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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第16章 英国物語編

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断章 第5話 フランス行きへ向けて

 インドラを介して行われた『聖ヨハネ騎士団』最高幹部シメオンからの会談の要請。カイトの受諾によって、これはかつてイングランド王にして獅子心王リチャード一世の子が守る異空間にて行われる事になった。

 その後、更に詳しい状況が知りたいというカイトの依頼を受けてルイスの手で連れてこられたミカエルとの間で、カイトは情報交換を行う事になっていた。それが一時間ほど続いた頃の事だ。今度はランスロットが隠れ家にやってきた。


「ああ、先生。良い所に」

「はい……おや、これはミカエル様。お久しぶりです」

「ああ、ランスロットか……ああ、そういえば今貴殿は教師なのだったか」

「はい、この学校にて……で、どうされました?」


 そもそもランスロットがここに来た理由は単に時間が空いたし、まだカイトがここに居る様子なので良い所で帰宅する様に促す為だ。なので彼はここでどんな会話が行われていたか知らない。というわけで、カイトはランスロットへと先程までの事情を説明する。


「なるほど……ヨハネ騎士団が。シメオン卿の噂は聞いていましたが……なるほど。更に裏の噂が真実だった、と」

「更に裏の噂?」

「ええ……私が数年前に一度所用で欧州に帰った時の事です。そこで馴染みの古いとある友人より、シメオン卿が密かに異族を匿っているという噂を聞いた事があったのです」

「シメオンなのに?」


 シメオンなのに。カイトは素直に目を瞬かせる。とはいえ、これはシメオンという名の人物が何人も居るからこその誤解だった。


「ええ。シメオンなのに、です。ですが……少し考えてもみてください。そのシメオンは本当に聖人ですか?」

「……あ、そうか。最高幹部のコードネームは全て聖人。なら、このシメオンはイエスの従兄弟の方のシメオンですね」


 カイトは今まで自分達側に伝わってきたシメオンの由来を一度思い出し、そこで違和感を得たらしい。そして気付いた彼に、ランスロットもまた頷いた。


「はい。まぁ、これは我々が異族達の情報網を通じて情報を手に入れているから、という所なのでしょう。おそらく敢えてそちらだと言う風に情報を流していたのかと」

「確かに言われてみれば可怪しい話ですね。シメオンがヤコブの子のシメオンを由来としている、というのは……」

「ええ。彼は確かに旧約聖書に記されていますが……聖人ではない。彼の由来は世界最古のキリスト教教会エルサレム教会の第二代目主教、イエス・キリストの従兄弟のシメオンを由来としているわけです。が、私が思うにこれはそうではなく、学者の方のシメオンだと思いますね」


 ランスロットは更に裏に伝わる噂を聞いた者として、ミカエルを伺い見る。ここらは流石に繋がりの無い彼だ。わからない事が多かったし、これは知らない事だった。


「……だろうとは思う。ガブリエルの奴は先代の騎士団長の血縁である為、コードネームをシメオンにしたと言っていたがな。大方、それが本当の由来だろう」

「ふむ……神学者シメオン。権威主義的な状況に陥っていたヨーロッパにおいて信仰本来の姿を取り戻そうとした偉人か。歴史上、教会が認めるたった三人だけの神学者。なるほど……それで、ガブリエルから聞いたというわけか」


 わからないではないな。ガブリエルはそもそも言ってしまえば一番古い、まだ唯一神が今の病に掛かる前の教義だ。おそらくシメオン――聖人のシメオンではなく騎士団長の方――も性根としては神学者に近い類の人物の可能性があった。そこを認められ、ガブリエルが加護を授けた可能性は十分にあり得る。であれば、それを教えられていた可能性は十分にあった。


「にしても……それならよく貴様も就任を許したな。あの当時、貴様ら確か仲が悪かっただろう」

「一応騎士団は我々四人が合議制で動かしているので……騎士団長は持ち回りで就任させていました。先代は私だったのですが……その次はガブリエルが。それは昔からの決まりなので、動かしていません」

「……石頭もたまには役に立つな」


 変わらんが、そのおかげなので今回はお小言は言わない事にしておくか。ルイスは小さくつぶやくに留めておくにしたらしい。

 ミカエルの個人的な思惑などは除外するにしても、今回はその彼女の四角四面な所が役に立った。その結果、ガブリエルがハト派の騎士団長を就任させる事に成功していたのだ。これはハト派の彼女だからこその采配だった。と、そこらの騎士団についての話し合いを終えた所でランスロットがカイトへと問いかけた。


「それで……私が丁度よいというのは?」

「ええ。先生、確かフランスに伝手ありましたよね?」

「ええ。一時フランスに居ましたし、彼の地については私も知っています。獅子心王はとても気持ちの良い王でしたね」


 リチャード獅子心王。英雄として知られ領地には十年の在位において半年しか居なかったという伝説を持つ彼であるが、実はそれと共にもう一つ有名な逸話がある。それは彼は大のアーサー王伝説のファンだったという事だ。

 その入れ込み様はとんでもなく、自らの愛剣をエクスカリバーと名付けていたほどであった。しかもそれが後世にまで伝わっているのだから、物凄い入れ込みだったのだろう。とはいえ、それでランスロットだ。知らないはずはないし、彼の滞在中には足繁く通った事だろう。


「彼の熱心な入れ込み様はもうこちらが呆れるしかないほどでした。しかもその上、無遠慮に踏み込んでくる。が、それがどういうわけか悪くない……ええ、大昔のアーサーを思い出しましたね」


 だからなのでしょうね。今になって思い出してみて、ランスロットは獅子心王が何故嫌いになれなかったのか理解する。やはり彼も英雄だという事なのだろう。子供っぽさがあった。


「懐かしい……周囲を振り回して、周囲を荒らし回って……そういえば、敵将に唐突に自分の妹と結婚しないか、とか言ったのでしたか。あれはサラディーン殿にも呆れられたものですね」

「参加してたんですか?」

「少しパロミデス卿の故郷を見てみたかった、というのもありましたので。その頃には一神教の先端がイスラムに移動していましたし、聖杯もそれに合わせてあちらにあるのではないか、と。まぁ、無駄に終わりましたが……パロミデス卿が言っていた砂の大地を見れたのは良い経験でした。鎧姿での砂漠越えは二度とごめんですけどね」


 ランスロットは僅かな茶目っ気を覗かせながらも、懐かしげに目を細める。と、そんな言葉にヴィヴィアンがふとした疑問を覗かせる。


「あれ? 私のあげた鎧……耐熱性持ってなかったっけ?」

「あはは……流石に十字軍になるとバレるかと思って量産物をリチャード陛下に頂いたんです。そのかわり少しの間協力して、という所ですね。騎士の誓いとして自分がここに居た事は黙っておいてくれる様に頼みました」


 結局、彼も自分の苦悩を察してくれていたのだろうな。ランスロットはおそらくはわかっていたのだろうリチャード一世の事を思い出す。と、そこまで語ってカイトへと一つ頷いた。


「で……あそこに向かうのですね。わかりました」

「頼めますか?」

「ええ……仲介役であれば、私が務めるのが一番良いでしょう」


 皆まで言うな、と全てを理解していたランスロットはカイトからの依頼に対して二つ返事で了承を示した。そもそもそのリチャード一世が興した隠れた国の建国にはランスロットも関わっていたらしい。なので建国の祖の協力者として彼の名も伝えられているそうで、仲介役としてはうってつけだろう。と、そんな二つ返事で応諾したはずの彼であるが、そのまま一つの提案を行った。


「そうだ。そのかわり、なのですが……」

「なんですか?」

「修学旅行、フランス行きに出来ませんか?」

「……はい?」


 ランスロットの唐突な提案にカイトが小首を傾げる。別に出来るか否かであれば、政府側にバレない様に偽装工作さえできればその程度問題なく可能だ。カイトは基本アルター社社主なので旅行会社は持ち合わせていないが、イギリスに拠点を置いたアルト達は旅行会社を経営している。そこに協力してもらえば良い。

 やはり欧州にその名を轟かせたアーサー王伝説だ。その名を使えばかなりの土地に対して融通が利く。旅行会社を運営するのは悪い手ではなかったらしい。他には証券会社なども経営しているという事である。会社規模としてはアルターよりも大きいだろう。


「実は修学旅行の旅行先がいまいち決まらないんですよ」

「まぁ……先程さっきまでその会議だ、とか言ってましたね」

「ええ……結局今はまだ旅行先を選定中でして。ふと、それならもういっそこの案件を使って私の偽装工作を兼ねてしまえば、と」

「な、なるほど……」


 確かに無理はない。常日頃必要とあらば式神を使って勝手に抜け出しているランスロットであるが、やはりそれでも教職としての仕事は忘れていない。

 ここら、真面目な彼である。どうせならフランス語の通訳を自分がする事で仕事にしてしまおう、と柔軟に判断したのだろう。費用も減らせる。もちろん、結果として式神に任せる事にはなるだろうがそれでも仕事をサボる割合は減る。


「ミカエル。アルト達へそちらから協力を要請出来るか? こちらからも一応内々にランスロット卿……アロン先生からの申し出だ、と言ってはおく。が、そちらがランスロット卿を仲介者としたいとした方が遥かに話は通じるだろう」

「ん……そうだな。こちらでアーサー王には申し出をしておこう。が、日本政府などにはどうする?」

「それはこちらからしておく。ランスロット卿の公務につき、といろいろと言い訳をしておこう」


 どうせここらはカイトの得意とする所だ。おそらくこの会談については日本政府も上層部以外には実施まで知られたくない事だろう。であればなるべく密かに動きたい。

 そこで使えるのが、今回の修学旅行だ。この修学旅行の行き先が決まっていないのはこの会談が決まるより前に起きた事件だ。なので旧縁を頼りにランスロットが持ち出したとしても不思議はない。

 なにより、彼がこの学校に居るというのは今では知られた事実だ。見張りは居る。彼がその立場を使って、としてもさほど疑問には思われないだろう。


「わかった。では、こちらも早速手配に入る。フランス政府にはこちらからランスロット卿が仲介役となり、ブルーが動くと告げておく」

「助かる」

「では、終わったな。さっさと帰って仕事に取りかかれ。私は私でこいつの補佐に入る」

「はい……では、お元気で」


 ミカエルはルイスが再び移動用の扉を創り出したのを受けて、一つ頭を下げる。やはりなんだかんだミカエルは敬っているらしかった。


「ああ……ああ、そうだ。今日の晩ごはん、ベルの奴がなにか良いレストランを見付けたとの事だ。忙しいのは分かるが、ドレスコードは忘れるなよ」

「聞いてませんよ!?」

「ガブリエルには伝えたはずが?」

「ガブリエルー! 貴様、晩ごはんを食べに行こう云々はそういう話か!」

「あ、ルル様ー! 言わないでくださいよー!」


 どうやら、ミカエルはミカエルで充実した日々を送っているらしい。ルイスの創り出した扉の先でちょっとした騒動が引き起こされる。と、そこらの騒動に対して我関せずを貫いたルイスはガブリエルの抗議の声に対して扉を問答無用に閉めると、早速カイトの補佐に取り掛かる。


「やれやれ……ガブリエルの悪戯癖も困ったものだが……さて。カイト、貴様はこのまま大阪か?」

「ああ。一度そこから指揮を取るべきだろうな。蘇芳の爺との折衝を頼めるか? エリザは絶賛母親に拉致られてるからな」

「仲直り記念にヨーロッパ旅行よー、じゃったか。あれで良いのかどうかは、余にもわからんがのう」

「良いんだろ、あれで。悪い気がしてる様子でもなかったしな。エルザはそれに同行させられ、というか誘われて楽しげに同行してた。向こうは今、オレが直接統治している」


 どうせ今は戦闘は不可能な状態だ。なのでエリザ達には日頃世話になっている礼も兼ねて、珍しくカイトが『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の統治を行っていた。遅めの夏休み、という所で良いだろう。なのでいつもは放課後はすぐに大阪に飛ぶわけであるが、今回はインドラからの連絡もあってこちらに長居していたというわけだ。


「さて……流石に戦闘は無いとは思うが……急ぎに幾つか必要となると急ぐ必要もあるか。先生はこの後は?」

「大丈夫です。日本政府との交渉に私も協力しましょう」

「お願いします」


 この一件で天神市立第八中学校を偽装に使う事を決めたのはランスロットだ。なので彼も偽装工作に協力してくれる事にしたらしい。そうして、カイト達はフランス行きに向けて急いで用意を行う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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