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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第14章 二年目の夏編

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断章 第7話 真説・丑御前の御本地・2

 源頼光の招きを受けて、彼が隠れ住む山奥の邸宅へと足を運んでいたカイト。彼はそこで、頼光その人より、歴史からは抹消されたある出来事についてを語り聞かされていた。その話は頼光の父・満仲が存命でまだ頼光が元服した頃から、始まっていた。


「さて・・・こうして親父殿は兎にも角にも牛頭天王の降臨を狙っていた者達の企みを阻止し、というわけなのだが・・・まぁ、この一件が元で父は藤原家に気に入られ蔵人となり、他の武士達には色々と疎まれもしてな。後々に放火等にもあったが・・・いや、これは良いな。話が飛びすぎたか」


 頼光は一つ笑い、これは今は置いておこう、と話を横に置いた。ここらは学術的にも研究がされている事だし、大凡はその通りで良い。なのでカイトとしても気にする必要も無かった。


「話を戻すと、とりあえず親父殿は牛頭天王の降臨を狙った者達の企みを阻止した。さて、こうなると問題となってくるのが、先の姫だ。良くも悪くも生成りに成り果てた。こうなってくると如何に元がやんごとなき立場の姫であろうと朝廷では扱いきれぬ。勿論、どこも引き取りたくはない。嫁に、なぞ以ての外だ」

「清明が封印しなかったのか?」

「したとも。勿論な。が・・・やはり牛頭天王の力は強大だった。残る残滓でさえも、な」


 カイトの問いかけに対して、頼光ははっきりと頷いた。一時的とは言え神をその身に降ろしたのだ。喩えその強大な力を封じたとて、その残滓として彼女の身には莫大な力が宿っただろう事は想像に難くはない。

 こんな危険人物を時の帝が起居する内裏の中においておく事は出来ないだろう。もし万が一暴走すれば、それこそ危惧していた事が現実となる。それでは防いだ意味がない。確かに、扱いに困ったのは考えるまでもなかった。


「さて・・・そうなると時の帝もどうするべきか、と嘆かれる。ああ、実はこの姫君は時の帝の孫娘であらせられてな。父はとある親王殿下であった。随分と可愛がられていたとは、出世した後の親父殿より聞いた話だ」

「なるほど・・・そこで、丑御前の御本地の発端に繋がるわけか」

「そういうことだ。やれ殺すべきだ、と言う勢力といや、ここは帝のお心を慮りどこかで安静にしていただくべきだ、という勢力がせめぎ合う。で、この戦いに勝った結果、ついでという事で親父殿は蔵人(くらんど)に命ぜられる事になったわけよ」


 頼光は事の重要な所を語らず、結論だけを述べる。が、それでもカイトも察する事が出来た。


「満仲殿が保護した、というわけか」

「そういうことだ。流石に親父殿も幼子を手に掛けるのは忍びなくてな。高明(たかあきら)殿は殺せとお命じになられていたそうだが、密かに女中に命じて匿っていた」

「そういうことか」


 なるほど、とカイトは頼光の説明に納得する。カイト達が何度か述べた浄瑠璃の『丑御前の御本地』。これでは頼光の弟が元々鬼子であり、父である満仲が殺そうとしたものの女中が不憫に思い匿ったとされている。それはこれが転じた話なのだろう。

 なお、高明とは後の左大臣である源高明(みなもとのたかあきら)の事で、当時の満仲の上司だとされている。そしてここがわかれば、一つの推測が立てられた。


「ということは・・・お父君が高明の事を兼家に密告したという話は」

「まぁ、そういうことだ。この折り、こちらの意向を道兼殿が汲んでくれた事を親父殿はひどく感謝していてな。逆にこの一件で高明殿とは少々、仲違いをしてしまってな。その縁で密かに鞍替えをした、というわけだ。弟達も事情は知らぬまでも幼子を害そうとする高明殿はあまり好まず、というわけで一族揃って疎遠になってしまったのだ。悪くない御仁ではあったのだがなぁ・・・何を思われたのかは、俺にもわからん」


 頼光は歴史の裏側に沈んだ密告の真実を語る。左大臣・源高明と摂関政治を築いた藤原家。この両者の政争は最終的に、『安和の変』と言う事件で決着が付く。

 勝者は歴史にある通り、藤原家。その際に源高明が事件に関わっていたと朝廷に密告したとされているのが、頼光の父・満仲なのであった。その原因がこれなのだろう。

 そもそも頼光の生まれた年代――950年前後――を考えれば、この歴史から消された事件は『安和の変』が起きる数年前だ。おそらく村上天皇の崩御間近という所だろう。そこからすぐが『安和の変』である事を考えれば、この事件での姫君の扱いが両者の遺恨となっていても不思議はなかった。


「まぁ、そういうわけでなぁ・・・これがその後の密告に繋がるわけだが、兎にも角にもこの時の争いは藤原家の勝利に終わった。つまり、助命だ。これは親父殿は単なる同情心で保護したわけであるが・・・うむ。まぁ、これは良い方策だったのだろう。お陰で随分兼家殿の覚えが良かった。おそらく、道長の奴と知り合えたのもそれ故だろう」

「ふむ・・・つまりは藤原兼家に連なる姫だったというわけか」

「そういうことでな。母は藤原家の姫、父はとある親王殿下。道長の奴とはかなり近い続柄になるそうだ。ああ、親の名は語らせてくれるな。すでに誰もが死しているが、墓場まで持っていくというのが時の帝と親父殿との約束なのでな」

「わかった」


 どうやら、この話というか両親の身分については墓場まで持っていく事にしているらしい。祖父が帝だというのなら、間違いなく物凄い高貴な身分と察するに余りある。今ここで語る気は無い、とはっきりと断言していた。というわけでそれをカイトが了承したのを受けて、頼光は更に続ける。


「とまぁ、そういうわけで兼家殿の信頼を期せずして得た親父殿なのであるが、一方の時の帝や兼家殿らもこの姫君の扱いに困っていたのは事実でな。さて、どうするかとなった時、そのままウチで保護しろ、という事になった」

「体の良い厄介払いか」


 カイトの単刀直入な答えに、頼光は苦笑気味に頷いた。助命してくれたのは嬉しいが、藤原家とてやはり牛頭天王の力を持つ姫なぞ扱いきれないのは事実。そして自分達の手元に置いておきたくないのも事実だろう。

 だから、彼らとて最初から何処かで安静に、という体の良い幽閉と進言していたのだ。それで考えれば処遇が決まるまでの間何も問題を起こしていない満仲の家というのは丁度よい隔離場所だったのだろう。万が一に暴走してもその時は、その事件で神の怒りを買ったのだ、とでも吹聴すればさほど疑われない。


「そういうことなのだろう。どうせすでにその頃には何も知らぬ弟達もその姫に懐いていたし、逆もまた然りであった。後に生まれた頼信(よりのぶ)等は実の姉と慕い、実の姉で無い事についぞ気付かぬ程だった」

「いや、実際俺も姉さんが源家の生まれじゃねぇってのを聞かされたのは、姉さんが牛鬼に流転してからだぞ。それもその道中に語られた話で、思い返せば結局大旦那も兄貴も一切語ってねぇんじゃねぇか?」

「ははははは」


 金時の言葉に頼光は大いに笑う。どうやら、その通りだったらしい。そうして一頻り笑った後、頼光は酒で口を潤すと話を続けた。


「まぁ、そういうことなのでな。それ以降、そのやんごとなき姫君は我らの家で暮らす事となった。その折、名付けられた名はカヤという」

「牛頭天王の『除災の法』、(かや)の輪が由来か。確か茅の輪を作り赤絹の房を掲げ、という」

「その通り。名は今風であると言えば今風であるが・・・それは偶然なのだろう。牛頭天王の力から逃れられるように、という親父殿と清明殿のせめてもの願掛けであったらしい」

「なるほどな・・・」


 確かに、道理ではある。そのカヤというらしい姫君は牛頭天王の力にその身を蝕まれている。牛頭天王の逸話に倣い、厄除けを願っても不思議はなかった。


「とは言え、ここら牛頭天王のご加護かは知らんが、カヤの奴はその後は健やかに育った。そうして数年を経て俺が綱と貞光(さだみつ)と共に諸国を少し練り歩きこの金時を見付けたりしたわけだ」

「木こりに扮した貞光は結構見ものだったな。似合いすぎだ、あいつ」

卜部季武(うらべのすえたけ)殿は同行されなかったのか?」

「ああ、そういや居なかったな」

「ああ。奴は俺が出る時は留守を守る事が大概でな。そう言う意味で言えば、酒呑童子に合う時に必ず四天王が全員揃っていた事は珍しい」


 金時の言葉にそう言えば、と頼光が少し懐かしげに笑う。と、そんな所に童子切が口を挟んだ。


「季武殿は本来、坂上季武(さかのうえのすえたけ)と呼ばれました。私は元来、その縁により頼光殿の佩刀と」

「坂上・・・ということは祖はかの征夷大将軍・坂上田村麻呂か?」

「はい、そうなりますね」


 カイトの推論に童子切は頷いた。かつて童子切は鈴鹿御前と戦った後に坂上田村麻呂により、伊勢神宮へと奉納されているという。その後夢での神託により伊勢神宮より頼光が下賜されることになるが、子孫である季武が一同に加わっていれば話は進みやすいし、伊勢神宮としても子孫の主に、と授けやすいだろう。そうして一度話が少しだけ脱線した後、再び頼光が本題に話を戻す事にした。


「話がズレたな。そう言うわけで気付けば今でいう四天王となる金時、季武、綱、貞光が揃う事になったわけだ」

「その頃にまぁ、少し噂になり始めていたのが大江山の盗賊達。酒呑童子の野郎だった」


 金時は非常に懐かしげだった。どうやら、この頃に酒呑童子達も有名に成り始めていたのだろう。


「うむ。どういうわけか我らの結成とほぼ時同じくして、奴らも集った様子でな。元々は酒呑の四天王は鬼の暴れ者達だったらしいのだがそれを奴が・・・おい、金時。話がズレたぞ」

「っと、すまねぇ。どうにも最近奴の事を思い出す事が多くてなぁ」

「まぁ、茨木の奴が表舞台に立つようになったからだろう。奴も本当に成長し・・・だからズレると何度言えば・・・」

「と、悪い悪い」


 頼光の叱責に金時が照れ臭そうに笑って謝罪する。どうにも酒を飲みながら昔話をしている所為か、色々と話が飛びやすいようだ。カイトも興味がある事もあり敢えて脱線させている節もある。所詮酒飲み話なのでこれでも良いのだろう。


「戻そう。奴との酒飲み話で聞いた話はまた今度だ。それで畿内に戻ってからはカヤが無作法者だった金時にみっちり礼儀を教え、真面目で頑固一徹な綱に呆れと色々としている間に我らもそこそこ名を上げるようになってな。いつしか、怪異があれば我らに預けよ、と言われる程にまでなっていた」

「かの頼光と頼光四天王による怪異退治の物語か」

「うむ。幾つか脚色や加えられているのはあるが、大凡はそういうことだ」


 カイトの言葉に頼光は頷いた。どうやら頼光四天王の活躍の裏で甲斐甲斐しく世話をしていたのが、そのやんごとなき姫君ことカヤという女性だったようだ。

 後に詳しく聞けば四天王は金時を除けば全員、彼女を妹のように可愛がっていたらしい。金時は姉のように若干恐れながらも慕っていたそうだ。

 金時が姉のように慕ったのは彼だけはカヤより年下で、恐れたのは教育者であったと同時に牛頭天王の力の所為で怪力無双にして土着の雷神の子である金時とて逆らえない存在だったかららしい。無作法を時に口で窘められ時に物理的にぶちのめされ、という事だそうだ。


「まぁ、そんな生活をしてあの牛頭天王の降臨から十年か、二十年か。いや、二十は些か盛ったか。とりあえず俺も妻を娶り、カヤもそろそろ良いのではないか、と婿取りを考えた頃か。多くの者達が、それこそ親父殿さえ事件を半ば忘れ去った頃だ。それが起こった」


 頼光は僅かに悲しげに、その時の事を思い出す。まさに、天災は忘れた頃にやって来る。もう安心だと思っていた牛頭天王の力(天災)が目覚めたのである。そして同じような顔の金時が話始めた。


「何時だって、俺たちにでかい事件が起きるのは雨の日だ。それも豪雨。その日は牛頭天王の雷が似合う、土砂降りの雨の日だった」

「まぁ、それ故に雲に隠れて見えなかったが、星の巡りが悪かったのだろう。本当に唐突にカヤの周囲に雷が降り注ぎ、牛頭天王の影がカヤの背に映り込んでな。そこからは、あっという間であった。柔和であったカヤの性格が唐突に牛頭天王の荒々しい物へと変貌を遂げ、屋敷を荒らして雷雲に乗って東に逃げていった」

「あの時、俺がいりゃなんとかなったのかもしれねぇがなぁ・・・」

「言うな、金時。あの時お前がいれば、そして万が一抑えきれていれば親父殿はおそらくあの場で殺せと命じていたはずだ。それを為せなかったのであれば、カヤはあそこが死に場所ではないという天からの思し召しであったはずだ」


 頼光は嘆きを滲ませる金時に対して、首を振って慰めを送る。やはりここらは二人にとって――そして童子切にとっても――未だ癒えぬ痛みだ。あまり語り合う事が無かったようだ。


「・・・すまねぇ」

「いや・・・そういうわけでな。流石にこれは拙いと親父殿が下知を下し、俺や四天王がカヤを追いかける事になった。何分軍は情報封鎖の観点から引き入れんし、足も遅くなる。なので5人だけだ。そうして目撃証言を頼りに東へ東へ向かう事、幾日か。とある川の麓でカヤを見つけたが・・・うむ。どうしようもなかった」


 頼光が苦渋を滲ませる。当たり前だが、相手は牛頭天王の力を宿した生成りだ。如何に神がかった力を持つ頼光達とてまともに戦ってどうにかなる相手ではなかった。とは言え、それはわからなかったわけではない。なにせ十数年も一緒に暮らしていたのだ。相手が強敵である事はわかっていた。だから、きちんと手は打っていた。


「そこでな。無理を言って清明殿の式神に同行してもらっていた。彼・・・いや、彼女なのか? む・・・いや、もうこの際どうでも良いか。とりあえず清明殿に助力を頂いておいたのだ。幸い、当時はそこそこ名が知られていたお陰で清明殿より助力を求められる事があってな。こちらからの申し出を快く受け入れてくれた」


 頼光と清明は別世代であるが、活躍した時期は重なっている。一応歴史によれば頼光の父・満仲の9つ下が清明――通説では921年生まれ――となる。時代としては合致している。

 これは参考となる資料で満仲の生年が更にその父の生年を遡る事を考えれば可怪しいのであるが、それを差っ引いても満仲と清明はほぼ同時代に活躍していたと見て良い。

 であれば必然、同時代で同じように怪異に対処していた満仲の息子である頼光と知り合っていても不思議はないだろう。そうして、頼光の言葉を金時が引き継いだ。


「あれは快くって言って良いんだか・・・まぁ、兎も角。俺達の嘆願を受けた奴さんが考えたのが、地脈を用いた封印だ。場所は、足柄山。俺の地元だ。大旦那には殺せと命ぜられていたが・・・どうにも、俺達には出来なかった」

「かと言って、どうしようもない。鬼の生成りならまだしも、神の生成りなぞ我らで解く事は出来ん。かと言って、このまま暴れさせるのはカヤにとっても不憫。俺が、清明殿に申し出た」


 どうやら、封印というのは頼光達にとっても苦肉の策だったようだ。とは言え、殺したくないのであれば、それしか無かったのは事実だろう。

 相手は曲がりなりにも神の力だ。半神半人である金時でも、当時の実力では勝てる可能性は無かっただろう。特に金時からすれば見知った相手という不利が付き纏う。

 尚更、彼らに勝ち目は無かったと思われる。とは言え、それは清明も理解していたはずだ。それ故に、金時の生誕地である足柄山を選んだのだとカイトは理解した。


「なるほど・・・土着の雷神が居たのなら、牛頭天王の力を抑制出来る力場の様な物はあるか」

「そう、清明殿も考えられたようだ。そこで金時が牛頭天王の力を抑えつつ、我らがその怪力を抑え込んで足柄山にまで追い込んでな。その奥深く、金時が生まれた場所にて清明殿の力を借りて目覚めぬよう封を施した」

「が・・・大旦那にゃ流石にそんな事は言えねぇ。そこで、兄貴はカヤの姉貴を討ったって事にしてな」

「大方、親父殿も気付いては居ただろう。清明殿が動いた時点で、大凡の結末まで理解はしていたはずだ。父としての情はあった、と言って良いのだろうな」


 金時と頼光は二人して、満仲の親としての情に感謝しておく。おそらく、満仲も引き取っている内に情が湧いたというわけなのだろう。というわけで公的には太平記に記されるように討伐せり、となったというわけだった。


「まぁ、それは良いだろう。そこでカヤを封じた地には椿を植え、彼女の名を椿姫(つばきひめ)と改めて荒御魂(あらみたま)となった彼女を鎮める事にした。おそらく今で言う所の椿の化身というのは、この話が伝わって出来た物なのだろう。あれは椿が好きでな・・・いや、椿の魔を払う力を好んだのかもしれん。ゆえに、我らもそれに倣いカヤの名を椿姫と改めたのだ」

「っ・・・」


 カイトは一瞬、顔を顰める。この名は、奇しくも彼にとっても痛みの名だ。奇妙な縁を感じざるを得なかった。そしてそのしかめっ面に気付いた頼光が問いかける。


「どうした?」

「いや、なんでもない。いや、関係が出るかもしれんが、今はまだ良い事だ」

「そうか・・・とは言え、大凡語るべき事は語った。そこで、願いは一つだ。椿姫を・・・カヤをなんとか出来ないか? 八百万の神々と縁を結び、遥か彼方の魔女と縁を結ぶ貴殿なら生成りを救う事も出来るやもしれんと思って、このように呼び寄せた次第よ」


 頼光が改めて、今回の本題を述べる。如何にカイトでもここまで話される必要もなく、大凡は理解していた。だからこその関係が出るかもしれない、という発言だった。そして、答えは決まっていた。


「承ろう。どこまで出来るかは不明であるが・・・出来る限りはやってみよう」

「即断したようだが・・・良いのか?」


 殆ど悩む事もなく決断を下したカイトへと、金時が問いかける。安請け合いしている様には見えなかったが、やはり決断が早ければ疑問に思うのも無理はないだろう。


「ああ・・・実は色々とあり椿と名の付く少女は救うと心に誓っていてな。その名が出てしまっては、手を貸さざるを得ん」

「何かあるのか?」

「少々、な。大昔のガキの時分に救えなかった少女の名が、その名だ。その少女の身代わりというわけではないが、どうしてもな。その名を聞けば、なるべく救えるように努力してみようと思っている」

「そうか・・・かたじけない。それは椿姫にとっても幸運であったという事なのだろう。そろそろその身に宿りし魔を払え、という天からの思し召しであったのかもしれん」


 カイトの語った内容は地球ではここで初めて語られる内容だ。ティナ達が語った事もないだろう。純粋に運命だったとしか言い得ない。

 であれば、カイトの結論も一つであったわけだ。そうして頭を下げた頼光の依頼を受けて、カイトは数日後、足柄山へと向かう事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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