断章 第11話 経過報告
とりあえず光里に完全服従を強いられたカイトだが、そのまま作務衣を着ていたこともあって撮影が行われる事になった。
「なぁ、作務衣って事はやっぱこっちは大学の授業に関係は無かったのか?」
「ええ、無いわ」
今更隠す事もない、とばかりに光里は堂々と明言する。どうやら夏コミであった事もあって、イラストに着物や作務衣、甚平等そう言う季節感のある服を着た男の子の絵を頼まれていたらしい。
で、カイトが作務衣を好んでいる事を聞いて、直に見たかったそうだ。そしてこの程度ならカイトは否やはない。別に見られて恥ずかしい事もないからだ。
「ふむ・・・ガタイも良いからやっぱりいろいろな服が似合うわね。ああ、もう良いわ。とりあえず座って」
「あいよ」
光里はデジカメで色々な方向から何枚かの写真を撮影すると、それをパソコンに取り込む作業に取り掛かる。
「良し・・・ついでにえっと・・・ああ、私よ。今大丈夫?」
『おっけー。そっち進行状況どう?』
「こっちはそこそこ。半分ぐらい、というとこね・・・で、本題は売り子確保」
『うそ! 何時、何処で!? どんな奴!?』
光里はヘッドセットを耳につけると、ネットを通してどうやらサークル仲間へと連絡を取っていたらしい。
「引き締まった肉体って感じの奴。コスプレ似合いそうな感じ。顔立ちは・・・まぁ、悪くない感じ。まだちょっと幼いのが難点」
『幼い?』
「中学生よ。と言っても中3だから顔立ち除けば体躯そんな大人と変わんないわ」
『・・・光里? ちょっとお熱測んない? そんな俺の嫁は二次元にしか居ないよ? ショタコンこじらせるの止めとこ? あんたの趣味はショタじゃないっけ? ショタじゃないと駄目じゃなくて、ショタも行ける、だっけ?』
どうやらカイトのスペックを述べて、光里の周辺にはいそうにないと思われたらしい。もちろん、相手側も自分の周辺には居ないと思っている。なので作業に熱中しすぎて頭がオーバーヒートを起こしていると思われたようだ。
「ショタも、いけ・・・じゃない。これが現実に居るのよ・・・お隣の男子中学生よ」
『ふむふむ・・・』
「まぁ、言ったことあるけどウチ、父親が良く出張行くでしょう? お母さんは仕事が仕事だし」
『うん』
「で、お隣がお父さんの部下なのよ。で、そこの長男を防犯に貸してくれてるの」
『ふむふむ・・・で、なんでそんな子がウチで売り子やってくれるわけ? 一応そりゃバイト代は出すけど、状況によっちゃガチ向けよ?・・・委託された子によっちゃ絵の質とかも男が描く絵じゃ無いでしょ。まぁ、私のとか内容ガチで男向けだけど・・・』
どうやら、ここまでは納得出来たらしい。そもそもここまではこのサークル仲間とやらも聞いた事があったらしい。まぁ、隠す必要もないだろう。カイトとて三柴家に泊まる事をソラ達には隠す事なく明かしていたし、他にも最近はもう無いが皐月が泊まりに来た事もある。
「見られたのよ、戦利品。客間に寝泊まりしてるんだけど、どうにも戦利品・・・と言うか、ほら、あのサークルの・・・あれが落っこちちゃったらしいのよね。一番どぎついの。もう俺の主砲どう思う、とかそういうレベル超えた奴。表紙の段階であれがあれしちゃってる奴。タンスの下に潜り込んでたのを見つけられたわけ。で、即座に脅しかけて追い込んだ」
光里は詳細はぼやかしながら、大凡の事情を告げる。一応、間違いではない。が、ここまでまるで物語の様な展開に、相手は神妙に頷きつつ笑いを堪えていた。
『ふむふむ・・・で、ソレナンテ・エ・ロゲ? 中学生脅して言いなりとか、あり得ない! 草生える! 笑笑笑! 何? 今チャットしながら足でその子の人には言えない固くて熱いのをイジイジしてるとか!? そーいうドSプレイ!? それともやりすぎて俺、もう我慢出来ねぇよ・・・とか言われてる!? ドSパターンも誘い受けも光里に似合うわー! あ、もしかして若気の至りで光里の使用済みの盗んだとか!? 脅したってそれか!? 相手中学生のショタで血の繋がりのないお姉さん・・・キタ! 天啓がキタ! お風呂入った隙に脱ぎたての光里のパンツを盗んだ! これでFAでしょ! うお! むっちゃネタ降り注ぐ! 今回薄い本が分厚くなる感じ! ネタの神が降臨した! キタコレ! 今回ショタ物でもう一本行っとくか! 光里、もっとネタプリーズ! と言うか、今すぐその状況写せ! 出来れば光里が逆襲食らってる所もプリーズ! 筆が! 筆が止まらない! げへへへへ!』
どうやらネタと思われているらしい。チャット相手はヘッドセット越しにでもカイトに聞こえるぐらいに大爆笑していた。なお、筆というが同じぐらいに口も止まっていない。それに、光里がジト目で告げた。
「・・・断るわよ。相手やりたくない所をわざわざ切り札切って強引に口説き落としたんだから」
『ごめんごめん! え、何? マジの話なの? そんな二次元にしか転がってなさそうなネタ、マジやったの?』
「マジ話よ。今、目の前で座ってるわよ・・・かなりドン引きしてるけど」
光里はそう言うと、パソコンのウェブカメラを移動させて正座中――気圧されたらしい――のカイトを相手へと見せる。
『え? 何? この子? マジで? 結構イケメンじゃん。おまけにその年で厨二病でもなしに作務衣着こなすとかマジ? 絶滅危惧種見つけちゃった? 光里、間違って呼んだプロとかじゃないの? マジなら可愛くないウチの弟と交換してくんない?』
「ええ、マジでトーシロよ。作務衣は私も今年まで知らなかったのよ。最近ハマったらしいの」
『うおっしゃー! キターー! 神降臨! やる気ガン上げ! うっほぉ!』
「ちょ、興奮しすぎよ」
光里の忠告と同時に、どんっ、という音が鳴った。どうやら夜中に騒ぎまくるものだから、隣室の住人から壁ドン――決して良い意味ではなく――されたのだろう。うるせぇ馬鹿、という声とごめーん、と謝る声が入っていた。軽さから考えて相手は自宅住まいで横は件の可愛くない弟という所なのだろう。
『ぜぇはぁ・・・いや、マジ最高の逸材見つけたじゃん・・・で、身長とかは?』
「身長は?」
「えーっと・・・こないだ178、だったかなぁ・・・」
『うっそ。中3でそれとか無茶苦茶な良物件。彼女はー?』
「いません。帰宅部なんで」
カイトは別に隠す必要もないので、光里のサークル仲間へとそのまま答える。一応彼女っぽい立場でティナが居るが、あれは婚約者だし、そもそも公に付き合っているとは言っていない。言う気も無い。下手に騒がれると面倒だからだ。
『なんでこんな逸材が眠ってんの・・・? あれか? 劉備待ちか? 孔明気取ってんの? 三回告白されないと付き合わないとかそんなか? 孔明の罠はどこ?』
「その代わり居候ってか留学生居るけどね。女の子であんたが良く描いてる様な金髪碧眼のロリ」
『ねぇねぇ、やっぱりそれなんてギャルゲ? と言うかこれで彼女なしとか嘘でしょー。その子は? 良くあるネタじゃん』
「一応言っておくけど、その子日本に留学してる間にご両親を亡くしてるからね? 絶対そのネタでいじらないでね? 居候も向こうに居にくいから、って理由よ?」
『っと、こりゃ失敬。ガチなシリアスでしたか』
光里のサークル仲間ネタに出来ないと判断すると少しだけ興奮を抑えて謝罪する。ネタに近いと思っていたが故に茶化していたが、そうではないならしっかり謝罪出来るらしい。根は良い人なのだろう。
「で、こっちは去年までガチ不良締め上げてたのよ、こいつ・・・今の友人は天神市でヤバイ中学生って言われてた奴よ」
『そ、それって聞いたことあんだけど・・・天城とか言うチューボウ? 最近聞かないなぁ、って思ってたんだけど・・・』
「それ、こいつの親友。ぶん殴って更生させたっぽい。総理大臣から息子を今年も頼むって年賀はがき来てたわ。まぁ、まだ就任前だったけど・・・」
『・・・リアルガチ不良居ると引くわー・・・けど二次元のネタ的に最高だわー』
サークル仲間はどうやらカイトの交友関係を聞いてドン引きする。が、同時にネタとしては大いに有りなので、受け入れていた様子だった。発言と良い暴走っぷりと良い、相当な濃いレベルのオタクっぽかった。
『その不良ネタ、若干フェイク入れてクジラに放り投げて良い? あっちネタ行き詰まってたっぽいからさー』
「好きにして」
『おっしゃ。ああ、それと大体体格見たから後でそれ基に衣装の原案作っとくわ。私の方、夏コミのネタまだ固まって無くてさー。たぶん最近出たばっかのゲームから持ってくると思うんだけど・・・いっそその子見てたら半年ぐらい前に出た結構有名な学生主人公のゲームでも良いかなー、とか思ったりするのよね。なんかスタイリッシュなのも似合いそうじゃん』
「そっちは任せるわ。こっちはそれに合わせてイラスト描くから、早めに決定はして。わかってるだろうけど、イラスト作るのにも時間掛かるわよ」
『わかってる。じゃあ、まったねー』
光里とサークル仲間はそう言うと、チャットを終了させる。そうして、光里はカイトの方を向いた。
「というわけで、確定だから。最低1日、ベスト3日予定空けといてね」
「はい・・・」
「まぁ、バイト代は弾むわ・・・大体一日こんなもんで」
「・・・え゛」
「口止め料込みよ・・・異論は?」
「やらせていただきます」
バイト代を提示されて、カイトは即座に了承を下す。光里が提示していたバイト代は、手を完全に開いていた。一日5000円である。中学生からしてみればかなりの高額だろう。
一応中学生をしている以上、乗っておかねば可怪しい値段だった。というわけで、カイトが即座に了承を下ろした事で、光里はカイトを完全に解放する事になるのだった。
その1時間後。カイトは布団の上にて、スマホを使って皐月と会話していた。
「と、言うわけ・・・悪い、出られなかった」
『いやぁ・・・あんたもついにこっちの道に足を踏み入れるなんてねー』
「そっちの道じゃねぇよ!」
『あはは』
皐月が笑う。どうにも光里とのやり取りの間でスマホに着信があったらしい。客間に私用のスマホは置きっぱなしにしていたので、気付かなかったそうだ。なお、話の内容はあまり深い所までは言っていない。あくまでも大丈夫と彼が判断した所までだ。どこで何のためにコスプレをさせられるのか、というのは告げていない。
『ま、それは置いておいて・・・』
「ああ・・・で?」
『いや、経過報告聞いておきたいな、と。それにこっちも経過報告しておかないと、と思ったし・・・』
「経過報告?」
カイトが首をかしげる。カイトとしては皐月に何か調査を依頼していた事はないし、また逆に調査をお願いされた記憶は無い。が、ふと思い直して思い当たる節があった。
「ああ、弥生さんの案件か」
『そう、それよ』
「ああ、こっちもちょっと伝手を探ってみた」
実際には警察まで動く大事になっているが、それを報せるわけにはいかないだろう。というわけで、一度お互いの情報を聞いておく事にする。
『こっち、一応他にもネットでアングラな所に探り入れてたんだけど・・・結構被害者多いっぽい』
「ふん・・・それで?」
『うん。まぁ、そっちはそれだけ。で、クラスの子に警察に身内居る子が居るんだけど、それとなーく、最近家出する子が多いから注意する様に言われたんだって』
「てことは、警察が動くぐらいには、結構大事になってるのか・・・」
カイトは努めて初耳、という具合で皐月の言葉を聞いていく。大半はやはり警察舐めるな、という具合でカイトの所にも伝わっている情報が多かった。が、やはりそれでも大人と子供という事で、情報網と密着度が違うが故にそこでしか知り得ない情報もあった。
「うん・・・? それはどういうことだ?」
『だから、その後も時々ふっと一瞬だけどめまいがしたりするんだって』
「めまい? 心因性のものじゃないのか?」
『わかんない。そうかもしれないけど・・・とりあえず、被害にあった子の友達から聞いた話。その友達の友達のお姉さんってのが友達と一緒に居なくなって、ってわけなんだけど、それからめまいがする様になった、って・・・』
「待て。友達と一緒に居なくなった?」
初めて聞いた話を聞いて、カイトが即座にウェアラブルデバイスと接続して録音を開始する。
『ええ・・・その日は何も無かったらしいんだけど』
「いや、違う。友達と一緒に居なくなったって所だ」
『? ええ、そう聞いたわよ。でもまぁ、その人友達と良く遊びに行く子だから、その流れで朝帰りしたんじゃないか、って思われてるんだけど・・・もう片方の人がそんな事した事のある子じゃないらしくて、多分そうじゃないか、って私は睨んでる』
皐月はカイトの問いかけを受けて、正直な所を答える。ここは、正直言って初耳だった。と、そうして疑問になったのはそれが何時の話か、という事だ。
残念ながらカイトはここ当分世界中で忙しくしていた所為で地元との関わりは少しだけ疎遠にしてしまっていた。一応記憶は逐一抜き取っていたが、周囲に違和感を覚えさせない為に積極的に関わらせてはいない。
『何時? えっと・・・去年末ぐらい・・・かな』
「・・・しくじったな・・・」
『うん?』
「ああ、いや。何でもない」
カイトは皐月に言い訳をしながら、苦虫を噛み潰した様な顔を浮かべる。高校生ともなると羽目をはずして朝帰りをする様な子は少なくない。となると、家族も警察に届け出る事はまれになってくるし、更に言えば警察もまともに取り合わなくなる。潜在的にはどれほどの被害者が居るか、どれほどの規模になるかは完全に未知数になってきた。
『で、そっちは?』
「こっちは一応、蘇芳のジジイに情報気にしてもらうよう頼んだ・・・が、まぁ、彼も忙しいからなぁ・・・」
『あ、そっか・・・そう言えばあんた知り合いなんだっけ・・・』
「ああ。ちょっとティナを美術館に案内した時に偶然知り合ってな。中学生ぐらい、しかも片方外人の二人組が美術館に居たから気になって話しかけてきたらしい」
カイトは皐月へと一応の表向きの言い訳を伝えておく。ここらは幸いな事にティナが元々留学生だった事が大きい。美術館へ連れて行っていても不思議はないと思われたようだ。そして実はこの際には家族で行っており、はぐれた際に出会った事にしておいた。迷子になった、所をという体にしておいたわけだ。
『ふーん・・・とは言え、それだと芸能界もちょっとは注意してもらえそう?』
「ああ。一応この間連絡を取った時には、なんかやっぱり芸能界でもちょっと被害出てるっぽい。で、幾つかの大手の事務所が密かに集まって情報交換の為の会合を持つかもって」
『そっか・・・じゃあ、今のところ私達に出来るのはこのぐらい、かな』
「だろう。まぁ、一応こっちも注意はしとく」
『そうね、お願い』
「ああ」
『じゃあ、そういうことで』
カイトと皐月はそう言うと、通信を切断する。少々気になる事が聞けたのは、素直に収穫だった。
「良し・・・じゃあ、まぁもう寝るか」
「警察に情報送らないの?」
「・・・今は駄目だな。確実にエシュロン・システムが動いてる。多分オレ達の会話も盗聴されてる」
「あ、そっか。そっち普通のだっけ」
「まぁな」
モルガンの言葉にカイトは頷く。おそらく、この情報は警察側からもたらされる事になるだろう。その際にこちらも掴んでいる事を言えば良いだけだ。それで良いだろう。ということで、カイトはそのままその日は眠る事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




