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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第24話 楽園統一編 奇妙な縁

 カイトが綾音から連絡を受け取った翌日。カイトとティナは予定通りに京都にある神楽坂呉服店に来ていた。神楽坂という事から分かるように、弥生達神楽坂家の実家だった。京都にあるのは総本家である。


「おはよう、弥生さん。」

「あら、カイト。早かったわね。何時ものカイトなら昼まで寝てるのに。」

「あはは、まあ夏休みに昼間で寝てるのは時間の無駄だからな。」

「心変わりでもあったかしら。」


 カイトの殊勝な心がけに、弥生が笑う。そんな彼女は今日は着物姿だ。一応は呉服屋の娘として、接客時に着物を心がけていたのである。尚、その流れで皐月も睦月も神無も全員着物だ。

 ちなみに、ティナは初めて見る日本の着物に興味津々で、カイトをほっぽり出して既に一人で店内を観覧していた。これで数週間前に勝手に出歩くな、と注意されて不貞腐れていたのだが、何か反論出来るのだろうか。


「神無さんは?」

「お母さんなら、ほら。あっちよ。」


 カイトの問い掛けに応じて、弥生がある一点を指さす。そこには少しの人集りが出来ていた。


「ん?」

「ちょっとお得意様と言うか、芸能人の蘇芳 正宗さんが来てるのよ。」

「・・・は?」


 カイトがぽかん、と口を開ける。それを弥生は芸能人ということに驚いたと思ったのだろう。奇妙な表情のカイトに弥生が面白い物を見た顔をする。


「一応、オフの買い物らしいから騒ぎにしたら駄目よ?」

「いや、まあ・・・」


 カイトはなんと答えれば良いのかわからない。と、そんな奇妙な沈黙を保っていると、向こうの方が自分に気づいた。


「・・・む。」

「どうされました、蘇芳さん。」


 そうして蘇芳翁とて気づいて浮かべたのは呆然とした表情だ。そんな蘇芳翁の表情に気づいて、接客中だった神無が訝しげな顔をする。そんな神無を無視して、蘇芳翁はカイトへと問い掛けた。


「・・・お主、何故ここにおる?」

「・・・ここ、オレの幼なじみの実家。」

「ぶっ!」


 カイトの答えに、蘇芳翁が思わず吹き出して、非常に楽しげな笑みを浮かべる。


「お主どんな奇妙な縁を持っておるのかのう。」

「知るかよ・・・」


 確かに、蘇芳翁は今日京都入りする予定で、衣服を買う予定でもあった。あったのだが、まさかそれが自分の幼なじみの実家とは思っていないのは当たり前だろう。

 まあ、そうはいっても実は考えれば分かる話だった。神楽坂家の実家である神楽坂呉服店はかなりの老舗で、名家・天道家にも着物を卸している。それを考えれば、大御所芸能人と言われる蘇芳翁がこの店を利用していても不思議では無かったのである。


「し、知り合いなんですか?」


 平然とタメ口で話し合いを始めた二人に、神無が驚愕した表情で問いかける。それに、蘇芳翁が笑って頷いた。


「うむ。儂と今日一緒に来た菫と共に知り合いでな。」

「菫さん来てんの?」

「うむ。っと、そう言っても今は皐月と睦月のお嬢ちゃんに着付けを手伝ってもらっておる最中じゃ。明日の会合の為に新しい着物を卸してもらってのう。まあ、それと一緒に今後の活動の為の準備もある。」


 カイトの問い掛けに蘇芳翁はそう言うと、顎でフィッティングルームを示す。どうやらあそこで着付けを行っているのだろう。皐月と睦月の姿が見えないと思っていたが、どうやら仕事中だった様だ。


「会合・・・ね。そういやエリザ嬢に出会った。」

「何?」

「偶然街を出歩いてる最中にな。ヤバゲなおっさんに絡まれてるのを小学校の頃のダチが助けに入って、助けてみたらエリザ嬢だった。」

「お主は相変わらず巻き込まれるのう。」


 カイトの言葉に、蘇芳翁が楽しげな笑みを浮かべる。ここまで合縁奇縁になれば最早訝しむより楽しさが勝った。


「カイトくん、知り合いなんだ・・・」

「まあ、いろいろと・・・」

「と、そういえばお主は何の用事で来たんじゃ?儂と会うのは確か夕方以降じゃったろう。」

「あ、そうだった・・・ティナは・・・居た。」


 蘇芳翁の質問に、とりあえずカイトは店内を見回してティナの姿を探す。すると、綺麗な反物の展示されているショーケースの前に陣取って、反物に見蕩れていた。周囲にしてみれば外国人の少女なので、観光客かと思われている様子だった。


「おい、ティナ。」

「む、何じゃ?」

「用事済ませるぞ。」

「む・・・おお、そういえばそうじゃったな。」


 どうやら着物や反物に見惚れ、本題を忘れていたらしい。ちなみに、いきなり外人美少女が普通に日本語を喋り出したので、周囲が驚愕していたのはご愛嬌である。


「神無さん、とりあえず来ました。」

「あ、と・・・ちょっとまってて。とりあえず藤堂さんの着付けが終わらないと、私も離れられないわ。弥生!二人の服持って来てあげて!」

「あ、はーい!」


 その会話を最後に、弥生が裏に引っ込んでカイトとティナ用の礼服を取りに向かう。ちなみに、二人用の礼服はスーツとドレスだ。一応は和服を取り扱う呉服店だが、それに合わせて礼服としてスーツとドレスを取り扱わないわけではない。一家三代として祖父母用に着物、母親用や娘にドレスというふうに出来るように、一括で取り扱っていたのだ。


「む、蘇芳もおったか。」

「おお、ティナ殿。お久しゅう。」

「ふむ・・・女装か?」

「ごふっ!」


 周囲を見回して女物の着物のエリアであった事を見て取ると、ティナがそう判断して蘇芳翁に問いかける。だが、問い掛けられた蘇芳翁は当然その言葉に思い切り咳込んだ。そうして咳き込む蘇芳翁が、ティナに問い掛けた。


「な、何故そうなる・・・」

「む・・・別に日本では普通では無いのか?普通にヨミやヒメがそう言っておったぞ。」

「誰じゃ?」


 ティナの言葉の人物の渾名は、当たり前だが蘇芳翁は把握していない。なのでカイトに問いかける。とは言え、まさかこんな所でカイトも二人の本当の名前を告げるわけにもいかず、スマホを取り出して、二人の写真を見せた。


「あら、かわいー。」

「な・・・」

「まあ、いろいろあって。ヒメとヨミって呼んで、って頼まれた。」

「・・・お主」

「言うな。無礼だなんだはもう諦めた。」


 無礼だろう、と言いたげだった蘇芳翁の顔を見て、カイトはその言葉を遮って先んじて告げる。そんなカイトの呆れ顔を見て、蘇芳翁も何かあったのだろうな、と思うことにした。と、蘇芳翁にスマホを見せていたのだが、同時に神無にも見えていたらしい。まあ、此方も知り合いなのでのぞき見した所で文句は無い。


「ねえ、カイトくん。こっちの女の子だれ?このフリフリの着物かわいいわー。」

「あ・・・えーっと・・・まあ、知り合いです。」

「今度紹介して。綾音ちゃんと並べたいわー。」

「あ、あはは。まあ、機会があれば。」


 何処か陶酔した様な神無に、カイトが苦笑する。流石に日本の総氏神が簡単に来てくれるだろうか、と思ったカイトだが、まるでその考えに答えを与えるかのタイミングで、カイトが手に持つスマホが着信音をかき鳴らした。そうして相手の名前を確認したカイトだが、確認して即座に切断した。


「・・・良し。」

「あら、出なくていいの?」

「ええ。流石にお話中に出るのは失礼でしょう?相手も知らない仲では無いので、後でフォローしておきますよ。」

「あはは、そんなの気にしなくていいのに。」


 カイトの言葉に、神無が笑う。まあ、確かにカイトの対応は間違ってはいない。と、その言葉に反応した様に、再びカイトのスマホに着信が入る。


「ぐ・・・」


 今度は表示された名前を見て、カイトは判断に悩む。確実に取った所で出る相手はわかっているのだが、それでも万が一はある。もしその相手で取らなかった場合には泣かれそうだった。


「取って良いぞ。」

「私もいいわよー。」

「く・・・」


 大人二人の言葉に、カイトは苦渋の決断をする。そうして通話ボタンを押して、スマホを耳元まで持って行く。ちなみに、カイトの苦渋の表情を見て、蘇芳翁は楽しそうな笑みを浮かべていた。


『予定は今度のお盆で良いですか?確か火曜日にご母堂と一緒にお伺いしたはずですよね。ああ、お金ならご心配なく。お布施もかなりありますし、一応私共も企業経営をしていますので。』

「やっぱりお前か!何故ウチのお盆の予定まで把握してる!」


 答えたのはヨミだ。で、スマホの画面に出ていた相手の名前はヒメだ。つまりヨミはヒメのスマホから電話したのであった。尚、カイトは今後神社へのお布施とお賽銭を減らす事を心に決めた。


『ふふふ、舐めてはいけませんね。姉上の能力なら日本の何処にいても覗き見れるんですよ。』

「迷惑な・・・あ、いや、ヒメにそう言ってるわけじゃなくて・・・それを悪用しまくっているヨミに言ってるんだからな?」

『知ってます。あ、かわいい着物楽しみにしてます。』

「今度は乗り気!まあ、伝えとく。」


 どうやら人見知り云々よりもかわいい着物の方が心惹かれたらしい。今回のヒメは少し楽しげな声であった。そうして、通話を終了させたカイトは神無に告げる。


「えっと、一緒にお願いします、だそうです。来週の火曜日に来るそうです。」

「あら、それはラッキー・・・あれ?」


 火曜日に綾音が来店するのは既に既知だったので、神無がその人物が火曜日に来ると知って嬉しそうな顔をして、そこで気づいた。何故今の会話を知っているのか、と。


「・・・盗聴器をオレに仕掛けてるらしいんですよねー。何処に付けたのか全くわからないんですけど。」

「け、結構危ない娘ね・・・」

「あはは、さっき電話掛けてきた妹か弟かわからない方がやらせてるんですよ。」


 神無の頬が引きつったのを見て、カイトが苦い笑いを浮かべて告げる。まあ当たり前だが盗聴器を仕掛ける様な女の子は碌な女の子とは思えなかった。ちなみに、カイト自身が盗聴器なので、どう足掻いても盗聴器を外す事は出来ない。


「お主でもわからぬか。」

「・・・知ろうとした。けど、諦めた。」

「余はあれは知らぬほうが良い様な気がするのう。」


 再びそこでカイトのスマホに着信が入る。相手は当然にヨミだ。カイトは諦めて通信を受けた。


『別に知りたいのなら教えて差し上げますよ。』

「その代わり一晩とか言うだろ。」


 お互いに言うだけ言って、通話を終える。そんな阿吽の呼吸の二人に、蘇芳翁が苦い笑みを浮かべた。


「お主本当についこの間初めて謁見を終えたばかりか?」

「オレが聞きたい。」


 蘇芳翁の言葉に、カイトは溜め息混じりに告げる。確か数週間前に謁見を終えたばかりのはずだ。なのにヨミの言いたい事がわかって、それに平然と返せるのは何故なのだろうか。


「あれでこの日本で有数のお偉いさんだぞ・・・日本はどうなってるんだ・・・」

「あれがデフォルトでは無いと祈りたいのう・・・」

「いたく好かれた様で、善哉善哉。」


 カイトとティナのの溜め息に対して、蘇芳翁は自分の後釜の男が神々から好かれた様子で結構だと思った様だ。確かにどう考えてもこの国で生きていくなら、好感を得られておいて損のない相手だった。まあ、変な意味で好かれた様な気もしなくもないが。そんな溜め息混じりの会話の最中、弥生が二つの服を持ってやってきた。


「カイト、持って来たわよ。」

「あ、弥生さん。どうも。おいティナ。着替えるぞ。」

「うむ。」


 何はともあれとりあえずサイズが合っているかどうかを確認してからだ。なので二人は空いたフィッティングルームではなく、店の裏にある職員用の着替え室へと入っていく。一応客では無いからだ。そうして着替えていると、着物姿の皐月が入ってきた。


「やっほー。カイト、そっちは大丈夫?」

「ああ、皐月か。おはようさん。」

「おはよ・・・大丈夫そうね。」


 丁度着替え終わっていたカイトの姿とズボンの裾、襟の長さ等を確認して、問題無い事を確認する。一応は皐月も呉服店の子供だ。この程度ならばしっかりと見れるのだった。ちなみに、さすがに睦月はまだ無理らしく、ティナの方には弥生が付いていた。


「大分背が伸びたわねー。170センチ超えたんじゃない?」

「お前は相変わらずだな。」

「女性ホルモン出てるんじゃないかしら。」


 皐月が楽しげな声で答える。というのも、皐月の身長はおよそ155センチ程。男としてみればかなり小柄だった。そんな皐月に、カイトが笑った。


「たかだか女装してる程度でホルモンバランスが崩れんのかよ。」

「さあ?意外と病は気から、とか言うし、ありえるんじゃない?」

「大学行ったらそれで論文書けよ。」


 ちなみに、魔力の影響があり得るのならあながちあり得なくもないかもしれない、とはカイトの考えだ。とは言え、この時点では魔力なぞ言っても笑い話にしかなり得ないので黙っていたが。


「ねえ」

「やだ。」


 こういうのを阿吽の呼吸というのだろう。何を言おうとしたのかを完全に察したカイト。即座に断る。


「まだ何も言ってないわよ。」

「彼氏役やれ。」

「大当たり。」


 皐月がにやり、と笑みを浮かべる。通常、こういう着付けの場に来るのは神無か弥生だ。それを押してまで皐月が来たのなら、理由がある事は容易に想像がついた。


「・・・今度は何やった?」

「いや、それが少し前にあった男が居るんだけどさ・・・幾ら男だって言っても信じてくれないし、じゃあ彼氏が居ると言ったら見せろ、って。」

「またオレの写真出しやがったな!」

「だってあんた黙ってたら私の知り合いの中で一番イケメンだもの。」


 カイトの怒声に、皐月が苦い笑いを浮かべて賞賛を告げる。とは言え、なんだかんだ言いつつもカイトはきちんと付き合ってくれるのだ。まあ、それがわかっているから皐月はカイトを頼るのだが。


「流石に登校日で東京帰るって言ってるから、その次の週ね。あ、あんたのコーデはお姉ちゃんが指定してるから、お礼はお姉ちゃんとのデートで良いわよね。今度それで買いに行ってきてね。」

「・・・オレがデート一回で動くと?」


 皐月の取引の持ちかけに、カイトが横目で睨む。だが、そんなカイトに対して皐月が小悪魔の笑みで告げた。


「・・・お姉ちゃん、好きなんでしょ?」

「まあな。」

「・・・へ?」


 当たり前だが、皐月の印象はカイトが異世界へ渡る前の物が大きい。それ故にこんな素直に認めるカイトを見て、思わず唖然となる。


「なんだよ。」

「・・・いや、あんたあっけらかんと認めたわね。」

「隠しても、仕方がない。」


 やはり初恋の相手は長年忘れない物なのだろう。凄惨な戦いと長い政争の果てでも、カイトは弥生への気持ちは忘れていなかった。それを今更隠す必要は感じられなかった。


「あんたやっぱり落ち着いたわねー。」

「いろいろな。随分と有り難くない話があった。」

「ふーん・・・」


 皐月は興味無さげに答えた。まあ、当たり前だが、皐月とてそれが十数年にも渡る話だとは思わないだろうからだ。


「はぁ・・・日程の詳細とかはまた送れ。それで対策考えてやる。」

「ありがと。」


 やっぱり、皐月は密かに笑みを浮かべる。なんだかんだ言いつつ、根っ子は変わってもいないのだ。だから、この二人の関係性も変わることが無い。そうして、カイトの厄介事がまた一つ、増えるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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