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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第22話 第二の謎 ――解決――

 アルセーヌを名乗るニャルラトホテプが仕掛けた第二の謎。それの調査に奔走していたカイト達であるが、そんな中で博物館や図書館における調査とは別にニャルラトホテプ達が仕掛けたヒントの謎を解いていたホームズが何かに気づく。そんな彼はその何かに気付いた後、どうしても次の事件を待つべきと進言する事になっていた。そうして、その日から明けて翌日。第四の事件が、起きる事となった。


「ふむ……」


 事件現場に呼び出されたベネットは言った通りになったな、と特に驚く事もなくただ冷徹に状況を観察するに留めていた。遺体はやはり今までと同じ様に死後数日が経過しており、ホームズが気付いた時点でどうしようもなかった。これもまた、予想通りだったと言える。


「それで、被害者の状況は?」

「おそらく、内蔵が持ち去られています。腹に先の事件と同じ開腹痕が」

「そうか……すぐに解剖医に回せ。ああ、結果は分かり次第すぐに例の部署に回す事を忘れない様に言い含めておいてくれ」

「はい」


 ベネットは部下に手早く指示を出すと、更にまた別の部下へと状況を重ねて問いかける。なお、例の部署というのはホームズとレイヴンが居る所の事だ。流石に部外者である彼らに渡せと言う言葉を誰に聞かれるかわからないここで言うわけにはいかない為、例の部署と言うに留めていたのである。


「それで、被害者の持ち物は?」

「やはり一切、何も」

「また、探せということかよ……」


 今までと同じ様に被害者の身元を示す物が何も無い状況に、ベネットは深い溜息を吐いた。まだ九月とはいえここはイギリスもロンドンだ。しかも朝一番となれば地面は冷え切っている。それに手をついて探さねばならない事だけは、気が滅入った。


「はぁ……これで本当に何かが分かるんだろうなぁ、探偵さんよ……」


 ベネットは部下に周囲の探索を命じながら、合わせて自分でも周囲の捜索を開始する。今までの事件から、被害者の身元が分かる何かが遺体発見現場の近くに置いてある事がわかっている。これは第一の事件も第二の事件も共に見付かっており、今回も同じならば必ずどこかにあるはずだった。


「……ふぅ……今日は一段と冷えるな……」


 まぁ、当然といえば当然なのだが、ヒントがわかりやすく置いてあるわけではない。なので朝早くに見付かった第四の遺体の周辺の捜索も二時間が経過しようとしていた。

 というわけで、ベネットは冷えた身体を温めるべく持ってこさせた紅茶を飲んで休んでいた。おそらくこの時間だ。既にホームズ達の所にも事件は伝わっているだろう。と、そんな風に一休み入れていた所で、声が上がった。


「警部!」

「ん?」

「これを!」


 声を上げた刑事の所へ、ベネットは歩いていく。そうして出来ていた人だかりをかき分けてその中心へ行くと、電灯のカバーを開いた所にビニールがはみ出ていた。これがもし前回と同じであるのなら、この中に身元を示す何かが入っているはずだった。


「出してみろ」

「はい……これは……財布、ですね」

「あたりか……良し。貸してくれ」

「はい」


 ベネットはビニールを取り出した刑事から財布を受け取ると、中身を確認する。案の定、中には免許証が入っていた。


「免許証……だな。良し。後は頼むぞ」


 身分証に掲載されていた顔写真は間違いなく先程の遺体で間違いなかった。それを確認したベネットは財布を手にカイト達の滞在するホテルへと向かう事にするのだった。




 さて、第四の事件が起きてからおよそ三時間。午前十時頃の事だ。そこでベネットは関係者全員が集まる会議室の様な場所に入っていた。が、そこで第四の事件について語ろうとした直前に、ホームズが口を開いた。


「刑事さん。貴方が何かを口にする前にお一つお聞かせ願いたいのですが……よろしいですか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます……それで、第四の事件の被害者。これはミス・ホワイトで間違いありませんね?」

「へ?」


 問いかけるにしてははっきりと断言したホームズの問いかけに、ベネットが目を丸くする。そしてその顔が何より、正解である事を如実に露わにしていた。


「ああ、いえ。すいません。ミス・ホワイトだとはわかっていますが、はっきりとした名前はわかりません。年齢は59歳……ではないかと違いますか?」

「え、ええ……被害者の名前はベルタ・ホワイト。ショーパブの女主人で店に確認した所、数日前に店の従業員が行方不明届を出していました。年齢は仰る通り……ですが何故、年齢まで?」

「そうですね……皆さん、これから戦いに備える事は出来ますか?」


 ベネットの問いかけにホームズは一度全員に問いかける。一応、第四の事件と思しき事件が起きたと聞いた時点でカイト達側の全員が万が一に備えて武装はしている。なので今すぐにでも可能といえば可能だった。


「……こちらは大丈夫だ。そもそも常在戦場だからな。教授達は?」

「一時間貰えれば、すぐに整えよう。まさかここまで早々と目標を見つけられるとは思っていなかったのでな。機材の準備が出来ていない」

「ふむ……急いだ方が良いか?」


 レイバンの言葉を受けた教授がホームズへと問いかける。それに、彼は首を振った。


「いえ……おそらく急いでも一緒でしょう。犯人は……ジャック・ザ・リッパーは居場所を動かない。いえ、動けないのかもしれませんが……とりあえず、次の犯行が起きるまで今しばらくの時間がある。一時間遅れた所で問題は無いでしょう」

「わかった。すぐに用意をさせよう」


 ホームズの明言を受けて、教授はレイバンと頷きあう。ここでもし時間が無いというのなら機材の管理の為に学生達を置いていくつもりだったが、そうではないのならしっかりと準備を整えて事に臨みたい所だった。そうして教授達が支度に入った一方で、出来た時間を使ってホームズが解説をしてくれた。


「それで、ミスター・ホームズ。何故被害者の名前……いや、この場合だと貴方の言葉に則れば半分だけだろうが、それに加えて年齢がわかったんだ?」

「そうですね……ベネットさん。今から私の言う言葉を注意深く聞いて頂けますか?」

「? 私ですか?」

「ええ。貴方がおそらく一番分かるでしょうから」


 カイトの問いかけを受けたはずのホームズはカイトにではなく、何故かベネットへ向けて問いかける。そうして、彼は手帳を開きながらある言葉の羅列を行った。


「今まで見付かっている被害者は三人。ミス・ウェスト。ミス・ミンスター。ミス・ホワイト……この名前、どこかで聞いた事はありませんか?」

「はぁ……いえ、申し訳ない。何か共通点があるのですか?」


 少し考えた後、どうやらベネットは思い当たる節が無くホームズへと首を振った。それに、ホームズは僅かに笑いながらもう一度だけ、問いかけた。


「本当に、そうでしょうか。では、もう一度……ウェスト、ミンスター、ホワイト……これでは?」

「ウェスト、ミンスター、ホワイト……! ウェストミンスター・ホワイトホール!」

「ええ……おそらく、それを指し示しているのだと思われます」

「なるほど……」


 言われてみれば簡単な事だった。単に後ろ半分を繋げれば良いだけの話だった。普通、誰もが親しくない相手の名を呼ぶ時は名字で呼ぶ。それを繋げるだけで、簡単にこれにたどり着いた。


「三人目まで必要だったのは、ウェストミンスターと繋がったのが偶然の可能性があった事と、これ単体では場所の特定まで至らなかった事。この二つが最大の要因です。いえ……本当ならば二人目の時点で早々に気付ければ、第三第四の被害者を生む事もなかったのですが……三人目を外されてしまった。それ故、この謎に気付けなかった」

「では、第三の被害者は……」

「いえ、彼女も間違いなく被害者です」

「どういうことですか?」


 ホームズの言葉にベネットが首を傾げる。これに、ホームズはこの数日でレイヴンに調べてもらっていた事を開示した。


「彼女の源氏名……何かご存知ですか?」

「え、ええ……えっと……あ……」


 ベネットは自分の手帳に記した第三の被害者に関する情報を改めて確認して、ホームズが言いたい事に気が付いたらしい。


「名字は……グレート? グレート……グレート・スコットランドヤード! スコットランドヤードの裏通りか!」

「おそらく、そうなのでしょう。この被害者達はおそらく、スコットランドヤード……私が居た当時のスコットランドヤードに関する事で出来ています。さて、その上で年齢に焦点を当てるとその並びは515059。これはおそらくとある建物の北緯を表しています」

「北緯51.5059……初代スコットランドヤードの北緯か」

「ええ」


 カイトの言葉にホームズははっきりと頷いた。ここまで明言されていれば誰だって理解出来た。


「流石にここまで一致して、これがスコットランドヤードを示していないとは思えません。もし次の犠牲者が出るのであれば、それはおそらく年齢と名字をかつての被害者と一致させ源氏名としてこのグレート・スコットランドヤードに関する名前を与えられているか、最後のホールという名字かのどちらかでしょう。年齢はもしかしたら、ここからは年齢は一桁や若い方になる可能性もある。西経は今度はゼロから始まりますからね」

「……」


 ホームズの解説には一本の筋は通っていた。少なくとも、彼の述べた事はここまでの事件の全てに合致すると言っても過言ではない。無論、こじつけと言ってしまえばそれまでとも言える。

 が、これは謎解きの側面も持ち合わせている。そして謎解きは謎が出題者から正解と言われるまでは、極論こじつけとも言えるのだ。少なくとも一つの手がかりとしても良い事だけは事実だろう。それ故、ベネットが問いかけた。


「では、甦ったジャック・ザ・リッパーは今は……」

「それはわかりません。行ってみない事にはなんとも。少なくとも見付かる様にされているわけではないでしょうからね」


 ベネットの言外の問いかけにホームズは僅かに笑いながら肩を竦める。が、少なくとも初代スコットランドヤードのあった場所に何かがある事だけは事実だろう。と、そんな事を話し合っていると、教授がやってきた。と言ってもやってきたのは彼一人だ。


「申し訳ない。待たせたな」

「いや……ずいぶんと早い様子だったが、準備は大丈夫なのか?」

「最低限の物だけを持っていく事にした。現状、そこまで大規模な戦いがあるとも思えん。他の者たちには車の用意をさせている。人数が居る事が我々の強みなのでね」


 カイトの問いかけに教授はそう言って笑う。どうやら、彼一人なのはそういう理由らしい。そうして、カイト達はホームズの推理が正解かどうか確かめる為、かつて初代スコットランドヤードがあったという場所へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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