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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第13章 過去と現在編

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断章 第48話 好転

 イギリスで起きたジャンヌ・ダルクの幻影の出現に端を発するカイトと弥生の再出発の結果。カイトはおそらく地球に帰還して以降一番の絶好調の状態にあった。


「ふぅ・・・只今のオレ様、超絶絶好調でござい。今度来る時は倍でどうぞー」


 無数の見知らぬ魔物の残滓を前にして、カイトは刀を一度振るって納刀する。別に血糊が付いたわけではないが、何時もは付着するのでその癖だった。


「なんか凄いわねー、カイト。改めて見たのだけど、本当に地球最強って言うのもうなずけるわ」

「だろ? オレ、実は本当に最強なんです。頑張ったからな」


 弥生の称賛にカイトが少しドヤ顔にも似た笑顔を浮かべる。そこには一切の気負いもなく、自信に満ちあふれていた。その姿はまさに勇者に相応しく、そして弥生からしてみれば絶対の信頼をおける姿だった。


「あはは・・・でもカイト。ちょっと頑張りすぎだよ」

「うっわー・・・タイム測ってみたけど200体が3分フラットって・・・」


 ヴィヴィアンは僅かに苦笑いで、ストップウォッチ片手のモルガンは半笑いだった。勿論、二人も援護した。それでも今回のカイトは彼女らが見た中でも一番好調だった。その絶好調っぷりは思わず彼が軽口を叩きたくなる程だった。


「今なら姉貴とでも三日三晩戦えるな」

「ほう・・・言いおるわ」

「・・・あれ?」


 ニコニコと笑って軽口を言ったカイトだったが、即座に響いてきた声に後ろを振り向く。そこには、一人の美女が立っていた。言うまでもなく、スカサハである。


「・・・あれ、姉貴。なにやってんの?」

「いや、早めに来たと聞いたから来てやったが・・・その様子では少々儂の準備運動に手伝えそうよな」

「・・・ごめ」

「ほれ、行くぞ!」


 思わず謝罪して冗談と言おうとしたカイトの言葉を遮って、スカサハは楽しげに問答無用で槍を突き出す。彼女の知る限りでも戦士としてのカイトは世界有数だ。彼女が戦ってつまらなくない相手と言える。それ故、戦えるチャンスなら戦う事に不思議はなかった。


「口は災いの元・・・って言うんだっけ、こういう場合」

「そうだね・・・ふふ。今回ばかりは、ちょっと調子に乗りすぎたみたいだね」


 呆れた様子のモルガンの言葉にヴィヴィアンも笑って同意する。


「あれが、カイトのお師匠様?」

「その一人だよ。もう一人は日本に居て剣道やってる人なら誰でも知ってる人だよ」


 弥生の疑問に対してモルガンが少し詳しい解説を加える。さらに言えば総合的なお師匠様としてギルガメッシュも居るが、そこは今は置いておいた。どうせ後で会うだろうからだ。


「ちょ、姉貴! オレとりあえず表の連中に襲撃言わないといけないんですけど!」

「ヴィヴィ、モルガン! お主らでやっとけ! カイトは少々借りるぞ!」

「あはは。うん、わかった」

「ちょっとぉ!?」


 外への連絡を口実に逃げ出そうとしていたカイトは、まさかのヴィヴィアンの返答に思わず目を見開く。が、抗議の声を上げるよりも前にスカサハの連撃が入ってくるので声の上げようがなかった。


「ほれ、油断しておると私の槍が刺さるぞ!」

「っ! やっべ!」

「頑張ってね、カイト」

「カイトー、先、出とくからねー・・・あ、時乃様。これはどうも・・・」

「あはは。楽しい方ねぇ」


 カイトを即座に見捨てたモルガンとヴィヴィアンに促されて、弥生も結界の外に出ていく。ちなみに、スカサハは時乃と会っている上に高位の四体の大精霊の事を知った。というわけで、その力を一部とはいえ使える様になったらしい。結界内部の時間は大幅に歪められていた。と、外に出た所でモルガンが内線の受話器を取った。


「あー・・・あ、フェイ? あ、私私。モルガン」


 モルガンは一応、妖精たちの使者を務めていた事がある。というわけで、裏のバッキンガム宮殿に繋がる直通の番号を把握していた。というわけで、ジャンヌ・ダルクの幻影が起こした騒動の後始末の事も含めてフェイに連絡を取る事にしたようだ。


「うん。あ、彼? 口は災いの元でスカサハに捕まったー」

『・・・どういうことですか?』

「えーっと、簡単に言うとほら、さっきカイト、不意打ち食らってまともに戦えなくてボロボロになっちゃったでしょ? 鬱憤、溜まってたんじゃないかな? で、憂さ晴らしに暴れまわったのがバレちゃったみたい」


 ヴィヴィアンが何時ものニコニコ笑顔でそう嘯いた。それは堂々としていて、嘘と見抜く事なぞその場を見ていないとわからないほどだった。それにその行動は確かにカイトらしかったわけで、フェイも嘘とは全く思っていなかった。というわけで、彼女はまさかの展開に大笑いしていた。


『あっははは! 流石にブルーの奴も結果そのものにはお冠なわけですか! そりゃ、仕方がないねぇ・・・いや、連絡ありがとうございます。まぁ、スカサハ殿のやること。少しは連絡が取れそうにないですか』

「うん、一応、私達居るしついさっきの今だからね。流石に即座には来ないと思うよ。実際、数は落ちてたからね」

『なるほど・・・とは言え、ということは敵はそちらを見ている、と考えて良いわけですね』


 フェイは笑いながらヴィヴィアンとモルガンから受け取った情報にほくそ笑む。これは敵がリ・アクションを起こしてきた、という確たる証拠に他ならない。手がかりが一切なかった現状からしてみればまさに天啓にも等しかった。そうして、モルガンが口を開いた。


「うん・・・これで敵が焦っていてくれているのなら」

『ミスを起こす可能性はなくはない。成果が出ていない事に向こうが気づいたのかもしれませんね』

「・・・彼らが海外に出た甲斐はありそうね」

『その様子ですね。我が国としても受け入れた甲斐があったというものです。この情報は即座に関係各国に伝達しておきます』


 モルガンの指摘にフェイが同意する。流石に国内にいてこの行動が起きていたかは微妙な所だろう。弥生が海外に出て、カイト達が常に一緒だからこその結果と考えるのが一番妥当だった。成果を上げられない事に焦っているのかもしれない。


「お願いね」

『はい・・・ああ、それでそちらはどうされるおつもりですか?』

「あー・・・私は最後まで付き合うよ。乗りかかった船、って日本だと言うんだっけ? それだしね」

『ヴィヴィアン殿は?』

「私は・・・うん、もう見ちゃったしね。丁度暇だし相棒がせっかく冒険してるんだから、私も一緒にちょっと冒険を楽しむよ」

『そうですか・・・では、そちらはお願いします』


 モルガンとヴィヴィアンは一瞬考えるフリをして、フェイへとそう告げる。ここらはせっかくなので一緒に居る言い訳もさせてもらっておいた。これで、しばらくは一緒に居ても誰も不思議に思わないだろう。

 そうして、フェイはこの状況を関係各所に送る事にして、ヴィヴィアン達は弥生の警戒を行いつつ、時間を潰す事にするのだった。




 さて、一方のカイトだがこちらは戦いながら、会話を交わしていた。


「で!?」

「うむ、わかったか」

「ったりめーだろ! わざわざ外に出てくるって事はそれなりに事情ありきでの話だ! それはなんだって、考えりゃあな!」


 カイトはスカサハと刃を交えながら推論を告げる。実のところ、スカサハが来ていたのは別にカイトが早めに来たからではない。敢えて言えば、餌だ。カイト達を餌にして反応を探っていたのである。

 とは言え、ここらの内容は弥生に聞かせるべきではない場合も考えられる。というわけで、現状では保護者に位置するカイトに先に、というわけであった。この戦いはその為の言い訳でもあった。


「あの女の様子をざっと見てみた」


 スカサハは<<縮地(しゅくち)>>で生み出した幻影を囮としながらカイトの背後に回り込む。


「・・・もしかして」

「なかなかに、む。っと、危ない危ない・・・面白い物が見れたのう。ま、浮気でもない色恋沙汰で女を泣かす男は良い男と言えよう」

「っっっっ」


 カイトは一気に顔を真っ赤に染め上げる。流石に号泣している自分を見られて嬉しいはずがないし、実年齢が実年齢だ。物凄い恥ずかしかったらしい。

 なお、スカサハが途中で危ない、と言ったのはカイトが彼女が立ち止まった所の足元にルーン文字を刻んでいたからだ。とは言え、こちらはクー・フーリンよりも遥かに練度が高いので普通に解除していた。


「ほれ、油断しておると怪我するぞ!」

「とっ!」


 赤面したカイトは背後から突き出された槍を身を捻って回避する。そうしてそのまま、返す刀で槍を切り裂いた。


「一本取った!」

「む」


 スカサハが僅かに驚きを浮かべる。以前『影の国』に居た頃は槍を切り裂かれた事が無かったが、今回は遂に切り裂かれたのだ。

 と言ってもこれは彼女からしてみればちょっと遊ぶ為の槍だ。<<死翔の槍(ゲイ・ボルグ)>>の本物ではなかった。よく出来たレプリカ――スカサハ作――だった。


「むぅ・・・本物を使わなかったのはいかんか」

「ギルガメッシュ殿の所で色々学んだんでな」

「ふむ・・・あの大王は流石に5000年もの長い月日があるか。まさかそれを教え込むとはのう」


 なるほど、とスカサハは頷きながらまた別のレプリカを取り出す。所詮、これは軽い運動という程度。本題はカイトとの会話にこそあった。


「さて・・・」


 再びスカサハが消える。今度はカイトの真上だ。脳天から串刺しにするような格好だった。


「っ」


 それに対して、カイトは回し蹴りの要領でそれを弾き飛ばす。そうして、再度戦いながら会話を始めた。


「まぁ、見てたわけであるが。強いて言えばイギリスで・・・私の前で迂闊な事をしたものよな」

「海外ってのを見誤ったか、それとも姉貴の復活を知らないか、か」

「であろうな。あれに見覚えがあった」

「流石姉貴か」


 スカサハの返答にカイトが驚きもなく納得を答えとする。この地球上にある以上、それは誰かが見知っていても不思議はないと思ったのだ。そして案の定、見覚えのある人物が居たわけであった。そしてそれは趣味は武術の稽古と魔術の研究という根っからの戦士であるスカサハであったわけだ。


「相当に古い術式よ。そうよな。私がまだ数百も行かぬ頃にちらりと見た程度の。詳しくは知らんがな」

「それ、何時だよ」

「さてのう・・・オイフェあたりなら何時生まれたかわかろうが・・・いや、あれももう忘れておるか」


 スカサハは僅かに苦笑混じりに何時の事だったか忘れたと答える。とは言え、それはすなわちそれほどに古い時代だということだ。少なくとも、紀元元年よりも更に古いだろう。


「<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>の領域だったわけか」

「うむ。私は、そう見ておるよ」


 スカサハはカイトの言葉にはっきりと明言する。当たり前の話だが、地球には地球の<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>がある。<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>は古代の魔術というだけで、エネフィアにはエネフィアの、地球には地球の<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>があるのであった。そしてそれは当然、一緒ではない。

 それは地球ではもはや伝説どころか笑い話ぐらいにしかならないアトランティスやムー大陸で栄えた文明で作られた魔術だ。カイトでさえ、未だに存在を疑っている文明。もはやどこまでの存在が知っているのだろうか、という程に知る者のいない魔術でもあった。が、それを知る人物が一人、存在していた。


「ウルクの始祖王。それは知っておろう。あれはかつての復讐の旅の際、エンリル神と戦う為に超古代の遺産を追い求めた。そして幾つかの<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>についてはその手に修めている。あの王ならば、何か手がかりを掴んでおろう。あの王と知己を得られたのは幸運だったな」


 スカサハはカイトに対してギルガメッシュに聞く様に明言する。生まれを忘れたと述べた彼女であったが、それは流石にそれら超古代の文明の領域にはたどり着かない。

 あくまでも正確な年数を忘れただけで大雑把にはこれぐらいというのはわかっている。ニャルラトホテプに滅ぼされた後に生まれた今の神々の中には知っているだろう者も居る。そこまで古いわけではないのだ。


「まぁ、とはいえ。これは同時に厄介な話でもある。超古代の生き残りが居たとして、それは相当な実力者と言えよう。何が目的かはわからんしな」

「おいおい・・・正体さえわかれば負けるつもりはねぇよ。向こうじゃ<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>を使いこなす超古代の文明の生き残りと何度か矛を交えたしな。所詮<<古代魔術(エンシェント・スペル)>>ってのは古いだけの魔術だ。魔術止まりって意味でもある・・・あんたの様な魔法使いでもなけりゃあな」


 カイトは一切の気負いもなく勝つ事を明言する。すでに敵の尻尾は掴めかかっている。カイトからしてみればコソコソと隠れる様な相手に負ける道理はどこにもないのだ。隠れて攻撃されるから対処出来ないのであって、姿さえ見えてしまえば、カイトの領分なのである。そしてそれに、スカサハが笑顔を浮かべた。


「よう言うた。では、行って来い。『影の国』の王よ」

「あいよ」


 二人は最後に一度だけ、槍を刀を交える。そうして、これで用事は終わりとばかりに武器を消した。


「ま、その上で言えば・・・お主には涙は似合わんよ。せいぜい盛ってこい」

「おい」


 最後にスカサハが茶化し、カイトがたたらを踏む。とは言え、こういう冗談が言える雰囲気にはなった、ということだ。それで良いのだろう。そうして、カイトは手に入れた情報を伝える為、外に出る事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。


 2017年9月24日 追記

・誤字修正

『号泣』が『剛弓』となっていた所を修正しました。

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