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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第14章 二年目の夏編

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断章 第28話 オークションへの誘い

 太陽の活性化による天照大御神ことヒメの体調不良に端を発する一連の事件が終わり、ウルクより帰還したカイトはその後『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』へ帰るとしばらくの間ルイスとイチャつきながら書類を精査していた。

 が、それも本当に少しの間だけで、騒動は彼を自由にしてくれていなかった。とは言え、次の騒動はある意味、彼だからこそ起きた騒動だろう。


「はぁ・・・誰か暑いとオレの心の代弁をしてくれる人は居ないのか」

「あはは」

「居ないんじゃないかな? 両手に花どころか両手に加えて両肩にまで花なんだから」


 笑うヴィヴィアンと笑いながらカイトの言葉にツッコミを入れたモルガンの言葉が、今の彼の状況をよく表していた。


「ふんっ。人に仕事させときながらいちゃついておるからこうなる」

「悪かったって。機嫌直してくれ」

「やれやれ・・・」


 拗ねるティナにカイトが笑いながらそれを宥め、ルイスがそんなカイトを含めて呆れる。まぁ、いちゃついているまでは良かったのだが、ティナにそれを見られたのであった。

 基本的に嫉妬心の薄い魔女であるが、ティナはことルイスの事になると話が変わる。というわけで拗ねているわけなのであった。そして拗ねさせてしまった以上、ご機嫌取りはカイトの仕事なのであった。


「ま、一旦それは置いておいてくれ。とりあえず丁度二人が揃ったから、ちょいとわかった事があってそれの相談しておきたかった」

「・・・」


 つーん、と口を尖らせたティナがカイトへと先を促す。ここら、拗ねながらでもきちんとやることをやってくれるのは彼女らしいと言える。というわけで、カイトは話すべき事を話す事にする。


「使徒化。とりあえず力が分かったんでその相談」

「何? どうやってだ?」

「自然と分かった」


 驚いた様子のルイスに、カイトはとりあえず何があったかを話していく。そうして少し学術的な話になったからか、ティナも嫉妬を忘れて学術的な面での興味が表に出たようだ。機嫌を直していた。


「ふむ・・・なるほどのう。それはある意味道理ではあったか。確かに天使達によって力が違う以上、誰かが教えるという事は難しかろうな」

「ふむ・・・」


 ティナの言葉にルイスは少しだけ己で噛み砕いた上で考察を行う。が、そうして出た結論はなるほど、という所だ。


「なるほどな・・・それなら道理と言うか納得も出来る。私は天使長だった・・・つまりは天使達の長。長としての役割に、私が異世界の存在でなおかつ世界を移動出来る存在であるという力が加わるわけか。異世界への神の召喚・・・面白いな。まぁ、自由な転移は相当先だろうがな」

「うむ。そういうことじゃろう」


 ルイスの推測は確かに筋は通る。叛逆したとは言えど、未だにその信頼は失われていない。そして堕ちてからも堕天使達の長と言われているのだ。であれば、やはり彼女の一番の特徴と言えるのはその集団の長としての性質だろう。

 と言うかそれ以前として本来彼女はとある一族の族長筋で、次期族長だったりする。そこらを考えても長としての性質は何かしら持ち合わせていても不思議はない。

 その性質にカイトが持つと言われる<<真王>>としての性質、ルイスのそもそも<<例外存在(ミストルティン)>>という特例が重なれば、神々という世界から動けない存在を動かせるという中継器の様な役割を持たせるに至っても不思議はなかった。


「ふむ・・・にしてもついにいよいよ<<真王>>とやらじみて来たな、貴様」

「やめてくれ・・・」

「ま、それは良いか。にしても・・・ん?」


 使徒化についての考察を更に進めようとしたルイスであるが、そこに一つの着信が入る。というわけで、とりあえず使徒化については力が分かった、というだけに留めておく事にして、カイトが着信を取った。


「ああ、オレだ」

『ブルーか。すまないが、今は大丈夫か?』


 電話先の相手は皇志だった。彼から連絡を取ってくるというのは珍しくはあるが、曲がりなりにも陰陽師達の長だ。事情があれば取ってくるだろう。


「ああ。少々、この間のアマテラス殿の件で幾つか話し合いをしていただけだ。それもまぁ、ほとんど終わって雑談という所でな。時間なら問題はない」

『ああ、例の件か。天城総理から伺っている。そうか、それなら時間は良いか』

「ああ。で、何用だ?」

『ああ・・・実はそちらの協力を仰ぎたくてな』


 皇志はカイトの時間が大丈夫である事を確認すると、単刀直入に本題に入る。と、そんな話にカイトは珍しさを滲ませた。


「協力? 珍しいな」

『まぁ・・・私としても珍しいとは思っている。が、どうにもこちらでは動けない案件でな』

「ふむ・・・裏方か?」

『そうなる。が、我々はしっかりとマークされていてな。そこで、顔が割れていないそちらに協力を依頼したい、というわけだ』


 皇志はカイトへと依頼の内容を語る。確かに陰陽師達ともなれば比較的どこの組織も警戒している。おおよそ大半の腕利きと呼ばれる者達については顔が割れていると判断して良いだろう。


「ふむ・・・確かに、そう言う面で言えば流れ者のオレはノーマークと言って良いか」

『ああ。それを利用して、ある物を回収して貰いたい』

「ある物?」

『ああ・・・天下五剣について、話を聞いた事は?』

「ついこの間童子切の調整を受け入れた所だ。勿論、そこら詳細については聞き及んでいる」


 皇志の問いかけにカイトは笑って問題ない事を明言しておく。ここらについては蘇芳翁よりかなり古い時期に聞いていたし、この間の頼光の所でも童子切より更に詳しく聞いていた。


『そうか。それならば話が早い・・・その件で少々、厄介な話になっていてな』

「ふむ・・・厄介と言うと<<数珠丸恒次(じゅずまるつねつぐ)>>か? 詳細は知らんが、どこかの密教だか末法だかの宗教団体に追われていると聞いていたが」

『いや・・・そちらではない。つい最近、最後の一振りである<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>の消息が掴めたとの話が流れてきている』

「大典太の? 朗報だな」


 カイトは皇志からの情報に喜色を浮かべておく。やはり彼とて日本人だ。天下五剣が全て無事に見付かったのであれば、それは喜ぶべき事だろう。が、それは少々早とちりという所だった。そうであるだけならば、彼の所に話なぞ持ってこられるわけがない。


『まぁ、それについては朗報と言って良いだろう。が、在り処が少々、厄介でな』

「ふむ? 日本国内は国内か?」

『ああ・・・実はその見付かったと言うのは先のシンジケートの襲撃で得た情報を元にしたものでな。そのシンジケートの主催するオークションに<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>が出品されるという情報が得られた。どうやら非合法に何処かから盗まれたらしい。国外か国内かで迷った結果、日本国内でオークションに掛けるのが一番高値が付くと判断され、という所らしい』

「うん? であれば・・・ああ、いや。そういう・・・」


 カイトは自分で先の襲撃の時に壊滅した屋敷にあったのでは、と言おうとして、おそらくそうではないと理解した。


「また別の拠点か」

『ああ。どうやら日本国内にまた別の拠点があるらしい。それそのものについては、先の襲撃で残されていた情報で掴んだのだが・・・』

「なるほど。しかし敵はどういう事になっているかわからない為、か」

『そういうことだ』


 カイトの言葉に皇志は素直に同意する。日本最大規模のシンジケートの拠点だ、という話で先ごろにカイトは壊滅させたわけだが、それは裏返せばまだ他にもあるという事に他ならない。

 と言うより、最大規模のシンジケートの拠点が一つだけというのも不思議な話だろう。日本の経済規模と人口規模を考えれば幾つかあるはずだし、カイトも日本政府より国防軍の特殊部隊が動いて調査していると聞いている。とは言え、気になる事はあった。


「とは言え・・・日にちは大丈夫なのか? 一応、今度のアメリカ行きはオレが中心だったはずだが」

『ああ。それは問題無い。いや、というよりもそれが問題だったから、という側面もある。準備に日にちが足らないのだ。それに対してそちらなら、身分の偽装等も容易いだろう』

「ということは数日中か」


 皇志の言葉からカイトはこれが差し迫った案件であることを理解した。そしてそれ故に彼らも常には頼らないはずのカイトへと連絡を入れたのだろう。

天下五剣の一振りと自分達のプライドだ。どちらが優先されるかと言われると、彼らとて前者と答えるのであった。


『ああ。日本政府の解析によれば、開催は明後日だそうだ』

「なるほど。それは近いな。そういうことであれば、こちらで動こう。最悪は強奪でなんとかする。どうせ詳細なぞ掴まれていないし、そう言う所の顧客であれば大半は裏であくどい仕事をしてる奴らだ。特に心は痛まんな」

『やめてくれ・・・』


 カイトから飛び出した不穏な発言に皇志がため息を吐いた。とは言え、カイトも半ば冗談だ。なるべく殺さない方向で話は付ける予定だ。勿論びた一文金を支払ってやるつもりは存在していないが。敵に力を与えてやる道理なぞどこにもない。


「ま、とは言え話は天下五剣の一振り<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>の救助・・・で良いのか?」

『ああ。おそらく何らかの封印が施されていると思われる。何分、付喪神だ。本来単独で逃走可能なのだろうが・・・』

「それが出来ていないということは、付喪神化を阻害されるなんらかの力が働いているというわけか」

『そういうことだろう。後始末はこちらと日本政府にまかせてくれて構わん。先には言ったが、最悪は被害が甚大で無い程度にはそちらでシンジケートの拠点を壊滅させてくれても結構だ』


 皇志は改めて、今回の依頼は<<大典太光世(おおでんたみつよ)>>の回収さえ出来ればその他は問題無い事を明言しておく。どうせ日本政府から見てみれば非合法の組織だ。その被害がマスコミに報じられない限りは、壊滅してもらっても問題はない。

 そしてそのマスコミにしても芸能人の面ではカイト達が握り、スポンサーの面では天道財閥が握っている。昨今流行りのSNSを中心とした者達については、これはカイト達がアルター社の子会社にスポンサーの一つと事務所もある。大半はどうにでもなった。


「それは有り難い。天下五剣や何か目ぼしい物があればこちらでついでに貰ってこう。それについては後で日本政府が回収に来るのか?」

『当たり前だろう』


 カイトの問いかけに皇志が笑って頷いた。当たり前だがおそらくオークションに掛けられるだろう数多の収奪物については日本政府が然るべき筋を通して本来の持ち主の所に返すか、日本政府が保管しておく事になる。カイト達に与える道理は無いだろう。

 そして勿論、カイトとて欲しいわけではない。と、そこらに合意を得られた所で、皇志の側が一つの条件を出した。


『ああ、そうだ。そう言えば今回の依頼には刀花を連れて行って欲しい』

「刀花を?」

『ああ。封印されているのであれば、おそらくそれは何らかの呪符だと思われる。そちらには相変わらず魔女が居るだろうが・・・今回のオークションの客の大半は日本人や東洋人が多いと思われる。連れてはいけないだろう』

「なるほど。が、顔は?」

『まぁ、問題はないだろう。非合法かつ裏のオークションだ。一度入れれば、仮面で隠せる。オークションの行われる場所やその他の詳細については日本政府を通してそちらにメール添付させてもらう。それを頼りに、回収してもらいたい』

「わかった。では、こちらで準備に入る」


 カイトは皇志の依頼を承諾すると、それで通信を切断する。そうして、全員に告げる。


「さて・・・じゃ、とりあえず襲撃用意で」

「やれやれ・・・いきなりそれか」


 カイトの言葉にルイスは呆れるしかない。いや、呆れない奴がいればそれが可怪しいだろう。そもそもカイトはバレない様に事を運ぶつもりは皆無な様子だった。


「どーせ最後は襲撃からの強奪になるに決まってる。今から考えるだけ無駄だし、奴らには一度こちらに手を出しても痛い目を見るだけだ、とわからせた方が早い」

「やれやれ・・・ティナ。貴様は外から支援砲撃が行える様にしておけ。私は万が一の場合に内部に転移してこいつらを回収出来る様にしておく」

「よかろう・・・で、おチビ共は?」


 ルイスの指示を受諾した――そもそもルイスが指示しなければ彼女がしていた――ティナが相も変わらずのほほんとした様子のモルガンとヴィヴィアンに問いかける。この二人は通常は隠れているので、カイトの側なら入り込めるだろう。


「んー・・・せっかくのパーティだし、少し楽しもうか」

「そだね。じゃ、私達はカイトの側で」

「おっしゃ。じゃ、後は情報を聞いて、かな」


 カイトは相棒達の同行を受けて、後は日本政府を通して情報が送られてくるのを待つ事にする。そうして、その後しばらくして送られてきた情報を元に、カイトは作戦を練り上げる事にするのだった。

お読み頂き有難うございました。

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[気になる点] ティナはこの時点で、カイトが世界間転移できるようになったって知っていたんですか?
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