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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第38話 黒衣の襲撃者

 神宮寺家次期当主にして、瑞樹の兄の雅緋。その彼を介して神宮寺家からの情報提供を受けたカイトであったが、その後にアメリカの企業による襲撃を受ける事になっていた。それそのものについてはあっという間に終わらせたわけであるが、その戦闘の終了と共に彼の前に今度は黒衣で身を包んだ集団が現れていた。


「さて……」


 今度の敵は中々に厄介だろうな。カイトは先程の傭兵とは違い静けさの滲んだ気配を肌身に感じながら、呼吸を整える。


「一応、聞いておくんだが……どちらさん?」

「……」


 カイトの問いかけに黒衣の襲撃者達は何も答えない。気配も何か動ずる事はない。間違いなく、傭兵達よりも更に修練を積んだプロ。国家という数百年単位の寿命を持つ組織だけが有する知識を注ぎ込まれた者たち。そう理解出来るだけの風格があった。


「さて……」


 カイトは小太刀をくるくると弄びながら、黒衣の襲撃者達との間合いを図る。


(こいつらも襲撃出来る機会を伺っていた、という所で間違いはないんだろう……明らかにこいつらが襲撃の気配を出したのは傭兵共の襲撃が終わり掛ける瞬間だった。間違いなく、こいつらは傭兵共を囮に使ったな)


 どうやら相手はこちらに対してまだ仕掛けてくるつもりはないらしい。が、これは決して攻めあぐねているというわけではないだろう。故にカイトは数秒か数分か、とりあえず手に入るだけの時間を利用して敵の能力を測る事にする。


(ふむ……しかも結界まで利用しているか。痕跡を何ひとつ残すつもりのないプロの手口、だな)


 カイトはわずかに視線を上にして、結界を観察する。黒衣の襲撃者達は実はこの襲撃に際して、結界の類を使っていない。というのも、カイトが見通した通り傭兵達が展開した結界を使っているからだ。

 いや、これだけだと語弊がある。正確には傭兵達が展開した結界に介入。自分達が満足出来る領域まで強度と隠密性、更には事後の隠蔽性を向上させたのだ。この戦闘が終わった後には一切彼らが関わった痕跡は無くなるだろう。カイトの証言のみが証拠となる非常に面倒な話となる。


『モル。介入出来そうか?』

『無理そうかなー。やったらバレると思うよ。まぁ、それで逃げてくれるのならそれで良いけどね』

『逃げられない様にする、というのも手だろうがな……明らかにやっばい匂いがするんだよな、こいつら……』


 別に敵だから気にする事はないが、それでも救える命が眼の前で簡単に失われてはカイトとしても些か精神的に苦痛だと言うしかない。


『死ぬかな、彼ら』

『死ぬだろ。目がマジだもん』


 ヴィヴィアンの問いかけにカイトはわずかに苦笑を浮かべる。おそらくこの敵は本当に一切の痕跡を残すつもりがない。まず自分達が死んだ場合、死体は一切の痕跡を残さない様にしているだろう。

 彼らも気付かれないと思ってはいないだろうが、カイトの目には彼らの背中に貼り付けられた自害用の特殊な魔術が貼り付けられているのが見えていた。どういう構成、発動条件なのかはカイトには分からないが、最悪は気を失うだけで発動する可能性があった。


(プロの中でもガチプロか……あー、やだやだ。だからこういう本職さんは苦手なんだよ)


 苦い顔でカイトはそう思う。彼が保護して、呆れながらも自分配下の暗殺者集団の長となる事を了承したストラという男が居た。その彼が一時身を(やつ)していた暗殺者という職業の本質にカイトは理解していたからこそ、嫌そうに顔を顰めるしかなかったようだ。と、そんなしかめっ面のカイトにヴィヴィアンが問いかけた。


『どうする?』

『まー、別に死んでも気にしないっちゃあ気にしないんだが……この数が眼の前で自滅されると正直うざい。てーか、飯が不味くなる。ご飯は美味しく食べたいのです。というわけで、適当に追い返してこの場から撤退する』

『うざい、って言う辺りカイトらしいよねー』


 モルガンがカイトの問いかけに苦笑した様に笑う。とはいえ、これが事実といえば事実だ。別に今更カイトとて人が死んだ所で気にする事はない。少し晩ごはんが不味くなるぐらいだ。いや、相手に応じてはそれさえもない。それぐらいには命を奪っている。

 が、自害となるとまた別だ。殺すのならこちらにも覚悟が出来るが、自害となると分かっていてもこちらに覚悟が無い場合が多い。十人程度の些細な集団であるが、それでも一斉に自害されるのは中々に嫌だった。まぁ、嫌という感情で決められる分、彼はそれだけ凄い力を手に入れられたと言えるだろう。


「良し……」


 三人で意見を合意させたカイトは、改めて敵の出方を待つ。別にこちらから向かっていく必要はない。というより、異世界帰りの彼にとって待つという事は意外な事に有益だ。相手の一挙手一投足でさえ未知の情報となるかもしれないからだ。


「……」


 おそらく、黒衣の襲撃者達が介入を開始して一分も満たないという所だろう。カイトが打って出ない事を見て、あちらが行動を決めたらしい。そしてそこからは、一瞬だった。


「ほぅ……」


 わずかにカイトが感心する。黒衣の襲撃者達が攻め込むのを決めると、そこからは全員が一斉だった。それこそ寸分の狂いもない。どれだけの修練を重ねればこれだけの事が出来るのか。カイトは己も貴族として軍を育成した者だからこそ、そう思えるだけの練度が見て取れた。

 そしてこの練度だけはエネフィアも地球も変わらない。おそらく全員が部隊として十年以上の月日を訓練に費やした熟練達だろう。動きには寸分の狂いがなく、全員がまるで精密機械の様な動きだった。


(良いなぁ、こいつら。素直に欲しい)


 まぁ、どれだけ熟練だろうと、所詮は地球の特殊部隊だ。確かに地球でなら一流どころか超一流と言えるだけの腕を持つのだろうが、エネフィアの水準で見ればカイトが居た当時の下士官にも届いていない実力だ。

 それ故、二つの世界において世界最強と言われるだけの実力を得た彼の動体視力には全員の動きが止まって見えた。が、それでも彼らには全力の速度だろう。それだけの速度を出しながら一糸乱れぬ連携が取れるのだ。誰もが全員の全力を把握した上で、それに応じた行動が出来る良い部隊とカイトには称賛に値した。


「……」


 わずかに、カイトの顔に笑みが浮かぶ。確かにこの黒衣の襲撃者達は敵かもしれない。が、どこの組織かは分からないが、少なくとも中立の勢力であるとは理解出来た。

 故に、カイトは今後の自分達の勢力を鑑みて彼らは殺さないと決定する。所詮、殺さないと言ったとしてもそれは絶対ではない。死んだら死んだで仕方がないと思う。が、この黒衣の襲撃者達は後に自分の利益になってくれるかもしれなかった。


(どこの勢力だろうなぁ……ロシアだったら良いなぁ)


 カイトは素直にそう思う。あの国は歴史から見て漁夫の利を狙う事が多い。だからカイトからしてみれば仲間に引き入れやすい勢力と見做していた。

 勝者に付くという事が分かっているのなら、こちらが勝利を示せば良いからだ。つまり、彼らがロシアの特殊部隊であるのなら彼らは自動的に自分の将来の味方と見做せた。


『二人共、とりあえず初手は手出し無用で頼む』

『はーい』

『うん』


 カイトは緩やかに動く黒衣の襲撃者達の動きを見ながら、思考をリンクさせた相棒達にそう告げる。良い部隊だ。それは認める。が、再度になるがカイトにとってはその程度と言うしかない程度でしかない。


「ふぅ……」


 緩やかに動く黒衣の襲撃者達を見ながら、カイトはわずかに息を吐く。そして、次の瞬間。左右の黒衣の襲撃者が一斉に、それこそコンマの刹那さえ狂いの無い同時にカイトへと斬り掛かった。


「……」


 まぁ、だからなんなのだ。カイトとしてはそうとしか言えない。故に彼は左右の斬撃に対して両手で弄んでいた小太刀を振るって斬撃の対処を行う事にする。

 そうして斬撃の衝突の直後。僅かな鍔迫り合いが行われると思われたが、その次の瞬間。カイトが一瞬で小太刀を消失。両手に魔力で篭手を生み出して二人の襲撃者達の武器を掴んだ。


「「!?」」


 流石にこのカイトの早業には黒衣の襲撃者達も呆気に取られるしかなかったようだ。一瞬、黒衣の襲撃者二人が驚きを露わにする。


「じゃ、二人離脱で」


 敢えてカイトは黒衣の襲撃者達にそう告げてやる。先にも言っていたが、カイトとしては死なれるつもりはない。無論、この襲撃に失敗したとして死ぬのならカイトも止める手段が無い。なのでそれについては関与しない。

 が、目の前で死なれる趣味はない。故の宣言だった。そして、次の瞬間。カイトに斬撃を仕掛けた二人の黒衣の襲撃者達はカイトの両手に捕らえられ、明後日の方向に大きく吹き飛ばされていく事になった。


「「「……」」」


 二人消えた黒衣の襲撃者達であるが、その後の行動に迷いがなかった。


「……」


 おそらく、この敵は全てを想定に入れた上で襲撃に及んでいる。カイトは一切驚きを浮かべる事のない黒衣の襲撃者達を見ながら、そう判断する。


(さて、どうするかな)


 カイトはコマ送りの様に緩やかに動く敵を見ながら、そう思う。おそらくこの黒衣の襲撃者達、ひいてはその主達はカイトの事を非常に買っていると見て良い。先の傭兵やその主達を比べれば桁違いと断じて良いだろう。

 ここら、ある意味ではカイトの悪癖と言っても良い。いや、これはもしかしたら彼に限った話ではないのかもしれない。戦士という者の性分として、相手が測っているとわかるとどうしてもそれを上回りたくなるという性分があった。負けず嫌い、とでも言えば良いのだろう。そういう性分がどうしても存在してしまっていた。故に、彼は敢えて敵が思いもしないだろう行動で相手を上回る事にした。


「良し……」


 カイトは楽しげに笑みを浮かべる。どうやら、何をするか決定したらしい。そうして、次の瞬間。彼は丁度黒衣の襲撃者達と同数となる影を生み出した。ここら本来なら己の分身としたい所であったが、影とするのは仕方がなかった。分身に正体がばれない様な隠形を施すのと、影を生み出す。どちらが楽かと言えば後者の方が楽なのだ。が、これで十分だった。


「「「!?」」」


 いきなり自分達の背後に現れた影に、黒衣の襲撃者達は驚きを浮かべる。が、この驚きはカイトからすれば勉強不足と言うしかない。


(おいおい……お前らオレと陰陽師達の戦いは見ていただろう? これは一度は見せた技だぞ)


 カイトが思い出したのは、<<八百万閃刃(やおよろずせんじん)>>。この地球でも何度か使った(スキル)だ。そこでは八体の分身を生み出していた。なら、この程度は想定して欲しいものだ。カイトはそう思う。が、そう思ったとて容赦はしない。


「……」


 笑うカイトが念じると同時に、影達が一斉にひっつかんでいた黒衣の襲撃者達を一斉に投げ飛ばした。が、その投げ飛ばしに対して黒衣の襲撃者達の数人はその投げ飛ばしを回避して見せた。


(ほぅ……)


 どういう原理かは流石にカイトにはわからない。が、咄嗟の判断としては十分に見れる領域と言って良いだろう。どうやら部隊の中でも性能には差が生まれてしまっていると見て良い様だ。


(が……遅いな)


 仲間がやられたとて迷いのない動きは称賛に値する。仲間がやられる事さえ想定内。そういう想定が無ければ出来ない行動だ。が、それでも勝てるかどうかは話が別だ。故にカイトはどういう原理か影の投げ飛ばしから逃れてその場に留まった黒衣の襲撃者を見て、小さな頷きを行った。


「ふふ……」


 この部隊を生かしたのは正解だった。カイトはそう思いながら、影を更に生み出して相対する。間違いなく一国でも上位に位置する特殊部隊だろう。それを失わせるのは彼としても本意ではない。


(さて……どう出る?)


 更に生み出された影に相対する黒衣の襲撃者達に対して、カイトは僅かな笑みを零す。ここらは彼の統治者としての感覚が出てしまった為、と言うしかない。これはある意味では彼の悪癖とも言えた。いや、これは後天的に養われた悪癖というしかない。

 今回の一戦、彼はこの黒衣の襲撃者達が敵対者による襲撃ではなくこちらの真価を測る為の襲撃と思っていた。でなければこの程度の戦力で来る筈がない。この敵の上は確実に己をジャクソンと同程度の認識で来ている。そう認識するが故に彼はその視点は単なる戦士ではなく、統治者としての総合的な視点となっていたのだ。


(全員生き残ったか)


 再度現れた影に対して、黒衣の襲撃者達は一切の迷いなく即座の斬撃を放つ。これも想定内。そう言わんばかりだった。まぁ、これにカイトも驚きはない。この領域に立つのなら想定していなかろうとこの程度は反応出来て当然だ。が、それでも。この次を想定出来ているかは話が異なる。


「……甘いな」


 己の影を消し飛ばした瞬間、ぶんっ、と消えた黒衣の襲撃者達に対してカイトは獰猛な笑みを浮かべる。


「はい、らくしょーです」

「ふふ。私達は四人で、一人の魔王だからね」


 モルガンの言葉にヴィヴィアンが笑う。影は囮。故にあれに対して斬撃を放った瞬間、二人が転移術を起動させて襲撃者達をどこか遠くへと飛ばしたのである。相手に十数年の連携があるのなら。こちらにはもはや一体としか言い得ぬ連携がある。これを流石に見通せという事はカイト達にも無いが、それでも甘く見られる筋合いは無かった。そうして、カイトは黒衣の襲撃者達を無傷かつ誰一人として命を奪う事のない結果を残してホテルへと帰還する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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