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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第15章 覚醒の兆し編

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断章 第19話 それぞれの夏 ――幼馴染達――

 神話がごちゃ混ぜになった真夏のビーチバレー大会から、明けて翌日。カイトはというと今度は幼馴染五人衆によるささやかな同窓会モドキに参加していた。


「と、言うような事がありましたとさ」

「ありましたとさ、じゃないわ……お前、マジで言っとんのか……」


 カイトの説明に鏡夜はドン引きしていた。これがカイトだから平然としていられるのであって、聞くだけでも物凄い勢力図だ。


「俺は絶対参加したないわ……」

「そうか? 楽しかったぞ?」

「そう言えんのは、お前だけや……」


 カイトの言葉に鏡夜は首を振る。世界中の神々が集まっていたのだ。普通ならごめんである。平然と参加出来るアルト達やカイト達が可怪しいのであった。と、そんな所に紫苑が割り込んだ。

 そもそもここに居るのは幼馴染達だ。そしてカイトも鏡夜もこんな会話をしていても、周囲には別の会話に聞こえる様に細工している。話がこちらにとんでも不思議はない。


「って、そや。そういやさー、こいつ来週からアメリカだって」

「あー、そういや、そう来週やったっけ……」

「あれ? 聞いてたん?」

「ネットでな」


 カイトは紫苑の問いかけに頷いた。というより、その部隊を率いているのはカイトである。が、どうやらすっかり忘れていたらしい。そんなカイトに、鏡夜が魔術で隠蔽を施しながら苦言を呈した。


「あー、やないわ。お前も十分関係者やろうに……」

「いや、ガチでな。マジでどうしよっか……」

「どしよっか、やないわ……」

「いや、ここ最近のんびりしてたからな。モルガンとヴィヴィと一緒にゴロゴロだらけてた」


 カイトはここ最近でのんびりしていた事を思い出す。基本、彼は相棒達と一緒だ。そこにティナ、ルイスらが加わる程度だ。まぁ、これは何時ものことと言えば、何時ものことである。


「お前なぁ……こちとら死ぬ気で準備やっとんのに」

「あっはははは。こちとら剣士なんでな。魔術は特に必要ねー……いざとなったら物理で叩き斬る」

「これやから脳筋は……」


 それはそうな話であるのだが、鏡夜は魔術師でカイトは剣士だ。当然、カイトは魔術を覚えなくても問題はない。最悪は刀一つでどこへだって行ける。そんなある種の羨望がそこにはあった。と、そんな会話をしたからか、カイトはふと思った事を口にする。


「というかよ。今更だが中々に不便だよな、日本の魔術体系って」

「ん? 何がや」

「いや、呪符っていちいち作るんめんどくね?」

「あー……そういや、そやな」


 カイトの指摘は鏡夜もわからないでもないらしい。確かに呪符を使って戦うのは面倒ではある。一度使えば使い切り、という呪符も少なくない。とはいえ、実はこれにはきちんとしたメリットもあった。


「ま、それでもメリットはあるやろ」

「そりゃな。そもそも呪符にしてしまえれば、同時並列に幾つもの思考回路を起動させて魔術を使う必要がない。その分、継続戦闘能力は飛躍的に上昇する。前準備に長い時間を必要としても、その分だけ戦闘中に術者に掛かる負担は一気に低減するわけだ。面倒だが、決して馬鹿には出来ん」

「……お前、マジでナニモンや」

「勇者様でーす」


 いぇい、とカイトはピースサインで唖然としていた鏡夜に笑いかける。伊達に戦歴15年近くという経歴ではない。それに、鏡夜はやれやれ、と肩を竦める。


「まー、そういうわけやけど。面倒は面倒やわ、やっぱ。昨日も延々6時間ぐらい呪符作っとったからな」

「そりゃ、ご苦労なこって。ま、作らんと死ぬんやけど」

「そやから、やるしかないわけや。ここら、いっそ全自動でやれれば良い思わんでもないけどな」


 鏡夜も面倒は面倒だと明言する。とはいえ、この呪符の枚数が彼ら陰陽師達にとっては命綱にも等しいわけだ。下手に手を抜くとそれだけ死ぬ可能性が高くなる。手抜きは禁物だった。と、そこらのある意味では他愛ない話をしていたわけなのだが、そこで鏡夜がふと興味深げにカイトに問いかけた。


「で……そういや聞いたんやけど。お前、なんや勝負挑まれたんやって?」

「ああ、それか。なんか知らんけど、挑まれたな。ま、楽しい話じゃねぇか……伊達に上泉信綱の弟子やってはいない。今回は、武芸者としてきちんと相対させてもらうさ」

「信綱公の弟子、ねぇ……そういや、今更といえば今更やけど。お前、意外と剣道とか得意やったんか?」

「ん? いや、そんなつもりは無いけどな」


 カイトは鏡夜の指摘に思い直して、少しだけ自分の身の上を考え直す。まぁ、そう言っても彼としても決して才能が無いとは言うつもりはない。が、上には上が居るのを知る程度ではあった。


「実際、刀一つで戦えてる奴を見ると、羨ましくはある。オレにゃ無理だ」

「でも、お前も刀で戦えとるんやろ?」

「そりゃ、そもそも対人戦と対魔物戦の違いだろ。確かに魔物にも技術を使ってくる敵は居るが、それでもお察しレベルだ。どこまで行っても戦いというよりも生存競争。殺し合いだ。技も何もあったもんじゃねぇよ」


 鏡夜の問いかけに、カイトは僅かな残念さがあった。やはりここら、彼も無念に思う事はあるらしい。彼とて人だ。どうしても、そこだけは逃れられない宿命だった。


「はー……こっちにゃわからん話やけど、色々とあるもんやな」

「そりゃ、あるさ。伊達に英雄達と肩を並べて戦ってるわけじゃねぇさ」


 カイトは笑う。色々とあるのだ、どちらにも。と、そんな話はどうでも良いわけだし、そもそもこの場には二人だけではない。他にも三人、一緒に居るわけだ。というわけで、二人はさっさとこんなどうでも良い会話は切り上げて幼馴染達の会話に加わる事にするのだった。




 それから、少し。宴も酣になっていた頃だ。ふと会話はバイトの話になっていた。高校になればやはりバイトも出来る様になる。どうするか、と話し合っていたのだ。というわけで、少し前に鏡夜から聞いた話を思い出したカイトが紫苑に問いかける。


「そういや紫苑。バイトしてるんやっけ?」

「あー、うん。と言っても、おばあちゃんの手伝いな」

「ああ、そういやそう言うとったか」

「いや、あたしら何歳や思うてんのよ」


 どこかあっけなさそうなカイトの表情に、紫苑が笑いながら道理を説いた。確かに、それはそうだ。そして情報源たる鏡夜も同じ事を言っていた。そもそも中学生である彼らがバイトなぞ出来るわけがない。

 それでもバイトをしているのだから、それは特別な理由があっての事だ。敢えて言えばこれはバイトというよりも家業の手伝いという所だろう。なので紫苑もバイトの給料というよりも、これはお小遣いというに近い。これは実年齢三十路近くで、なおかつエネフィア暮らしの長いカイトのミスだった。


「ちょっとバイク欲しくて」

「なしてバイク?」

「そういや……お前唐突に言うとったな」


 カイトの問いかけに鏡夜が口を挟み、他二人もうんうん、と頷いた。どうやら誰も詳細は聞いた事が無かったらしい。


「えー? 格好良いやん、バイク。で、一年間しっかり店の手伝いしたらおじいちゃんがやる、って」

「そんな話かい。何欲しいんや?」

「え? ああ、ちゃうちゃう。昔お父さんが使っとったのがそのままおじいちゃんのガレージに転がっとってな?」

「ああ、あの人か……」


 鏡夜の問いかけに答えた紫苑の言葉に、カイトが思い出したかの様に頷いた。ここの幼馴染一同は何かとお互いの自宅を行き来していた。その中でカイトも何度か紫苑の祖父母とも会う事があり、祖父と父がバイカーだったのを思い出したのである。

 何度かバイクの後部座席に紫苑が乗せてもらっているのをカイトも見ており、幼心に格好良いと思った記憶があった。そしてそれは紫苑も一緒だったのだろう。というわけで、誰もが不思議に思う事はなかった。


「なんやえらい思い入れのあるバイクらしいんやけど、お父さんももう新しいのもあるし、かといって思い入れあるから捨てられん、かといって使うのも、って話で転がっとんねんけど……せっかくやから修理して使わしたる、ってわけ」

「あー……そりゃ絶対おっちゃん臍を噛んどるやろなー……」

「臍を噛む?」

「悔しがってるってわけ。紫苑が男なら親子三代でツーリング、ってな」

「あっははは。それ、一度言われたわ」


 カイトは自分以外に通じなかった言い方を解説しながらそう笑う。と、そんな彼とその彼の言葉に笑う紫苑の言葉に、鏡夜が笑いながら突っ込んだ。


「いやぁ、今で十分ちゃう?」

「どういう意味や!」

「な、なんでもないなんでもない」


 紫苑に怒鳴られた鏡夜が慌てて自らの発言を訂正する。と、それで一頻り笑いあった後、カイトが再び口を開いた。


「にしても、バイクかー……」

「なんや、カイトも興味あるんか?」

「ああ。向こうで知り合いになった女がバイク乗り回しとってな?」

「へー……先輩?」

「いや、同い」


 紫苑の問いかけ――やはり同じ趣味の様子の女性先輩という事で興味があったらしい――にカイトが笑いながら首を振る。それに、一同が僅かに沈黙を生んだ。明らかに可怪しいからだ。というわけで、紫苑がそれを指摘する。


「……いや、そりゃ可怪しいやろ」

「あっははは。まぁな。元不良の走り屋だ。なんで無免で乗り回してた。ま、一年前の話で今は更生してるけどな」

「「「おぉう……」」」


 とんでもない事を暴露しやがった、と男三人がドン引きする。不良とつるんでいるわけではないのだろうが、元不良の走り屋というのは流石に少し引けたらしい。とはいえ、カイトからすれば由利は友人だ。なので気にしていない。


「ま、そりゃ良い。とにかくそういうわけでバイク、ちょっと欲しいとは思ってる。別に峠走るとかじゃないけど。実際、そいつも次に乗る時は免許しっかり取る、つってるし」

「へー……おもろい言うてた?」

「らしいわ。実際そいつが一番速かったから、チームのヘッドだったらしい。腕、相当なもんやと思う」

「へー……一度会ってみたいわ」


 カイトの言葉に紫苑が由利に僅かに興味を見せる。それに、男三人はヒソヒソと話し合う。


「やっぱガキ大将……いや、流石にこれはランクアップして女傑やわ」

「な……俺やったら、今の話聞いて会いたないわ」

「お前……大変やなぁ……」


 鏡夜へと二人は慰めるような視線を送る。こんな男勝りな性格でも、鏡夜にとっては想い人である。なんだかんだ厄介な女を好きになったものであった。と、その一方紫苑はカイトと普通に話していた。


「んー……それやったらなんか欲しいバイクとかあんの?」

「いや、流石にそりゃ無いな。どっちかってと今は漠然と欲しいってだけ。移動に足があれば便利だろ?」

「んー……でもなんや法律改正されるって話やん? 高校入学でバイク取れるんやろ?」

「ああ、そういやそういう話やっけ。いや、確かもう施行されてたような……」

「ま、どうせそりゃ高校入ってからやろ。バイトもせにゃならんし」


 どうだったか、と悩み始めたカイトに向けて、陽色が口を挟む。確かに、これはそうだ。そもそもこの話は前提として、全員が高校に入学してからという話がある。

 なにせ免許が取れないからだ。カイトが法改正云々と言っていたが、それはどちらにせよ高校生の話だ。中学生には関係がない。とはいえ中学3年生であれば、無関係とも言い難い。後半年後には高校生だからだ。というわけで、紫苑が全員に問いかけた。


「んー……そりゃそやけど。あ、そや。高校、どうする?」

「あー……俺らは一応地元行くつもりやけど……そういや、鏡夜。お前なんや考えとるんやなかったっけ?」

「ああ、高校な。あ、そや。それやったら紫苑。一個聞いときたかってんけど、確かお前んとこ、中高一貫校やろ?」

「ああ、ウチ? まぁ、そやな。一応、良い所ちゃうん? 進学校って話やし。大学結構良いとこ行ってる人多いらしいし……」


 鏡夜の問いかけに紫苑は今の自分が通う学校の事を一応は褒めておく。なお、そういう事なので私学らしい。中学受験をしたそうだ。意外かもしれないが、なにげにこれでも紫苑の成績は良い方らしい。


「えっと……どこやったっけ。関東の有名私大とかにも色々進学出来とるらしいから、結構有名にはなっとるな。えっと、どこやったっけ……ああ、一条って先輩が確か天桜って所に高校から行ったんやけど、そこの大学にも結構ええ割合で行けとるらしいで」

「天桜か……あ、カイト確か天桜狙いやっけ?」

「この間、そう言ったやろ」


 鏡夜の問いかけにカイトは頷いた。天桜は私学でも難関校として知られている。そこに良い割合では入れているのなら、どうやらかなり良い進学校なのだろう。と、そんな言葉に大智がため息を吐いた。


「そっか……大学とか考えんと駄目なんか……」

「いや、高校受験前から大学受験考えんのやめよや……」

「あはは……でもまぁ、そういう事なら大学とか紫苑、考えとんの?」

「んー……どうしよ。流石にまだそこまでは考えとらんわ」


 大智と陽色の掛け合いに笑った鏡夜の問いかけに、紫苑が首を振る。彼女は転校でそこに入学しただけだ。流石に、そこまでは考えていないらしい。と、言うわけでカイトが口を挟む。


「ま、東京来るなら、案内ぐらいはしてやるよ」

「ま、その時は頼む……って、そや。東京言えば。あんたら修学旅行どこ?」

「へ? あ、ああ、俺ら? 俺ら東京やけど」

「あー、あんたらも?」


 どうやら東京という発言から修学旅行の事を思い出したらしい。というのも、どうやら夏休み明け少ししたら修学旅行らしかった。勿論、カイトも行き先は違うが修学旅行は夏明けだ。

 そこでこの話題、というわけなのだろう。というわけで、どういうわけか全員の視線がカイトに集まった。そして紫苑が口を開く。


「というわけで……案内よろー」

「「「よろー」」」

「いきなり!? ってか、日程合わねぇだろ!?」

「いや、これがドンピシャなんや」


 カイトのツッコミに紫苑が笑う。どうやら、そういうことらしい。なお、この話を要約すれば自由行動の時に案内よろしく、というわけである。そうして、そんなこんなでこの後もカイトは幼馴染達との夏を楽しむ事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。久しぶりにカイトが関西弁混じり。

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