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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第41話 白銀の双姫

 アレクセイを介してロシアの動きを知ったカイトはその後、更に色々な相手との会談を行っていた。そんな彼が会談を行った相手は例えば、現アーミティッジ財団のトップだ。


「ミスター・葵。はじめまして」

「ああ、ミスター・アーミティッジ。こちらこそお初お目にかかります」


 年の頃合いとしてはおよそ50から60という老年の男が差し出した手をカイトが握る。やはりミスカトニック大学でも最大のスポンサーだからだろう。その横にはミスカトニック大学の学長も一緒だった。

 今回の姉妹校提携に関しては彼も出席し、立会人として参列する事になっていた。他にも同じ理由から覇王も参加する予定――流石に多忙なのでこのパーティには来ていない――で、更には次年度から校長となる事が内定した桜田も一緒に来ていた。


「そういえば……以前の大地震の折り、寄付をありがとうございます」

「ああ、いえ……金銭程度でどうにかなるのでしたら、と私としても喜んで寄付させて頂きました。それより、貴校の時計塔が破損したと伺いました。あれは歴史的な価値が非常に高いものだ。補修作業等は……」

「ああ、あれは残念でした。が、元々色々と修繕が必要とは話し合われていましてね。これを期に、折角なので大規模な修理をさせて頂く事になりましたよ」

「そうですか。もし必要とありましたら、またお声掛けの程を。やはり仕事柄、歴史的な品を扱う事は多い。失われるのは惜しいですからね」

「ありがとうございます」


 やはり色々と表向きの兼ね合いがあるからだろう。あくまでもカイトはこの場では投資家兼国外の美術品を専門に取り扱う古美術商として参加していた。時計塔の話を出したのは、それ故だ。偽装の一環と考えれば良いだろう。

 ここでの立場としてはアルター社の大株主で、その縁でクラフト社、ひいてはアーミティッジ財団とも繋がっており今回のパーティに参加した、という所だった。まぁ、それ故にティナ達は敢えて出席していない。まだ婚約者という立場だからだし、何より表世界では婚約者が二人というのは中々に拙いだろう。


「そう言えばミスター・葵は天桜にも出資されているそうですね」

「ええ。去年行われましたコンベンションでアルター社のシステムが採用され、その縁で私にもお話がありましたので……ご縁が結ばれたと僅かばかりですが出資させて頂きました」

「確か婚約者がいらっしゃるというお話。今後は天桜への進学なども?」

「あはは。流石にそれは気が早い。まだ結納も済ませておりませんからね」


 カイトは適度にミスカトニック大学の学長との間で会話を行う。そうして、彼らが終わった後は更にはロンドンの学長とも話をする事になっていた。こちらはまさに古くからの魔術師という見た目で、長い髭を蓄えたもはや年齢不詳としか言い得ない老人だった。


「ほぉ……その様な事が」

「ええ……つい先日お会いしまして」

「ふむ……そういえばミスター・葵は彼と懇意にされているという事でしたか」


 そんなロンドンの学長との会話はとりあえずアルトの事だった。後に聞いた事なのであるが、彼の祖先はあそこに連なる者だそうだ。純粋な異族ではないもののかなり色濃く血を継いでおり、古くからの裏の王室の忠臣の一人だという事だった。 

フェイリス配下の人員の一人というわけだろう。魔術を教えるロンドンは基本的に彼女の統括となっている為、その人事にも彼女の意向が反映されているというわけであった。


「実は今季は数人、良き生徒に恵まれましてな。是非とも彼らの優れた薫陶を受けさせたい、と思っているのです。一度、そちらからお伺いを立てては貰えませんか」

「私が、ですか?」

「ええ……やはり我々はどうしても現世を生きる者として、中々に彼らと話が出来ませぬ。そこら、貴殿であれば可能ではないか、と」


 ロンドンの学長はカイトへと『常春の楽園(アヴァロン)』への留学の仲介を依頼する。これについては確かにカイトが言う通り些か道理を損なうが、学長が言った通り中々に難しいというのもまた事実である。

 なのでこういった場合、多いのは例えば日本であれば皇家を率いる皇志が仲介したり、カイトの様な顔役と言われる者が間に立つのが通例だ。特にカイトの場合、公的にはどの組織にも属していない。なので比較的こういった仲介役を頼みやすいのだ。しかもこの場合、内々とはいえ<<番外の騎士ナイツ・オブ・エクストラ>>の称号を持つ彼に仲介を頼むのは正しいといえば正しい判断だろう。


「そうですね。若き芽を育てるのに良き土壌を望むのは当然の話。こちらから反応を探っておきましょう」

「ありがとう」


 カイトの応諾にロンドンの学長が頭を下げる。そうしてそうこうしている内にその日は終わりを迎える事になるのだった。




 さて、明けて翌日。カイトは予てからの予定通り、ロシアの使者との会談を行う事になっていた。そうして彼の前には、二人の白銀の美姫が座っていた。


「エヴァ・『アナスタシア』・ロマノフよ」

「より正確にはエヴァ=『アナスタシア』=ホルシュタイン=ゴットルプ=ロマノフね。一応、私達もホルシュタイン=ゴットルプ=ロマノフ家に連なるから。で、私はヴィーラ。以下、こっちのエヴァと同文。ちなみに、妹」

「私が姉ね。アナスタシアはミドルネームというより記号ね。おばあさまの名だけれど、もう記号としての意味しかないわ」

「称号、と言っても良いかもしれないわね」


 エヴァとヴィーラの二人はため息ながらに自分達の自己紹介を軽く行う。その周囲にはロシア軍人と思しき格好の者が数名、ロシアのメイド服と思われる服装を着た者が数名。

 前者は少し離れた所で会談の警護を行い、後者が二人の世話を行っていた。性別は勿論、全員女だ。彼女らの身の上を考えれば当然の話である。それに、カイトは自らも頭を下げた。


「これはどうも。一応、裏世界ではブルー、ないしは葵と呼ばれている者だ。君達風に言えばシーニーでも良いのかもしれん」

「ええ、はじめまして。シーニー」

「今後共、末永くよろしく」


 エヴァとヴィーラは二人してカイトの自己紹介に頭を下げる。これでひとまずの挨拶は終わりと見て良いだろう。良いのだろうが、それ以前の問題としてカイトはどうしても会談を始める前に問わねばならない、もしくは指摘せねばならない事があった。


「……それで、会談を始める前に一つ良いか?」

「何かしら」

「やり難いか? 一応、見知らずの相手なんで強めに設定はしたが……違和感があるのなら、多少は下げて良い」


 会談の開始から一切自身と視線を合わさないエヴァとヴィーラの二人に対して、カイトが問いかけて譲歩の姿勢を見せる。

 今回、エヴァとヴィーラと出会う云々以前の問題としてカイトはロシア側の平均的な実力を知らなかった。なので己の姿を隠す隠形については何時もより強めに設定していて、そこらで違和感を感じる事はあり得るだろう、と考えていた。

 が、これは曲がりなりにも友好的な会談だ。相手に威圧を与えたり失礼になる――そもそも隠形が失礼ではないのか、という指摘は横にしてだ――のなら、多少は譲歩の余地は残していた。敢えて言えば、これもまた交渉の一環と考えて良いだろう。


「……」

「……」

「……」


 僅かな間、三者の間で沈黙が流れる。それに、カイトは首を傾げた。何か失礼になる事は問いかけていない。なので彼としては反応を待つしかないのだが、その一方のエヴァとヴィーラはお互いに何かを視線で言い合っている様子だった。そうして、諦めた様にエヴァが謝罪した。


「……ごめんなさい。実は貴方の顔がまともに見れないのよ」

「? 見れない? 何か理由があるのなら、問いかけた事は申し訳ないが……」

「……」

「……」


 どうする? 貴方が言いなさいよ。大凡エヴァとヴィーラの視線による会話に敢えて言葉を当て嵌めれば、こんな所だろう。というわけで、今度はヴィーラが口を開いた。


「……その……できれば軽蔑しないで貰いたいのだけれど」

「ああ、勿論だ。よほど酸鼻を極める事でない限り、女性に軽蔑なぞしないさ」

「……その、若い殿方と、いえ! もしかしたら貴方は本当は私達より年上かもしれないのだけど……と、とりあえず見た目として若い殿方と話をするのが、その……初めてで……」

「そ、想定外と言うしかないの……まさか、こんな事になるなんて……」


 物凄い焦っているのか早口のヴィーラに続けて、エヴァが僅かにおずおずといった感じで視線をカイトに向ける。が、即座に視線を逸した。その様子を見て、カイトも何が彼女らに起きていたかを理解した。


「……えっと、つまり……恥ずかしくて見れない、と?」

「「……」」


 こくん。無言でエヴァもヴィーラも同時に頷いた。それで、カイトもようやく納得した。実は彼の本題はここにはなかった。彼の本題は何故か二人が薄く、本当に薄く表情が分からなくなる魔術を使っていた。それは何なのだろうか、と探る為だったのだ。試しに密かに魔術をキャンセルして二人の表情を覗いてみると、本当に二人の顔は耳まで真っ赤だった。

 ここら、ロシア政府も想定外だったと言うしかない。彼女らはまさしく温室育ち。それこそ超高級な女学院だろうとあり得ない程、男に対する免疫が無かった。わかりやすく言うと女学院で男が居ないから、と下品な話を普通に出来ていたが、そこに唐突に若い男が来て人目を気にしだしたというわけである。

 とまぁ、そういうわけで。二人からしてみればカイトとはもしかすると今後のお相手となるかもしれない相手で、弟を除けば初となる若い男だ。免疫の無い彼女らからしてみれば初の異性と言っても良いだろう。知っているのと経験するのは違う、とばかりにどうすれば良いか分からなくなってしまっていたらしい。


「あははは……それはまぁ、何というか……いや、とりあえずは良いだろう。見ないなら話せる……事は話せるだろうが、その状態の君達と話しても良い成果は得られまい。よしんばオレが得ても、君達には良い結論というわけではないだろう。どうだろうか。今回はひとまず顔合わせと次回開催の合意、少しの社交的な会話だけ、という事で終わらせて良いだろうか?」

「……申し訳ないわ。今回は、そうして頂けると有り難いわね」


 カイトの問いかけにヴィーラが頷いた。一応、彼女らとしても思考は正常だと思っている。が、それでもこうなるのは周囲としても想定外と言わざるを得ず、かといって男慣れさせるわけにもいかないのでロシア政府側も対応に困っているという所だ。なのでどう指示を出そうか、と一番上に判断を仰いでいる所だった。


「そうか。では、次回だが……君達は良い日時はあるか?」

「私達は何時でも問題無いわ。会談は弟が中心にしているから……彼の手が回らない貴方の様な特例とだけ、私達が補佐としてしている感じなの」

「そうか。では、こちらからまた次回開催について使者を送らせて貰おう」


 エヴァの言葉にカイトは一つ頷いて、使者を送らせる事で同意する。なお、このイヴァンはどうだったのか、というと二人と同じ様になる事はなかった。彼の場合、どちらかというとメイドを孕ませれば孕ませる程ロシア政府にとっては良い話だ。それだけ戦力が増えるからだ。

 『春の離宮』を全員女だけにしておいても彼が入れるのは、お手つきにしてもらった方が良いと判断していたからである。更に言うと命令として抱かせてもいる。なので彼の場合は逆に女慣れしている。そこを基準に考えていた為、ロシア政府としても二人のこの反応だけは想定外だったのであった。カイトがこの申し出を行ったのは、その戸惑いを見ての事でもある。偶然ではあったが、ロシア側に今後を考えて恩を売ったのである。


「ありがとう」

「いや、いいさ……そうだな。これで実務的な会話は終わり、という所だろう。さて……そうなるととりあえずオレに慣れてもらう為の会話となるわけだが……」


 流石にここまで男慣れしていない女性だ。カイトとしても経験はない。故に彼も何が良いだろうか、と会話を考える。そうして、カイトはしばらくの間エヴァとヴィーラという二人の『アナスタシア』との間で会話を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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