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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第15章 覚醒の兆し編

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断章 第60話 覚醒

 地球で行われた第二ラウンド。純白のニャルラトホテプが狂躁にも似た状態に陥って地球の被害さえ度外視し始めた為、カイトは第三ラウンドへと移行する。そうして移動した『ン・カイの森』では、カイトと純白のニャルラトホテプが再び相対していた。


「……これは……」


 カイトの鎖で拘束された純白のニャルラトホテプは大気圏突入の残滓に身を焼かれながら、己を拘束する鎖がおかしい事に気付いた。


「これは……アトラク=ナクアの糸を編み込んだ鎖!?」

「ああ、そうだな。あの速度は拙いだろ。それに、単なる鎖だと効果が薄い様子なんでな。ちょいと一手間凝らせてもらった」

「どうやって!? 今の地球人類にはそんな事は不可能な……」


 カイトが行使した外なる神の力を見て、純白のニャルラトホテプが目を見開いて驚きを露わにする。が、カイトの左手に携えられた魔導書を見て、得心したようだ。


「アル・アジフ!? このタイミングで隷属した!?」

『隷属……? 否。我らは対等なる関係なれば』


 純白のニャルラトホテプの言葉に、アル・アジフが否定する。彼らは、対等だ。


『我は父より生まれ、もう一人の父よりこの世に喚ばれ、今あるべき者の手に還る』

「情けない話でどーも……というわけで、随分とウチの娘を可愛がってくれた様じゃねぇか」

「娘!? もう一人の父!?」


 何を言っているのか、純白のニャルラトホテプにはさっぱりだ。が、まるでそれが正解だとでも言わんが如く、アル・アジフはカイトの手のひらにすっぽりと収まっていた。


「おいおい……いつまでも混乱してて良いのか? 第三ラウンド、はじめようや」

「っ!」


 鎖をそのままに空いている右手に魔銃を構えたカイトに対して、純白のニャルラトホテプは己の本来の目的をようやく思い出す。

 本質的には彼にとってカイトがどうやって生き返り、どうしてアル・アジフが彼に服従しているのか、なぞどうでも良いのだ。カイトが自分を上回れるか否か。それしか彼に、いや、彼らとっては意味がない。彼は試験官。原理を解き明かす者ではない。そうして、彼は狂躁にも状態から復帰する。


「ぐっ……おぉおおおお!」


 アトラク=ナクアの力を付与された鎖に対して、純白のニャルラトホテプは総身に強大な力を宿して強引に引き千切らんと力を込める。それに対して、カイトは既に行動に入っていた。


『データ……コード・ニトクリス……インストール終了』

「<<ニトクリスの鏡>>!」


 アル・アジフの補佐を得て、カイトは外なる神の使う魔術を展開する。そうして、ニャルラトホテプを取り囲むように三方に等身大の鏡が生まれ、そこからカイトの鏡像が実体化する。


『旧支配者……トレース。終了……インストール』

「クトゥグア」

「クトゥルフ」

「ハスター」

「ツァトゥグア」


 本体を合わせて四人のカイト達はアル・アジフを媒体に、更に外なる神の力を呼び寄せる。それらは全て、旧支配者と呼ばれるかつて太古の昔に地球を支配したとされる者達だ。

 故に本来は呼び出す事なぞ不可能だし、力を借り受けるのも難しい。よしんば出来てニャルラトホテプが敵であればほぼ無条件に力を貸し与えるというクトゥグアぐらいなものだろう。


「っ!」


 四体のカイトが呼び寄せた神性を見て、純白のニャルラトホテプも流石に焦りを浮かべる。どれもこれもが地球の神々であれば一撃で吹き飛ぶだろう程の一撃が、今のカイトの魔銃には込められている。これをもしどれか一つでもまともに受ければ、彼とて絶大なダメージを負う事は察するにあまりあった。


「ぐっ!」


 あと一歩。その既の所で純白のニャルラトホテプは強引に鎖を引きちぎる。が、暴力としか言い様のない4柱の神の力を宿した魔弾の余波で、半身が吹き飛んでいた。


「っ……いやぁ、凄い。まさかこれほどまでとは。もう感嘆しかありません」


 数千体分のニャルラトホテプの自己再生能力を背景に一瞬で己の半身を再生させた純白のニャルラトホテプは、ただただカイトの力を賞賛する。どういう原理で死地を脱したか、というのはこの際どうでも良い。ただ素直に、この力は素晴らしかった。


「これでようやく、私も本気を出せます」


 カイトを賞賛した純白のニャルラトホテプは、笑顔を浮かべてその場から消える。そうして、四体のカイトの一体をその手で貫いた。


「残念。鏡像ですか」


 がしゃん、と言う音と共に崩れ去ったカイトの姿を見て、純白のニャルラトホテプはこれが外れである事を悟る。が、彼に迷いも驚きもない。

 故にその場から超速を以って移動して、更に残る三体のカイトへとほぼ同時に貫手を放つ。別に分身したわけではなく、あまりに早すぎて結果として三体同時に攻撃しているように見えただけだ。


「む?」


 最後の一体を貫いた純白のニャルラトホテプが僅かに目を見開いた。最後の一体、つまりはこれこそが本体のはずなのに、これもまた鏡像だったのだ。そうして、更にその先から唐突に炎を纏う弾丸が飛来する。


「っ! 『ン・カイの森』の中でン・カイの闇を纏いますか!」


 自分の脳天目掛けてクトゥグアの力の宿る弾丸が飛来するのを目視して、純白のニャルラトホテプは咄嗟に首をかしげて回避する。余波で右耳が吹き飛んだが、それも一瞬で再生するので問題はない。故に彼は今度こそ、全力で『ン・カイの森』の闇の中に生まれた更なる闇に向けて踏み込んだ。


「はぁ!」


 純白のニャルラトホテプの一撃で闇が吹き飛ぶ。そうしてカイトの身体が露わになるが、彼の腕はあと一歩の所で届かなかった。


「アトラク=ナクアの糸ですか……流石に『ン・カイの森』の中では相性が良いようだ」


 自らの腕を既の所で食い止める蜘蛛の糸を見ながら、純白のニャルラトホテプは笑みを零した。ようやく、楽しくなり始めた。これでこそ、幾星霜の月日で初の試験の価値というものがあるものだ。

 彼らをして、星の海に出る前の試験で外なる神の力を満足に行使してきた相手は知らない。本気で戦う価値を見いだせた。


「ですが……神性であれば我々が更に上です」


 ごうっ、と純白のニャルラトホテプから純白色の圧倒的な力が迸り、己の右腕を拘束していたアトラク=ナクアの糸を弾き飛ばす。そうして一度腕を引いた彼は、そのまま容赦なく再び踏み込んだ。

 だが、そこで彼は気づくべきだった。カイトがアル・アジフを左手ではなく、右手で携えていたことに。そして、左手で奇妙なサインをしていたことに。


「<<キシュの印>>」


 口決と同時。カイトの前の空間が何処かと入れ替わる。それは純白のニャルラトホテプの右腕をすっぽりと飲み込んで、その彼の目の前へと顕現させた。


「っ!?」

「おまけだ<<コスの印>>」


 自らの手が迫り来るのを見て目を見開いた純白のニャルラトホテプに対して、カイトはその頭蓋がはじけ飛ぶのを見ながら、また別の印を左手で浮かべる。

 どちらも、ネクロノミコンの写本に記されているとされている刻印だ。左手を使い、ジェスチャーで使うという。が、写本に記されている以上、大本であるアル・アジフに記されていないはずがない。

 <<キシュの印>>は次元を開き、<<コスの印>>は開いた次元を閉じる。であれば、つまり。閉じる次元に巻き込まれた純白のニャルラトホテプの右腕は次元の消失に伴いあっけなく両断される。


「アル・アジフ……武器を」

『了解』


 純白のニャルラトホテプが一瞬怯んだ隙を使いその場を離れたカイトの言葉にアル・アジフが応じて、この場に最適な魔術を組み上げる。が、それが組み上がる頃には既に純白のニャルラトホテプははじけ飛んだ頭蓋も、両断された右腕もまるで時が逆巻くように元通りに再生していた。


『コード・バルザイ』

「<<バルザイの偃月刀>>!」


 アル・アジフから直接脳内に送られてきた情報を下に、カイトは魔術用の偃月刀を顕現させる。そこには退魔の力を有するという<<旧神(エルダーゴッド)の印>>が刻まれていた。


「行け!」


 顕現させたバルザイの偃月刀をカイトはブーメランのように投げ放つ。それに、アル・アジフが補佐を加えた。


『コード・ニトクリス……無限増殖』


 アル・アジフの指示に従って、無数の鏡が現れた。そこから現れるのは、無数のバルザイの偃月刀だ。そうして、純白のニャルラトホテプはあっという間に無数のバルザイの偃月刀によって包囲される事になる。


「やりますね」


 それに対して、純白のニャルラトホテプは楽しげだ。そして楽しげであるということは、この程度ならどうにでもなると判断しているという事でもある。故に彼は両手を引いて、腰を落とした。


「こぉー……」


 一瞬、純白のニャルラトホテプの周囲が静寂で満たされる。そうして、一呼吸置いて彼はかっと目を見開いた。


「はぁああああああ!」


 無数に対抗するように、純白のニャルラトホテプが放つ拳打も無数だ。それは拳打一つにつき確実に一つのバルザイの偃月刀を破砕していく。こんなものでは、時間稼ぎにしかならなかった。

 とは言え、それはカイトも分かっていた。故に彼はもう一つ、バルザイの偃月刀を取り出していた。が、今度は投げるではなく、右手でしっかりと握っていた。


『プリセット・インストール……クトゥグア』

「クトゥグアの炎よ」


 カイトの持つバルザイの偃月刀の刃へとクトゥグアの炎が宿る。それは轟々と燃え盛る炎となると、まるで己の本分だとでも言わんばかりにニャルラトホテプへ向けて飛びかかろうとしているかの様だった。


「行くぞ」


 無数の拳打を繰り出す純白のニャルラトホテプへ向けて、カイトは一直線に地面を蹴る。そんなカイトに、純白のニャルラトホテプは気づいていて、笑みを浮かべた。


「はぁあああああ!」


 カイトの顕現させたバルザイの偃月刀の最後の一つを破砕すると同時に、彼はカイトの方を向けて右手を引いた。そうして、正拳突きのようにして、思い切りカイトの持つクトゥグアの炎が宿るバルザイの偃月刀と打ち合った。


「っ……良いですよ! こうでこそ、王たる者との戦い! 我ら数千年の悲願! さぁ、もっと先を我々に見せてください!」


 数千体のニャルラトホテプの再生力を背景に強引に灰燼に帰す右腕でカイトのバルザイの偃月刀と押し合いを演じながら、ニャルラトホテプが嬉しそうにカイトへと願い出る。そうして、彼は灰燼に帰す右腕をそのままに、左手を振り抜いた。


「ぐっ! アル・アジフ!」

「承知」

「?」


 自身の殴打を受けて吹き飛ばされたカイトの咄嗟の行動を見て、純白のニャルラトホテプが首を傾げる。カイト達が行ったのは、アル・アジフを実体化させてバルザイの偃月刀を持たせるという事だ。

 確かに今のアル・アジフにはカイトの莫大な魔力があるので、一時的になら拮抗状態を作り上げられる。が、それだけに過ぎず、それどころかカイトはアル・アジフを手放した事になる。故に二人の意図が理解出来なかった。


「っ!?」


 が、その次に起きた現象を見て、純白のニャルラトホテプは二人の思惑を理解した。吹き飛ばされていくカイトの左手には<<キシュの印>>が浮かんでおり、彼の背後の空間が裂けたのだ。そしてその先には、アル・アジフと鍔迫り合いを行う自らの背中があった。


「ダメ押しだ!」

「ぐあっ!」


 背後から己の力を応用した強襲を食らい、純白のニャルラトホテプの頭頂部から半ばまでへとクトゥグアの炎を宿すバルザイの偃月刀が突き刺さる。

 そうしてそれと同時に、アル・アジフが顕現を解除して元の魔導書の姿となった。すると、どうなるか。必然として純白のニャルラトホテプはカイトの衝突の勢いで、遥か彼方にまで吹き飛ばされる事になる。


「アル・アジフ!」

『承知』


 カイトの言葉を受けて、アル・アジフが彼の左手へとすっぽりと収まる。そうして、再度ニャルラトホテプに特攻を持つ力を顕現させた。


『インストール・クトゥグア』


 アル・アジフの言葉に合わせて、カイトの持つ魔銃に莫大な炎の力が宿る。それに、カイトは容赦なく引き金を引いた。そうして放たれた魔弾はもはや、太陽よりも遥かに強烈な力を有していた。

 それは放たれるや否や猛烈な勢いで吹き飛ばされる純白のニャルラトホテプへと更にそれを上回る速度で肉薄して、バルザイの偃月刀と衝突。二つの炎が一つとなり、更に猛烈な業火となって純白のニャルラトホテプの身を喰らい尽くした。


「これで……どうだ?」


 カイトは息を切らせながら、とどめの一撃の結果を見る。わかりきった話だが、傷は癒えたわけではない。何時もの気合と根性で堪えているだけだ。


「いやぁ……見事見事。認めます。今の貴方は私と互角です」


 己の敵対者の業火に焼かれながら、純白のニャルラトホテプは嬉しそうに手拍子を何度も鳴らす。これで、互角だ。


「は、はははは……マジ? これで死なねぇの?」


 流石にカイトもこの再生力には思わず半笑いになるしかない。確かに今の彼らはほぼ互角と言って過言ではない。が、決定的なまでに、差が一つだけ存在していた。それはこの再生力だ。流石にこればかりはカイトも覆せない差だった。


「さぁ、どうしました? まさか、この程度だとでも?」


 炎に食い尽くされながらも聖者の笑みを絶やさない純白のニャルラトホテプは、カイトへと問いかける。まだ、この程度では足りない。そう言わんが如くだった。それに、アル・アジフが提案する。


『……我が父にして我が友。我が悠久の伴侶よ』

「なんだ?」

『……最後の切り札を使え』

「切り札?」

『良いから従え』

「おぅい」


 説明するのが面倒と言わんばかりのアル・アジフの言葉に、カイトはわずかに毒気を抜かれる。そんなある意味では隙だらけのカイト達に対して、純白のニャルラトホテプはその場で足を止めた。


「どうぞ、お好きなように。我々は試験官。貴方の全力を見たいのです」

「あーもう! いいぞ、やれ!」

『承知』


 カイトの許可を受けて、アル・アジフが行動に入る。そうして、戦いは遂に最終局面へと突入する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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