断章 第3話 頭首襲名編 教育実習生 ――姉――
「うんぎゃー!また負けた!」
「けけけ、勝てると思うな!」
ソラの絶叫と、カイトの楽しげな声が響く。二人がしていたのはガンゲーなのでゲームとしては対戦ゲームでは無い。なので競ったのはどちらが上位ランクに食い込めるか、であった。
まあ、この状況を見ればわかるが、結果はカイトの圧勝であった。そもそもで戦場で銃弾を遥かに上回る速度の魔術が飛び交う中を駆け抜けたのだから、魔術の補佐なしでも反射神経で勝てなくて当然だった。
「次はレースだ!」
「オレやったこと無いんだが・・・」
「だから選んだ!」
どうにも勝てないと悟ったソラはゲームの種類を変える事にする。そうして新しくレースゲームを選んだのだが、これは良い勝負になった。
「おっしゃ!最終コーナーを天城選手単独トップ、ぶっちぎりだ!」
「自分で言うな!っと、ここだ!ニトロ!」
「なっ!お前最後の一個残してたな!」
「切り札は最後まで残しとけ!」
「ちぃ!」
最終カーブを曲がりきる所で、カイトが3回だけ使えるニトロの最後の一つを使用する。ソラが切り札を切ったカイトに、システム上すでに最大なので意味は無いがアクセルを限界まで踏み込む。そうしてレースは最終直線にまでもつれ込み、ゴールフラッグが振られた。
「どっちだ!?」
周囲の観客も一緒に同時に声を上げる。何気にあまりの名試合に周囲には観客が出来上がって居た。対戦モードで選んだ為、画面が一瞬暗転する。そうして、結果が出た。
「ドロー!?」
全員の驚きの声が響き、拍手が鳴り響く。最後の最後でどうやらカイトの加速が追いついたらしい。その後の機体はカイトが先を進んだが、ゴール地点では同時だった。その結果に、必勝を見たソラがかなり悔しそうだった。
「くそ!これだと勝てると思ったんだけどよ!おい、今度は格ゲーだ!」
「はぁ・・・いいぞ、どれだ?」
「どれにすっかなー・・・はっくしゅん!風邪引いたかな・・・」
カイトの提案を受けたソラが、いくつかの筐体を選び始める。そうして選んだのは2Dの様な3Dの格闘ゲームの最近出た最新型であった。
「あ、数年ぶりに出たのか、この新作。」
「お、知ってんのか?」
「ウチの母親がこれの初代から持っててな。」
「まじかよ・・・あの灰色の初代があんのかよ・・・」
向かい合わせの筐体に座ったソラが、カイトの答えに少し顔を引き攣らせる。
「・・・お。こいつ使お。」
「おい、そいつ今回弱キャラだぞ?まあ、今回新規採用された奴らがぶっ飛び過ぎてで可もなく不可もなくな性能な所為なんだけどよ・・・」
カイトが選んだキャラはどうやら平均的な使い勝手らしい。まあ、主人公キャラの一人らしいので平均的な性能に仕上がっているのは仕方がないだろう。それに、強キャラを選ぼうとしていたソラが少しだけアドバイスを掛ける。まあ、さすがにキャラの性能差で勝っても面白く無いだろう。
「ちょっとなー。」
「ちっ、後で恨み事言うなよ。」
楽しげな笑みを浮かべるカイトに、ソラが告げる。ちなみに、カイトがこのキャラを選んだのには理由がある。そのキャラの見た目というか設定が友人の騎士にそっくりなのだ。まあ、使うキャラも騎士系統のキャラなので似ていて当たり前なのかもしれない。それ故使うことにしたのだった。
「くっ・・・結構粘るな!」
「お前は一撃死使おうとすんなよ!」
「気づいてんのかよ!」
カイトは自身の性能を使い、練習しまくっているソラを相手に食い下がっていた。だが、やはり性能差と鍛錬の差は如何ともし難かったらしい。
『K.O.!』
「あ、くそ・・・」
「しゃあ!初勝利!」
ソラの嬉しそうな声が響く。カイトも自身の性能をフルに活かして認識を加速してフレーム単位で見切っていたのだが、それでも経験の差には敵わなかった。結果はソラのストレート勝ちだった。
「へへへ、これでやっと一泡吹かせてやった。次は・・・お。」
「どうした?」
そうして見ると、何かを思いついたらしいソラが楽しげに笑みを浮かべる。彼の視線の先には少しの人だかりが出来ていた。
「あれ、一回荒らしたかったんだよな。付き合え。お前の腕なら足手まといにゃならねえだろ。」
「はぁ・・・いいぞ。」
カイトは溜め息を吐いたが、返した言葉には不敵な笑みが乗っていた。人集りが出来ている一角にあるゲームは、多人数参加型のゲームだった。
ただ、難点は最低参加人数がタッグなので、ソラとしてもあまり参加していなかったのだ。そうして、二人はタッグを組んで人集りが出来るゲームの中に乱入するのだった。
その夜。ティナが少し呆れた様子でカイトに問い掛けた。
「お主・・・ゲームはそんなに楽しかったのか?」
「ん?ああ、やっぱ面白いな。」
本当に楽しかったのだろう。カイトは楽しげな顔でティナに告げる。だが、この当時のティナはまだゲームに触れた事が無く、対して興味は無さそうだった。
「はぁ・・・余はいまいちわからんなぁ・・・っと、そうじゃカイト。」
「なんだよ。」
「あの、なんじゃったか・・・おぉ、竜馬とか言う奴から連絡があったぞ。この間の一件で礼を述べておった。出来れば礼物を持って行きたい、じゃそうじゃ。また連絡する、じゃと。」
「ああ、別に断っておいてくれてもいいのに・・・」
どうやら竜馬はかなり律儀な性格らしい。そんな彼に、カイトが苦笑する。そうして、この日は終わったのだった。
それから数日後。週が明けてついに教育実習生がやって来た。やって来たのだが、それはとある少女にとって困惑をもたらす人物だった。
「・・・お姉!?」
「やっほー。魅衣、さっきぶり。」
魅衣が大声を上げると、それに反応するかの様に大学生程度の女性が楽しげにいたずらっぽい笑みを浮かべて片手を上げる。彼女の名前は三枝 亜依。魅衣の実姉である。実は彼女は竜馬と結婚してからも大学に通っており、教師を目指し続けていたのだ。
「三枝 亜依です。担当教科は日本史。皆よろしくね。」
亜依が快活な笑みを浮かべる。魅衣の姉としてかなりざわめきが生まれたが、それでも快活で親しみやすそうな彼女はかなり好意的に受け止められた。
ちなみに、彼女が日本史を専攻した理由は簡単で、竜馬が居るからだ。彼の来歴等を何とか調べようと、日本史を専攻したのである。民俗学は趣味にしたらしい。あまり大々的に活動しても厄介な事になるだろう、という判断だった。
「この一ヶ月夏休みまで、三枝先生には日本史を担当してもらう事になるが、一応何時もの天瀬先生も一緒に来られる。三枝先生は何かあれば、しっかり聞いてください。」
「ありがとうございます。」
最上は亜依の姿を随分初々しく、そして懐かしく感じながらアドバイスを送る。というのも、彼もまだ着任して数年の若造だ。ついこの間までの自分を思い出していたのだ。
「さて。じゃあ、今日も今日とて授業を始めるぞ。」
1限目はホームルームだった。それ故に担任の最上が声を上げ、亜依が最後尾に移動する。とは言え、この時間に何をするのかは簡単だった。進路相談と亜依に対する質問会である。生徒たちは先をまだ考えていないが、学校側としてはそろそろ動き始めたい頃だった。
「先週言ったが、志望校とかは考えて来てるなー。紙回すから、全員それに書け。再来週の三者面談で親御さんにも見せるから、あんんま変なこと書くなよ。」
最上はそう言うが、何割かはふざける事は確実だ。とは言え、当然ながらに真面目に記述する面子が居るのもまた事実だった。
「天音、お前どうするよ。」
「ん?まあ、第一志望校は天桜学園の高等部か。出来れば推薦が欲しい所だ。」
「げ、あそこか。」
カイトの言葉を受けて、ソラが少し苦々しい顔を浮かべる。というのも、ソラは元々そこの提携校の中等部の出身だった。知り合いを思い出したのかもしれない。
「お前はどうするんだよ。」
「あー・・・どうしよう。」
どうやらソラの方はようやく更生が始まった頃で進路は悩ましい所だった様だ。かなりの悩みを見せていた。
「親父さんと話し合ってみろよ。」
「あ?」
カイトのアドバイスにかなり嫌そうな顔を浮かべる。だが、ここで機嫌を損ねないあたり、彼もかなり丸くなっていた。一方、悩んでいるのは少女二人も一緒だった。
「ウチはどうしよっかな・・・」
「私もどうしよ・・・」
少女二人にしても、更生が始まったばかりだ。まだ少し前ならふざけた事を書いていたのだろうが、少しでも更生が出来てしまうとそれも何処か気恥ずかしかった。
「んー、魅衣。いっそ魅衣も天桜行けば?」
「って、お姉!」
そうして悩んでいた魅衣に対して、紙を覗き込む様に亜依が告げる。担任の最上にしても二人が姉妹である事は把握しているので、このアドバイスは苦笑しながらもお目こぼしが貰えた。
「私も天桜だし、父さんも天桜だし。魅衣も天桜行けば?」
「いや、でも私勉強してないし・・・」
「それなら余が見てやろう。暇じゃしそもそも見てしまった物は見過ごせんしな。」
「げ・・・」
魅衣が嫌そうな顔で介入してきたティナを見る。ティナの方はまだこの時点ではアメリカに帰る事になっているので、何か記載する必要は無いのだった。それ故に暇になって介入してきたのである。
「あら、君は?」
「ユスティーナ・ミストルティン。ティナで良い。」
「で、どうして勉強を見てくれるの?」
「暇じゃから。とは言え来年の7月までじゃがな。」
そうして、暇なティナが亜依に事情を説明し、ついでにこの間返却された期末テストの答案を提示する。それを見て勉強に問題が無い事を見て取ると、亜依がティナに告げる。
「じゃ、お願いね。」
「うむ、承ろう。」
「え・・・」
勝手に出された結論に魅衣が目を見開く。そうして、魅衣の意見はスルーされて、魅衣の面倒もティナに一任される事になるのだった。
一方のカイトはと言うと、相変わらずソラと語り合っていた。
「なあ、お前結局なんで親父さんと揉めてるんだ?」
「あ・・・二年ぐらい前にちょっとあったんだよ。」
カイトは既に日本滞在中の計画を練り終えていたので直ぐに書き終えた。そうして問い掛けたのは、ソラが見せた父親への感情だった。そこにはかなりの感情が滲んでおり、何か根っ子があると思ったのだ。
「二年前・・・ああ、あれか。そういえば大揉めしてたな。」
「ちっ・・・やっぱ知ってやがんのか。」
どうやらカイトが知っていても可怪しくはないと思っていたらしい。嫌そうな顔はやめないが、大して何か思ったわけでもない様子だった。尚、カイトは知っていたわけではない。エネフィアから帰還して日本の情勢を調べた際に、図書館で当時の記事を読んだだけである。
「当たり前だろ。あれはまあ、必要だったからな。当時の国際状況を見れば。」
そんなソラに対して、カイトが苦笑しながら告げる。自身も為政者として、何故その政策に名を連ねたのかは非常に良く理解が出来た。国際情勢が見れぬ者達が声を大にして非難していたが、既に数年が経過してその後の動きもきちんと見れれば、二人にはあれは必要な政策と認められた。それ故の言葉だった。だが、その言葉を受けて、ソラが目を見開いていた。
「あ?」
「なんだ、お前何も聞いてないのか?あれはあの当時、どう考えても必要な法案だったろ。」
「そう・・・なのか?」
それは驚きに近い表情だった。まさか自分と同じ年齢の少年からそんな言葉が来るとは思っても居なかったのだ。
「なんだ、説明が居るか?」
「・・・頼んでいいか?」
「いいぞ。」
どうやらその関連で悩んでいたらしい。歳相応に親との関係を悩んでいたソラを見て、カイトが苦笑ながらに説明を開始する。それは日本だけでなく、世界各地の情勢をつぶさに語る物で、思わず現代社会を担当する最上まで唸る物だった。
「天音、お前すごいな。」
途中から興味を得て参加した最上が思わず賞賛する。彼も一応は現代社会の担当として社会情勢の勉強を怠っていないが、それでも唸らざるを得なかった。それが、ソラには彼の見立てが正確である事をより一層際立たせていた。
「俺もそこまで関連性を見た事は無かった。」
「あはは、にわかだったんですが、先生に賞賛していただけて光栄です。」
最上の賞賛を受けて、カイトが苦笑して謙遜する。そしてそれを見て、ソラがぼそりと呟いた。
「そっか・・・ありゃ必要だったのか・・・」
政治家である父親が出るからと政治系統のニュースから遠ざかってしまっていた所為で、ソラは今までずっと気付いていなかった。だが、カイトから詳しく説明されたおかげで、ようやく父が正しい事をやっていたと気付けたのだ。
「・・・どうした、天城。」
「なんでもねっす。」
最上の問い掛けに、ソラが少し迷いの晴れた顔で告げる。ソラとしてもこれが正解と思えたが、それ故に、ソラは父親がどう思っていたのかを聞きたくなった。これはソラにしては久々の感情だった。
「せんせ、これ本決まりじゃないっすよね?」
「ん?ああ、そうだが・・・」
ソラが出した言葉に、最上が少し怪訝な顔で答える。確かに進路相談の紙ではあったが、それでもまだ受験までは一年半あるのだ。本決まりと決めるには早かった。
「んじゃ、とりあえず天桜でいっか。」
そうして、ソラも進路の紙を書き終える。その顔は、ここ数ヶ月無いほどに晴れやかだったと言う。
お読み頂きありがとうございました。




