同じく周囲を見回した二人もまた、ここが現実世界とは少し違う空間である事を理解する。どうやら当てずっぽうに転移術を行使した事で、通常は転移出来るはずの無い『大精霊の大神殿』に入ってしまっていた様だ。と言っても勿論、そんな当てずっぽうで転移したからと入れるわけではない。


「普通は、契約者じゃないと入れないはずなんだけど……」

「カイトが居るからでしょ」


 ヴィヴィアンの疑問にモルガンが適当に推測を述べる。『大精霊の大神殿』とは契約者となる時に使われる所で、例えばここであれば『火の大精霊の大神殿』となるわけだ。それ故に普通は大精霊達が資格ありと認めた者でなければ入れる事はない。が、カイトが居るので、という事だったのだろう。

 と、そんな会話を横で聞きながら火の力に満ち溢れた大神殿を見ていたカイトであるが、ふと構造がエネフィアで見た大神殿と一緒である事に気が付いた。


「ここは地球でも一緒なのか」

「それはそうだ。ここは地球でもありエネフィアでもあり、そのどちらでも無い」


 どこか感慨深げなカイトの言葉に呼応する様に、サラマンデルが顕現する。転移の前にカイトが言っていたが、ヴェスヴィオ山には莫大な火の魔力が満ち溢れていた。であれば、ここは彼女の神殿である事は特段の疑いもないだろう。


「ああ、サラか」

「ああ……貴様が私との契約を再始動させた事と、地脈を使って移動した事で期せずしてこちらに出た様だ」

「なるほどね……ということはここはヴェスヴィオ山で間違いないのか」

「ああ」


 カイトとてヴェスヴィオ山に『火の大精霊の大神殿』がある事に疑問は無かった。古代ローマ時代から何度となく大噴火で近くの街を埋めてきた有名な火山だ。これだけ豊富な火属性の魔力が満ち溢れているのなら、大神殿に通じていても不思議は一切なかった。


「にしても……ここが地球でもありエネフィアでもあり、そのどちらでもないとはどういう事なんだ?」

「ふむ……それはそのままだ。だからこの場では私は……」


 カイトの問いかけを受けて、サラマンデルが一度目を閉じる。そうして僅かに彼女の身体が赤い輝きに包まれた後、今度はエネフィアの姿の彼女が現れた。


「こんな事だって出来るわけさ。勿論、望むのだったら他の世界の私にも……」


 サラマンデルは再度そういうと、目を閉じる。そうして再度赤い輝きに包まれた彼女は、褐色の肌を持つ赤髪の幼子の姿を取った。顔立ちは彼女に似ているのでカイトなら彼女と分かるが、そうでなければ同じ大精霊とは殆どわからないだろう。


「こんな事も出来るよ。この状態だとボクっ娘だね」

「へー……シルフィに似たサラか。中々に新鮮だな……」


 かれこれ十何年にも渡る付き合いであるが、やはりカイトの知る彼女ら大精霊とはエネフィアか地球のどちらかの姿だ。そのどちらでも無いサラマンデルというのは、見知った事がなく中々に新鮮味があった。


「あ……変態な事考えてるでしょー」

「うむ。少し考えとらん」

「どっちなのさ」

「おー……その反応は新鮮……」


 何時もなら爆笑されるか苦笑されるかしか無かったサラマンデルの反応が一変していて、中々に楽しかったらしい。カイトは少し嬉しそうだった。


「にしても……そういう事なら、『拠点』や『大聖堂』でも同じ事が出来るんじゃないか?」

「出来るよ。やってなかっただけで」

「へー……まぁ、あの頃のオレだししゃーないかー」


 『拠点』というのは『もう一人のカイト』が使っていた異空間の事で、『大聖堂』というのは『大精霊の大神殿』の上位互換の施設とでも言う所だ。前者は改めて言うまでもないだろうが、後者は世界規模での異変が起きた際に大精霊が集合し事態の終息に努める場合に使われる場所だった。

 わかりやすく言えば、カイトの精神世界を世界側が設けた場所、と考えれば良い。と言っても、そんな事は滅多に起きないので、使われないのであった。


「あの頃の君だからねー」

「ふむ……今にして思えば、永劫の時を生きて中々につまらん生き方をしていたもんだ」

「その分、私達と今を楽しめば良いよ」

「確かにな」


 ヴィヴィアンの言葉は道理と言えた。過去を振り向いた所で過去には戻れないのだ。なら、今を思う存分楽しめば良かった。


「よし! そうと決まれば、外に出てナポリの風景を楽しみますか!」

「いってらっしゃーい」

「おーう」


 サラマンデルの見送りに手を振りながら、カイトは慣れた足取りで出口へと向かっていく。そうして出口を抜ければ、あっという間にヴェスヴィオ山の山頂だった。


「おー……」


 どうやら幸いな事にイタリアは晴れだったらしい。三人を出迎えたのは、活気付くナポリの町並みだった。


「こりゃ、絶景かな絶景かな」

「良いねー、こういう朝の光景も」


 蒼天に負けないぐらいに青い海と白い雲という見渡す限りの大パノラマを見ながら、カイトは一時の光景を楽しむ。どうやら時差の関係で朝一番から少しズレているからかすでに観光客もちらほらと見え始めており、三人と同じ様に大パノラマに心打たれている様子が見て取れた。と、そんな大パノラマを少しだけ見たカイトは振り向いて、火口を見る。


「で、これが……ポンペイとエルコラーノを滅ぼしたヴェスヴィオ山の火口か」

「火の力がかなり強いね。噴火はもう少し無い……かな」


 カイトと同じく後ろを振り向いて火口を見るヴィヴィアンが少しだけ魔力の流れを見通して、まだもうしばらくは噴火の兆候が見られない事に安堵しておく。やはり観光にきて噴火、では有り難くない。と、そんな事を言ったからだろう。カイトも少し気になったらしい。


「ふむ……噴火を抑制するのなら火属性の大規模結界を展開するのが良いかもしれないな。もしくは桜姫の様に強大な力を持つ異族に鎮守を頼むか……」

「うーん……でも現代にそこまで力を持つ異族が居るかな?」

「ふむ……そこらは面倒な所だな。誰か知り合い、居ないか?」

「居ない事は居ないわけじゃないけど……どうだろ? そもそも鎮守は結構色々とわかってくれる人じゃないと、疲れるからやってくれないからねー」


 どうやらカイトとモルガンは元為政者だからだろう。こういった自然災害に対する対策を考えるのは為政者としての通常業務にも等しいらしく、対策をするのならどうするべきか、と自然と話し合っていた。そんな二人に、ヴィヴィアンが笑う。


「二人共、おやすみに来てるんだからそういう事は考えないでおこうよ。それにここ、イタリアだし」

「「……」」


 仕事中毒とは違うのだろうが、ヴィヴィアンの指摘に二人は思わず顔を見合わせる。イタリアには何の伝手も無いのだ。考えるだけ無駄だ。そうして、三人は少しだけ笑いあった後、気を取り直して観光を再開する。


「ま、確かにどうでも良い事っちゃ、どうでも良い事か。さて、そうなると……」

「ポンペイ遺跡に興味あるの?」

「ちょっと見てみたくはある。当時の生活とかは興味はないがな。当時どんな治世を行っていたか、というのは構造から垣間見える」

「結局、お仕事?」


 カイトの返答にヴィヴィアンが苦笑した様に笑う。が、これにカイトも少し笑いながらも、至極真面目な事を口にした。


「女の子、沢山なので。統治者ってのは出るのも多いが入るのも多い。存外、貴族ってのも嫌いじゃなかったのさ」

「真面目だなー」

「夢はイチャイチャしながら毎日のんびり過ごす事です」


 笑うモルガンに、カイトはどこか照れくさそうに笑う。そうして、三人はヴェスヴィオ山の山頂から飛んでポンペイ遺跡へと向かう事にするのだった。




 さて、三人がヴェスヴィオ山を後にしておよそ四時間。現地時間にしておよそ13時という所だ。その頃には一通りポンペイ遺跡の見学も終わり、三人は本日の主題となるナポリへ向かっていた。時間帯もあるのだろうがそこはやはりイタリア国外の人々が考えるイタリアの人々が暮らす街、という所で、輝く太陽に照らされた温暖な気候で活気に満ち溢れていた。


「はー……ナポリはゴミが多い、って聞いてたんだがね」

「さっき話したカモッラの大ボスがなんかしたらしいよー。だから警察もあんまり彼を捕まえにくい、とかなんとか」

「へー……人格者って話は聞いたが……」


 モルガンからの解説に、カイトはそうなのか、と僅かに驚いたような顔を浮かべる。これは割りと知られている事ではあるが、ナポリといえばごみ問題が顕著な街でもある。

 その要因というのが、件のカモッラにあるとされていた。どうやらこの街のごみ処理にはカモッラが関わっているとの事で、不法投棄が問題となっていたらしい。が、どうやらその大ボスとやらが何か対策を打って、今では清潔感のある町並みになっているらしかった。


「とはいえ……」


 やはり武芸者だからだろうか。カイトは道行く人々を見て、僅かに剣呑な雰囲気を見せる。そんな彼に、ヴィヴィアンが問いかけた。


「どうしたの?」

「思ったよりカモッラの構成員が多そうだな……その大ボスとやらに惚れ込んで入ったか、それとも大ボスの手腕により構成員が増えたか……」


 やはり一般市民とマフィアの構成員とでは身に纏う風格が違うらしい。それを見た場合、裏路地にはかなり多くのカモッラの構成員らしき者達の気配があった。一時衰退の一途を辿っていたという話であるのだが、時期などを考えればこのカモッラの大ボスとやらが再起の一因となっている可能性は高かった。


「ふむ……」


 警察としては苦い話ではあるのだろう。今のカモッラの大ボスを逮捕すればもしかすると、昔のようなごみ処理問題が再発するかもしれない。かといって、このまま放置すればカモッラが再起してしまうかもしれない。痛し痒しと考えられた。


「そこらは私達が気にする話でもなくない? 別に今日一日だけだし」

「それもそうか……とりあえずお昼どうするかね」

「出来たてのピッツァ食べたい。窯から出て来たばかりのピッツァ」

「それは良いな。窯から出て来たばかりのピッツァは滅多に食えるもんじゃないし。ヴィヴィは?」

「私もそれで良いよ」

「よし。じゃあ、探すか」


 やはりイタリアといえばパスタとピッツァだろう。これが正しいかはわからないが、兎にも角にもどちらかは食べておきたい所ではあった。というわけで、店を探す事少し。少し異様な雰囲気の店を見つける事となる。


「……美味そうではあるが」

「う、うーん……ちょっと入りにくいというかなんというか」


 おそらく名店ではあるのだろう。カイトとモルガンはそう思う。古ぼけて小さな店であるがしっかりと手入れがされており、長年街の住人に愛されている様子がある。その上、店の外にまで良い匂いが漂っているのだ。良い店だと察するには十分だ。

 が、同時に入れない理由はその外にあった。店の中にはそれなりに客が居て空席もあるが、外には明らかにカモッラの構成員らしい者達が居たからだ。

 おそらくこの中では幹部格――しかもかなり高位――に準ずる者が食事をしているというわけなのだろう。と、そんな風に外で立ち止まってしまったからだろう。店の中から男が出て来た。


「おい、てめぇら。何そこで突っ立てってやがる」

「「「あ、兄貴」」」

「他の客の邪魔だろうが。ボスが怒る前にさっさと離れやがれ」

「へ、へい。すいやせん」


 元々店の大きさはさほどではない。どうやら、それ故に幹部の側近とやらが前で立ち止まったカイト達を見て店の邪魔になっている自分の部下達に気付いたらしい。そんな彼は見張りの者達を店から引かせると、カイト達へと頭を下げた。


「兄さん方、すまねぇな。別に封鎖してるわけじゃねぇんだ。あいつらは中で飯食ってるウチの上司の付き人でね。邪魔しちまったなら、申し訳ない」

「ああ、いや……じゃあ、入っても大丈夫なのか?」

「……ああ、勿論だ」


 僅かに若い男が驚いた様子を見せて、カイト達に先んじて中へと入る。おそらく驚いた様子を見せたのは、自分達が明らかに堅気ではないにも関わらずカイトが物怖じしなかったからだろう。とはいえ、カイトとしてはこのまま去るのも何か違うような気がしたし、中の客には普通の市民も居る様子だった。

 更に言うと、カモッラより更に恐ろしい魔物達と戦っているのだ。これでたかだか同じ人間を相手に恐れる事なぞ何もなかった。というわけで、三人は偶然にも見付けたピッツァ屋に入って食事を取る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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