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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第21話 遭遇編 楽園の千年姫 ――エリザ――

「・・・親父、すまん。ついダチ助けんのに草陰のおっさんに付けとった使い魔使ってもうたわ。流石に千年姫がおるとは思わんかったからなぁ・・・」


 同窓会の後。鏡夜は帰ってそうそうに父親に謝罪する。彼が言った通り、数時間前に言われた通り草陰家の当主に監視用の使い魔を付けたのだが、カイトが千年姫、つまりエリザと共に行ってしまったので急遽そちらに護衛として回したのだ。

 だが、父親の方にもそれを咎めるつもりは無く、頭を振った。確かに大局としては間違いだが、彼らとしてはそれが正しかったのである。


「いや、仕方がない。そもそもで我々の存在理由は何も知らぬ民草が平穏に暮らせる事。極道者に食って掛かったのはいただけないが、それの発端もお前じゃない。絡まれていたのが千年姫だったのは想定外だし、カイトくんとて知らないのに、千年姫を助けようとした事も致し方がないだろう。」


 二人共、カイトの正体に気付いていない。いや、鏡夜は体捌きから少し違和感を感じているが、その程度だった。ちなみに、家が近所だった事もあって鏡夜の家にはカイトも何度か来訪した事があり、鏡夜の父親にしてもカイトを見知っていたのである。


「で、カイトくんは何かされた雰囲気はあったか?」

「いや、流石に千年姫もなんやガキにしでかそうとは思わんかったらしい。後で合流したけど、何かされとる雰囲気は無かったわ。まあ、俺の姿も見とったはずやから、向こうも流石になんか仕掛けるのはやめたんやろ。」


 裏世界の警察を自認する彼らにとって、まず第一に考えるべきは――表向き――異族達とは無関係なカイトの身の安全だ。それ故鏡夜の父親はまず第一にそれを確認した。とは言え、カイトとエリザの間には奇妙な縁が出来上がっていたので、何かをする事は無かったのだが。


「でや・・・親父、すまん。流石に草陰のおっさんには気づかれた。もう俺からの監視は送れんやろ。まあ、皇花の護衛の方をほったらかしにしてもええんやったら、別やけど。」

「いや、そっちを優先しろ。」

「はいはい。」


 鏡夜としても、言ってみただけだ。なので何か思うわけでもなく肩を竦める。その会話を最後に、鏡夜は部屋を後にする。そうして部屋を出て、鏡夜は小さく呟いた。


「・・・知恵があるなら、まず正しいかどうかを考える、ねぇ・・・結局考えた所で俺は馬鹿や。結局唯々諾々と従っとるだけやしな・・・」


 やりきれない思いとともに、鏡夜は自室に戻るのであった。




 その翌日のカイトはと言うと、鏡夜の悩みとは無縁に朝からティナとゲームをしていた。会話の内容は当たり前だが、先ほどあった美女ことエリザの事だった。

 ちなみに、二人共数日前に購入したゲームをプレイしながらなので、お互いがどんな表情をしているかわからない。ティナはずっと暇だということで昨日も朝からヒメとヨミも一緒であったらしく、その流れで今日はカイトも参加していたのである。


「む・・・それは余も行けば良かったかのう。お主が言うほどじゃと、よほどの力量なんじゃろう。」

「ああ。あれはかなりの力量の持ち主だったな。まあ、流れ者か、と聞いてたし、多分ここらに逃げ込んだっていう異族達の一人なんだろう。」


 ティナの言葉を認め、カイトがそう告げる。実際に触れ合ってもいるからわかってもカイトも居たが、鏡夜でさえ見抜けていないカイトの偽装を見抜いた事もある。エリザが一角の人物である事の左証だった。


「ふーむ・・・とは言え、名もわからぬでは誰にも問い様が無いのう。蘇芳とて分かるはずもなかろう。」

「まあ、な。とは言え今度こっちの里には行くんだし、その時に見つかるかもな。」

「うむ。まあ、興味は尽きぬが、それで良いのやもしれぬな。む、カイト。罠使うぞ。今のうちに回収じゃ。」

「おけおけ。」


 二人共本題はそちらではなく、ゲームの方だった。なので暫くはゲームに熱中してエリザの話題から離れた。


「・・・っと、そういえばお主。なんぞ奇妙な使い魔に助けられた、というておらなんだか?」

「ああ、多分紙で出来た式神ってやつなんだろ。流石に構造の把握とかやるわけにも行かなかったが、多分マスターは鏡夜だな。」


 蘇芳翁から得た情報の中には、京都に総本家を構える陰陽師達の情報も多少含まれていた。その中の有力氏族の中に草壁の名があったので再会してからもしや、とは思っていたのだが、使い魔を見るまではまさか実際に小学校時代の友人がそこの次期当主とは思っていなかったのだ。


「っと、レア素ゲット!」

「む、何じゃ?」

「玉。」

『あ、いいないいなー。後一個で太陽がモチーフの装備出来るのに・・・』


 カイトのレア素材ゲットの報せにヒメが羨ましそうに告げる。どうやら狙っていたらしい。


「太陽神に太陽の衣装。まあ、似合いそうじゃな・・・っとそういえば・・・京都の方に変な気配があったが、お主知らぬか?」

「知るわけねえだろ。そもそもでオレもお前と同じだけしか知らないって。」

『京都のどの辺ですか?』


 ティナの疑問に、ヨミが反応する。とは言え、ティナも京都の方ということがわかっただけだ。なのでそう告げたのだが、それでおおよその状況が把握出来たらしい。


『ああ、多分それは皇のだと思いますよ。あそこが封じている悪いあやかしの封印が今年弱まるらしく、その結界強化に儀式を行うらしいです。結界の内側なので、それしかわからなかったのかもしれませんね。』

「ふむ・・・そういうことか。では、覗きに行けそうにないのう。カイト、お主その鏡夜との縁で行けぬか?」

「相手オレの正体知らん。」


 ティナはどれだけ姿を偽ろうとも、その正体は魔族だ。それ故に実は鏡夜との接触をなるべく避けていたのである。なのでカイトに問い掛けたのだが、当たり前だがカイトも正体を隠している。言い出せるはずが無かった。


「つか、成る程ね。儀式ね。」

『どうしました?』

「あ、その鏡夜ってのが悩んでたんだが、大方その結界は生け贄(サクリファイス)で強化するタイプの物なんだろ。それで悩んでたわけか。」

『ああ。三童子の草壁 鏡夜ですか。』

「三童子?」


 聞き慣れぬ単語に、カイトが首を傾げる。それに、ヒメが答えた。


『あ、つーちゃん。動き止まったから今のうちに尻尾回収ー。草壁家次期当主の鏡夜くん、御子神家次期当主の秋夜くん、皇家子女の皇花ちゃん。その三人がこの世代でずば抜けて才能が高いから、そう言うらしいんですよ。』

「ああ、あいつそんなに才能あったわけか。」


 幼なじみの一人の意外な事実に、カイトが頷く。ちなみに、ヒメは基本的に顔を合わせずなら人見知りは発動しないらしく、平然としていた。


「意外な所で意外な繋がりがあるのう、お主も。」

「いや、ほんとにな。」


 ティナの苦笑した表情で告げられた言葉に、カイトも苦笑して返す。世界は狭いのか広いのか、意外な所から繋がっているのであった。


「おっし!また来た!今回運いい!」

『いいなー・・・って、来た!こっちも来ました!』

「余も出たのう。」

『あら・・・出なかったのは私だけですか。っと、別に全員気にする年齢でも身体でも無いですが、流石に今日は次の一戦で終わりにしますか。』

「まだ18時だぞ?」

『此方は色々あるので。』


 カイトの苦笑した言葉に、ヨミがそう告げる。横のヒメが何か少しだけ不審な動きをしていたので、何か神様なりの理由があるのだろう。

 とは言え、カイトとティナとてエネフィアで神様とは付き合いがあるのでそれを不思議には思わない。なので、それに応じる事にした。


「では最後に先ほどのデカブツともう一戦頼めるか?先ほどはあと少しの所でヒメが轟沈して負けてしもうたからのう。」

『ごめんなさい・・・あの、お願いします。』


 そうして、最後の一戦が幕を開けて、カイトの長かった一日は終わりを迎えるのだった。




 その数日後の夜。大阪の繁華街にあるとあるビルの屋上に、エリザは居た。別に何かをするわけでもないし、何か意味があったわけでもない。ただ単に、彼女は風に当たりたかっただけだった。


「・・・また、貴方?」

「つい見かけたんでね。」


 そこに降り立ったのは、カイトだった。今日も本来の姿だ。まあ、服装はそこら辺にある量販店の品物だが。そうして、暫く二人は沈黙の中で満月までもう少しの月に見守られながら風を感じていると、ふと、エリザが口を開いた。


「哀れな娘達。」

「あ?」


 唐突に告げられたセリフに、カイトが首を傾げる。エリザが見ていたのは、とある一点。大阪でも最も輝いている繁華街の、綺麗な女性たちが闊歩する一角だった。


「・・・昔のことよ。欧州のとある娘に出会ったの。」


 着飾り、若くあろうとするその姿に、エリザが何かを思い出したらしい。遠い目をして語り始める。


「頭痛に悩まされていた娘だったのだけど・・・綺麗な娘だったらしいわ。でも、当然年を経ると共に、容姿には衰えが見え始める。そんな頃よ。私とその娘が出会ったのは。偶然・・・いえ、必然だったのかも知れないわね。逃げていた私がそこを訪れたのは。」

「長くなるか?」


 話を遮って、カイトが問いかける。興味が無かったから、というわけではないのだが、その言葉にエリザがはっとなって気付く。


「・・・何を話してるんでしょうね、私。一度しか会ってない男にこんな話なんて。」

「さぁな。まあ、話したかったら話せ。ここは寒いから、一応空間だけはいじっておいてやる。まあ、ここまで話されたら気になるから話して欲しいんだけどな。」


 要はカイトは長くなるなら寒くない様にしてやる、と言うつもりだったのだ。幾ら真夏の夜と言えど、100メートルを遥かに超える高層ビルの屋上で風が吹けば少し肌寒く感じる事もある。それ故の配慮だった。

 そうして暫くエリザは考えたが、結局カイトが用意した椅子に腰掛けて話の続きを始める。ご丁寧にカイトは椅子と机、そして紅茶を用意したのだった。


「・・・その城に訪れた時、彼女は暖かく迎えてくれたわ。まあ、私が正体を隠していた、というのもあるけど・・・同じ名前だったからかしら、とその時は思ったわ・・・あら、そういえば私は名乗ってないわね。エリザ、エリザ・べランシアよ。一応聞いたことがあるかもしれないけど、千年姫とも呼ばれているわ。」

「カイトだ。天音 カイト。渾名は無いな。」


 昔語りの途中。自己紹介を交わし合う。今にしてお互いの名前も知らない事に気づいて、二人は少し苦笑しあう。


「そう、カイト・・・じゃあ、続きを始めるわ。ある時、聞かれたわ。どうしてそんなにいつまでも若々しいのか、って。答えられなかった。そして、同時に気付きもしたわ。ああ、この娘は私の正体を知っているんだ、って。」


 呆れた様な、憐れむような声音でエリザが呟いた。どだい無理な話だった。エリザは吸血姫だ。その若さの秘訣はとどのつまり、種族的な物だ。若く在らざるを得ないのだ。だが、この女性はそうは思わなかったらしい。


「それから直ぐに、私はその場を去った。情報が得られないとわかると自分が害されるかもという恐れもあったけど、同時にその娘の為でも無い様に思えたから。」


 エリザはそう告げると、一口紅茶を口に含む。そうして口に含んだ紅茶だが、今までに飲んだことのない味だった。


「・・・飲んだことはないけど、いい味ね。清涼感があって、みずみずしい。」

「旅の最中で手に入れた紅茶だ。当分は手に入れられないから、銘柄は教えないぞ。」


 エリザの顔に浮かぶ驚きに、カイトが告げる。そういうのも当たり前で、カイトがエネフィアから持ち帰った紅茶だった。エリザが飲んだことの無い味で当然だった。そうして、彼女が続ける。


「その後、暫くしてかしら。その噂が届いたのは。その娘が裁判に掛けられると聞いたのは。罪状は数多の娘達を拐い、惨殺した罪。私が吸血鬼だと間違えたからでしょうね。血を浴びれば、若々しく成れると勘違いしたんでしょうね。」

「エリザベート・バートリーか・・・」

「・・・ええ。私と混同されて今に伝わる憐れな娘。最後には密偵に来た少女の手で悪行をさらけ出された憐れな娘。あの娘達があの憐れな娘達のように、永遠の美しさなぞ求めない様に祈るわ。」


 エリザは最後に繁華街を見下ろし、そう告げる。憐れな娘達。こんな別れを何度も繰り返したのだろう。彼女の顔には諦観が浮かんでいた。そうして、語り終えて今度はカイトに問いかける。


「・・・そういえば、貴方仲間は?」

「いっぱい居た。まあ、今は連れが一人だがな。」

「そう・・・貴方も逃げてきたの?」

「・・・違いない。」


 少し悲しげなエリザの言葉に、カイトが苦笑する。国が割れるのを防ぐ為に出奔した、と言えば聞こえが良いが、逃げてきた、と言えばそうなるだろう。

 そして、エリザはそこで気付く。自分と同じ臭いがしたのだ。数多の仲間を失って、それで尚まだ生きている者の臭いがしたのであった。理由やその時の事情は違うだろうが、今の状況は同じなのだ。それ故、同族相憐れむという感情だったのだろう。


「・・・来て。一応、お礼よ。」

「あ?」


 どうやら今度もエリザが案内してくれるらしい。彼女に手を引かれて、カイトは数百メートルはあるビルの屋上から飛び降りる。そうして飛び降りて、次の瞬間にはエリザの背中には蝙蝠羽の翼が生えた。


「・・・飛べたのね。」

「あいにく、一人旅が・・・いや、今の連れじゃないがふたり旅が長かったんでね。妖精族と共に旅してたら、飛びたくもなる。」

「そう・・・その娘は?」

「さぁ?大方面白おかしく生きろ、つっといたから、そう生きてくれてるだろ。」

「そう・・・」


 カイトの言葉を、エリザは今生の別れをしたと受け取る。カイトにしてもユリィにしても、そう思っていた。世界間の転移による時間の差がわからない以上、帰った後の世界には自分が見知った誰も居ない事は覚悟していたのだ。

 そうして、二人は少しの間空中での即興のダンスを楽しむ。月夜に照らされて空中を舞い踊る二人の姿は幻想的であった。カイトはエリザに誘われる様に、エリザはカイトを誘うように。そうして二人はある方向へと空中を移動していく。


「こっちよ。」


 そうして、大阪の空を暫く二人がダンスしていると、とある場所でエリザが翼を消す。後は自由落下するだけに思えたエリザの身体だが、その場で滞空していた。


「成る程。空中庭園か。」

「ええ・・・私達に残された、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』・・・私達を追う者が誰も知らない私達だけに許された最後の隠れ家。ここが、欧州を追われた私達が創り出した最後の楽園・・・」


 カイトも虚空に、いや、虚空に見えた場所に着地すると、エリザが物悲しげに呟いた。そこは、巨大な西洋風の町並みが広がっていた。地球に居る半分以上の期間を大阪で過ごしたカイトだが、まさかその空にこんな場所が広がっているとは思っていなかった。


「貴方も、ここに住まないかしら?」

「・・・いい、遠慮しとく。ちょっと守ってほしいって頼まれてる事があるからな。」

「そう・・・でも、もし貴方が行く宛に困ったなら、ここに来なさい。貴方なら、私は迎え入れるわ。」


 如何にカイトとて、今の現状の自分を語るわけにもいかない。なので、そう曖昧に返すだけだったが、エリザは微笑んでそれを受け入れる。そうして、長く続くこの二人の縁も、結ばれるのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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