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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第15章 覚醒の兆し編

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断章 第14話 それぞれの準備

 カイトが太公望達との会談を終えてから、更に数日。カイトはのんびりとした日常を過ごしていた。


「あぁ、マジで何もやることがないってのは有難いな……」

「そう言えばここしばらくずっと忙しかったもんねー……」


 カイトの言葉に応ずる様に、モルガンが彼の上をゴロゴロと転がってのんびりとした時間を満喫する。何かがあるわけでもなく、何もするわけでもない。この日常は悪くなかった。なかったが、そんなのが何時までも続くわけがなかった。


「……」

「カイト? 無視はだめだよ?」

「やだー。イチャイチャしたいー」

「きゃっ……もう」


 カイトにじゃれつかれたヴィヴィアンが楽しげに笑う。が、そういうわけにもいかないのだから、仕方がない。カイトも諦めてスマホを取った。


「はいよ」

『ああ、ブルーか。私だ』

「オレオレ詐欺じゃないんだがね……で? まさかの皇家の長がなんの用事だ?」


 カイトに電話を掛けてきたのは陰陽師達の長、皇志だ。また珍しく彼から連絡が入ったのである。


『いや……実は私の所に客が来ているのだが……』


 皇志は少し語りにくそうに、カイトへと今回の連絡の事情を語っていく。それに、カイトは僅かに嬉しそうに目を見開いた。


「へぇ……なるほど。それは面白い」

『む? 妙に嬉しそうだな』

「ああ、嬉しいね。一年掛けて、再起を誓った奴らが挑んでくるんだ。楽しくないわけがない」


 カイトは楽しげに牙を剥く。今回、皇志から連絡が入った理由は一言で言えば、それだった。この丁度一年前。カイトは皇志達率いるかつての武将達の子孫達と戦った。それが一年の修行を経て、戻ってきたらしい。で、他流試合をしているのでアメリカ行きの前に一度戦ってくれと要請があったのである。


『ということは?』

「ああ、勿論さ。受けてやろうじゃねぇか。それが、最強と言われる頂きに立つ者の使命だ。最強は最強であるが為、挑戦者の挑戦からは逃げない」


 カイトは強者の余裕を滲ませて、皇志を介しての要請を受け入れる。武芸者が武芸者として、最強に挑まんとしているのだ。それから逃げるのなら、カイトは武芸者を名乗れない。だからこそ、彼はこの挑戦を受け入れるしかない。


『……そうか。だが、決してアメリカ行きに影響を出してくれるなよ』

「ま、オレは余裕ですよ、オレはね」


 カイトは笑う。この程度で負けてはいられないし、そもそもあの程度の相手ならエネフィアで無数に相手にしてきた。どこまで伸びているか見ものだ、という程度でしかない。そうして、カイトは通話を終了する。


「……楽しい?」

「ああ、楽しいね。お前らしか居ないから明かすが、ま、こういう人間の底力を信じさせてくれる奴らがオレは大好きだ」

「私達は地獄の奥底に居たから、ね」

「聖女は高きより、魔王は深きより、か」


 ヴィヴィアンの言葉にモルガンが呟いた。彼女らは、その深きより人類を見てきた者達だった。


「人類には、二つの種類の奴しか居ない……絶望に瀕して祈る奴と、抗う奴だ」


 カイトは笑う。彼は、抗う者達と常に戦ってきた。魔王として、彼は無数の抗う者(英雄)達と戦った。それ故、彼らがどんなどん底に居ても立ち上がる時に見せた光を信じている。魔王として、敵として戦ったが故に送る掛け値無い人類への称賛だ。


「さぁ……お前らが抗う者であるのか祈る奴であるのか……どちらか見せてみろ」

「カイト、発言が魔王っぽいよー」

「大丈夫。嫁さん魔王なんで」

「あ、それならカイト勇者じゃん」

「あっと……そういやそうだった」


 モルガンの指摘にカイトは楽しげに笑う。そうして、彼らは後数日という所に迫ったアメリカ行きの前にある一つの小さなイベントに心を躍らせる事にするのだった。




 一方、その頃。カイトの言った抗う者が一人、アメリカで非常にしかめっ面で書類を見ていた。それは言うまでもなく、ジャックであった。


「……ちっ……俺は考古学者でもなんでもねぇんだがな……」

「少佐……言っておきますが、この作業を発案したのは少佐ですからね……」

「すまん……」


 ジャックは部隊の隊員の恨みがましい視線に僅かな申し訳無さを滲ませながら、書類から目を上げる。目が疲れたらしい。さて、そんな彼らが何をしていたのかというと、膨大な量の書類を片手に第二次世界大戦直後に日本から収奪した数々の物品を一つ一つ精査する、という非常に根気の要る作業だった。

 それは言い出しっぺとも言えるジャックが辟易する程膨大な量で、それを一つ一つ手探りとなると非常に骨の折れる作業だった。実にあのカイト達との一件から一週間、これに掛かりきりになるほどだった。

 とはいえ、この一週間で決して、何の成果も上げられていなかったわけではない。だからこそ、彼らも最後までやる気を見せていた。


「あの跳ねっ返りのお嬢ちゃんは自分の手に馴染むモン見付けてるし、他にもちらほら見付けた奴は居る。それに後はこの倉庫で全部だ。後少し、頑張ってくれ」

「「「了解」」」


 ジャックの激励に部隊の隊員達が若干の精細さを欠きながらも返事を返す。やはり疲れは見えていたものの、成果が出ている以上は全員やるしか無いと思っていたようだ。

 そうして、更に数日。ジャック達は博物館の秘密の倉庫に収蔵されている日本の品々を調査し続けていた。そんな中。ふとジャックの目に一本の刀が目に留まった。


「これは……」


 何か訴えかけてくるものがある。ジャックはそう思い、抗いきれぬ何かに逆らえずに手を伸ばす。そうして、その刀の柄に触れた瞬間、魔力を吸われる感覚を得た。


『見付けた……』

「っ!?」


 唐突に脳裏に響いた少女の声に、ジャックは自分がこの刀に操られたのだと理解する。やはり連日連夜の作業でどうしても疲れは見え隠れしていた。操られても仕方がない土台はあったのだ。

 教授達から気をつける様に言われていたにも関わらず、うっかりと触れてしまったのだ。が、これはそうではなかった。なので脳裏に響いた少女の声は慌てて更に続けた。


『ごめんなさいごめんなさい! 警戒しないでください! 操った事は謝ります! でも、もう魔力がすっからかんで……本当にお腹がペコペコだったんです……』

「あぁ? 魔力がすっからかんだぁ?」


 脳裏に響く少女の非常に申し訳なさそうに慌てた声に、ジャックは首を傾げる。この時、ジャックはまだ付喪神という存在について詳しい事を知らなかった。それ故、何がなんだかわかっていなかったのだ。

 とはいえ、少なくともこの少女の声が演技ではない事はわかった。彼とて役者だったのだ。それぐらいはわかるらしい。


「誰だ、お前。このカタナか?」

『カタナではなく刀です』

「だから、カタナだろう」

『刀! 発音が可怪しいです』

「お、おう……刀、か」


 妙な所にこだわりを見せた少女の声に、ジャックは思わず気圧される。と、そんな所に教授がやってきた。唐突に妙な様子を見せたジャックを訝しんで、近くに居た隊員が報告を入れたのだ。


「何か見付けたかね?」

「あ、ええ。おそらくこの刀から声が……」

「ふむ……」


 教授はジャックの報告に従って、サングラスの奥にある実体のない魔眼を使って刀を視る。そうして、僅かに目――と言っても無いが――を見開いた。


「ほう……これは珍しい。付喪神とやらかね」

「付喪神、ですか?」

「うむ。比較的有名なものなのだが……語っていなかったかね」


 ジャックの様子から教授は彼らが付喪神についてあまり知らない事を理解して、改めて付喪神についての説明を行う事にする。


「と、言うわけだ。わかったかね?」

「はぁ……これが……」


 これが、その付喪神とやらなのか。確かにこれだけ無数に所蔵していたのだから一本ぐらいはあっても不思議はないが、それがこれなのか、と思うと不思議な感覚があった。故にジャックは己の手に収まっている一振りの刀をしげしげと見つめていた。と、そんなジャックに教授が問いかけた。


「それで、名はなんというのかね」

「名前?」

「付喪神となる程の剣だ。名前の一つはありそうなものだがね」

「名前……お前、俺の声が聞こえているんだろう?」


 ジャックは教授の言葉に従って、試しに刀へと問いかけてみる。それに、刀が答えてくれた。


『私は蛍。銘は<<蛍丸(ほたるまる)>>です』

「蛍丸?」

「ああ、その名は私も聞いたことがある。なるほど。確かに日本の一説によれば第二次世界大戦後にGHQが収奪した中にこれがあるかもしれない、とは言われていたがね。まさか、本当にあるとはね」


 ジャックからこぼれ出た名に、教授が学問の教授としての興味深さを滲ませる。やはり曲がりなりにも学究の徒というわけなのだろう。かなりの興味深さが滲んでいた。


「ふむ……意思を持つ刀となると、やはり珍しい。我が国ではそんな古い物はほとんど無いからな」

「強いのですか?」

「強いか否かは私にもわからんよ。が、少なくとも我々が探している物の一つとは言えよう」


 教授はジャックの問いかけに半ば認めて頷いた。兎にも角にもこれは確定だ。なにせここまで分かりやすい異変だ。これがそうでないわけがない。


「とはいえ……付喪神か。随分と力を失っている様に見えるが……大丈夫そうなのかね」

「さぁ……」

「ふむ……確か少女だという話だな。私はラバン・シュルズベリィ。声を返してはくれないだろうか」


 なるべく警戒させない様に、と教授は名乗ってから応答を求める。が、これに蛍丸はジャックに返答を依頼した。


『ごめんなさい……魔力が全然足りて無くて……実体化どころか念話を送る事も出来ません……』

「……ってことは俺にそれを言えって事か?」

『以外にどうしろと? 現状、私は貴方の魔力で意思を発露しています。貴方の魔力が無ければ声も出せません』

「……なんってか……すまん」


 何をわかりきった事を。そんな感じの蛍丸にジャックは思わず謝罪する。どう考えても、この原因は管理方法のまずさだ。一応刀としての保存状態は非常に良かったが、逆に魔導具としての保存状態は劣悪の一言に過ぎる。

 蛍丸が思わずジャックを操る程には、この空間に魔力は無いらしい。そんな状況で数十年も放置されていたのだ。文句を言うな、という方がどうかしていた。というわけで、蛍丸の答えをジャックは教授へと報告する。


「そ、それは……申し訳なかった。我々がもう少し協力していれば、また話は変わったのだろうが……ふむ……」


 教授は蛍丸の言葉から、少しだけ考え込む様に顎に手を当てる。そうして、彼は蛍丸に対して一つの提案を行った。


「どうだろうか。我々に協力するのであれば、ここから外に出そう」

『協力の内容次第、です。貴方達がかつて日本と戦っていた事は知っています。それそのものには何ら意見はありません。戦いの根は人の根。避けようのない事です。が、私にそれを強いるのであれば、喩え刃が折れても断りましょう。勿論、貴方達が単なる刀として使うのなら、私には拒めませんが』

「内容次第と。日本へ敵対するのなら断るとも。かなり強い拒絶です」


 蛍丸の言葉をジャックが教授へと要約して報告する。やはり蛍丸は刀だ。故に戦いそのものは否定しない。が、日本と戦うのであれば話は別だった。故に強い意志がそこには滲んでいて、絶対に拒絶するのがジャックには見て取れた。そしてそれは教授にも分かっていた。


「勿論、そうだろう。我々はまず理解して欲しいのは、日本に手を出すつもりはない。これは安心して欲しい。我々が敵としているのは、この地球全ての敵だ。そこまでは良いかね?」

『続けてください』

「うむ……そのために、我々は力を求めている。これはひいては日本を守る為の戦いでもある」


 ジャックが頷いたのを見て、教授は更に念を押す。そうしてそれに対して、蛍丸が問いかけた。


『それを証明する方法は?』

「証明は可能か、と」


 ジャックは蛍丸の言葉を教授へと伝えながら、この少女が声相応に幼い少女ではない事を理解する。少なくとも、この少女には様子以上のしっかりとした思考が備わっていた。

 とはいえ、そんな驚きは付喪神の事を知らない彼だからこそのものだ。故に実際は数百年単位で生きている事を知る教授ははっきりと請け負った。


「勿論、可能だとも。君は酒呑童子と共に居た茨木童子を知っているかね?」

『当然です。あの鬼がどうか?』

「彼や玉藻といった者達を中心として、ある男をトップとした組織が日本では組織されている。そのトップの男が彼らを連れて今度我が国へ来る事になっている。その時、そのトップに聞いてみると良い」

『……あの鬼や伝説の獣を従える……?』


 やはり蛍丸には俄には信じられない話だったようだ。とはいえ、これが本当ならば確かに真実地球全体の敵と戦っているという言葉には真実味がある。であれば、と蛍丸はこの判断をジャックに伝えてもらう事にした。


『その言葉、今は信じましょう。彼と私の魔力的な相性は悪くない。しばらく彼の佩刀として、従っておきます』

「は? 俺か?」

『はい。私とて無差別で操ったわけではありません。貴方との相性は良い様子です。しばらくか長くになるかはわかりませんが、とりあえずしばらくはよろしくお願いしますね、主殿』


 唐突に指名されたジャックは大いに驚く一方、蛍丸は花が咲いたような笑みが幻視できそうな声でジャックを一時的な主として認めていた。こうして、ジャックは不思議な縁で日本の歴史からは失われた名刀・<<蛍丸(ほたるまる)>>を手に入れる事になったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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