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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第14話 八百万謁見編 宇迦之御魂神 ――氏神――

 蘇芳翁の提言を受けて京都に居るという日本の神々の一柱、カイトの産土神でもある宇迦之御魂神に会いに来たカイト達だが、目的はそうそうに達せられる。

 そうして、自己紹介の後に始まったのは、ささやかな宴だった。そこでうかとティナは愚痴を話し合う内に、なんだかんだで二人は仲良くなっていた。


「やはりのう。どれだけ力があろうと女である以上、守ってもらいたいんじゃ。地位や美しさに目のくらんだ男では無くてのう。」

「とてもわかります。私も父様が有名で日本への影響力の強さから言い寄る男神が多くて多くて・・・」


 おちょこ片手に話し合う二人の美女――自己紹介に合わせてティナもカイトも本来の姿に戻った――を前に、カイトは深々と溜め息を吐いた。一応、彩斗の実家には既に連絡を入れており、留学生が湯葉――今の二人の酒の肴――に興味を持ったから少し遅れると言っておいた。だが、この調子だとまだまだ掛かりそうだった。


「やはり地位があると大変じゃのう・・・余も早う世継ぎをだのなんだのと・・・」

「はぁ・・・どこの世界も大変ですね・・・」

「神の世も人の世も変わらぬのか・・・」

「はぁ・・・」


 二人は同時に溜め息を吐いた。どうやら世継ぎ云々の会話はうかも散々されているらしい。非常にうんざりとして、ティナの言葉に同意していた。


「そもそも、結婚出来ないのではなく、しないだけで・・・」

「結婚しようと思えば出来たからのう。そもそも行き遅れと言うのは間違っておるのう。」

「ですよねー。私だってたかだか数千歳なんですから、まだ十分現役です。ねえ、カイト。」

「ん?・・・んー・・・うかちゃんは現役で通じるだろ。」


 カイトがうかをきちんと見て、その容姿を賞賛する。カイトはこの会話を聞き流しているかと思うが、実はきちんと聞いていた。なにせこのように時々流れ弾が飛んでくるからだ。

 伊達に数年後知り合い全員から呆れ返られる女性遍歴を積んでいなかった。一見自分に関係のない様な会話でも聞き流す事のまずさを身に沁みて理解していたのである。


「具体的に。」

「まず顔とプロポーションは褒める必要無いだろ。しいて言うなら肌はみずみずしいし髪はつやつやで綺麗だ。触ればさぞ気持ちいいだろうな。なんだかんだ言っても努力を怠っていない証拠だ。」

「ご褒美あげちゃいます。ささ、髪触っていいですよ。」


 どうやらカイトの褒め言葉はうかの気分を良くする事が出来たらしい。彼女はカイトに近づいて髪を触る様に指示する。前から触れとの指示でその顔は気恥ずかしいのか顔が真っ赤だった。おそらくテンションとその場のノリでやってしまったのだろう。


「えーっと、では・・・」


 流石にこの状況で触らないのは駄目か、と思ったカイトは少し気合を入れてうかの髪に触れてみる。すると茶色の髪はふわりとしていながらさらさらで、非常に気持が良かった。とは言え、カイトはなんと感想を言うべきか悩み、少しの間二人は見つめ合う。だが、暫くしてうかがしなだれかかる様にカイトに前のめりに倒れこみ、そのままもたれかかった。


「え・・・」


 いきなりの行動にカイトが仰天してうかの肩を掴んで引き離して顔を見る。が、うかからは何の反応も無く、ただただ真っ赤な顔をしているだけだった。


「・・・きゅう。」

「・・・ぬ?」

「・・・悪い。まさかここまで男に免疫無いとは思ってなかった。」


 カイトがうかの顔の前で手を振ってみるが、反応が無い。なんとうかは赤面して気絶していた。どうやらカイトの顔が近すぎた上にずっと髪に触れて見つめ合っているので何かの許容量を超えてしまったらしい。そうして暫くカイトはうかの介抱をするのであった。




 気を失ったうかだが、十数分後には目を覚ました。そうして目覚めていきなりあったカイトの顔に大いに赤面して距離を取ったのだが、それにティナが溜め息を吐いた。


「なんというか・・・お主が結婚できぬのは男慣れしておらぬからかもしれぬなぁ・・・」

「あ、あはは・・・」


 ティナの呆れ返った言葉に、うかが苦笑する。否定できなかったらしい。


「えーっと・・・それで、何の御用でしたっけ・・・」

「はぁ・・・」


 うかはどうやら気絶して何をしに来たのか忘れてしまったらしい。そんなうかにカイトは溜め息を吐いた。


「うむ。一つ聞きたいのじゃが。」

「はい?」


 ティナがうかに問い掛けたので、少し興味深げに問いかける。カイトはティナが本題に入ってくれるのか、と安心したのだが、その予想は外れた。問い掛けたのは彼女の興味が湧いた部分だった。


「何故、お主はカイトの行動が見通せたのじゃ?」

「ああ、それは私が彼の産土神、今風には氏神だからです。所謂加護を授けているわけです。その加護を授けられた者は・・・こういう言い方はいまいちよろしくないんですが、氏子が何をやっているのか覗き見れるらしいですね。といってもリアルタイムだけですけど。後は異常が起きた時には私達に報せが来て、そっと手を出せる様になっているわけです。日本の八百万の神々限定の力らしいですよ。まあ流石に異世界までは力が通用しませんでしたけど・・・」


 ティナの質問を受けて、うかが答える。彼女でさえ『らしい』なのは種族的に可能になっているだけで、その原理までは理解していないからであった。

 ちなみに、ティナとてうか以外の神族にエネフィアで会っているが、この日本の八百万の神々特有とも言える氏神としての力は初耳だったからである。


「・・・日本の八百万の神々限定?他にもいっぱい居るのか?」

「はい。」


 カイトの目を見開いての問い掛けに、うかが普通に頷く。おおよそ予想はしていたがあっけらかんと暴露されて、唖然となったのである。


「とは言え、もう帝釈天等の一部を除いては数百年も会っては居ませんが・・・」

「そうなのか?」


 うかの何処か寂しげな表情に、ティナが怪訝な顔で問いかける。


「はい・・・私達神様達の理由で。」


 何処か無念さというか悲しげな表情で、うかが答える。だが、その気配にはその理由を語る事を拒んでいる様な気配があった。なので、うかは即座に話題の転換を図った。


「・・・あ、要件を思い出しました。高天原でしたね。アマテラス様より承っております。」

「・・・そこも見てたのか。まあ、うん。一応、お目通りに。『紫陽の里(しようのさと)』の頭首に就任したので。」


 うかの強引な話題転換だが、本人が拒んでいるしカイト達にしても藪を突っついて蛇を出したくはない。それが神様達の困りごとともなると、出て来るのは蛇ではなく鬼になるだろう。なおさら関わりたくなかった。


「それらも承知しておられます。とは言え、既に日も落ちかけ夜も近くなっています。今日はさすがに謁見は出来ませんので、ご了承ください。また、明日お願いできますか?」

「・・・今はもう17時過ぎか・・・了承した。」

「有難う御座います。明日また伏見稲荷に来てください。出来ればお賽銭をしてくれると嬉しいですね。」


 これからどれだけ時間が必要なのかわからない以上、向こうが都合が悪いと言われては此方も拒絶する事は出来なかった。そうしてカイトが了承したのを見て、うかがぺこりと頭を下げた。


「お賽銭?」

「お金でもお賽銭には祈りが篭ってますから。」

「ああ、日本の神様は別に現物支給でもいいわけね・・・」


 うかの物言いに全てを理解したカイトが、溜め息を吐いた。ちなみに、これは神族という種族の特質に起因している。

 魔力とは意思の力だ。そして祈りは意思の発露の一種としてみなせ、そこには極微小ながらに魔力が込められていた。神族はこれを自らの力とする事が出来るのだった。


「時間はどれぐらいいただけます?」

「何時でも、どれだけでも。まあ、流石に夜になると祖父母に心配させるんでアウト。」

「明日はそれで良いじゃろう。暇ならどこぞに観光しても良いからのう。」


 そうして、その日はそれで会談はお開きとなる。まあ、お開きとなったのは真面目な会談だけだが。そうして要件が終わったので、カイトもふと疑問に思っていた事を問い掛けた。


「そういえば。うかちゃん伏見稲荷から出れないのか?」

「出れますよ?別にカイトの実家の近所の分社にも行けますし。東京の分社にも行けます。」


 うかは少し怪訝な顔でそう告げる。というのも、わざわざ京都の伏見稲荷大社にまで来たのはここでうかに会えると言われたからだ。


「・・・あれ?じゃあなんでここに行く様に言われたんだ?」

「・・・さあ・・・『紫陽の里(しようのさと)』等の三里や幾つかの隠れ里は私達の力が及ばない所なので、何を考えてるのかまでは・・・」


 カイトの疑問に、うかも首を傾げる。当たり前だが彼女の覗き見る力は氏神としての物で、氏神でなければ遠視出来ない。そもそもで異世界の生まれの蘇芳翁が見れなくても当然だろう。

 まあそれはカイトも理解出来ていたので、カイトはスマホを取り出した。そうして幾度かのコール音の後、電話を取る音が聞こえた。


『なんじゃ?カイト。』

「おう、爺。なんでオレこんなに早くからわざわざ京都まで行かされてんの?」

『む?』

「いや、うかちゃんに聞いたら普通に東京でも会えるって言われた。知らなかったのか?」

『知っとるよ。じゃがご自宅にまでご挨拶が普通じゃろう。』


 一見道理に聞こえた蘇芳翁の言葉だったのだが、実は目の前でうかが首を横に振っていた。そうして彼女が口を開く。


「あの・・・蘇芳。」

『む・・・これは宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)様。お久しゅう。』

「ですからうかで良いと・・・と、では無く。別に稲荷大社も私の家では無いですよ。」

『・・・そ、そうなのですか?』


 どうやら蘇芳翁も知らなかったらしい。うかの答えを聞いて、蘇芳翁は少し驚いた気配があった。


「私の実家というか家は普通に高天原にあります。此方にあるのは所謂人間界での宿に近いだけです。」

『そ、それは失礼し申した・・・まあ、カイト。そういうわけじゃったらゆるり京都観光でも楽しんでくれば良い。どちらにせよお盆前には一度会う。詳しい話はその時で良いじゃろう。』

「あいよ。」


 カイトが言うように『早く来なくても』であって、どちらにせよお盆の帰省で無くてもカイトは関西に来る用事があったのだ。


「まあ、8月に会えるの待ってるわ。」

『うむ。では、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)様。失礼致します。』


 その会話を最後に、蘇芳翁が通話を終了する。


「今度の会合では頭首襲名は告げないのですか?」

「オレ、正体知らない家族がいるんで。」


 うかの問い掛けに、カイトが致し方がないという事情を告げる。


「ホントは私が対処出来るんですが・・・貴方が此方側に関わってしまうと、どうしても一歩引いた所にならざるを得ないでしょう。」

「だろうよ。」


 うかの少し申し訳無さそうな表情に、カイトが苦笑して頭を振る。カイトが蘇芳翁から聞いた話だと、基本高天原の面々は日本の異族社会に対しても件の陰陽師達に対しても中立を保つらしい。それ故に会合等を持つ場合には仲裁役になるのだが、そうであるが故にカイトが異族社会の何処か一つに肩入れした時点でその家族を守ろうにも中立性が保てなくなるのであった。

 というのも、彼ら神々はもし異族がその存在を知らぬ者に悪戯に攻撃を仕掛けられた場合は氏神として守らねばならない義務があるらしかった。


「ま、伊達に世界最強とか言われてないんで、そこんところは実力で排除も含めて上手くやるさ。」

「すいません・・・」


 その会話を最後に、カイトとティナもその場を後にする事にする。あまり遅くなっても中学生という体面上良くないと思ったからだ。


「もう30分なんで、そろそろ帰るわ。一応中学生だしな。」

「む、なんじゃ。もうそんな時間か。」

「ええ、そうですね。これ以上引き止めると、明日アマテラス様がうるさそうです。」

「ごちそうさまでした。」


 三人は揃ってしっかり手を合わせて食べ物に感謝して、店を後にする。尚、流石に公爵時代からの見栄があるので支払いはカイト持ちである。


「では、また明日。」


 うかが伏見稲荷大社の前で別れる。こうしてみれば彼女はどう見ても単に美人の普通の巫女さんにしか見えなかった。これが神様としての凄さなのかも知れない。


「さて、カイト。ここからの道筋はお主に任せるぞ。流石に余はお主の実家なぞ知らぬ。」

「オレは目を閉じても帰れるけどな。」


 二人は再び人目が付かない様にして少年少女の姿に戻ると、歩き始める。


「ま、当分は忙しくなる。色々とな。」

「うむ。」


 そうして二人は歩き始め、のんびりと彩斗の実家にまで帰るのであった。

 お読み頂きありがとうございました。

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