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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第13章 過去と現在編

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断章 第67話 後始末

 今回の一件の首謀者だったニャルラトホテプはカイト達へと事のあらましをおおよそ語ると、カイトの手によって始末された。その後オークショニア達の死体やシンジゲートの構成員達の死体の始末を日本政府へと任せる事にしたカイト達はこれ以上は自分達が居ても邪魔になるだけと判断して、即座にその場を後にしていた。

 そうして、カイト達が去り日本政府の秘密工作員が来るまでの僅かな間。主の消えた場所を惜しんだかの様に、黒猫がその場に舞い戻った。


「・・・」


 舞い戻った黒猫は主が居た所を幾度かクルクルと回る。それはまるで、主を探しているかの様でもあった。が、次の瞬間。黒猫が唐突に幼子の姿へと変貌を遂げた。


「・・・うそ・・・」


 カイトの消し飛ばしたニャルラトホテプの立っていた場所を撫ぜて、幼い女の子が驚いた様子を露わにする。


「・・・」


 女の子は年に似合わない真剣な目でその場を見つめる。と、そんな所に燃える様な三つ目の蛇がするりと近寄ってきた。


『どうした?』

「・・・消滅してるよ」

『・・・消滅?』


 言われた事に理解が出来ず、三つ目の蛇が小首を傾げる。いや、消滅という意味はわかっている。が、この場でその単語が出る意味が理解出来なかったのであった。


「復活出来ない様にされてる」

『・・・ほぅ』


 幼い女の子の言葉に三つ目の蛇がわずかではない驚きを露わにする。それは、つまり。一つの事を表していた。


『我々を、殺したか。群体であり神である我々を』

「そうなるよ。間違いなく、彼は神殺しを行った」


 三つ目の蛇の言葉を女の子が認める。どういう事かは勿論両者にもわからない。わからないが、それが事実である事は変わらない。


『・・・真王の剣を使ったか?』

「・・・使った様子は無かった」


 女の子は己の記憶を再度見直して、それが使われていない事を断言する。真王の剣。それはカイトの持つ<<星の剣(無銘)>>の事だ。あれは世界の法則を破壊する物。殺せぬ神とて殺してみせる。が、それも使わずに神殺しを為し得た者は、この世界では誰一人として居なかった。


『何者だ、奴は。神殺しなぞシステム側でもそう安々と行える事ではない』

「わかんない。単体で神殺しを為し得た者を私は・・・ううん、私達は見たことがなかった」

『・・・要注意か。今後の調査において特筆すべき事項と思われる』

「同意するよ。彼は、明らかに今までのどの王様とも違う」


 何らかの方法により完全に殺された自分達の一体の跡を見つつ、二人のニャルラトホテプは頷き合う。流石にこの事態には彼らの顔にも真剣味が感じられた。

 彼らが活動を始めてより、幾星霜。億千万なぞという月日を遥かに超えた時間を経ている彼らでさえ、こんな事は一度も無かった。それが起きたのだ。真剣になるのも無理はない。と、そんな事を話していた三つ目の蛇がふと、思い出した。


『・・・いや、そう言えば。一人だけ、為し得た者が居たと聞いた事があった』

「何が?」

『神殺しを単独で為し得た男だ・・・この世界ではない別の世界にて、単独で神を殺した男が居る。そう聞いた事がある』

「<<幽玄の紅皇(ゆうげんのこうおう)>>の事?」

『それだ。そうか、その頃にはお前もいたか』

「私は貴方より古いし、報告したの私だよー」


 三つ目の蛇は女の子の言葉に頷いた。かつて唯一人だけ、カイトと同じくシステムや道具の手を借りず神殺しを為し得た男。それが、彼だった。流石にこの事件はほぼ全ての世界を駆け巡り、話題になったらしい。


「・・・っと、それはおいておいて。彼や彼の手の者はこの世界には居ないはずだよ?」

『それはわかっている。だが、その男を思い起こしただけだ・・・この世で最も<<真王>>に近い存在の一人。<<幽玄の紅皇(ゆうげんのこうおう)>>レックス・・・未だ王として立たぬ英雄。それを、思い出した』


 三つ目の蛇はある名を告げて、それを思い出したと告げる。そうして、彼は思いついたままを口にした。


『ふむ・・・ならば、それにちなみ<<夢幻の蒼皇(むげんのそうおう)>>とでも呼称するとしよう。紅と蒼。正反対故に、似た名前で呼称するのは面白い』

「好きにすればー?」


 女の子はどうでも良さげだった。まぁ、ここらは気にもならないのだろう。そうして、とりあえず得ておくべき情報の入手を終えたニャルラトホテプ達は、誰かが来る前にその場から立ち去る事にするのだった。




 一方、その頃。ニャルラトホテプ達の敵対者であるラバン・シュリュズベリイ教授を中心としたアメリカのスターズの隊員達はというと、すでにアメリカはワシントンへと帰還していた。バイアクヘーの速度であれば、この程度は造作もない事だったらしい。

 そうして初陣という事で精神的な疲労があるだろうと思われるエレン達非軍人の者達を軍医に預けると、ジャックは教授と共にホワイトハウスは大統領執務室にて報告を行っていた。


「なるほど。それはそれは・・・彼は今回、幾つもの意味で踏んだり蹴ったりだったわけだ」


 ジャックからの報告を受けたジャクソンは楽しげに今回のカイトの幾つもの不運を楽しげに笑う。今回、カイトは彼のわかっている限りでもイギリスではジャンヌ・ダルクに狙われ、日本では彼らの前で大精霊の存在を露呈させてしまい、と彼の責任ではない不慮の事故が複数起きている。

 更にこの上にニャルラトホテプのちょっかいだ。彼ならばやってられない、と言いたくなりたい状況と言えただろう。彼らとしてはカイトの正体にたどり着けるありがたい誤算ではあったが、カイトにとっては心労は察するに余りあるとわかったのだ。


「とは言え、得られた情報はとても大きい・・・大精霊。神より上の存在、か。この上更にその上に何かが居る、という事はあって欲しくは無いものだね」


 ジャクソンはジャック達が偶然にも出会えたという大精霊について言及する。流石に大精霊の存在は彼としても信じられない物であったが、デブリーフィングに同席してくれた教授がその存在を知っていた事で信じるしかなかった。そんなジャクソンに対して、教授が明言した。


「それは無いだろう、と一応は明言しておこう。ハスター等が時折言う言葉では、大精霊とは全ての存在の内で最も尊い存在だとされている。彼ら曰く、少なくとも風の大精霊に手を出せば己が眷属もろとも敵に回らざるを得ないと明言していた。その時は、ニャルラトホテプもクトゥグアも諍いをやめる、ともな」

「敵と敵が共闘し、眷属達を率いて敵に回らざるを得ない、かね・・・」


 ジャクソンは深くため息を吐いた。神様さえも、彼女らの意向には逆らえないというのだ。おそらく地球がまともであったのなら国家としての意思云々よりも彼女らの意思が尊重される相手なのだろう、というのがよく理解出来た。


「なるほど。とは言え、これで彼の横の繋がりが理解出来た。大精霊の使徒・・・契約者、というのでしたか?」

「うむ、契約者。大精霊の力を借り受けられる存在だったはずだ」

「彼は契約者だった、と・・・なるほど。存在を隠す理由も理解出来る。大精霊という存在がなぜ己の存在を隠していたかはわからないが、彼なのだか彼女なのだかブルーくんと契約していた大精霊は少なくとも自分達の存在を知られたくはなかった、という事だろう。彼の正体を隠す理由はその意向を受けての物なのかもしれないな」


 ジャクソンはそう、己の推測を開陳する。カイトが正体を隠す理由に重要な証拠を含めて推測が立てられた事は、彼らとしては非常に良い事だった。

 隠しているということは知られたくない、もしくは知ってはならない可能性があるからだ。今までは家族だなんだという彼の言葉から前者だと全員が思っていたが、大精霊という存在を考えれば後者の可能性も出て来たのである。


「ふむ・・・実に厄介だ。正体を知れば掣肘出来るしコントロールも出来るが・・・もし万が一それが大精霊という存在の意向で隠されていた場合、我々はそれに喧嘩を売る事にもなりかねない、か」

「では、彼の正体の調査は一時取りやめに?」

「それが最適だろうね。フェイくんにもそう言っておいた方が良いだろう。少なくとも彼が契約している大精霊が何なのかを判明するまでは、安易に動くべきではないはずだ。それに大戦の終結までは彼は味方だ。その後を考えて今からやっているだけ。今、やらねばならない事ではないからね。最悪は10年後に動き出しても十分に間に合う」


 ジャクソンは副大統領の問いかけに頷いた。特に第三次世界大戦を見据えた現状では、そんなどうでも良い事で彼女らの勘気を買いたくは無かった。それよりも彼女らのご機嫌を取り、今後カイトが動きやすくなってくれた方が良かったのである。

 これはおおよそ間違いの推測ではあったが、なまじ彼らが賢かった所為でカイトの事情を誤って解釈してしまったが故の幸運だった。

 ここだけは、今回の一件においてカイトにとって唯一幸運と言えた事だろう。この一件のお陰で、カイトの正体の追求が一気に緩まったのだ。お陰でカイトも動きやすくなったらしい。


「にしても、契約者、か・・・ふむ・・・」


 ジャクソンはそう呟いて、少しだけ思考の海に沈み込む。一つ彼が言えるとすれば、欲しい。大精霊の力がどのような物かはわからないが、教授の解説を聞く限りでは絶大な力を持ち合わせている事だけは事実だ。お手軽なのに、絶大な力。アメリカの現状を考えれば、是が非でも欲しい力ではあった。


「・・・そんな存在に声を掛けられた、という事は即ち、何らかの見るべきものがあるという事なのだろうね・・・」


 ジャクソンは報告会を続けているジャックを見る。そして、己の直感が間違いではなかったと確信していた。ジャックは、一角の人物を超えた人物になる。そう予感していたが、それが今回の一件で補完されたかのように思えたのだ。


「欲を言えば、契約者・・・そうでなくとも加護という力は欲しいね」


 ジャクソンは己の結論を密かに呟いた。どちらも簡単に手に入る物ではない、という事は教授の説明で彼も理解している。特に契約者はかのセラエノに秘められた知識の中にさえ、両手の指で足りる程の数しかいないというのだ。流石に彼も無理であると思っていた。

 と、そんな彼だが、そこらどうにか出来ないか策を練っていた所為で、己に声が掛けられていた事には気付かなかった。


「大統領・・・大統領?」

「ん? あ、ああ、すまないね。少し考え事をしていた。何かな?」

「いえ・・・マクレーン少佐から提案が」

「ああ、すまないね。何だね?」


 ジャクソンは副大統領の言葉に少し照れた様に笑いながらジャックへと向き直る。それに、ジャックが先程行った己の提案を述べた。


「何か、武器が必要だと思う。それでアメリカ国内の伝手を探したい、と言っていたんだが・・・」

「武器? それなら今、作らせているだろう?」

「ああ、いや・・・それも重要だが、それ以外の武器だ。身体能力を向上させる物以外に切り札が必要だ」


 ジャクソンの返答にジャックは己の説明が足りなかった、と首を振る。そうして、彼は更に続けた。


「俺たちが作れる武器じゃ駄目だ。もっと強力な武器が要る」

「我々が作る以上に強力な武器・・・?」


 ジャックの言葉にジャクソンは首を傾げた。これはカイトも認める事だが、通常兵器であればアメリカは他の国の追随を一切許さない。おそらく最低でも一世代分の差はあった。それ以上に強力な武器はこの地球上には存在していないはずだった。

 勿論、それは神々の道具を除いては、という意味である。とは言え彼らはこれを守る、という事を神様達に喧伝して助力を得ている。流石にこれを手に入れるのは本末転倒だろう。


「そんなものが我々の手にあるというのかね」

「ある・・・はずだ」

「はずだ?」


 珍しく明言しなかったジャックの言葉にジャクソンは再度首を傾げる。彼は少なくとも知らない。大統領が知らないのに存在している、とはどういう事かわからなかったのである。


「かつての大戦の折り、合衆国は日本から数々の美術品を接収したはずだ」

「ああ、確かにその通りだね。あまりに多すぎる上にあまり公にしても問題だから隠しているが・・・」


 ジャックの言葉にジャクソンはそれぐらいは知っていると頷いた。と、そうして言っていて、彼も気付いた。あるかも、しれなかったのだ。


「そうか。その中には、あるかもしれないのか。あの当時は丁度教授達と袂を分かった直後。集めるだけ集めて何がなんだかわからないまま。だが、今なら・・・」

「そうだ。日本風に言えば蔵を開ける、という事だ」

「そうか・・・確かに、あの中にはあるかもしれないね・・・」


 ジャクソンは盲点だった、とジャックの言葉に深く息を吐いた。第二次世界大戦の時、アメリカと日本は敵国同士だった。そしてアメリカが勝ち、日本は一時的にGHQという名のアメリカ軍によって統治下にあった。

 そして戦争に負けた国の当然として、日本にあった様々な物は接収と言う名の強制的な没収を受けている。その数は無数だ。山ほどある。その中に一つならずとも魔術的な品があっても不思議には思えなかった。


「流石だよ、君は。まさかそこに気付くかね・・・良いだろう。博物館には私の名で許可を出させよう。部隊全員で調べてくれ。教授、協力をお願いできますか?」

「ああ、良いだろう。ついでに来月来る予定のブルーくんにも頼んだらどうかね」

「彼にですか? あはは。流石に彼には言い出せませんよ、我々も」


 ジャクソンは教授の冗談に呑気に笑う。一応、カイトは日本人として行動している。その日本人を相手に日本から奪った物を調べてくれ、と言える程彼らも図々しくはない。

 まぁ、カイトはそこらは歴史だ、と喜んで協力してくれるだろうがそこはそれと言うべきだろう。流石に彼らにも罪悪感や恥はある。言い出せない。


「さて・・・とりあえずこれで次の方針は決まったね。スターズは次の作戦に備えると共に、博物館へ行き君たちの為の武器を探してくれ。そちらについては博物館の職員も動員してくれ」

「「はっ!」」


 ジャックとジョンはジャクソンの言葉に敬礼で応ずる。とりあえず、これで更にまた別の手札が手に入る可能性が出たのだ。こちらも急務だろう。そうして、ジャクソンは更に続けた。


「教授。そちらは次の作戦の為に動いていただきたいのですが・・・そちらの方は?」

「こちらは、なんとか出来る様にはなっている・・・ああ、その件で、だがね。ブラヴァツキー家のご令嬢から君に伝言があるのだがね」

「・・・後で、聞きます」


 ジャックは教授の言葉にかなり嫌そうな顔でそっぽを向く。どうやらそのブラヴァツキー家のご令嬢とやらと彼は知り合いらしい。が、それに教授は笑って更に続けた。


「あはは。まぁ、聞いておきたまえ。そろそろ帰ってこいとの事だ。随分と帰ってないらしいな?」

「ほう・・・君は休暇に地元には戻らないのかね」

「・・・私事ですので、それはまた別の機会に」


 ジャクソンの問いかけにジャックは珍しく一軍人として返答する。どうやら、答えたくはないらしい。調べればすぐに分かる事なので、ここらは彼の珍しい抵抗という事なのだろう。


「あはは・・・まぁ、そう言うわけにもいかなくてね。ジョン、まだ言っていないのかね?」

「ああ、そう言えば言い忘れておりました・・・ジャック。再来週からお前は夏休みだったな?」

「大佐が取らせたんでしょう。その時期に取れ、と」

「ははは、そう拗ねるな・・・それでその理由を言い忘れていてな」


 ジョンは笑いながらジャックへと改めて夏休みを取らせる理由を告げる。聞けば、この話をしている時に教授より連絡が入り、ジャック達が急遽日本へ向かう事になったそうだ。故に言えていなかったらしい。


「夏休みは表向きの名目でな。その前後も含めて、アーカムにて教授と協力してくれ。今度の作戦は我々スターズにとって初の本格的な実戦となる。事前準備は一切の不備なく整えておきたい。目標ではなく、任務は死者ゼロでの作戦終了だ。お前にはその前段階での調査から準備の全てを指揮してもらう」

「・・・了解」


 少しの苦味を滲ませながら、ジャックはジョンからの辞令に応ずる。これは軍命だ。従うしかなかった。そうしてジャックは図らずも地元に帰る事になるが、苦味の理由を知るジャクソンはそれに少し笑って頷いて更に続ける事にした。


「ははは、よろしい。では、そちらはそれで頼む。それで、我々は・・・」


 ジャクソンはその後も、色々な指示を矢継ぎ早に下していく。これら全てが、アメリカの為になるのだ。一つたりとも妥協は出来ない事だ。そうして、彼らは彼らの為、忙しく動いていく事となるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。今日からはほぼエピローグです。

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