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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第13章 過去と現在編

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断章 第26話 勘違い

 ノームの力を借りて天神市の土地に魔力を補給したカイトは、再び見回りに戻っていた。


「さて・・・ああ、オレだ。そちらで変化はあるか?」


 カイトは空中にてスマホを取り出すと、とりあえず警察庁の担当官へと連絡を入れる。兎にも角にも報連相は怠らず、だ。


『いえ、こちらは何もありません』

「そうか」

『それで、そちらは?』

「っと、ああ。こっちは今さっき、土地に向けて魔力を補給しておいた。これで木々が駄目になるという事はないだろう。一応、経過観察はしておく様に陰陽師達にも伝令を出しておいてくれ」

『わかりました』


 カイトの求めを受け、警察庁の担当官は見回りの陰陽師達へと伝令を送っていく。それは向こうに任せれば良いので、カイトはとりあえずそれでスマホを切った。


「今日はあのお姉さんの方か。流石にあっちはお休み中か」


 カイトはスマホをポケットに突っ込みながら、何時もの男性担当官ではなく女性担当官だった事に言及する。流石に何時もいつでも同じ相手が電話に出る事はない。カイトの担当は今回男女の計三人で、何時間かおきに交代しているのであった。


「さて・・・どうすっかね・・・」


 カイトは見回りを一度終えると、手頃な場所へと着地して適当に時間を潰す事にする。もし何かあれば電話があるだろうし、ティナ達も動いてくれている。万が一の襲撃に備える為に天神市に待機しているカイトは通常はここに待機だった。と、そんな彼のスマホの内、私用のスマホに着信が入った。


「うん? 皐月か」


 カイトは丁度手持ち無沙汰だった事もあり、皐月からの電話に出る事にした。


「良し・・・おー」

『カイト! 今大丈夫!?』

「う・・・お、おう・・・お前の声で耳が痛い以外は大丈夫だ・・・」


 カイトは耳を押さえながら、自らの応答さえ遮った皐月に応ずる。こちらの言葉を遮っている事からもわかるが、相当焦っている様子があった。


『あ、ごめん・・・って、それどころじゃないのよ! 映像モードで話せる!?』

「あっと・・・ちょい待ち。ここら人混みでさ・・・ああ、あそこら辺なら大丈夫かな」


 カイトは本来の姿に戻っていた事もあり、人目につかない所へと移動して中学生の姿を取る。そうしてから、皐月の求めに応じる事にした。


「えっと・・・良し。見えてるか?」

『ええ』


 カイトは己のスマホの画面に皐月の顔が映ったのを見て、目を見開いた。彼女の顔が真っ青だったのだ。


「どした? 顔、真っ青だぞ・・・?」

『これ・・・』


 皐月はカイトの問いかけに対して、行動で示した。彼女は一通の手紙をカメラに向けたのだ。


「なんだ、そりゃ」

『・・・脅迫状・・・だと思う。ううん、どっちかっていうとストーカー? とかの手紙かもしんないけど・・・』

「なっ・・・」


 カイトは絶句するも、皐月はカメラを近づけて手紙を読める様にする。宛先は弥生宛で、目を覆いたくなる様な事が書かれていた。そんなカイトに対して、皐月が続けて教えてくれた。


『今日、ちょっとシャーペンの芯が切れて外に出てたら、帰った所で偶然郵便配達の人にあったのよ。で、手紙受け取って夕刊やら仕分けして、でお姉ちゃんの手紙見つけたの・・・それ渡したら途端にお姉ちゃんが青ざめてさ・・・ひったくるように受け取ったら、そのまま机の中に入れて、気になったのよ。で、お姉ちゃんが仕事でお母さんと出掛けた隙に入って見てみたら、こんなのが・・・』

「・・・くそっ! そういうことか・・・」


 カイトは空いている左手でビルの壁を叩く。完全にカイト達が早とちりしていたのだ。スマホで気を付けます、というのだからてっきりこの事だとばかり思っていたが、実際にはストーカーに追われている、という事だったのだろう。仕事のトラブル、というのにも納得出来た。

 幸か不幸か、今回は日本中で不可解なトラブルが起きていたからこそ、カイト達はそちらだと思って逆に普通に考えればわかる事を見逃していたのであった。


『ねぇ、カイト・・・悪いんだけど、少し話せないかな・・・』

「ああ、わかった。そっちまで行くよ」

『ありがと・・・』


 さすがの皐月も現状では覇気を無くしていた。なのでカイトは少し遠かったが、こちらから出向く事にする。とは言え、今更本来の姿に戻るのも面倒なので、見回りの目を掻い潜りながら一気に駆け抜ける事にした。


「ちぃ・・・やっちまった・・・」


 カイトは臍を噛む。弥生に関してだけを見れば、完全に藪をつついて蛇を出す結果になってしまった。お陰でカイトは満足に身動き出来ない結果になってしまっていた。本来は弥生を守るための行動だったはずの彼にとってすれば、この苦渋も仕方がない所だろう。


「皐月、オレだ」

『ちょっと待って』


 カイトはものの数分で神楽坂邸へとたどり着くと、即座にチャイムを押して皐月を呼び出す。と、どうやら待っていてくれたらしい。すぐに扉が開いて、真っ青な皐月が姿を現した。


「・・・入って」

「ああ・・・睦月は?」

「部屋で勉強してる・・・だから、気づかれないでね」

「ああ・・・お邪魔します」


 カイトは神楽坂邸へと足を踏み入れると、そのまま皐月の部屋へと移動する。どうやら、手紙は回収したらしい。


「・・・これ」

「これは・・・ちっ。またえらく沢山送ってきやがったな・・・」


 カイトは箱に入れられた10通程度の封筒を見て、顔を顰める。聞けば一通目の発見後調べてみて、机の中に他にも10通程度残っていた事を発見したらしい。


「弥生さんは?」

「お母さんと一緒に読モの仕事。お母さんのメーカーの関係で打ち合わせもあるから、車で一緒に・・・」

「そうか・・・とりあえずそれなら安心だろうな」


 カイトはとりあえず道中で弥生が襲われる可能性が無い事に一先ずの安堵を浮かべる。これから打ち合わせなら、当分は安心だろう。

 ならば、後はこの日本で有数のコネがあるカイトだ。後手に回らなくて済む。と、カイトはとりあえず手紙を10通すべて確認する。一応指紋が付かない様に白手袋をしておいた。

 そうしてわかったのはここにあった手紙は自筆ではなくパソコンによる印刷で、消印は無いという事だ。自宅は突き止められていると考えて良いだろう。


「これだけか?」

「多分、他は事務所だと思う。事務所に手紙を持って行きます、とか時々言ってたから・・・」

「丁度、今回のは忘れてったわけか・・・」


 どうやら弥生は一応神無には相談していたのだろう。そう考えるのが筋だ。


「いつからだ?」

「多分、結構前から・・・今思えば、噂よりもっと前からだったのに・・・ごめん」


 皐月はどうやら相当弱っているようだ。早とちりだった、と何度も謝罪していた。


「いや、良い。どっちにしろこっちも早とちりしてたし、単なるストーカーなら、逆に有り難いってもんだろ」

「え?」

「考えても見ろよ? わけのわからない相手より、警察が追えばすぐに見付かるストーカーだ。確かに姿がはっきりと見えない分ストーカーも怖いが、それでも実体がある分ずっと怖くはない」


 カイトは皐月を安心させる様に、己で少しの安堵を見せながら告げる。単なるストーカーであるのなら、カイトが動けば今週中にはケリを付けられる。問題はどこにも無い。カイトとしても焦りや怒りは渦巻いていたが、とりあえず安心は安心だった。


「あ・・・そっか。そうよね・・・うん」

「それに、神無さんは女社長。その娘にストーカーともなれば流石に警察も普通に動くだろ。しかも読モ。もしこれで事件が起きたら、と調査はしてくれるさ」


 カイトはとりあえず、皐月を安心させる事を第一として慰めを送る。


「そう・・・かな・・・」

「そうだろ・・・多分、神無さんも事務所も知ってるだろうから、警察にも通報は行ってるはずだ。なら、後は警察任せで良いさ」

「うん・・・」


 どうやら皐月はカイトが来る前よりも少しは落ち着いてくれたらしい。安堵する様に頷いた。そうして、カイトはとりあえず手紙を元あった場所に戻す様に皐月に告げて、適度に会話をして安心させて、神楽坂邸を後にする事にする。


「ふぅ・・・とりあえず、単なるストーカーか。なら、安心は安心か・・・」


 外に出たカイトは、とりあえず脱力して神楽坂邸の塀にもたれかかる様にしてへたり込む。今の彼の権限と地位、そして情報網があれば、遠からずストーカーは見付けられる。そうして少しだけ安心した様に深呼吸して息を整えると、彼は獰猛な顔で牙を剥いた。


「・・・けじめは付けてもらおうじゃねぇか」


 弥生を長期に渡ってあれだけ憔悴させていたのだ。ただでさえここ当分忙しかった事もあり、カイトは私怨たっぷりツケを払ってもらうつもりだった。そうして、彼は地面を蹴って空中へと躍り出た。


「さて・・・とりあえずティナに連絡・・・は、流石に後にさせるか」


 カイトはスマホを取り出してティナに連絡を入れようとして、しかし首を振る。ティナは今、連続失踪事件に関する手配で手一杯だ。

 如何にカイトとて現状は理解しているつもりだ。そしてこれはどう考えてもエリザ達に放り投げれば片手間で終わる仕事だ。忙しい彼女らに今放り投げる仕事ではなかった。


「ふぁー・・・なんか安心したらどっと疲れが・・・」


 今まで弥生を守る為に動いていたわけであるが、カイトはそれ故張り詰めていた糸が切れた様に気が抜けたらしい。さすがに手を抜く事はあり得ないが、やはりそれでも気負いが違っていた。


「はぁ・・・一回雲の上にでも出て休むか。あ、その前にコンビニ行こ・・・」


 張り詰めていた糸が切れたからか、カイトは少しだけ気怠げだった。というわけで、雲の上にでも乗ってのんびりしようと考えたらしい。一度気が抜けると一度休んだ方が良いと考えたのだろう。一度コンビニに寄って飲み物とポテチを購入して再び地面を蹴った。

 というわけで、カイトはのんびりと上昇していく。と、そんな時だ。ふと目の端に魔物の群れ――と言っても10体程度――が映り込んだ。


「ラッキー! ストレス解消みっけ!」


 カイトは顔に喜びを浮かべる。ちょっとひと暴れしたい所ではあったのだ。というわけで、上昇していたカイトは一直線に天神市を出て23区の方へ飛んでいく。そうして、カイトは手を前に出してスナップ一つで結界を展開した。


「おらよ!」

「え?」

「危ないから下がってろ!」


 カイトはどうやら狙われていたらしい少女に声を掛けると、彼女の方を向くことなく魔物の群れを睨みつける。聞いたことのある声だったが、気にしない。

 そうして改めて魔物を見れば、見たこともない魔物だったらしい。カイトも知らない魔物がちらほら存在していた。形状としては人型の魔物が6体に、鳥型の魔物が3体だ。大きさは人型が2メートル強、鳥型が1.5メートル程度という所だろう。魔物である事を考えれば、十分に少女一人ぐらいならば拐えそうな大きさだ。が、どっちにしろ魔物だしカイトからすれば雑魚である。


「ちょっと遊んでもらおうじゃねぇか・・・なぁに、お代はお前らの生命で十分だ」


 にっしし、と笑うカイトは刀を構えながら、魔物の群れに突撃する。そうしてまず目につけたのは、空中に浮かんでいた鳥型の魔物だ。


「おらよ!」


 カイトは虚空を踏みしめると、反応さえ出来なかった鳥型の魔物を横薙ぎに斬り捨てる。そうして、彼はそのまま刀を消失させると魔銃を二丁取り出して、残る鳥型の魔物を蜂の巣にした。


「はい、次!」


 カイトは鳥型の魔物を蜂の巣にすると、即座に魔銃を投げ捨てて槍を創造させてそのまま投じると地面に残る数体の内一体の脳天から串刺しにする。そうしてカイトはその槍へと雷を集中させて、串刺しになった魔物を消し飛ばした。


「ポールダンスはやったことねぇんだけどな!」


 魔物が消し飛んだ後、カイトは地面に着地してそのままポールダンスの要領で地面に垂直に体操の大車輪の様に回転する。そうして残る5体の内一体の魔物を蹴り飛ばすと、そのまま追撃に手を離してドロップキックを御見舞して、回転させて地面に叩きつけた。


「いやっほぉう!」


 カイトは地面に叩きつけた魔物の上に乗って、勢いでサーフボードの様に魔物で地面を滑らせる。そうして残る魔物の間を器用に滑りながら双剣で切り捨てていき、最後の一体を切り捨てた所で、先程までサーフボードにしていた魔物から降りて蹴り上げた。次に取り出したのは、己の部隊の旗だ。カイトはそれをバットに見立てて、大きく振りかぶった。


「ジャストミート!」


 カイトは魔物が落下してきてちょうどよい高さになったのを見ると、そのまま旗を振り抜いて思い切り魔物を吹き飛ばした。そこそこ力は加わっていたし、魔物もさほどの大きさではない。というわけで、魔物は本当にホームランボールの様に勢い良く飛んで行く。


「はい、どかん!・・・汚ぇ花火だな」


 吹き飛んでいった魔物に対して、カイトは指を銃の形にして撃つポーズと共に爆発させる。生き延びられても面倒なので、爆散させたのだ。ここまで掛かった時間はおよそ30秒。相変わらずの速さだった。そうして、カイトは襲われていた少女の方を向いた。


「・・・カイト?」

「・・・あ」


 向いて、少女こと弥生がぽかん、とした表情で立っている事に気付いた。カイトは意気揚々とやってきたわけだが、相手が誰かも見極めなかったので完全に見られていたのであった。そうして、助けたカイトも唖然となり、しばらく二人はお見合い状態で沈黙だけが舞い降りる。


「・・・」

「・・・」

「・・・えーっと・・・とりあえず、カイト、よね?」

「あ、ああ・・・」


 カイトは弥生の問いかけに頷くも、内心では大いに焦っていた。弥生の一件がわかった後本来の姿に戻るのを完全に忘れており、中学生の姿のままだったのだ。言い逃れが出来る状況ではなかった。

 が、これは一つの良い事があった。完全に素のカイトだったおかげで、弥生はカイトがカイトであると認識出来ていて困惑が恐怖を上回っていたのだ。パニックにはならなかった。が、一方のカイトはパニック真っ只中だった。というわけで、何故か彼は先程まで飲んでいたペットボトルの紅茶を取り出した。


「え、えーっと・・・とりあえず、飲む・・・? 飲みかけなんだけど・・・」

「あ、うん・・・」


 とりあえず勧められたから、というわけで弥生は緊張もあって喉が乾いていたらしくカイトから紅茶を受け取る。そうして、仕方がないので少しの間カイトは弥生と話し合う事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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