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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第13章 過去と現在編

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断章 第60話 呪い返し

 弥生に仕掛けられた呪いを呪い返しで返す為に月へと向かったカイトであったが、そんな彼を出迎えたのは月の兎と道教の神、物語に語られるお姫様だった。

 とまぁ、それは良かったのだが、後者二人に関しては自分達の向こう見ずな行動の結果月から出られなくなっていた為、帰るなら連れて行って、という二人の望みを受けたカイトは二人と何故か強制的に連れて行かれる事になった月の兎こと月兎(ルト)を連れて、地球へと帰還する事になっていた。


「地球・・・変わっちゃったわね」


 宇宙の上から地球を見下ろす輝夜がどこか感慨深げにつぶやいた。今まではずっと遠くから見るだけだったのだ。どこか、自罰的な感じがあったのは仕方がないのだろう。


「まぁ、これに懲りたら二度と二人共男引っ掛けて馬鹿な事やんない様にな。流石にオレ、もう一回月とか行かないぞ、多分」

「「はーい」」


 カイトの言葉に輝夜と姮娥の二人が頷いた。流石に数千年の間あんな所で軟禁状態になっていたのだ。男に関する事もやんちゃも懲りただろう。というか、これで懲りていなかったら相当ヤバイだろう。


「さて・・・これで、見納めか。次はどんなもんかねぇ・・・」


 カイトは久しぶりの外を満喫した後、最後の見納めとなる青い星の姿をしっかりとその目に焼き付ける。この星を、彼と今のカイトは守っていくのだ。その覚悟と決意を共有する為にも、己の意識の中にもこの地球の姿を焼き付けておくつもりだったのだ。


「キレイなもんだ・・・」


 カイトはどこか、悲しげだった。こんな綺麗な星を幾つも、彼は吹き飛ばしてきたのだ。彼が言うとおり、それはカルネアデスの板だ。多くの命を救う為にはそれしか無かったのだ。彼は神ではない。だから、救える数は限られていた。

 それ故、その消し飛ばしたという事実だけは消えない。消せはしない。それ故に、この青い星の姿をしっかりと記憶して守るという決意を彼も自分の物とする。


『・・・もう終わったんだ、あの旅は』

「ああ、終わったんだ・・・綺麗だ、と思える心は取り戻した。守りたい、という気持ちはこの手にある・・・あいつが、必死で取り戻してくれたオレの心だ」

『・・・』


 もう一人のカイトの言葉に、カイトは何も言えない。もう一人の彼の心は今、彼女への愛しい気持ちで占められていた。


「何時か・・・何時か、オレ達は一つになる」

『わかっている・・・目をそらしたりはしないさ』

「わかってるよ・・・オレは、お前だからな」


 カイト達は笑う。だが、もう少しだけ。彼女が目覚めるまでの少しの間だけ、分かたれたままで居るつもりだった。それは、単なるわがまま。今のカイトのわがままだった。

 そしてそのわがままはもう一人のカイトも同じくカイトであるが故、理解していた。だから、無理に融合は進めない。今はまだ、『天音 カイト』のままで良いのだ。かつての勇者の力が必要になる事態は、幸いにして訪れていない。


「着いたら後は任せるぞ。オレはまだ、出番じゃないからな」

『ああ・・・無理言って悪かったな』

「いいさ。オレはお前、お前はオレ。オレ達に違いは無いからな」


 もう一人のカイトは今のカイトの感謝に笑って首を振る。どちらも、自分なのだ。何を想っているか、何を願っているか、というのは手に取るようにわかっている。だから、弥生を守りたいという気持ちはもう一人のカイトにも理解出来ていた。そしてそれ故、彼の行動にも迷いはなかった。


「けじめは付けろよ」

『当たり前だろ』

「『オレはお前だ。泣き寝入りは、しない』」


 二人のカイトは揃って、見え始めた敵へと敵意を向ける。必ず、この敵にだけはけじめをつけさせる。ならば後は為すべき事は決まっていた。そうして、カイトは決意を新たに、朝日が登り始めた地球へと、降下していくのだった。




 さて、それから数分後。大気圏再突入を果たしたカイトは月から連れてきた三人と共に、ルーマニアはトランシルヴァニアのフィオナの地へと帰還を果たしていた。が、そこで速攻で正座させられる事になったのは、彼らしいと言える。


「・・・ねぇ、カイト。なんで月の石を取りに行って女の子まで連れて帰ってるのかな?」

「・・・いや、これは深い事情が・・・」

「結局、生まれ変わっても貴方は貴方、ということ? 前までは一応単なる相棒だから何も言わなかったけどさ。どこかに出掛ける度に、女の子連れ帰ってるよね?」

「・・・はい。どうやら、そうらしいっす・・・」


 城が見えてきた頃に入れ替わったはずのカイトであったが、今出ているのはもう一人のカイトであった。相棒の一人に呼び出されて強制的に出て来たのであった。

 流石に単に石を取りに行っただけのはずが三人も連れ帰れば怒られるのも当然だろう。その一方、それを出迎えたフィオナはというと目を見開いて驚いていた。なお、モルガンは弥生の警護でお留守番、その弥生は朝が早かった為にまだ寝ていた。


「あらあら・・・本当に超珍しい相手が来たものねぇ・・・」

「フィオナ・べランシア・・・まさか、貴方の土地に来るなんて・・・」

「あらぁ、そこまで警戒しなくて良いわよ? 大昔みたいにやんちゃしてるわけじゃあないもの。貴方が居た頃の私じゃあ無いわねぇ・・・」


 警戒する姮娥に対して、フィオナが笑いながら両手を挙げる。攻撃の意思は無い、という事なのだろう。と、そちらはそちらで信用を得ている間、相変わらずカイトへのお説教は続いていた。


「いや、別にさ。私も連れ帰るな、なんて言う事はないの。でも状況ぐらいは考えよう? 流石に弥生が心配な時に、と言うか弥生にご褒美頼んでおきながら女の子連れて帰って来るのは駄目だよ」

「はい・・・すんません、どういうわけか月で会っちゃって・・・」

「まぁ、そうだろうけどさ・・・」


 ヴィヴィアンは一応お説教をしているが、これが不可抗力である事も相まって形だけという所の様子だった。呆れている、とも言えるかもしれない。説教の理由は勿論、彼女の言う通り状況を考えろ、という所だ。が、ここら考えようとカイトでも出会いだけはどうする事も出来ないのだから、仕方がない。


「とりあえず、まぁそれは良いんだけどさ・・・どうするの、この三人」

「・・・よ」

「あ、お説教は終わってないから逃げないでね」

「・・・はい」


 ここぞとばかりに魂の奥底に逃げ出そうとしたもう一人のカイトであったが、どうやらそれは駄目らしい。なので今のカイトより指示を受け取っておく事になった。


「え、えーっと・・・とりあえず後で電話するから、今はとりあえず置いておくって・・・」

「ふーん・・・じゃあ、もうちょっとだけお説教ね」

「・・・はい」


 カイトは仕方がないので、ヴィヴィアンのお説教をそのまま受け続ける事にする。そうして、しばらくの後。これぐらいで良いだろうと判断された彼は魂の奥底に戻る事となり、今のカイトが表に出て来た。


「ふぅ・・・なんか疲れた・・・」

「なんで貴方が?」

「いや・・・あのオレもオレなんっすけど・・・しかも身体共有してるし・・・」


 笑って問いかけたヴィヴィアンに対して、カイトが疲れた様子で答えた。彼の言うとおりだし肉体はそもそも共有しているので、その疲労感等はそのまま残されていたのであった。そしてそれを言われて気付いたヴィヴィアンが僅かに照れた様にカイトへと謝罪する。


「あ、あー・・・ご、ごめんね?」

「いや・・・でもなーんか釈然としないというかなんというか・・・いや、連れ帰るのに許可出したの考えりゃオレも同罪だからしゃーないっちゃあ、しゃーないんだが・・・」


 カイトは微妙に複雑な様子ではあったが、とりあえずそれはどうでも良い。今回は偶然。どうしようもない縁というか、そもそも月まで行って帰れる彼が可怪しいだけだ。彼以外に為し得ない事だった故に彼が為した、というだけである。

 というわけで、カイトはその場の事をとりあえず切り上げる事にして姮娥と輝夜、ルトの世話をフィオナに一時的に預けると、弥生のスマホに取り付けられていた紫色のクリスタルのストラップを使い術者へと呪い返しを行う為の準備をメデイアへと問いかけた。別に怒られていたからここに居たわけではないのである。待ち時間暇なのでお説教を受けていただけであった。


「終わりそうか?」

「はい、もう少しで」


 メデイアはカイトの持って帰ってきた月の石を媒体にする為、それに何らかの魔術的な模様を刻んでいた。が、それもほぼほぼ終わりかけ、という具合で大半が終わりかけていた。

 ここからは、敵との戦闘だ。しかも敵本陣に乗り込む可能性は非常に高い。弥生に要らぬ心配させない為、彼女が寝ている内に全て終わらせてしまおうという判断だった。そうして、その作業をしばらく見ていると彼女が作業の手を止めた。


「・・・終わりました。これで、何時でも向こう側に呪いを返せます」

「そうか・・・モルガン、弥生さんは?」

『寝てる。まだもうちょっと起きるまでには時間があると思うけど・・・念のため、魔術で眠らせておく?』


 やはり原因不明だった事態に巻き込まれていたことにより、彼女も精神的に辛かったのだろう。ようやく原因が分かりカイトが対処に乗り出した事もあり安心したらしく、昨夜はかなり早い段階で眠りに就いたらしい。

 かなり熟睡しているらしく、昨日森を歩いた事もありまだ目覚める気配は無いとの事だった。とは言え、すでに現地時間で午前9時前という所だ。そろそろ、モルガンの言う通り起きても不思議はない。


「頼む・・・ちょいと、荒れるかもしれないからな」

『わかった。一応、更に結界も展開しておくね』

「ああ」


 モルガンの対処にカイトは頷いた。これで、後顧の憂いはない。フィオナはこの作業の間に自分の城に帰ったので、そちらに万が一は任せて大丈夫だろう。どうやらカイトは随分気に入られたらしく、弥生も守ってくれるそうだ。そうして、カイトは決意と共にメデイアに一つ頷いた。


「やってくれ」

「はい」


 カイトの指示を受けたメデイアは杖を突いて、祭壇を起動させる。そうして、しばらく。トランス状態に入ったメデイアの魔力に呼応するように、祭壇の上にどこかの映像が映し出された。詳しい事はわからないが、背景はどこかの部屋らしい。

 そこには、一人の小麦色の肌の若い男が映っていた。彼は驚いた様子も無く、笑顔でカイトへと微笑みかけていた。どうやら呪い返しを食らった事も全て、お見通しだったのだろう。


『やぁ、最も新しい王様。ご連絡を今か今かとお待ちしておりました』

「・・・ニャルラトホテプか」


 男の物言いやどこか嘲笑の滲んだ態度から、カイトは映像の相手がニャルラトホテプの一体であると理解する。彼らなら、カイトがここにたどり着くのをわかっていても不思議はない。そんなニャルラトホテプは豪華なソファに優雅に座りながら、膝の上に乗せた黒猫を撫ぜていた。


『ああ、この態度についてはあしからず。こういう身分なので』


 ニャルラトホテプは笑いながらそう明言する。とは言え、そんな事はどうでも良い。カイトが知りたいのは、そんな事ではなかった。


「てめぇらが、犯人なのか?」

『イエスとも言えるし、ノーとも言える。君たちが推測している通り、我々がやっているのは情報の伝達だけ。それ以外には何もしていません。被害者の選定など全てがノータッチだ』

「ふむ・・・弥生さんに手を出したのは、てめぇか?」

『ああ、それか・・・はぁ・・・』


 カイトの問いかけにニャルラトホテプはどこか嘆きを滲ませる。深い溜め息と共に、首を振っていた。


『いや、実はそこで少し問題があってね。私の所に呪い返しが返って来るのもそこらの関係なんだ。実は密かにそちらの術式を色々と弄ってね。私の所に来る様にさせてもらった』

「どういうことだ?」

『術者は私ではない、ということだよ。私達としてはまだ、君の大切な女性は本当は巻き込むつもりは無かったのだけれどもね』


 ニャルラトホテプは嘆きを滲ませながらカイトの問いかけに答えた。これはカイトは知る良しも無いのだが、この発言には一切の嘘がない真実だった。彼らの計画では弥生に手を出すつもりは一切なかった。

 というのも、これは彼らにとってカイトに対する一種の試金石や調査の為の前調査という所だ。彼の近い所に手を出すには早すぎると判断されていたのである。少し近く、少し遠い程度なら良かったのだが、まさかドンピシャで弥生とは思わなかったのだ。

 どうやら彼らがその方法を使える様にした一人が動いた結果、弥生が巻き込まれたらしい。ターゲットの選別は各自の自由に任せていた為、これは彼らも想定外の出来事だったようだ。下手にカイトの情報を流出させない為に一切何も語らなかったが、それが今回は彼らにとっても仇となったのである。


『少し前の事だ・・・いや、これは見て貰った方が早いか。どうせ私がどこに居るかはわかっているんだろう?』

「・・・そこまで来い、と?」

『話すより見せた方が早い。百聞は一見にしかず、というだろう?』


 カイトの問いかけにニャルラトホテプは頷いた。そして確かに、カイトにはニャルラトホテプの居場所が掴めていた。カイト達は紫色のクリスタルに仕掛けられていた魔術全てを呪い返しで術者へと返した。

 であれば、当然居場所を察知する魔術についても返されており、ニャルラトホテプの居場所は手に取るように把握出来ていたのである。


「覚悟は、出来てんだろうなぁ?」

『ああ、勿論。私の身ぐらい喜んで捧げよう』

「良い覚悟だ・・・ぶっ殺してやるからそこで待ってやがれ」


 カイトはドスの利いた声で轟々と怒気を放ちながら、ニャルラトホテプへと明言する。相手が来い、と言ってくれているのだ。ならば素直にそうさせてもらうまで、だった。そうして通信を切断したカイトは、即座にフィオナへと連絡を入れた。


「フィオナ。悪いが、今日数時間だけ弥生さんを任せていいか? ちょいとお呼ばれされちまった」

『あらぁ・・・本当に貴方って人は・・・もぅ』


 フィオナはカイトの申し出に非常に嬉しそうに文句を言う。ここら、彼女は玉藻とも似ていた。元来フィオナはあまり人に信頼されない人物だ。彼女が純粋な異族である事等を鑑みれば、当たり前の出来事だ。

 というわけでカイトを気に入ったフィオナはせっせと信頼を得ようと頑張っていた所に、カイトはそれを完全に信用して自分に大切な人を任せるというのである。嬉しくないはずがなかった。

 とは言え、カイトが信頼したのはそれが当たり前の話だからだ。フィオナは、純粋な異族だ。古くからの思考を持ち合わせている異族である。であればこそ、彼女は誇り高き女王なのだ。

 喩えフィオナの人となりを知らなくとも、カイトはその誇りを信じていた。だからこそ弥生を安心して任せられると判断したのである。


『血、吸っちゃうわよ?』

「あっははは。しないだろ、あんたは」

『もぅ・・・はぁ、良いでしょう。女王が女王として、客人の保護を明言してあげます』

「助かる」


 快諾したフィオナへとカイトは感謝を述べる。ここら、カイトの恐ろしさという所だろう。激怒しようと、どうやって守るべきかを忘れていなかった。決して、弥生の守りを疎かにするつもりは無かったのである。


「モルガン、ヴィヴィアン」

「はいさ」

「うん」


 カイトの呼び出しに応じたモルガンと先ほどからずっと肩に座っていたヴィヴィアンが頷いた。これから、敵の本陣に乗り込むのだ。油断は出来ない。


「行くぞ・・・メデイア、ありがとう。少しだけ、出て来る。このオフザケを終わらせてくる。感謝とか色々と言いたい事はあるけど、それは後で。今は、こいつが先だ」

「はい」


 カイトが号令を掛ける。そうして、彼は相棒二人を連れて、メデイアに見送られて敵の本拠地があるという日本へと戻る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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