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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第4章 楽園統一編

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断章 第6話 頭首襲名編 頭首襲名

 カイトがとある暴力団組織を壊滅させた数日後の夜。カイトは蘇芳翁から呼ばれて『紫陽の里(しようのさと)』に足を運んでいた。単独で来いという事だったので、カイト一人だった。


「随分派手にやらかした様じゃな。」


 楽しげに蘇芳翁が告げる。その手にはおちょこが握られており、冷えたお酒を呷っていた。その前にはひと束の新聞がある。どれも一面の記事はカイトが巻き起こした大騒動のニュース一色だった。それに、カイトは少しふてくされた様子で答えた。


「警告無視する方が悪い。」

「関係も無いのにインタヴュアーが煩かったぞ。」

「そりゃ、失礼。」


 楽しげな蘇芳翁の言葉に、カイトが形ばかりの謝罪を行う。厳密に言えば関係がないわけではないのだが、公に見れば二人の関係は無関係だ。おまけに今回の一件はカイトの独断で、『紫陽の里(しようのさと)』には関係が無い。


「で、爺。なんの用だよ。」

「ふむ・・・」


 挨拶もほどほどに、カイトが呼び出しの理由を問う。始め強襲の件でお小言かとも思ったカイトだったのだが、先の表情と態度を見ればそれは無いだろう。そうして理由を問われた蘇芳翁は、一口酒を口に含むと、真剣な顔でカイトに告げる。


「『紫陽の里(しようのさと)』・・・お主は『桃陽の里(とうようのさと)』の由来は知っておるか?」

「ん?・・・そりゃ、里のど真ん中にある桃の花にあやかったんだろ?春先に行った事もあるが、あそこの桃園は見事だった。」

「うむ。あの桃園も随分懐かしい・・・」


 やはり数百年も戻れていない自らの故郷は懐かしいらしく、蘇芳翁は顔に少し懐かしげな表情を浮かべる。そうして頷いた蘇芳翁が、更に続ける。


「『紫陽の里(しようのさと)』はこの里の外れにのう、紫陽花の花園があるんじゃ。儂や里の古参くらいしか知らぬ花園じゃがな。今でも開発もされずにひっそりと咲いておる。」

「・・・それは先月言って欲しかったな。」

「すまぬな。意外と風流が分かる男とは思わなんでな。」


 何処か拗ねた様子のカイトの言葉に、蘇芳翁が笑って謝罪する。紫陽花の見頃は梅雨時だ。丁度カイトが『紫陽の里(しようのさと)』に初めて訪れた頃が見頃だった。


「で、それがどうしたんだよ。」

「<<転召(てんしょう)>>。」


 カイトの問い掛けに、蘇芳翁は自らが打った刀の武器技(アーツ)で答えた。どうやらそれは転移させる系統の力だったらしく、二人の回りには紫陽花が咲く花園があった。


「は?」


 カイトの怪訝な声が夜の風に乗って消えた。と、いうのも、そこには着物できちんと着飾った菫や里の上役と思える力の強い者達が大勢居て、屋外ながらに正式な会席を整えていたのである。そうしてカイトが目の前を見れば、そこには紋付袴を着用した蘇芳翁が姿勢を正していた。


「カイト殿。一つ、頼みがある。」


 先ほどまでの温和な声音は何処へやら、蘇芳翁が真剣な表情と声音で告げる。


「この里の頭首について欲しい。」

「はぁ?」


 告げられた言葉に、カイトが怪訝な顔をする。だが、冗談ではなさそうだった。なにせ蘇芳翁が頭を下げたのに合わせて、居合わせた全員がカイトに頭を下げたからだ。カイトの承諾以外全ての合意を得たが故の行動であった。


「オレは何時か帰る身だぞ?」

「知っておる。その計画は既に聞いた。それまでで良い。その間、この里の者達に安寧をくれてやってはくれぬか?」


 頭を下げたまま、蘇芳翁はカイトの言葉を承知していると言う。カイトのプランでは、地球に滞在するのは十数年。長くとも15年というプランだった。一つの文明の根幹を成す技術を全て習得しようとするならば、いかに天才や鬼才と謳われる二人でもそれぐらいの時間が必要だった。


「どういうことだ?」

「恥ずかしい話じゃが、この里では儂以下この場の面々が最も強い。お主、この場の面々を見て、どう思う?」


 ようやく顔を上げた蘇芳翁の言葉に、カイトが集まった一同の力量を測る。


「忌憚無く頼む。」

「・・・弱い。オレなら・・・いや、ティナでも片手だけで十分だ。唯一、爺なら真打ちの村正で両手を使わせる事が出来るかも、という程度だな。オレはそれでも片手で十分だ。」


 刀鍛冶である蘇芳翁でさえ、里の強者になり得たのだ。彼らの強さの程度なぞ見るまでもなかった。カイトの本当に忌憚ない言葉に、蘇芳翁が頷いた。それは彼らも理解出来ていた。そうであるが故に、願い出たのだ。


「それ故に、お頼み申す!実務は頼まん。名と力を貸して欲しい。この里の者達はみな、弱い。隠れ住み、なんとか要らぬ輩の追求を逃れられるぐらいに、じゃ。じゃが、それでも時に排斥され、追い立てられる。それに、儂らは何もしてやれぬ。」


 つぅ、と蘇芳翁の目から涙が流れた。そうして、彼は告げる。


「先の一件を見て思った。ただ数度会っただけのおなごを守り、あそこまで激怒出来るお主なら、たとえ全てを敵に回してでも、守るべき弱者を守ってくれる。その安寧を、どうか里の者に与えてやって欲しい。」


 そうして再度、蘇芳翁が深々と頭を下げる。事情を聞き終えたカイトは深い溜め息を吐いて告げる。


「・・・少し、考えさせてくれ。」


 カイトは用意された座敷の上に座り、短くない思慮を行う。当然だが、念話でティナとも相談した。それでも、長くない思慮を行う。この展開だけは、カイトにもティナにも予想できなかったのだ。そうして10分近くも悩み続けて、ついにカイトが結論を出した。


「・・・幾つか、条件がある。」

「なんじゃ?」


 幾つもの展開を考えて、幾つもの未来を想定して、そしてついにカイトが口を開いた。


「オレの実名は表に出すな。何か別の名だ。オレは今、家族にも現状を隠している。その保護が大前提だ。」

「それは勿論じゃ。その程度は当たり前として受け入れよう。」


 これは当たり前の対処だった。それ故に、蘇芳翁達の方にも当たり前として受け入れられた。


「で、もう一つ・・・オレは知っての通り後先は考えん。喧嘩を売られたら、確実に叩き潰す。それは徹底的に、だ。日本が荒れるかもしれない。それを、覚悟出来るか?」

「委細承知しておる。それを理解した上での、願いでじゃ。」


 カイトが苦笑混じりに告げた言葉に、蘇芳翁が頷いた。すでに就任に際する事件でさえ、日本中で大きなニュースになっているのだ。それが理解出来ていないはずは無かった。


「・・・わかった。なら、この大任、引き受けよう。」

「有り難い。」


 カイトの返事を聞いて、一同が深々と頭を下げる。そうして、カイトの『紫陽の里(しようのさと)』の頭首に就任することが決定されたのであった。




 それと時同じく。だが、『紫陽の里(しようのさと)』では無い別の所の事だった。


「どうなっている!」


 とある部屋にて、大の大人の男のかなり慌てた声が響いた。周囲には他にも沢山の人影があった。誰も彼もが揃いらしい陰陽師風の衣服を身に纏っていた。


「わからん。」

「どの里だ!いや、どっちの里だ!」

「わからん、と言っている!」


 慌てた様子の男の言葉に対して、別の男が大声で怒鳴り返した。そこでの議題は、カイトが引き起こした暴力団組織の壊滅事件だった。

 それは彼らにとっては一切の動きが掴めない突発的な事件で、裏世界の警察を自認する彼らにとっては何よりもの赤っ恥だった。それ故に、大急ぎで予定の調整を行い、まだ数週間先だった当主達の集まりを急遽実施したのである。


「くそっ!一体どうなっているんだ!」

「わからんが・・・誰かが呪術を使ったのは確実だ。」


 ざわめきは落ち着くことは無かった。尚、呪術と魔術は大差は無いが、彼らは伝統的に呪術と呼んでいた。


「園山の。警視庁に居る二人からは何か得られたか。」

「得られるには、得られた。だが・・・」

「だが?」


 問い掛けられた男の顔に浮かぶある種の諦観に似た表情を見て、一人が首を傾げる。園山。警視庁第一課の課長の名前と同じだった。それもそのはずで、警視庁第一課の課長はこの園山家の出身者で、異族関係の事件において隠蔽を行う為に配置されていたのである。


「周囲の監視カメラには何も映っていない。あそこに派遣していた監視用の使い魔も一切何も写していない。」

「なっ・・・」


 その場の全員が絶句する。当たり前だが、彼らは何も異族関連の裏事のみを担当するわけでもない。時には頼まれて暴力団組織の監視なども引き受けるのだ。先の蘇芳翁の一件の様に、流れ者の異族がそういった暴力団組織に入る事も少なくなく、それ故に監視対象になっていたのである。


「待て・・・それはつまり、外からは入っていないということか?」

「ありえん!そんな実力者で我々が把握していない程の者が居るのか!」

「それが真実なら、どこかの神々が介入したとしか思えん・・・」


 議論百出だが、その全てが信じられない、だった。彼らが知りうる限りでは、今回の一件を成し得て、尚且つ自分達に一切悟らせない相手となると、たかだか暴力団組織を潰すのに出て来る様な実力者では無いのだ。カイトが一切の痕跡を残さなかったが故の騒動だった。


「・・・魔力の流れは?」

「・・・急に現れ、急に消えた。」


 誰かが、監視をしていた園山家当主に問いかける。誰もが敢えて問い掛けなかった問だが、いつまでも目をそらし続けることは出来なかったのだ。それに全員が固唾を呑んで答えを待った。そうして、出された答えに、全員一瞬めまいがしかけた。それが落ち着いた頃を見計らい、園山家当主が告げる。


「我々はこの一件を、転移咒による強襲だと見ている。」

「転移咒・・・だと・・・」

「なんだ・・・一体、今の日本に何が起きているんだ・・・」


 告げられた結論に、誰もが愕然となる。地球でもエネフィアと同じく、転移させる系統の魔術は魔術においては最難関とされる魔術だ。この場の誰も無理な魔術であった。いや、この場の誰も、どころか、日本に居る神々を除いた誰にも、である。


「天神市は確か御子神の嫡男だったな・・・そちらはどうか?」

「・・・話せ。」


 かつての暗室で響いた男の声と同じ声が響き、隣に座る少年に命じる。二人の顔立ちは似ており、親子である事が見て取れた。


「あの男だね。その後直ぐに消えたよ。確実に転移咒だね。」


 騒然となる大人達に対して、少年の声はのんびりした様な物だった。さすがに大人達も馬鹿ではなく、最も実力のある彼を年齢や性格で会議から排する事は無かったのだ。


「あの襲撃もあいつじゃないかな。多分余裕でやってのけると思うよ。」


 間接的とはいえ刃を交えている以上、彼の見立てはこの中で最も正確だった。


「三枝に問い合わせは?」

「・・・やった。だが、当主は真実知らなそうだった。」

「『秘史神(ひしがみ)』は関係無い、か・・・竜馬は?」

「何も語る気は無さそうだ・・・我々としても鬼籍に入れている以上、表立って接触は出来んしな。」


 最後の頼みの綱もつぶされて、出席者の一人は深い溜息を吐いた。『紫陽の里(しようのさと)』、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』、『秘史神(ひしがみ)』。日本にある異族達の三派閥なのだが、この中で『秘史神(ひしがみ)』は彼らと協力しあう関係にあった。それ故に、仕返しをするにしても彼らに一言言っておけば良いのだ。隠す必要が無いと考えたのである。


「・・・男の正体については一度横に置こう。」


 少女の声が響き渡る。彼女は以前の少年の懲罰会議で皇と呼ばれた少女だった。年の頃は今のソラ達と同じぐらいだ。彼女は当主では無いが、この会議の議長だった。今日はきちんと見える様に横に従者が横に控えていた。尚、女子用の衣服は違うらしく、何処か巫女服を動きやすくした様な衣服を着用していた。

 少女の提言だが、異論は出なかった。なにせこれ以上推測を行った所で答えが出ないであろう事はうすうす予想出来たからだ。そして、正体を知らなくても行動する事は出来る。


「・・・まずの問題は、彼・・・としておこう。彼がどう動くか、だ。予想出来る動きは?」

「今までの行動をプロファイルして、いくつか浮かび上がった事がある。まず、活動の中心は天神市周辺だ。二つ目、三枝になんらかの関係がある可能性がある、ということ。三つ目、此方から危害が加えられるアクションに対しては確実に反応する、ということ。四つ目、正体を隠す必要がある、ということ。」

「殆どわからんな。」


 出されたプロファイルに、少女が苦笑する。だが、それでも極僅かな情報には違いないのだ。それを基に、方針を考える。


「まず、当面の間は天神市から手を引こう。秋夜(しゅうや)、お前とあの男では性格的な相性が悪すぎる。申し訳ないが、御子神総本家は監視に誰か別の人を派遣してくれ。」

「承った。」


 従者と何かを相談したあと、皇の少女が告げる。さすがに現状の状況がつかめていないのに、安易に揉め事を起こされては適わなかった。それが理解出来た御子神の当主も、何ら反論無く即断で了承を示した。秋夜とはおそらく、先の蘇芳翁襲撃事件を起こした少年の名なのだろう。


「秋夜は京都の本家預かりとして、『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の調査にあたれ。もう少ししたら夏休みだろ。動くのはそれからでいい。私も本格的に動けるのはそれからだからな。」

「はーい。」


 皇の少女の言葉に、秋夜が頷く。一応、曲りなりにも二人共小中学生なのだ。それ故、表向きは学校がある。それ故の指示だった。


「他家からもお盆に向けては出来れば人員の供出を願いたい。」

「それでは日本各地のお盆の警護が手薄にならんか?皇はそこの所をどう考えている?」


 皇の少女の言葉に、当主の一人が問いかける。それに、皇の少女が答えた。


「あの男がどう出るか、の方が気がかりだ。もし『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』の者であった方が厄介だ。確実に異族世界のバランスが崩れる。それ故、この二つの監視と男の内定に人員を割きたいというのが皇家としての提案だ。特に二つの里の協同の動きには特に気に掛かる。この男が『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』からの警護の為の人員なら、協同はまず間違いなく成る。その内定を急がなければならない。」

「ふむ・・・」


 少女の言葉を借りた皇本家の意見に、当主達が暫くの思慮に入る。


「あいわかった。土門はそれで動こう。」

「御子神もそれで良いが・・・高坂や立花へは支援を頼んでおくか?」

「ふむ・・・」


 御子神当主の言葉に、少女が後ろの二人を確認する。すると二人が首を横に振った。どうやら必要ないという事らしい。


「だ、そうだ。さすがにまだ大々的に動くには早過ぎる、と判断したらしい。」

「承知した。」


 少女の言葉を受けて、御子神の当主が了承を示す。そうして、他の家々も了承を示して、この日の会議は終了するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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