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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第42話 二度目の会談

 申し訳ありません。日にちを数え間違え、昨日の更新を忘れておりました。

 カイトとエヴァとヴィーラという隠されたロマノフ家の血を引く者との会談から数時間。この会談の内容はロシアの大統領へと報告されていた。


「……そうか」


 報告を聞いたイワンは僅かな苦笑を浮かべる。基本的に大抵の事は想定していた彼であるが、流石にこの双子が恥ずかしくてまともに会話出来なかった、という報告には唖然となるしかなかった。とはいえ、それでも良いと彼は考えていた。故に、報告者の問いかけに彼は短く返答をする。


「どうしますか、同志」

「別に良い。そのまま好きにさせろ」

「よろしいのですか? かなりの大失態だと思うのですが……」


 報告者はどうやらこのイワンの考えが分からなかったらしい。何か懲罰か罰則を与えるべきなのでは、と言外に問いかけていた。これに、イワンの側近がため息を吐いた。


「はぁ……別に問題はない、と同志が仰っている。それに異論が?」

「い、いえ……」

「まぁ、貴様の進言も無論、同志は理解されておいでだ。これは失態といえば失態だ。が、君とて人だ。なら、わかるだろう?」

「え、あ、何がですか?」


 報告者は唐突な側近の問いかけに首を傾げる。それに、側近は再度のため息と共に教えてやった。


「はぁ……君は抱くのなら無反応の性欲を処理するだけの道具と娼婦。どちらを抱きたいかね?」

「え、いや、その……」

「後者だろう?」

「ま、まぁ……流石に……」

「機械だと味気ない。抱くのなら娼婦が良い。そういうことだ」

「へ?」


 側近の言葉に報告者は首を傾げる。それに、側近は深くため息を吐いた。


「人間味が見えた方が相手に好印象だ、というわけだ。我々の目的は『アナスタシア』をシーニーと結びつける事。なら些か失態してくれた方が相手にとっては人間味を植え付ける事が出来る、という事だ。完璧な会談が出来ては相手はそれ相応の警戒を持つ。これは我々も想定外であったが、更に長期的に見てみれば我々にとっても有益だというのが、同志のお考えだ」

「な、なるほど……」


 報告者はここまで詳細に説明されて、ようやく納得出来たらしい。驚いた様に目を見開いて側近の言葉に何度も頷いていた。そして納得ができればこそ、彼は深々と頭を下げた。


「失礼致しました、同志イワン。まさか御身の判断を疑うなぞ……」

「良い。理解出来たのなら、下がり指示を伝えに行け」

「ありがとうございます。では、失礼します」


 報告者はイワンの許可を受けて、最敬礼と共に部屋を後にする。そうして報告者が去った後、残ったイワンと側近達は報告内容について考えていた。


「同志イワン。先にはああ言いましたが……何か重大な失態を犯す前に釘を刺すべきでは?」

「……問題はない。そうはならん。それに何より、彼女らに見せてもらいたいのは油断。それだけ、イヴァンが優れて見える」

「なるほど……」


 少し目を閉じた後のイワンの言葉に側近が納得した様に頷いた。先にも言及されたが、イヴァンは姉二人に対して女慣れしている。なのでこちらについては予定されていた会談を完璧に近い形で終わらせる事に成功したそうだ。

 この話は当然、遠からず日本、ひいてはカイト達も入手するだろう。日本側の判断を誤らせる事にもなってくれるかもしれなかった。無論、ならなくても良い。そこらはまだ分からない。カイトがロシア側について分からない様に、ロシア側もカイト達について分からないのだ。それを知る為の指標にもなってくれた。


「相手がこちらを高評価にすれば、こちらはその分自分達の価値を釣り上げる事が出来る。逆に相手が低く見積もれば、相手に対して油断を誘う事が出来る。どちらでも得を得る事が出来る」

「ふむ……では、今回の会談の間は二人については失態はそのままにさせる、と?」

「そうだ」


 側近の一人の問いかけにイワンは小さく頷いた。そうして、ロシア上層部の指示は双子の側近達へと伝えられ、その意向に沿って今後も会談が続けられる事になるのだった。




 さて、最初の会談から数日後。カイトは再度エヴァとヴィーラとの会談を得る事になっていた。


「やぁ、お二人さん。今日は大丈夫かな?」

「なんとか、という所ね」

「無理でも進めろ、という所らしいわ」


 カイトの問いかけにエヴァが現状を告げ、ヴィーラが裏を語る。ここら、語ってはならない事は予めイワンは語らない様にしっかりと明言させておく。なのでこの裏については語って良いのだろう。

 彼が指示をしていないという事については好きにしろ、というわけだ。自分で考えろ、ではない。その上で語らないのなら別に問題はない。困るのは自分で考えて間違われる事だ。なら、この話題は出せ、この話題は出すな、と最初から指示を出すのが彼のやり方だった。


「それはご愁傷様。じゃあ、早速会談に入ろうか。と言っても、こちらは会談を申し込まれた側だ。まずは何を話し合いたいか、を教えてもらえない事には話を進められないな」

「……既にそちらが把握している、と聞いているわ。フィルマ家と繋がっているのは、そちらだけではないの」

「貴方が私達の動きを手に入れられる様に、貴方の行動もまた我々は知る事が出来る」

「おや……」


 エヴァとヴィーラの言葉にカイトは意外そうに片眉を上げる。少なくともアレクセイはロシアの動きを察していなかった。敢えて言わなかったのか、それとも彼にも教えられていなかったのか。カイトは高速化した思考の中で一瞬だけ、それを考える。


(ふむ……本家が繋がっているのはロシアと日本という事だな。が、本家と本家筋がある。現状、ロシアは本家筋の分家が取り仕切っているのだったか)


 当たり前といえば当たり前の話なのかもしれないが、アレクセイは確かにフィルマ家の当主であるが、だからといって先代のフィルマ家に子供が彼一人だけという事はなかった。

 彼にも兄弟がいて、単にアレクセイが当主を継いだというだけだ。無論、家が家で一族が一族だ。当主でなくても、フィルマ家の補佐に近い仕事をしている。


(確かロシアを取り仕切っているのは……アレクの弟だったか。ふむ……フィルマの決定機構はどうなっていたかな……)


 カイトは一度フィルマ家の現状の勢力図等を思い出し、そこに更に現在の繋がりを当てはめる。当然だが当主が決定しようと、一族全てがそれに従うわけではない。どこの世界でもそうだが、得てして巨大な一族になれば当主より更に上がある事もある。フィルマ家にも、似た様な組織はあった。こればかりは異族を祖とする家にはよくある事だった。


(敢えて、教えられていないという所かな)


 おそらくフィルマ家というより、この本家筋に近い分家の大御所達がカイトへ露呈する可能性を考えて教えなかったというわけだろう。逆にカイトの動きはロシアに伝えていたのも、彼らだと思われた。というわけで、そんな考えを行ったカイトはしかし、特に思う様子も見せず頷くだけだ。


「そうか。なら、話は早いか……一応、話は聞いている。が、それが本当かどうか知りたくてね」

「無論、嘘でそんな事は言わないわ」

「酔狂なこととは思うのだけどもね」


 エヴァに続けてヴィーラがため息混じりに告げる。それに、カイトが一応の問いかけを行った。


「ふむ……君達の肉体は非常に異族に近いものと思うが」

「まぁ……これでもこの子達より二回りは年上ね」

「そうね。それでこの容姿なのだから、異族の血を色濃く受け継いでいる事は事実でしょう」


 この子達より二回りは上。そう言ったエヴァの言葉を読み解けば、少なくとも彼女らは三十代で間違いないのだろう。流石に詳しい年齢は教えてはくれなかったが、それでもこの大学生程度の見た目というのは明らかに年齢不相応と言わざるを得ない。

 その見た目は若作りしているというのではなく、スカサハと同じく明らかに若いと言うしかない。実年齢との乖離は異族の特徴と言えば特徴だ。異族の血を色濃く引いているから、と考えて良いだろう。


「そうか。まぁ、おそらくオレの知り得る限りの情報を前提とすれば、君達は人間のクオーター。それも近親に祖先帰りがある為、どちらかというとワンエイスやそれ以下になるかもしれん。異族の血の方が遥かに色濃いという指摘は妥当だろう。これはあくまでもオレの見立てとなるが、君達の肉体的な頑強さは常人の数倍は優に超えるだろう」


 これはあくまでも一般的な話、と断りを入れた上でカイトが現在の二人の肉体的な見立てを語る。ここらについては、やはり異族を世界で最も抱える日本こそが一番進んでいる。なのでいくら異族に近かろうと二人にはこれが真実なのかは分からなかった。


「さて……その上で聞いておこう。異族、それも君達の様に肉体と年齢が乖離する程の異族が妊娠しにくい、という話は聞いた事はないか?」

「……一応、話ぐらいは」


 カイトの問いかけに対して、ヴィーラは聞いた事がある程度に頷いた。ここらはやはり異族達とよく関わるか否か、という所が大きな要因となる。


「そうか。なら、それは事実だと明言しておこう。長寿の異族になればなるほど妊娠しにくいのは、彼らに種の保存という生命としての焦りが無いからでもある」

「……ふむ。ということはもし命の危険に晒されれば、一発で身ごもる事はあり得る、と?」

「ふむ。そこが、中々に面白いというか難しい話でな」


 ヴィーラの問いかけにカイトは紅茶を口に含み、僅かに笑う。そうして、彼は再度口を開いた。


「実は、そういうわけでもない。いや、特定条件下では確かにその場合の可能性は飛躍的に上昇するだろう、という事はオレも明言しよう。が、同時にこの特定条件下から外れると、逆に妊娠する可能性が低下する可能性が高い。下手をすると、平常より下がる可能性もある」

「「ふむ……」」


 やばい。面倒な話になってきた。エヴァもヴィーラもおそらくイワンが想定していなかった事態になりつつある事を理解し、僅かに苦い笑いを浮かべる。しかし聞かねば話が進まない。故に、エヴァが問いかけた。


「その特定条件下、というのは?」

「ぶっちゃければこの相手の子供を生みたい、と心底思えば一発必中あり得る。が、逆に死んでも生むか、と思えば出来ない。まー、言っちまえば子供は愛し合って作りましょう、という所」

「「……」」


 まじぶっちゃけやがった。笑いながらはっきりと告げたカイトに、エヴァとヴィーラだけでなく周囲全員が思わず停止する。しかもこの条件が非常に厄介過ぎる。

 社会主義的国家においては特に、である。裏で婚姻統制を行える国家にとって、彼女らの様に男や女をあてがわれる、という事は時折起こる。現にこの二人はその証と言って良い。それを見据えての行動だ。

 つまり、両者の合意は合意でも義務や義理という話での事で、愛なぞ無いと言って良い。それは二人の両親を見れば一目瞭然だ。カイトはそれを無駄と言い切ったのであった。


「……もし愛無しでやったら、どれぐらい時間が掛かる?」

「さてなぁ……愛あっても出来るかどうか、ってかなり確率的な話になるしなぁ……そうだな。君達が聞いた事があるとなると、やはりエリザか」

「クイーンの娘……それが?」

「彼女に兄弟姉妹が居ない事は知っているな? その彼女の両親は数百年連れ添って、尚且肉体的な相性も悪くはなかったらしいが……それでも出来たのはフィオナの夫の晩年だ。無論、フィオナ当人もエリザも愛し合っていた事は明言している。それで、それだ。愛無しでどうなるかは、予想はできんな」


 エヴァの問いかけにカイトは肩を竦める。そもそも長寿になればなるほど妊娠し難いのに、その上で妊娠の確率を低くする想定だ。彼女らの肉体次第であるが、それでも確率は低くなると言うしかなかった。


「……」

「……ま、言っておくと、子供を頼りに戦略を構築するなぞやめておけ。数百年単位で期待するしかないぞ。なにせこちら側は数百年……種に応じては数千年を生きるのだからな。子作りも百年単位の計画になる」


 沈黙するロシア側に対して、カイトは少し笑いながら明言しておく。しかも彼の言っている事はなまじ証拠まである分、非常に厄介だ。嘘と断ずる事が難しいのである。


「さて……その上で候補者を見ておこうか」

「……」


 完全に相手のペースに乗せられている。この時点で、ロシア側の全員がそれを理解していた。自分達の大前提が思いっきり覆されている様なものだからだ。

 が、それでも会談は続けねばならない。なにせまだ本題にさえ入っていないのだ。というわけで、ヴィーラが諦めて写真を提示した。


「……これが、そのリストよ」

「あっははは。全員子供だな」

「言わないで。私達もほとほと参ってるのよ」


 どうやら会談とはさほど関係ない内容だからだろう。気を取り直したエヴァがため息を吐いた。まぁ、これは今子供、というだけで十年後には適齢期と言って良い。十年先を見越した行動と言っても良いが、カイトの言ったのは百年先だ。流石にこれを国家として見通せ、考えろというのは厳しかった。


「ふむ……」


 やっぱり居ますよねー。カイトは自分の隠し撮り写真を見ながら、内心でため息を吐いた。が、先に彼自身が言った通り、この大半が人間だ。故に自分は候補から外れた、もしくはこの作戦を撤回させる事が出来るだろうと見込んでいた。故にか僅かな余裕があったのは、確かだ。


「なるほどな。大体は理解した。数人はオレも知っている……全体的に魔力量の多い者か」


 改めて言う必要の無い事であるが、カイトはそもそも魔力量の多さが有名だった。それ故の桜との縁談だ。彼の肉体は未来に多大な利益をもたらすとされているのだ。

 そして現在、エヴァとヴィーラの二人が施されている『品種改良』は敢えて言えば属性の強化だ。ゲームで例えれば彼女らの得意属性となる『氷』と『雷』の二種を特化させたという所だろう。これについてはすでに証明済みで、十分戦闘に耐え得るとロシア上層部は判断している。

 であれば、その次の世代に欲しいのは持久力だ。そしてその持久力とは言うまでもなく、魔力保有量だ。それを増やそうと思えば訓練するしかないわけだが、もし世代交代を考えるのであれば親世代に豊富な魔力量を持つ者同士を結婚させれば良い。その点を考えれば、カイトは絶好の的と言って良かった。


「ま、これについてはとりあえずそちらも戦略の組み直し等、色々と必要だろう。一応、こちらも話として受け取った、という程度にさせて貰おう。リストについても受け取った。が、これ以上の話はまた今度で良いだろう」


 これで良いだろう。カイトはあくまでも今回はリストを受け取り、それに対する自身の意見を述べるに留めておく。そこから先はまたロシアの動きを待つしかないからだ。戦略の見直しをするのならそれで良し。もしそのまま進むのであれば、その時にまた考えるだけだ。そうして、カイトはひとまずリストのみを受け取って、会談を終わらせる事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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