表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第14章 二年目の夏編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

477/765

断章 第12話 風魔小太郎

 頼光の求めを受け箱根にあるというかの有名な風魔小太郎率いる風魔忍者達の里である風魔の里へと足を運んでいたカイト達。元々それについては前日の内に清明が連絡を入れてくれていたので問題はなかったが、それ故に彼は風魔小太郎よりその実力を試される事になっていた。

 そんな彼らは今、風魔の里に属する忍達に取り囲まれていた。と言ってもこれは別に剣呑な意味ではない。単に周囲に忍達が現れたというだけだ。忍達にしても敵意は放っていない。


「申し遅れました。私は雲雀(ひばり)。この子は緋和(ひより)。どちらも小太郎様にお仕えする忍です」


 女将に化けていた方の美女――雲雀――が名を名乗る。この子、というのは彼女自身が娘と紹介した方の美女だ。顔立ちはよく似ており、おそらく姉妹である事が察せられた。

 であれば、おそらく長である今代の風魔小太郎もかなり若いのだろう。少なくとも、現時点で二十代だろう。勿論、風魔の者達にも色濃く異族の血は出ていると思われる。異族達の力は彼らにとっては非常に有用だ。交わらないとは思えない。であれば、見た目が若いだけで実年齢はもっと上という事は十分にあり得る。


「ふむ・・・この中に、風魔小太郎殿が居ると?」

「はい。それだけは明かす様に、と」


 カイトの問いかけに雲雀が頷いた。どうやら、メインは彼女が受け答えするらしい。そうして、カイトは一通りこの場に居る忍者達の様子を垣間見る。

 服装は多種多様だ。先程までの雲雀達と同じように仲居や料理人として仕事着を着ている者もいれば、逆に身を隠す為に最適な忍者としての仕事着を着用している者も居る。中には観光客に扮していたのか先の風間の様に普通の洋服の者まで居た。勿論、風間も同席している。


『・・・ティナ。どう思う?』

『どう、のう。答えは出ておる様に思うが』

『やはりか』


 カイトとティナは念話で暗に意見が一致していた事を確認し合う。実のところ、偽の小太郎が偽物だと思ったのには雲雀に語った以外にも理由があった。それ故、殆ど考えるまでもなく答えは出せていた。


「ふむ・・・であれば、答えはすでに出ている」

「どうぞ」

「おそらく、だが。オレ達の案内を行った風間殿こそが本物の風魔小太郎だろう」

「それは如何して?」


 雲雀がカイトへと問いかける。おそらくと言いながらも、かなりの自信が見受けられたのだ。そうして、カイトは風間から一切視線を外さず答えた。


「風間殿は一見すると、下忍レベルの力量だ。彼自身が言っていたようにな。が・・・まぁ、これは素直に信じなかった。それは忍相手故と理解してくれ。なので少ししっかりと見ると、その偽装が幾重にも渡って巧妙に施されている事に気付く。その時点で推測された力量は中忍程度。が、ここで更にしっかりと見てみると、更に奇妙な点に気付いた。彼の施している隠形には敢えて隙がある、とな」


 カイトは風間を見ながら、己が得た違和感を語っていく。本当に恐ろしい事に、風間は一見すると下忍程度、しっかりと見ても中忍程度の力量に見えるような隙を見せている。が、ここで更にしっかりと全体像を把握すると、それが見事としか言い得ない領域で構築されている事に気付けた。


「ここからは本当におそらく、なのだが。風間殿が使っている隠形は組み換え・・・とでも言うべき物が可能なのではないか? 隙は力量不足の隙ではなく、隠形の術式を組み替える為の敢えて言えば隙間。術式の構築をその隙間を使い、組み換えられる。が、その更に奥。隙間が見えた奥にも本当の姿に思わせた別の隠形まで潜んでいる。情けない話であるが、オレでも、そしてこいつでも真実の姿にはまだたどり着けていない」


 カイトは風間の施している隠形に対して、絶賛を以って評価とする。それほどまでに風間の隠形は見破れない。隙を見付けてくぐり抜け、正体にたどり着いたと思ったら更にその奥にまだあるのだ。

 しかもこれが正体と言わんばかりに隙が無い。そこをくぐり抜け正体にたどり着けたと思っても、それが巧妙に隠蔽された偽装だということさえある。


「まず、十重二十重。そして正体と思わせる為の偽装を膜にして更に十重二十重。更にその奥に、と見える。興味本位であるが、何重なのか出来れば教えて欲しいものだな。そしてこれであれば、おそらく超忍どころの領域ではない実力者であるはずだ。風魔小太郎の名を継ぐに相応しい実力と思われる」

「・・・」


 全てを語り終えた後。しばらくの間沈黙が舞い降りる。が、それを破ったのは、風魔側の風間だった。そうして、彼は拍手を幾度かした後、服に手を掛けてそれを脱ぎ捨てる様にして一度カイトの視線を外す。


「お見事だ」


 布が晴れた先。先程までのくたびれた様子はどこへやら、一人の美丈夫が現れる。目つきは鋭く、鋭利な刃物を思い起こさせる。顔立ちは凛としており、眉目秀麗という単語が良く似合った。

 が、勿論これもまた魔術による偽りの姿だ。真の姿というわけではない。先程の風間と同じなのは、背丈ぐらいだろう。それこそ体躯さえ変わって――こちらはかなり引き締まっており、彫刻の様でさえあった――いる。ここまで見事だと流石は風魔忍者との賞賛しか出来ない。

 風間という男は客を出迎えたりする場合に使う為の見せかけということなのだろう。そしてやはり長として立つなら立つで必要な性格や思考はあろう。それを行う為に最適な姿が、これだと言うにすぎない。

 現に風格は風魔の長に相応しいだけの風格があったし、少なくとも先程の偽物の小太郎よりも遥かに風魔の頭領に相応しい。そうして、本物の小太郎は雲雀と緋和の間に腰掛けた。


「まずは、謝罪しておこう。測った事、申し訳ない」

「いや、そちらの立場であればオレを測るのは当然の判断だろう。気にするな」

「かたじけない。我が名は風魔小太郎。第十五代目・風魔小太郎だ。この姿の時は主に横浜で古美術商を営んでいる。もし我らに何かあれば、そちらにこられよ。貴殿らであれば歓迎しよう。この横の二人も常にはそちらに居る。常には、先の偽の小太郎が総支配人として、本物の女将と共にここで働いている。いや、どちらも忍なので本物というのはおかしな話であるが」


 小太郎は深々と頭を下げ、その後カイトへと一枚の名刺を手渡す。名刺には先の風間と同じ名前で、横浜市にあるとある古美術店の名が記されていた。

 どうやら本物の小太郎その人はこちらに居るのではなく、横浜にまた別の拠点がありそちらに居るらしい。確かにここは隠れるには良いが、情報収集には些か不便だ。そこを考えれば納得も出来る。

 忍である以上、世界の情報は常に仕入れねばならないだろう。常日頃は都会に出ていても可怪しくはない。とは言え、ここも重要である事は事実だ。おそらく偽の小太郎は彼の腹心の部下という所だろう。それを受け取りつつ、カイトも自己紹介を行う事となる。


「かたじけない。ブルー、もしくは葵。どちらでも良い。偽名だが・・・」

「こちらも偽名故、そこは問わぬ。所詮は風魔小太郎という称号。長の名に過ぎぬ故」

「そりゃ、有り難い。どうにせよ語れんがな」


 カイトは小太郎の言葉に一つ笑う。そうして簡潔に自己紹介を交わしあった後、小太郎が僅かに事情の説明をくれた。


「清明殿の式神より詳しくは聞いている。頼光殿の頼みにより、風魔の里の奥深く、封魔の地にある封印されし者を呼び起こすとか」

「ああ。それで、ここらを治めているという貴殿らに会いに来た。土地の管理者に挨拶をせねばならんだろうからな」

「かたじけない」


 カイトの心遣いに小太郎は頭を下げる。というのも、ここは本来金時が管理している土地だ。故に彼の許可さえあればカイトは自由に行動出来る。当たり前だが金時と風魔では金時が遥かに格上だ。が、そこを風魔を慮って一言言いに来てくれたのであれば感謝しておくべきだろう。


「それで封魔の地であるが、たしかにそこは我らが金時殿より管理を任された地。詳細であれば我らが把握している。行かれる際はお声がけをくれれば、道先案内を我ら風魔が請け負おう」

「かたじけないが・・・良いのか?」

「我らとて我らの里の近くに古くの説話に語られる者が封じられていて良い心地はせん。原因が一つでも取り払われるのであれば、協力は惜しまぬ」


 カイトの問いかけに小太郎はそう告げるが、その言葉にカイトは首を傾げる事となった。


「原因が一つでも?」

「む・・・聞いてはいなかったか。うむ。封魔の地と言う様に、あそこには幾つもの魔が封じられている。幸い清明殿のお力により封ぜられているが、その数は一つや二つではない」

「・・・おーい、清明ちゃーん。オレ聞いてないぞー」


 カイトは視線をゆっくりと清明へと向ける。が、その清明はそう言えば、と思い出した様子だった。


「あ、ごめんごめん。言い忘れてた」

「と言うかその顔は言い忘れていたではなく、すっかり存在を忘れておったという顔じゃな」


 てへっ、と照れ臭そうにカイトから視線を逸した清明であったが、そちらの先に座っていたティナにより詳細を言い当てられる。というわけで、仕方がなく小声で頷いた。


「・・・うん。なにせもう最後に封じた奴だって数百年も前の事だから・・・わ、私おばあちゃんだから古い記憶は・・・ね?」

「清明よ、では妾が大婆様と申すか?」

「あ、えっと・・・そうじゃなくて・・・」


 楽しげにどうなのだ、と視線で問いかける葛の葉に対して、清明はしどろもどろになりながらどうすべきか対処に困る。とまぁ、それについてはどうでも良いのでカイトはそのままにする事にして、小太郎へと向き直った。


「と、この通り清明殿がボケを発症されたご様子でな。完全に聞いてなかった」

「の、様子。まぁ、封印にほころびは無い故、問題はない」

「い、一応、それは地脈に直接繋げてるから、皇家にあった殺生石の欠片の様に経時劣化は無いはずだよ。あれ、各地に散っていた二つを移送してあそこに強引に置いたものだから・・・」

「のう、清明。とっとと答えぬか」

「あ、あの・・・その・・・ごめんなさい・・・」


 カイトと小太郎の会話に口を突っ込んだ清明であるが、その後の楽しげな葛の葉の問いかけには身を縮めるしかなかった。


「はぁ・・・まぁ、そういうことなら敢えて封を切る必要も無いか。オレが用があるのはとりあえず丑御前ただ一人。そこに案内してくれればそれで良い」

「わかった。そこへの案内は我ら風魔に任されよ。とは言え、今すぐと言って今すぐ行けるわけでもない。何分話が出たのが昨日故、こちらの準備が整っていない。出来れば明日の朝一番としたいのであるが、頼めるか?」

「金時殿よりは魔物が出るとは聞いていたが、詳しくは現地の者達に聞けと伺っていた。管理している者に聞くのが一番正確だろう、と。そちらがそういうのであれば、それに従おう」


 カイトは小太郎の申し出を受け入れる。別に案内がなければ行けないとは思わないが、万が一に何かがあっても困る。詳しい話は金時から聞いていないし、封魔とまで言うのだ。下手に別の怪異の封印を解いてしまってもカイト達としても面倒だ。

 なお、金時が語らなかった理由は下手に先入観を与えると拙いと判断したからだ。金時は一応ここの管理者であるが、この通り実質的な管理は風魔忍達に預けられている。なので風魔の者達に聞け、という事なのであった。


「かたじけない。そういうことであれば、明日一番に部屋へと手の者を送ろう」

「わかった」


 カイトは小太郎の申し出に応ずる事にする。道先案内人を務めてくれるというのであれば、それに従っておくだけだ。そして部屋については男一人別室――清明も一応男として知られているがそれはそれ――というわけにもいかないので、全員一緒くただ。


「では、そちらについてはそれで任せる。こちらは明日に備え、色々と準備を行っておく」

「承知した」


 カイトの言葉に応ずると同時に、小太郎以下全員の忍達が消え去った。準備に入ったという事なのだろう。彼らとしても里の安全をより一層確保出来るという利益がある。手抜かりは無いと考えて良いだろう。とは言え、残っていた者も一人居る。それは雲雀だ。


「では、こちらへ。お部屋へ案内致します」

「かたじけない」


 カイトは雲雀の案内を受けて立ち上がる。宿は元々清明が確保してくれており、この旅館の中にあった。幸いと言うかなんというか、裏世界に関わる者達は急な来客に対応出来る様に幾つかの部屋に偽装の予約を入れているらしい。そもそもこの一帯を管理しているのは彼らの側だ。偽装は余裕であるし、ここらは必要経費だ。

 やはりこういう稼業だ。どうしても身分を隠して動かねばならない事も多く、来訪が唐突になる事は多い。かと言ってそれで碌な持て成しも出来ねば彼らの側の不手際になってしまう。

 特に相手は神やそれに連なる者も多いのだ。急な来客でも対応出来る様にしているのは、この裏世界だと普通な事だった。

 カイト達とて天神市の中に幾つか邸宅を保有していて、誰かが唐突に来ても大丈夫な様にはしてある。例えば清明や葛の葉が天神市に遊びに来た場合は、そこを使っている。なのでそういった類の部屋をカイト達も使わせてもらう事にしたのであった。そうして、カイト達はその日は風魔の里にて一泊する事にしたのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

*活動報告はこちらから*

作者マイページ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ