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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第51話 会談に向けて

 ロンドン魔術師学校の依頼を受け、地下の魔術師養成エリアにて講演を行う事になっていたカイト。彼は学長のイゴールとの会談を終えると、彼の弟子であるハロルドの案内を受けてロンドン魔術師学校の地下を案内されていた。そうして自身が講演を行う予定となる地下の大講堂を筆頭にして幾つかの実習エリアを見て回った彼は、その後ホテルへと帰還していた。


「あそこねー。あそこ、色々と辛気臭い所だからひっきりなしに改修してるよねー」

「私は入った事ないよ」

「あ、そなの?」


 自身の同意を求める言葉に対するヴィヴィアンの返答に、モルガンが僅かに驚いた様子で顔を上げる。まぁ、カイトが来るまで殆ど接点無しだったのだ。知らないでも無理はない。と、そんな事を思い出したカイトがふと気になってヴィヴィアンへと問いかけた。


「そういえば、ヴィヴィ」

「何?」

「お前、オレと出会う前から記憶保持してたよな? というか、もっと前から。よく考えりゃ、そうじゃないと世界側から契約に基づいた魔道具の授与の代行なんぞ頼まれんしな」

「うん。大体二千年ぐらい前にはね」


 そもそも彼女はそれこそアルトよりも古い存在だ。それこそ、当人達が自身の沽券に掛けて口にしないが、ティターニアと同レベルの古い妖精らしい。紀元前から生きているという噂さえある。それぐらいには古い妖精だ。思い出していても不思議はない。

 そしてギルガメッシュがカイトが地球に来ると理解したのは、彼女の存在があったからだ。記憶の有無は分からなかったものの、彼女がこの地球に居る事でカイトがこの地球に来る事を確信したそうである。とまぁ、それはさておいて。カイトが気になったのはこれだった。


「なんでモルガン避けてたのさ」

「なんで、かぁ……なんでだろうね?」

「でーたよ、このいつもの意味深な笑み」

「いや、これはガチで知らない時の顔だ」

「ふふ」


 モルガンとカイトの言葉に、ヴィヴィアンが何時ものニコニコとした笑みを浮かべる。なお、これの正解はカイトである。伊達に最古の相棒にして親兄弟より、妻より見た顔と彼をして言わしめる相棒ではなかった。


「大方、その顔だとオレが来るまで不干渉を貫いてたんだろ。基本、お前オレが居ないと動かないからな」

「相棒、だからね」

「あー……言われれば納得」


 カイトの言葉にモルガンが頷いた。基本的に彼女はカイトが居て初めて動く。この数千年世界の代行をしていたのはそれ故と考えて良い。


「やれやれ……まぁ、それは良いか。ついでなんでお前らも行くか?」

「言っとくけど、何もしないよ?」

「別にする必要も無いだろ。お前ら妖精だし。そもそも妖精族、居るのか?」


 モルガンの言葉にカイトが逆に問いかける。確かに妖精族の生徒が居るのなら教えても良いのかもしれないが、居るかどうかはカイトには分からない所だ。それに、モルガンが目を細めた。


「どーだろ。あの下衆だからなー」

「あはは……でもまぁ、そうは居ないんじゃないかな? 外に出ると面倒、っていうのは皆知ってるし」

「あー……その線はあり得るなぁ……」


 基本的に、妖精達はお気楽極楽な存在だ。故に、というわけではないが面倒事を本能で察するとよほどでない限りは関わる事がない。なので外が面倒とわかって外に子を成す事はまず無いと考えて良いだろう。というわけで、ヴィヴィアンの言葉に道理を見たカイトはそれに納得して立ち上がった。


「ま、それなら適当に浮かんでりゃ良いんじゃね?」

「何時も通りで良いか」

「良いんじゃないかな」


 どうやら、気まぐれに一緒に行く事にしたらしい。というわけで、カイトは二人を連れて移動を開始する事にするのだった。




 さて、そんな三人が向かった先はアレクセイの家だ。数日前にカイトは襲撃された。それに関する話があるのであった。それにそれ以外にも色々と話をする必要もある。傍聴対策等を考えて、フィルマ邸にて会談をする事になったらしい。


「なるほどね。それで、その面子と」

「申し訳ない。今回の事態は我々に責がある」


 アレクセイからの紹介を受けたカイトは、自らの前で頭を下げる男を見る。わかりやすく言ってしまえば彼が現在のロンドンにおける警備の総責任者という所だ。警備を抜かれて客に襲撃されている以上、彼が謝罪するのは筋だろう。それに、カイトは肩を竦めた。


「気にしちゃいねぇよ。なにせああいった手合は言った所で無駄。何を言おうと、誰がどう止めようと動く。それこそ親の仇とでも言わんばかりにな。いや、下手すりゃ親の仇でもあそこまではなんねぇんじゃねぇか?」


 カイトは嘲笑いながら、改めてイギリス政府側に対して不問に付す事を明言する。すでにミカエルからも謝罪を引き出していたし、それ以前の問題としてイギリス政府からも謝罪は受けた。なので改めて警備責任者から謝罪を受けた所で、という所だ。なので不問に付す、というふうに明言するのが吉だった。そうして、彼の明言を受けて警備責任者が頭を上げた。


「ありがとう。それで、今回の一件の手引きをした者についてはすでに調査を終えている。これについては女王陛下への敵対にも等しい。必ず捕らえると約束させて頂く」

「そうか。それなら結構。迅速な対応を頼む」


 そもそもの話として、この話を突っ込んだ所でカイトには意味がない。なのでその話を手早く終わらせる事にする。


「まぁ、謝罪は受けた。オレとしちゃもうこの話題は終わりで良いと思うんだが」

「そうか……ご当主。では、私はこれにて」

「ええ。では、引き続き調査を頼みます」


 警備責任者の言葉に場を提供したアレクセイが頷いて退出を許可する。そもそもこれは一応の正式な謝罪を、というだけだ。今まで色々な形で謝罪は受けていたものの、ある程度内通者の目処が立ったので正式に謝罪を、という所らしい。というわけで、カイトは警備責任者の退出を受けて一つため息を吐いた。


「別に問題は無いが、まぁ、国としてそうも言っちゃいられないか」

「ええ、まぁ……なにせ女王の客に手を出したのですから」


 カイトとてこれだけ何度も謝罪される理由は理解していた。何が問題かというと、カイトに手を出した事ではない。女王の客に手を出した事だ。彼女は隠された存在だが、それでも無碍にして良い存在ではない。そこらを考えた際、どうしても何度と無く謝罪がされてしまうのだった。


「それで、どうだ?」

「ロシアですか?」

「まぁ、それもあるな。どうやら、色々とやってくれたらしいな」


 警備責任者が去った後、カイトは改めて本題に入る事にする。まぁ、目下の課題はロシアとのやり取りだ。カイトとしてもロシア程の大国を無下にするつもりはない。

 なので可能な限り情報は手に入れたいし、イギリスとしてもロシアとの関係はなるべく良く保っておいて貰った方が得だ。というわけで、この様に適時接触を持って情報の交換を行っていたのであった。


「イヴァン……<<皇帝(ツァーリ)>>と<<おてんば娘(ヴィルトファング)>>の一件ですか」

「ああ。何故ああなったのか、程度の内容は伝わっているんだろう?」

「ええ。そう言っても、流石に我々も会場に立ち入れたわけではないので詳細はわかりませんが……」


 カイトの問いかけに対して、アレクセイもはっきり認めて頷いた。これは別に不思議でもなんでもない。確かにフィルマ家も一枚岩とは言い難いが、根っこはイギリスの為で一致している。なので必要とあらば分家も報告を上げる。そしてこれは報告が入っていた。


「はっきりと言えば、若気の至りという所だそうです。一応、我々の調査でも<<皇帝(ツァーリ)>>は腕利きと聞いています。そしてそのお相手……マルグリット・グラーフ。グラーフ家の令嬢ですね」

「グラーフ家……確か名前に反してドイツの侯爵家だったか」

「ええ……ご存知だったのですか?」

「伯爵の名を持つ侯爵家がある、というのは中々に特徴的だ。忘れにくいからな」


 アレクセイの問いかけにカイトは笑って頷いた。グラーフという名だが、この名はドイツ語で伯爵を意味している。それ故、伯爵の名を持つ侯爵というわけだ。


「そうですね。元々伯爵に叙任された折にグラーフを名乗ったそうなのですが……侯爵となる際、伯爵の時の気持ちを忘れぬ様に、当時の家名をそのまま名乗っているそうですね。どうにもこのきっかけは君主の危機を救ったとの事で。その忠誠心は変わらぬ事を示した、とか」

「そうか。それは忠誠心が厚い事だ……で、そのグラーフ家の令嬢か。マルグリットの名は聞いた事がある」

「まぁ……グラーフ家となると当主かマルグリット嬢の噂がよく流れますから」


 カイトの言葉にアレクセイは僅かに苦笑する。マルグリットはその二つ名の通り、かなり武張った性格だ。幾人もの男を虜にしておきながら、それを手酷く振っているのは有名な話だ。


「この流れならロシアはイヴァンのお相手として、マルグリット嬢を見込んでいるという事なのでしょう」

「そのマルグリットとやらは、腕利きなのか?」

「ええ。実際、騎士としても戦いを幾度となく経験しているそうです」


 アレクセイはそう言うと、執事に一つ頷いてカイトへと封筒を差し出させる。それを受けて、カイトは封筒を開いた。


「これがマルグリット嬢の情報となります」

「ふむ……おめかしすれば、上等のお嬢様だな」

「見た目は、ですね。現在はドイツ騎士団に所属しているそうです」

「ふむ……」


 カイトはアレクセイの言葉を聞きながら、マルグリットの情報を閲覧する。年齢としてはアレクセイよりも一回りと少し程下だが、十分に結婚が可能な年齢だ。というより、社交界や家の立場を考えればそろそろ浮いた話の一つでも無ければ困るだろう。そろそろ婚約者を、という話があっても不思議はなかった。とはいえ、それだけで選ばれるわけがない。故にカイトは二枚目を見て、彼女が選ばれた理由に納得を得た。


「なるほど。交友関係はかなり広いな」

「ええ、広いですね……貴方とは逆方面に」


 僅かに目を細めて獰猛に笑うカイトに、アレクセイもまた頷いた。と、そんな資料を見るカイトの頭の上から、ヴィヴィアンが覗き込む。


「どんな感じ?」

「うわぁ!?」

「あはは。モルガンからも聞いてたけど、今代はやっぱり武芸だと奥さんより下だね」


 驚き椅子から転げ落ちたアレクセイを見て、ヴィヴィアンが楽しげに笑う。そうして暴れる心臓を押さえながら、アレクセイが問いかけた。


「ヴィ、ヴィヴィアン殿!? 何故ここに!?」

「最初から、一緒よ。単に隠れてただけで」

「モルガン殿? リサ?」

「ええ、貴方。一緒に来たみたいね」


 自身と一緒に現れたモルガンに首を傾げるアレクセイに、リサが一つ頷いた。当然モルガンの方も一緒に来ていたが、リサの方に会いに行っていたらしい。こちらは何度かリサとは会っており、旧縁もあって挨拶に行っていたそうだ。


「ま、最近は一緒でな。今日も一緒というわけだ」

「はぁ……」


 カイト達が一緒というのはイギリス政府も知っていたし、アレクセイもまた知っていた。なので不思議はなかったのだろう。というわけで、そんな困惑気味な彼を放置してヴィヴィアンがカイトへと問いかける。


「で、どんな感じ?」

「うん? ま、さっきも言ったがオレとは正反対。教会系の人物に繋がりがあるな」


 なるほど。カイトはロシアの思惑を理解する。カイトが強いのは異族系。それに対してマルグリットが強いのは教会の騎士達。それもドイツ系だけでなく、聖ヨハネ騎士団等にも繋がりがあった。若くしてかなり多くの遠征に出ているらしく、そこで知り合ったのだろう。


「オレを介して異族達と。彼女を介して教会系への繋がりを、という所だろうな」

「ロシアだとロシア正教会があると思うんだけどねー」

「それとこれはまた別って所だろう。やはり指揮系統が違うからな」

「組織が巨大化すると面倒になるねー」


 モルガンはカイトの肩の上でうだー、と伸びる。やはり国が違えば同じ教会系の騎士でも指揮系統が異なってくるらしい。こればかりはどうしても国という区分があるのだから、仕方がない事だろう。というわけで、カイトはしばらくの間フィルマ家よりロシアのイヴァン達の情報を得る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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