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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第19話 ドレイク卿の墓に眠る物

 ニャルラトホテプの一体にして、アルセーヌを名乗る個体の招きを受けてイギリスへとやってきていたカイト達一同。彼らはそこでシャーロック・ホームズなる人物と出会う事になり、様々な事情から彼からの協力を得る事になっていた。

 そんな彼らは何がなんだかわからない状態でこの地球に放り出されたらしいホームズへの助力の手はずを整えると、再度大航海時代の海賊フランシス・ドレイクの墓を探すべく行動を再開していた。

 と、そんなわけで墓の捜索を再開したカイトはモルガン・ヴィヴィアンの相棒コンビよりの提案を受けて、フランシス・ドレイクの乗艦であった『ゴールデン・ハインド号』に取り付けられていたランタンを手に墓所へと帰還していた。


「さて……」


 カイトは持ち帰ったゴールデン・ハインド号のランタンを一度しっかりと確認する。これからこれを媒体として魔術を使用してフランシス・ドレイクの墓を探す事にしているわけであるが、これは言うまでもなく歴史的な価値のある物だ。下手に扱って破損する事は避けたい。別に修繕出来ないわけではないが、だからといって雑に扱って良いわけではない。


「ふむ……ランタンの形状としては一般的な物だな。当然か。油は……まだ残ってるな。見た所、傷付いた様子はさほど無いが……」

「ああ、それはゴールデン・ハインドにあった物を金で塗装したかららしいよ。ほら、莫大な資金を持ち帰ったから……その功績を称える為にも金箔で塗ってひと目で他の物と違う事を知らせてはどうか、ってさ」

「なるほどな……」


 ランタンには凹みはあったものの、それに反して世界一周の旅で付いただろう目立った傷が見受けられなかった。そこを訝しんだカイトであったが、どうやらそういう事情があったらしい。モルガンの解説に納得したように頷いていた。


「で、こんなシャレた見た目になってるわけか」

「あの頃のドレイクって時の人だったからねー」

「らしいね。私は詳しくは知らないけど。あの頃色々と忙しかったし」

「何かやってたのか?」


 懐かしげに語るモルガンに対して、ヴィヴィアンはどうやらそこらには関わらなかったらしい。ただただニコニコと笑っているだけであった。と、いうわけでそんな彼女へとカイトが問いかけた所、とある事を教えてくれた。


「ランスの聖杯の件、覚えてる?」

「ああ、まぁな……それがどうかしたのか?」

「ふふ……カイト、実は一度見たことあるでしょ?」

「……はぁ?」


 ヴィヴィアンの指摘にカイトは困惑の表情だ。そもそも知らないからこそ、前にガブリエルから聖杯の話を聞いた時に呆れ返っていたのである。だのに見たことがある、とはどういうわけかさっぱりわからなかった。


「実は一時、日本に聖杯があってね」

「戦国時代にか?」

「うん」


 フランシス・ドレイクが生きた時代は日本で言う所の戦国時代だ。しかもドンピシャでカイトの前世となる織田信長が生きていた頃となる。見たことがある、と言われても不思議はなかった。と、そう言われて、過去世の記憶が呼び戻された。


「あ、あー! そうか! オレ、聖杯を持ってたのか!」

「ビンゴ、だよ。カイト、実は一回聖杯の保有者だったの」

「知らんかった……いや、待てよ……そういえばあいつ、あの時……」


 カイトは過去世の記憶を取り出して、聖杯を保有するに至った経緯を思い出す。それはある人物から保護してくれないか、と頼まれての事だった。当時はキリスト教の絶世期だ。その影響力は計り知れない。そしてその時代の教会とハプスブルク家に象徴される貴族達の腐敗は推して知るべしだろう。

 故にとある人物がこのまま聖杯をヨーロッパに置いて悪用される事を懸念して、日本に持ち込んだのである。折しも、当時はキリスト教が日本に伝来した頃だ。時期としては合致する。

 キリスト教が広まっていない遠く極東の島国であれば手が及ばないだろう、と考えての事であった。とはいえ、流石にそのままにするつもりはなかったらしく、戻るつもりでもあったらしい。

 一度極東に持ち込んで行方知れずにしてしまえば、誰もが諦めると踏んだのである。今どこにあるかは、カイトにもわからない。管理者が使ってくれと頼んだのを拒否したからだ。


「そうか。あの中身が聖杯だったのか……気付かなかった……いや、当然なんだけど」

「何の話?」

「ああ、ほら、昔オレ、一度ルイス・フロイスと会ったって話したろ?」

「うん、聞いた。それが?」

「あいつが聖杯を持ってたんだよ。正確にはあいつが管理してる、だな。当時は興味無かったからまぁ、好きにすれば的にしてたんだが……そうか。よく考えれば、あれが聖杯だったのか」


 ルイス・フロイスから見せられた聖杯を織田信長はなんと、単に金ピカで豪華ではあるが趣味の悪い盃だなー、と思っていたらしい。一瞥すると興味も無さげに保有を断ったそうである。

 で、その後はルイス・フロイスからの求め――信長であれば過剰な装飾を無くしてくれると考えての事――もあって原型に近づける様に手配して、形が変わる事になったそうだ。これもまた、どこにあるかわからなくする為の方策だったらしい。


「なるほどなぁ……それで、今日本にあいつが居ないのか。探すとか言いながら梨の礫だから、色々と可怪しいとは思ったんだよなぁ」


 あの金ピカの盃を見た時には、織田信長だけでなく織田家の家臣達も一緒だった。そんな中、その信長曰く趣味の悪い盃にことさらの興味を見せていた人物が居た事にルイス・フロイスは気が付いていた。

 それは言うまでもなく、後の豊臣秀吉。羽柴藤吉郎秀吉である。その彼が信長の死後権勢を握ってしまった為、このままでは日本で悪用されてしまう可能性があると聖杯を持って日本を去ったというわけだろう。

 無論、カイトこと信長もその興味には気付いていたが、客分の持ち物に手を出されては彼の面子にも差し障るし、彼自身が興味無いと言い切ってしまっている。信長に献上するという手も使えない。

 なので危険が迫ったのは彼の死後、伴天連追放令の時になるそうだ。あそこで長崎に行った際、予め用意していた替え玉に入れ替わったとの事であった。


「そうらしいね。秀吉が権勢を握ったから、事情を家康……? だっけ。そんな人に話して逃してもらったって。で、替え玉と入れ替わってアルトを頼りにしてイギリスに逃げてきたって言ってたよ。その時にはアルト達が忙しかったから私が変わりに会って、色々と忙しかったの」

「猿がやりそうなことだな」


 カイトには秀吉の目的が何だったのか手に取るようにわかったらしい。苦笑が滲んでいたが、どこかそれを良しと認めていた。彼は強欲でこそ、天下を取れる。飽くなき欲望こそが彼の原動力だ。

 まったくもって彼もまた人間らしい、と気に入っているのであった。と、そこに一頻り笑ったカイトは改めてヴィヴィアンに問いかけた。


「で、それでなんで忙しかったんだ?」

「それは……信長がカイトだって気付いたから。大慌てで日本に行って、何があったか調べたりしてたの」

「そ、そりゃ……忙しいわな」


 ニコニコと笑うヴィヴィアンにカイトはなるほど、と納得するしか出来なかった。なにせ相棒が気付けばこの世界に生まれていたのだ。彼女からしてみればまさに一日千秋の思いで待ち続けた相手だ。

 だのに、聞いた話はその死去である。その全てを知るべく日本に来ていたとしても不思議はなかった。で、あれよあれよという間にフランシス・ドレイクの凋落となって、ヴィヴィアンは会う事が出来なかったというわけであった。


「本当に焦ったよ。だって聖杯に触れてみて、見てみればカイトだもん。大慌てで何があったか、そしてまだ魂が地球に居るのか調べて……あの百年はあっという間だったかな」


 懐かしげにヴィヴィアンは大航海時代の事を思い出していた。とはいえ、それについては今話しあうべきことでもない。というわけで、カイトは気を取り直して改めてランタンに火を入れる事にした。


「まぁ、そこらは後で聞くよ。とりあえず今は作業だ」

「だね……モルガン、火お願い」

「はいさ」

「良し。これで火が灯ったわけで……」


 カイトはモルガンによって点火されたランタンを手に一度目を閉じると、ランタンを媒体としてこれに縁がある物と共鳴する魔術を展開する。原理的には召喚魔術と似ていて、縁がある物同士で惹かれ合う性質を利用して失せ物を探したりするのに使う魔術だった。

 その魔術の起動に合わせて、ランタンそのものが僅かな光を放つ。後はこのランタンに縁がある物に近づくとこの輝きが増して教えて――それ故にヴィヴィアンはテーブルでは無理と判断していた――くれる。なのでカイト達は適当に歩くだけで良かった。


「さてと……どこにあるかなー」

「ちょっと改良して音で知らせてくれる様にも出来たら良いかもね」

「たしかにな。見ながら歩くのは足元が悪いと問題か。ティナに頼んで改良してもらっておこう」


 ヴィヴィアンの指摘にカイトは同意すると、更に適当に歩いていく。そうして色々と適当な雑談を挟みながら墓所の一帯を歩いていくと、ある時にランタンの輝きが僅かに増した。


「近いか」

「さっきこっちから来たから……あっちの方かな」


 カイトの言葉にモルガンは次に進むべき方向を指し示す。というわけで、彼らは今度は輝きに注目しながら歩き続ける事にする。そうして、およそ十分程。幾度か方向や距離を変えながら反応を確認して、三人はある墓の前で立ち止まった。その墓は地球儀らしい絵が刻まれている墓だった。


「これが、目的の物かな?」

「地球儀……なるほど。確かにありえなくもないか」


 フランシス・ドレイクといえばマゼランに続いて世界一周を成し遂げた人物で、世界初となる生還を果たした人物だ。そして世界一周の旅で彼が得た物は果てしなく大きい。それを彼自身が誇りとしていても不思議はないだろう。と、そんなカイトの所にティナ達からの念話が飛んできた。


『カイト。聞こえておるか?』

「ああ、なんだ?」

『うむ。丁度フランシス・ドレイクの記述がある本が見付かった。調べた所、どうやら墓にはジョリー・ロジャーではなく地球儀に似た絵が彫られておるそうじゃ』

「やっぱりか。今丁度こっちもその墓の前に居る。ランタンが共鳴してな。これじゃないか、と思ってお前達の調査を待ってる所だった」


 どうやら、カイト達が発見した墓こそがフランシス・ドレイクの墓で間違いなかったのだろう。ティナからも確証が得られた事でカイトはランタンに掛けていた魔術を停止させる。


『そうか。では、墓をいちいち探す手間が省けたのう。こちらも向かう。しばし待て』

「あいよ」


 元々カイト達が調査していたのは墓がフランシス・ドレイクの物かどうか、ではない。フランシス・ドレイクの墓の可能性が高いものかどうかを調べていただけだ。最終的な判断はティナ達の調査を待つ事になる事だけは変わらない。というわけで、少し待つとその資料を片手にティナとルイスが現れた。


「ふむ……うむ。これがフランシス・ドレイクの墓で間違いあるまいな。記載されておる限りの情報に合致しておる」


 しばらくの後、資料と墓やその周辺を見比べていたティナが一つ頷いた。とりあえずこれでこの墓がフランシス・ドレイクの物で間違いないと行って良いのだろう。というわけで、それが分かれば次はこれのどこに何があるか、だ。というわけで、ルイスが調査をしていたティナへと問いかける。


「さて。それでここに何がある?」

「……ふむ」


 ティナは魔眼を起動させると、周囲を目ざとく観察し始める。そうしてしばらくの後、彼女はおもむろに一冊の魔導書を取り出した。


「レメゲトン。ここら一帯におそらくお主に縁ある力で封印か結界が展開されておる。お主の力で解除出来るか?」

『やってみよう』


 ティナの申し出を受けて、レメゲトンが力を放って空間への干渉を開始する。そうして少しすると、一同の眼にも空間の歪みが見て取れた。そしてここまで目視出来れば、回収は出来る。なのでカイトは歪んだ空間に空亜の力を借りつつ強引に手を突っ込んでこじ開けて、中の物を回収した。


「封筒だな……中身は紙の束か?」

「の、ようじゃが……流石にここで開けると面倒じゃのう」

「……とりあえず持ち帰ってみるか」


 この封筒の中に入れられた紙の束が何かはわからないが、とりあえずこれがアルセーヌの隠したヒントとやらである事は確実なのだろう。というわけで、カイト達は手に入れた封筒を手にロンドンへと帰還する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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