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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第14章 二年目の夏編

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断章 第3話 京都へ

 さて、カイトが日本に帰って来た当日は、とりあえず光里と忍の両名に振り回されるだけでなんとか終了する。が、何も起きなかったのはその日だけで、その翌日には早速と言わんばかりに騒動がやってきた。


「・・・わーったよ。そちらに向かうと言っておいてくれ。だからそんな言わなくても会いに行くって」


 朝一番に入ってきたのは、陰陽師達を介してのアポイントだった。その相手なのだが流石にカイトも無碍には出来ない相手だったらしく、朝一番ということもあり少々めんどくさそうではあったが早速出る事になった。


「おーい、お前ら。ちょいと京都来いってお呼び出し来たけどどするー?」


 カイトは寝ぼけ眼をこすりながら、横で眠るヴィヴィアンとモルガンの二人に問いかける。せっかく美少女に囲まれて夏休みの初日と惰眠を貪るべく眠っていたというのに、朝一番からこれである。せっかくのお休みが台無しだった。とは言え、相手を考えれば行かねばならない。


「んー・・・いかなーい・・・くー」

「あはは・・・私もちょっと流石に遠慮かな」


 完全に寝言で反応したモルガンに対して、ヴィヴィアンはそれに半笑いで笑いながら少しだけ眠そうに首を振る。相棒だから、と言ってもいつもいつでも一緒というわけではない。

 基本的に全員が好き勝手にしているのだ。冒険の匂いがすると、二人はカイトの相棒として一緒に来るだけだ。こういう明らかに冒険ではなさそうな状況では同行しない事も多かった。


「えー・・・オレ一人ー?」

「あん・・・もう。だって今からでしょう?」


 カイトにじゃれつかれたヴィヴィアンは楽しげにしながらカイトへと問いかける。それに、カイトはヴィヴィアンを抱きかかえながら頷いた。


「まな。流石に一時間後に来いって言われちゃぁ、さっさと用意するしかねぇさ。相当大御所が動いたらしくてなぁ・・・流石に斟酌してやらねぇとな」

「流石に夏だとお客様の前にはシャワーの一つも浴びたいからね。そしてそうなるとどうしても一時間じゃあ・・・ね」

「残念。オレはお前の汗の匂いも嫌いじゃないんだけどな。お前らの甘い香りに感じるから」

「あはは。カイト、変態くさいよー」


 後ろから己の首筋にキスするカイトに対して、ヴィヴィアンが楽しげに笑う。とは言え、いちゃついていられる時間はそうは長くない。というわけで、カイトも適度な所で引き上げた。


「ま、仕方がない。オレ一人で行ってくる・・・モルガンは後で文句言うだろうけど、そこんとこよろしく・・・あ、もしティナが朝飯に姿見せなかったらぶん殴りに行っといて」

「あはは。うん、わかった」


 カイトの要請にヴィヴィアンが頷いた。何気にモルガンは付いて行くかどうかは別にして、一言も無し置いていかれると拗ねる。が、今回はきちんと聞いている。モルガンが寝ているだけである。


「ちょっと図書館行ってくる。部屋暑いし今日も今日とてセミ煩いからさー」

「はーい、いってらっしゃーい。あ、もし海瑠が行きたがったら後で私も行くねー。夏休みの宿題で読書感想文、あるって言ってるし」

「はいよー。多分奥の方で勉強してる」


 カイトは綾音にそう一応言っておくと、一人外に出る。受験生の良い所というべきか、そしてカイト自身がきちんと結果を出しているからと言うべきか、図書館で勉強すると言われれば綾音も素直に信じてくれたようだ。


「さて・・・」


 カイトは家を出るなり、即座に本来の姿に戻る。そうして、カイトは一人で東京の大空へと舞い上がる。久方ぶりの一人旅である。まぁ、目的地も全部が決まっているのでさほど珍しい事があるわけでもない。


「さて・・・」


 カイトは東京上空へと舞い上がると、そのまま少しの間西へと飛翔して移動する。西へ向かう理由は蘇芳翁へと会っておく為だ。そうしてたどり着いた彼の邸宅では、彼が朝一番の鍛錬を行っていた。

 というわけで、普段着である着物の上を脱いでいおり、年齢不相応の筋骨隆々の体躯には珠のような汗が浮かんでいた。


「おーう、爺。おはようさん。朝一番から暑っ苦しいな」

「おお、おはよう。で、早速来おったか。連絡があったそうじゃな」

「ああ、まぁな」


 蘇芳翁はどうやら事情を理解しているようだ。朝一番の鍛錬を一度切り上げて、歩き始める。向かう先は武具を仕舞っておく為の倉庫の様な場所だ。そうして、カイトを伴って倉庫へと入った彼は立て掛けられている幾つかの武器を見渡して、目的の物を探し始める。


「えっと・・・まずはこれと・・・ほれ」

「あいよ」


 蘇芳翁がまず手に取ったのは、小型の斧の様な物だ。いわゆる、まさかりである。それをカイトが受け取ると、更に別の物を探し始めた。


「あれは・・・こっちじゃな・・・おお、あったあった・・・うむ。調整は十分。これで良かろう」


 次に蘇芳翁が手に取ったのは一振りの刀だ。とは言え、刀と言っても今で言う所の日本刀の特徴的な点である反りがある物ではなく、どちらかと言うと直刀に近い拵えだ。

 とは言え、それも無理はない。これは蘇芳翁達戦国乱世の世に活躍した刀鍛冶達の拵えよりも更に前。まだ武士の世ではなかった時代に作られた物だったからだ。


「『童子切安綱(どうじきりやすつな)』か・・・物凄いな」

「もしくは『血吸(ちすい)』じゃな。」


 二人はその刀の銘を口にする。そう、これは天下五剣の一振りにして、かの源氏の棟梁が代々携えた一振りだった。

 何故それがここにあるのか、というと蘇芳翁に調整が依頼されていたからだ。裏世界においては地球一の刀匠とさえ言われる彼に天下五剣の調整が依頼されるのは、なんら不思議のある事ではなかった。


「歴史に消えた真の天下五剣。その一振りか」

「うむ。見事な拵えであった」


 蘇芳翁は非常に満足げにカイトへと『童子切安綱(どうじきりやすつな)』を手渡す。受け取るカイトにも手渡す蘇芳翁にもどこか恭しさがあったのは、やはり遥か昔の名匠に対する敬意があるからだろう。

 付喪神になれる程年を経た道具であっても、刀匠や専門家等の調整が不要なわけではない。人間だって人間ドックで医者に詳細に診てもらうだろう。それと同じで、彼らも彼らの大本となる物を時折専門家――この場合は刀匠――に診てもらうのであった。敢えて言えば定期検診と考えても良い。


「それで、童子切の付喪神は?」

「今は寝ておるよ。調整の間は付喪神の方にも奇妙な感触が襲ってくるらしいのでな。基本的には、寝る事にしておるようじゃ」

「へー・・・」


 カイトはどこかで聞いたかも、と思いながらそういうものなのか、と納得しておく。まぁ、そういうわけなので、先程カイトが受け取ったまさかりは坂田金時の物だ。

 どうやら彼が頼光より受け取って、蘇芳翁へと調整を依頼したようだ。坂田金時は源頼光にとって四天王と言われる腹心の中の腹心。武士の命とも言える刀を預けてもなんら不思議はない。


「では確かに、受け取った。京都に届けてこよう」

「うむ、頼んだ。ここら宅配便で着払い、なぞと出来んからのう」

「あっはははは。お届け物でーす、で代金引換で童子切が届いたとか笑えるな」


 カイトは笑いながら、しっかりと『童子切安綱(どうじきりやすつな)』と坂田金時のまさかりをしまい込む。まぁ、これでわかっただろう。カイトを呼び出した相手とは、金太郎こと坂田金時なのであった。

 それは陰陽師達だってカイトへとアポイントを取ってくるだろう。それこそ、頼み込んだとさえ言える。ある意味彼らにしてみれば祖先と共に平安時代のあの暗黒時代の一つを戦った大英雄だ。その扱いは清明に勝らずとも劣らない。


「かかか。では、しかと渡したぞ」

「あいよ。じゃあ、ちょっくら行ってくる」

「うむ」


 カイトの言葉に応じた蘇芳翁は頷くと、彼と共に倉庫を後にする。朝一番の鍛錬の途中だったのだ。それに戻る事にしたのであった。

 その一方、カイトはというと坂田金時の呼び出しに応ずる為、京都へと転移していた。と、それを出迎えたのは公的にもカイトとそこそこの繋がりがある鏡夜であった。


「おう。よー来おったな」

「おーう。朝っぱらからお呼び出しされてるオレ様ですよ」

「世間一般は夏休みやのに、お互い大変やなぁ・・・」

「夏休みほちい・・・」

「俺もほちい・・・」


 一人の少年と一人の元少年が悲しげに京都の大空の上から夏休みということで楽しげに遊び回る子供達を見ながらため息を吐いた。カイトはまぁ、大人であるが世間一般でいう夏休みとは無縁だ。

 一応公爵だったので夏休みはあった――皇国の貴族関連法にもきちんとある――が、今年はそれも望めそうになかった。そして実家の手伝いをしている鏡夜には元々そんなものはない。


「・・・行くか」

「・・・おう」


 カイトの言葉に鏡夜もため息と共に応ずると、二人は移動を開始する。


「はー、って事は今年は少し遅いわけか。そら、紫苑にも言っとくわ」

「親父が最後の土壇場に出張入っちまったらしくてな」


 二人が話し合うのは、とりあえずこんな裏社会とは無関係な日常の事だ。今回、カイトが光里の要請に応じられた事からもわかるかもしれないが、お盆の帰宅は少々遅くなるらしい。

 どうやら何らかの仕事の都合により、少しだけ遅れるそうだ。その代わり、お盆が終わるのも少し遅くなるらしい。ということで久方ぶりに渋滞に巻き込まれなくて良いかも、とのことであった。


「まぁ、それでもお盆の本番にゃ帰れる。いや、当たり前か」

「天道、財閥やからなぁ」


 カイトの言葉に鏡夜も同意する。天道財閥は敢えて言うまでもないが、名家・天道家を母体としている。それ故お盆にはどうしても外せないあいさつ回りがあるのであった。

 後に彩斗は知る事になる――そしてカイトもこの時は知らなかったが――のだが、どうやら彼はそれに同行する様に命ぜられていたらしい。天道家での幾つかの思惑から天音家を引き上げたい覇王の思惑により、そこらの大御所勢にお目通りをさせておこうという魂胆だった。


「で、こっちはどうよ?」

「ま、なーんも変わらん。いつもどおり馬鹿やって、って所や」

「そりゃそりゃ。善き哉善き哉」


 二人は適当に駄弁りながら京都の空を飛翔する。と、そうしてたどり着いたのは、家の裏に一つの山がある少し大きめの邸宅の前だった。


「っと、着いたで」

「ここが、ねぇ・・・」


 カイトは武家屋敷と見まごうばかりの邸宅を観察する。拵えはかなり古いし、家人達もそこそこ居る様子だ。


「京都の名家の一つ、一条家。その本邸や」

「祖は源頼光。その一条邸の名を取って一条家か」

「おう。まぁ、ここらの地元の名士って所や」


 カイトの言葉に応じた鏡夜がとりあえず地面へと降りる。祖が源頼光である以上、坂田金時もここの家には関わりがある。なのでここで合流というわけらしい。そうして、鏡夜が家のインターホンを鳴らす。


『はい』

「あ、草壁の遣いです」

『お待ちしておりました。すぐに迎えが参りますので、少々お待ち下さい』


 どうやらこちらにも話は通っていたらしい。鏡夜が身分を名乗るだけで即座に応じてくれた。そうして、すぐに着物姿の一人の男性がやってきた。年の頃は60代という所。顔立ちには生真面目さと精悍さが滲んだ老人だった。


「お待ちしておりました。現当主慎吾(しんご)の父・一条 頼政(いちじょう よりまさ)です。息子は現在各所へのあいさつ回りの為、不在です故・・・」


 どうやら出迎えてくれたのは一条家の先代らしい。まぁ、敢えて言ってしまえば瞬の父方の祖父だ。それ故、どこか瞬に似た顔立ちがあった。この当時ではなく数年後の瞬に滲んでいた凛々しさが年を経て変性すれば、このような顔立ちになるかもしれない。彼も元はかなりの美丈夫だったのだろう。


「いえ、先代直々の出迎えとはかたじけない。それで、坂田殿は?」

「ご案内致します。彼は今、離れにて宿泊されております」


 カイトの求めに応じて案内を開始しようとした頼政であるが、その前に鏡夜が口を開く。


「ご隠居。自分はこれで」

「ああ、草壁の方もありがとうございました。本家よりも、また後程そちらに御礼を」

「父に伝えておきます・・・では」

「はい」


 鏡夜の言葉に頼政が頭を下げる。鏡夜の今回の仕事はカイトをここに案内する案内人だ。故にそれが終わりさえすれば、彼はここに必要無かった。そうして、再び式神に乗って去っていった鏡夜を背に、頼政は案内を再開する。


「では、こちらへ」

「かたじけない」


 カイトは頼政に続いて歩いて行く。そうして、しばらく歩けば一つのこじんまりとした離れへと到着する。後に瞬が言っていたが、どうやら客が来た時に使われる一種の客間らしい。明治時代に作られた物を改修して、使っているそうだ。


「坂田様。お客人をお連れしました」

「おう。すまねぇな」


 離れの扉がガラガラガラ、と開いて中から一人の大男が現れる。言わずもがな、坂田金時だ。


「坂田殿。お久しぶりです」

「ああ、久方ぶりだ。今回はわざわざすまねぇな」


 カイトが差し出した手を金時が握る。当たり前の話であるがかつての『梁山泊(りょうざんぱく)』襲撃においてカイトは陰陽師とは別に金時の所に挨拶に出向いている。故に久しぶりなのであった。というわけで、挨拶をそこそこにカイトは金時が滞在しているという離れへと通される。


「まぁ、流石に戦人(いくさびと)相手に語っ苦しい挨拶は抜いておこうや。とりあえず、駆けつけ三杯」

「かたじけない」

「頼政はまだ飲めねぇんだったな?」

「申し訳ありません。いくら隠居の身とは言え、この時間から飲むのは流石に家人達に示しがつきません故・・・」


 頼政は金時の申し出にすまなそうに頭を下げる。まぁ、カイトが朝一番に動いている時点でわかろうものであるが、まだ下手をすると出勤前という者達が居さえする時間帯だ。

 そんな朝っぱらから飲み交わす事は常識的に考えて拙いだろう。金時も言う様にお互いに戦人として相対するからこそなのであって、隠居の身とは言え頼政には厳しいだろう。


「ま、とりあえず」

「とりあえず」


 金時の音頭にカイトも盃を掲げる。そうして、カイトはしばらくの間伝説の一人である坂田金時との会談を得る事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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