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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第14章 二年目の夏編

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断章 第13話 封魔の地

 源頼光の依頼を受けかつて丑御前に成り果てたカヤという女性を救う為、坂田金時の生まれ故郷である足柄山の奥地にあるという封魔の地へと足を運ぶ事になったカイト。そんな彼は同行者として安倍晴明・葛の葉狐の親子を加えると、足柄山周辺の管理者である風魔忍者の一族に接触を図っていた。

 そんな彼らであったが、幾つかのやり取りの後に風魔一族の頭領である伝説の忍・風魔小太郎の後継者にして現頭領である第15代目風魔小太郎との会合を経て、風魔忍者達の助力を得る事に成功する。

 が、その彼らの申し出により、出発は翌日の朝となりその日一日は彼らの持つ旅館の一つにて宿泊する事になっていた。


「ふぅ・・・とりあえずこれで一段落と・・・」


 カイトは温泉に浸かりながら足柄山の方を見る。一応、僅かに空間が狂っているのはここから見てもわかった。


「ふむ・・・確か足柄山は一部立ち入り禁止区域があったな・・・そこら一帯を基点としている、と言う所か」


 足柄山、またの名を金時山。この山は実のところ神奈川県では最高高度の山なのであるが、山にはつきものの通行禁止エリアが存在している。理由は勿論、落石等で事故が起きる為、という山にはおなじみの理由だ。

 勿論、この理由の中にはきちんと落石や崩落が危険なので、という所もあるが、今回の場合はそういうわけではない。落石よりももっと危険な魔物が出る異空間に通じているから、である。

 やはり日本全土をくまなく、となるとどうしても陰陽師達とて見切れない。人的資源は有限だ。重点的に見るべき点がある以上、ある程度の穴が出来るのは仕方がない。

 とは言え、では絶対に全部を見る必要があるか、というとそういうわけでもないだろう。このように注意喚起をするだけで人は遠ざけられる。

 それで入ったとてそれは自己責任。危険と記しているのに入って事故にあったとて文句は言えまい。というより、陰陽師達や政府の役人達とてそこまで馬鹿なら知った事ではない。


「ふむ・・・森か。となると爬虫類や獣系、昆虫系も多そうか。洞窟があるのなら、岩石系も多そうだな・・・」


 とりあえず、敵の見立てを立てておく。地形さえわかれば魔物の種類は大凡分かる。とまぁ、そんな事を真面目に考えていたわけであるが、お風呂で彼が真面目にやっているのには理由がある。


「・・・で、お主。そろそろ前を向け」

「ヤダ」


 ティナの言葉にカイトは遠い目をしながら青い空を見上げ、浮かんでいる風呂桶から冷酒を手に取った。もちろん、お風呂なのでティナも裸だ。しかも温泉のルールということで一切隠していない。そんなティナに強引に顔を向けられて、カイトが虚ろな目で問いかけた。


「・・・どうしてこうなった」

「なんじゃ、贅沢者め。お主、昨日もこの乳房を思い切り揉みしだいておったではないか」

「なんだ、文句があるのか?」

「いーや、別に。両手に花で嬉しい限りだ」


 ティナとはカイトを挟んで逆側に腰掛けるルイスの問いかけにカイトはため息を吐いた。別にこういう関係なので彼女らと一緒にお風呂に入っても不思議はない。


「それどころか周り全部が花じゃがのう。花園、もしくは花畑と言っても良いかもしれん」

「お陰で私達は風呂桶が温泉になってるけどねー」

「これはこれで楽しいじゃない」


 ぱしゃん、と風呂桶温泉のお湯をヴィヴィアンが掬って肩から掛ける。さて、現状のカイトなのだが、どういうわけか全員――ベルも一緒なのだがルイスにセクハラして気絶している――で一緒にお風呂に入っていた。理由なぞ不明である。


「はぁ・・・まぁ、良いんだがな・・・と言うか、葛の葉。お前の尻尾、凄いことになってんぞ。仕舞えよ、仕舞えるんだから」

「む? ああ、これか。これはいつもの事じゃ」


 こここ、と楽しげに葛の葉が九尾の尻尾を振って水を飛ばす。それでどういう原理かは不明だが、尻尾が元のふんわり尻尾が戻ってくる。が、そうなると周囲はひどい事になった。


「んぎゃあ! ちょ、おま!」

「こここ」


 悲鳴を上げるカイトに対して、葛の葉は楽しげだ。そんなカイトは水だらけになった顔を温泉のお湯を掬って洗い流す。そうして、この日はなんだかんだで久方ぶりの休暇を楽しみつつ、一晩を過ごす事になるのだった。




 明けて、翌日の朝。カイト達は旅館の朝食を頂くと、そのまま足柄山の奥地へと足を運んでいた。


「こっちだ」

「あいよ」


 木々の上を飛び跳ねて移動する小太郎の後ろを、カイトが追走する。そのさらに後ろには清明やティナ以下魔術師組が浮遊して移動していた。地面には時々魔物が見受けられ、バレない様に木々の上を静かに移動していたのである。


『清明殿には釈迦に説法だろうが、この更に奥にはかつて風魔の里だった名残りの地がある。そこへまずは移動しよう』


 出発間際。小太郎はそう述べていた。どうやらかつては風魔の里であった里はすでに放棄されているらしく、今ではその当時の名残りが残るのみらしい。が、それ故に一時的な安全地帯を求めるには最適という事らしい。

 聞けば天然の結界がある、との事であった。どうやら清明達陰陽師の張り巡らせた封印の影響が僅かに溢れており、それが数百年に渡り蓄積された結果、安全地帯が出来上がっていたようだ。

 現代の学術でわかった話だが、地脈を使った封印は術者の腕前と封印の強度によっては近くにこういうような影響が出る事があるらしい。この場合、封印の強度が高いが故に起きた事だろう、というのがティナと清明の考察だった。


「少しズレたか・・・が、あと少しか」


 小太郎は一度木々の上に立ち止まり、風の流れを感じ取って目指すべき方角がどちらかを確認する。やはり忍の里ということで風魔の里には簡単にはたどり着けないような人払いの結界にも似た物が展開されており、風魔の者達やカイト達超級と言われる者達でなければたどり着けないようにされているらしい。

 とは言え、道案内も無しではいくらカイト達と言えども時間は掛かる。そういうわけで、やはり道案内は必要だろう。と、その案内人こと小太郎の案内を受けて、およそ1時間程。魔物の遭遇を避けつつなのでゆっくり移動していた一同であるが、一つの開けた地に到着した。


「・・・ここが、かつての風魔の里だ。今はもう放棄され、単なる跡地に過ぎん」


 小太郎はかつて自分の祖先の暮らしていた家の屋根の上に立って告げる。どうやら、別にかつての祖先の家は一応考慮はするがさほど慮る事はないらしい。一応古い実家のはずだが、気にした様子はなかった。


「あの向こうの山の奥。そこが封魔の地だ。詳細は・・・まぁ、清明殿がご存知だろう」

「うん・・・ここからは、私が案内するね」

「お頼みする。我々はここからもし万が一が起きないよう、防衛網を構築しておく」

「頼んだ」


 カイトは歩き始めた清明の背を見ながら、小太郎の申し出に頷く。やはり一つだけとは言え封印を解くというのだから、万が一にも厄介な状況は起こり得る。ならば万が一が起きない様に色々と準備をしておかねばならなかったらしい。

 小太郎が道案内を買って出たのは決して相手が清明達だから、というのではなく、万が一には腕利きである彼ならば足止めが可能であるだろうという考えからだ。そうして、小太郎を残した一同は里の裏山と思しき所へと向かっていく。


「この先、洞窟が一つあってね。そこの奥深くにどうしようもなくなった場合に封じておく為の結界があるの」

「そこに、というわけか」

「うん、そういうこと」


 カイトの言葉に清明は頷いた。どうしようもなくなった、というのは多種多様だ。例えば今回の事件の様に清明がその場におらず、かと言ってどうにかしなければならない状況になった時等にここに封じておいて未来にどうにかしよう、という一時しのぎだったりする。

 他にも敵の力量からどうしても討伐しきれず、しかしそのまま放置も出来ないので何とかして封印してここに移送した場合もあるらしい。


「ここが?」

「うん、ここがその洞窟。通称、『封魔洞(ふうまどう)』」


 洞窟の前に立った清明がその場の名を告げる。見た目としては特に取り立てて変わった所のない普通の洞窟だ。


「見た目は普通の洞窟だが・・・元からある洞窟に手を加えた形なのか?」

「そう、聞いてるね」

「聞いてる?」


 清明の言葉にカイトは首を傾げる。清明が封印を施した、とカイトは聞いている。その清明が聞いているとはどういうことなのか、と思ったのだ。


「うん。ここは元々私が作ったんじゃないよ。地脈との繋がりを強くしたりして、強化はしたけどね」

「ふーん・・・」


 そうなのか、とカイトは頷いておく。一応聞きはしたものの、特に取り立てて興味があるわけではない。というより、ここで重要なのは清明が内部構造等をしっかりと把握しているか否かというだけだ。


「とりあえず内部構造は把握してる、という事で良いんだな?」

「うん。内部は幾つかの階層に分かれていて、個別に封印を施しているような形かな。それで、万が一の場合には封印ごと地盤を崩して立入禁止に、という感じ。考案したのは私の前の前の前の陰陽庁のトップの人とか言う話だよ」

「なるほど。それで、こんな所にね」


 京の都というように、昔は京都こそが日本の中心だったわけだ。となると必然、近畿地方、当時で言う所の畿内には置いておきたくはないだろう。

 そしてそれと同じ理屈で、京都から出来るだけ遠くに設置したいはずだ。当時の関東地方といえば、最適だったのだろう。今となっては東京に日本の中心があるので笑い話にもならないが、当時からすれば真っ当な安全保障の観点から、というやつだった。


「はぁ・・・本当に明治政府は何を考えていたんやら・・・」


 カイトはため息を吐いた。聞けば聞くほど、関東一円には危険が沢山ある。陰陽師達には騙し討の形で言い含め、エリザ達ともあまり仲が良かったわけではない。おそらく、何も知らなかったのだろう。そしてその通りだった。


「後から詳細を教えられて思いっきりびっくりしてた様子だけどね。家康さんや慶喜さんは、把握してたんだけど・・・」


 清明は半ば苦笑気味だった。わかろうものではある。そもそも天皇の御幸というだけで、明治政府は東京に皇居を置く事は陰陽師達に一切伝えていなかった。勿論、清明にも言っていない。流石にこれには思わず焦って清明が言いに行ったらしい。

 明治政府というか当時の薩長土肥の藩士達もまさか安倍晴明が来るとは思わず、後々になって大事と悟り大いに焦り、後の総理大臣となる男達が連日連夜彼女へと泣きついたとの事であった。そしてそれを受けて、折れた清明が皇家の説得に乗り出す事になったとのことである。

 その結果が、皇家の補佐四家の一つである御子神家が東京へ派遣される事になる、という事だったらしい。京都という怪異の多い地から離れた四国や九州出身だったからこその失態だったそうだ。どこまで魔術的な守護が重要なのか、というのを実感として理解出来ていなかったのである。


「そう言えば、江戸時代はどうやっていたんだ? 確かエリザ達とか蘇芳の爺とかとつるんだ所為で京都の陰陽師達とはあまり仲良くなかっただろ?」

「ああ、彼らは南光坊天海という和尚さんから色々と教えてもらっていたらしいよ。ここの事も彼から聞いてたみたいだね」

「かの有名な、南光坊天海ね・・・どんな人物だったのかねぇ」


 カイトは少しだけ興味を抱く。江戸にておよそ300年の平和を築き上げたのだから、おそらく何らかの術者としては超有能であった事は間違いない。そして100歳以上まで生きているという事から、真っ当な人間ではなかっただろう。


「さぁ・・・私も詳しい事は知らないけど、本能寺の変とか川中島の戦いは見た、とか言ってたよ。民間陰陽師の系統だから、道満さんの筋かとも思うんだけど・・・多分、違うかなぁ・・・身のこなしが元々お坊さんというより武士っぽかったし」

「おいおい・・・やめてくれよ・・・」


 本能寺の変となると、カイトにとってはある意味因縁浅からぬ相手が多く思い浮かぶ。下手をすると本当に明智光秀の可能性はあった。

 だが、それはないだろう、というのは当時の記憶を持ち合わせるカイトの言葉だ。彼は当時の者達の性格を良く把握している。伊達に総大将をやっていない。故に、あの変の後に羽柴秀吉がどう動くかもわかっていたのである。


「大方、明智の秀満あたりかね。まぁ、あいつは知らぬではない仲だから生きてりゃ御の字としておいてやるかねぇ・・・ま、そりゃ良いか。とりあえずこの先に丑御前は居るんだな?」

「うん。とりあえずはそうだね。道中、危険は無いと思うよ。ここは封魔の地。魔物は現れないからね」


 清明はカイトの問いかけに頷いた。兎にも角にも、この先へ進んで丑御前を見付けねばならないのだ。ここらは気になるが、その気になれば蘇芳翁にでも聞けば良いだけの話だ。運が良ければ、彼が知っている可能性はある。そうして、カイト達は洞窟の内部へと侵入していくのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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