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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第12章 始原の人王と未来の真王編

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断章 第51話 不可解な出来事

 過去の己の物語、所謂ギルガメッシュ叙事詩を語り終えたギルガメッシュはかつての義理の息子と相棒へ告げた。


「まぁ、こういうことだ。その後、オレは一人エンリルの復活を危惧して後代へと跡目を継ぐと即座に様々な準備を取り掛かる事にした」

「それが、この大地というわけなのですね?」


 エンキドゥが問いかける。この空飛ぶ大地の大きさはカイト達の保有する『最後の楽園(ラスト・ユートピア)』にも匹敵している。準備は生半可なものではなかっただろう。


「ああ、そうだ。この大地も然り、万が一蘇った際にどうやって戦うべきか、というのを考えたりしていた。この大地はそもそもその為、というべきだろうな。オレが訓練をする為には、この程度の広さが必要だった」


 ギルガメッシュが本来のこの土地の由来を告げる。ここは本来エンリルとの決戦場なぞではなく、その準備を整える為の場所だったらしい。


「ふむ・・・とは言え、そのエンリル神が死んだ・・・ってか、消えて5000年なんでしょう? 流石にもう死んでるんじゃないですかね?」

「オレもそう思いたい所だな」


 カイトの推測にギルガメッシュも同意する。とは言え、ここらはまだ彼は油断はしていなかった。


「とは言え、やはりまだ安心出来るわけではない。貴様も知っていると思うが、神の復活には莫大な時間が必要になる。そしてその時間はその神の強さに比例する。強ければ強い程、その時間は長くなる」

「そりゃ、そうですけど・・・どうにせよ滅んだ文明の神が蘇る道理は無いのでは?」

「そうだな。オレもそう思う・・・が、やはり気にはなる」


 カイトの言葉に対して、ギルガメッシュはやはり少しの危機感を滲ませる。そんな議論を行う二人に対して、エンキドゥが口を挟んだ。


「・・・あの、ギル。良いですか?」

「なんだ?」

「実は少し気になった事が・・・」


 エンキドゥはそう言うと、己が輪廻転生の輪の中で見た事を告げる。輪廻転生の輪と言えば概念的に思えるが、要は地脈や龍脈などの星を巡る魔力の流れの事だ。その中に、彼はずっと居たわけである。


「・・・何? ということは、貴様はティアマトなどが生きていた事も、エンリルが滅ぼされた事も知っていたのか?」

「はい。基本的に死後は星の中で洗われる事になるのですが、私は知っての通りギルが留めていましたから・・・と言っても夢見心地できちんと覚えていたわけではないです」


 ギルガメッシュの確認にエンキドゥが頷いた。これは流石にカイトもギルガメッシュも知らない事であったし確認のしようがない事だが、エンキドゥの言葉が確かであれば彼はメソポタミア文明が崩壊した際の事を知っているらしい。


「ふむ・・・とは言え、見た事は確かなのだな?」

「はい。見た事は見ました」


 ギルガメッシュの問いかけにエンキドゥはしっかりと頷く。彼の言うとおり夢見心地で定かではないらしいが、それでもぼんやりとだが見た物は思えていた。


「であれば、だ・・・ふむ・・・」


 ギルガメッシュが頭を悩ませる。どうしても理解出来ない事になったのだ。


「エンリルが蘇っているはずだ・・・?」


 ギルガメッシュが最大の疑問点を告げる。エンキドゥは輪廻転生の輪に居る時に、エンリルの死は理解していたらしい。というのも、エンリルも彼と同じく輪廻転生の輪の中にやってきたからだ。

 まぁ、これは不思議でもなんでもない。自然の摂理だ。ティアマトも言われていたが、本来死んだ神は星の地脈の中で復活の時を待つのだ。基本的には転生と変わらない。

 と言っても勿論そこで暴れられるわけもないので、その状態ではエンリルも何かが出来るわけでもなく、向こうが気付いていない可能性さえあったらしい。とは言え、先に入って後に出た分、ある事に気づけたのであった。


「ええ・・・私の後に来たエンリルは、最後に見た時には身体の蘇生の大半が終わっていた様子でした。その後見た時には居なくなっていましたので・・・蘇っていたのではないかと」

「ふむ・・・」


 ギルガメッシュとカイトは二人して、エンキドゥの言葉を考える。彼が嘘を言っているとは露程にも考えていない。であれば、これは信憑性の高い情報となる。が、そうなると疑問になるのは、なぜ今までエンリルが蘇ったという話を一つも聞かないのか、という事だ。


「まさか復讐を狙っている、とかにしちゃあ流石に時間が経過しすぎですか」

「ああ・・・流石に復活に3000年経過したとしても、その後の2000年については流石に見過ごせん。よしんば4000年としても1000年は流石に見過ごして良い期間ではない」


 何かが起きた。カイト達もそれは理解した。そして同時に、エンリルが死んでいない可能性が高い、という事もまた理解した。なぜ、そう言い切れるのか。それはやはり、エンキドゥの証言にあった。


「それで、貴様が出て来る少し前の時点でもエンリルの姿は見ていないのだな?」

「はい」

「ということは、今もまだこの世の何処かで生きている、というわけか・・・」


 ギルガメッシュは結論を告げる。てっきりここで蘇るものだと思っていたが、そうではなかったらしい。いや、もしかしたら蘇ったは良いもののギルガメッシュが万全の態勢を整えているのを見て密かに撤退したという可能性は十分にあり得る。そこについては当人に聞かない限り不明だ。


「・・・カイト。貴様の伝手で何か聞いた事はないのか?」

「いえ・・・流石に無いですね。幾らエンリル神とは言え、他の神になるにせよ別の生命体に生まれ変わるにせよ、輪廻転生の輪に戻らないはずは無い思うのですが・・・」

「そこは、お前も同じ考えか」


 カイトの意見にギルガメッシュも同意する。まぁ、エンキドゥとて夢見心地であった事を考えれば気付いていないだけの可能性は十二分にあり得るが、復活が近代でも無い限りそれは難しいだろう。

 神様は滅びない限りは甦れる代わりに、別の生命体に転生する際には普通の人に比べてとてつもなく時間が必要になる。最低でも倍近く、500年は転生に必要だ。最長となると数千年にも及ぶ。これは神として世界側が与えていた力を封じたりしなければならない関係で、どうしてもそうならざるを得ないのだ。

 カイトを見ればわかるが、元神様が転生したとて与えた『神の因子』は失われない。これは神様が精神生命体という特殊な生命体である関係で、魂に付与されるものだからだ。厳重に封印する為には、長い年月が必要になるのである。

 勿論、別の神として別の神話へ鞍替えする場合やカイトの様な特例中の特例などでは必要性を鑑みて厳重に封じられない事はあり得るが、エンリルがそれに当てはまるとは考えにくかった。

 ちなみに、封じたとて目覚めさせれば使える事は使える。そもそも親が普通の人なのに前世の関係で『神の因子』を持って生まれるのが好ましくないだけだ。すでに死んだ奴が別の存在に生まれ変わって現人神のように崇められては困るのだ。なので後追いで目覚めても問題はないらしい。


「ふむ・・・面倒な話になってきた、か・・・」

「一応、ネットワークに情報を流してみますか? 流石に神々も今の世界を荒らされるのは良い顔をしないでしょう。まかり間違って天使達との戦端を開いてしまうのは避けたいはずです」

「確か全面戦争は回避出来たのだったか?」

「ええ、ルイスが封印から出て来た事でタカ派の急先鋒だったミカエルが中立派になった事、こちらがあそこの神の治療を引き受けた事、他の神話の神々があそこの事情に理解を示した事で、一応の所の全面戦争回避で動いています」


 カイトはギルガメッシュの確認を受けて、現状を報告する。元々インドラの思惑としては各個撃破されない為の大同盟軍を設立するつもりだったのだ。一神教の力は――神々の勢力図としては――この地球の半分。それ故に各個撃破されるとインドラ達その他の神々の負けになる。

 が、かつてインドラとゼウスが再会した折の会話で言われた様に、神様故に同盟は組みにくい。曲がりなりにも主神や最高神を名乗る者が別の神話の神をそれ以上の格と認めてはならないからだ。

 事はその組織全体の問題に波及してしまう為、多少の恥ならば今更と飲み下す穏健派のゼウスやインドラも流石にこればかりは飲めないのである。

 その点、カイトは日本人だが日本神話には属していない――ベオウルフと同じで出生地と活躍した場所の違い――ので盟主としては丁度良かった。ギルガメッシュでも現役時代はともなくメソポタミア文明が崩壊している今となると無理なので、これはカイトしか出来ない立場だった。


「まぁ、最後は唯一神の復活とミカエルの引責辞任で幕引きにはなるでしょうけど・・・大凡は戦争回避、で動いています」

「後はけじめとしてミカエルがルシフェルの下での謹慎がといった所が、何処にとってもベストな落とし所か・・・いや、それはどうでも良いな」


 カイトの言葉にギルガメッシュはとりあえず同意するも、しかし本題ではないので首を振る。幾ら理解が示されようとも、血は流された。そしてその最先鋒はミカエルその人だった。

 である以上、最後にはミカエルは責任を取らねばならないだろう。それは組織として当たり前の話だった。それはミカエルも考えているらしく、当人は何も言っていないが後任はガブリエルに任せたい、と思っているらしい。


「全面戦争が回避出来ているのであれば、今貴様のネットワークは欧州全土と新大陸・・・北米大陸とアジアの半分程度に及んでいると見れるか」

「ええ。中華文化圏に回った国は流石に無理ですが、それ以外は網羅していると見て良いかと」

「そうか・・・」


 カイトの報告を聞いて、ギルガメッシュはエンリルへの対策を考える。これは彼自身が付けねばならないけじめだ。もし和議に応ずるのなら良し。ティアマトと共に身元を引き受ける事は考えて良い。が、応じぬのなら、新時代の担い手だった者として旧時代の最後の生き残りにけじめを付けさせねばならない。


「・・・ふむ。怖いとなると、貴様の敵の背後に居た場合か」

「それは・・・確かに怖いですね。一応背後には九天玄女、イシュタルの元側付きが居る事は掴めているのですが・・・その縁を考えれば、周辺にエンリルが潜んでいても不思議はない」

「そうだ。そこが一番恐ろしい」


 カイトの言葉にギルガメッシュも同意する。九天玄女は元々イシュタルの側で仕えていた者だ。それが巡り巡って中国にたどり着いて女神の一端として迎え入れられたのが、九天玄女という女だ。

 となると当然だが、エンリルとも面識がある。勿論ギルガメッシュだってウルク崩壊より会ってはいないが面識がある。今まではそんな匂いは無かったが、あり得ないとは言い切れない。と、そこで唐突にギルガメッシュがある話を持ち出した。


「シュメール人渡来説は知っているか?」

「メソポタミア文明が崩壊した後、シュメール人は歴史から唐突にしていなくなった、という話ですね?」

「そうだ。まぁ、元々我らシュメール人、メソポタミア文明の基礎はティアマトが持っていた旧文明の遺産が発端だ。誰にもわからないのも無理はないが・・・」


 ギルガメッシュは歴史上の謎とされる事について言及しておく。ここらは彼が開祖に近い立場だったから知り得た事で、かつてのウルクの民達も知らない事だった。と、その話になりカイトが思わず苦笑する。


「・・・まさかシュメール人と日本人が同祖って話がガチとか言わないですよね? ありゃオカ板とかオカルト番組のネタでしょ。日ユ同祖論と一緒でしょう」

「・・・すまん、半分は事実だ。こちらにウルクの民を連れてきた時に、一部が日本の基礎の制定に携わった。ここらはアマテラス達にも保護を頼んだ事が発端だ。彼女に確認してもらえればわかる」


 半ば笑ったカイトに対して、ギルガメッシュが同じく笑いながら言及する。ここらは彼の力があるのだから、日本にたどり着けても不思議はなかった。

 ちなみに、このシュメール人の末裔が日本人なのでは、というのは遺伝子学としての明確な根拠は無い話だ。文明の特徴的な部分――三種の神器や言語など――であまりに似通っている点が多数ある為、そう言う説がある、というだけに過ぎない。


「うそぉ・・・ガチですか?」

「ガチもガチだ。神話に似通った点があるのは、アマテラスらがイザナギ殿から独立する際にシュメール人が関わったから、だな。まぁ、彼らももはや日本人と呼んでも良い」


 ギルガメッシュが明言する。流石に4000年近くも前の事だ。すでに当時のシュメール人達はかつての現地人達との間で混血がものすごく進んでいると見て良い。日本人としか言いようがないだろう。


「ってことは、オレ達は先生の子孫の可能性もある、って事ですか?」

「そうなるなぁ・・・」


 ギルガメッシュは何処かしみじみとカイトの言葉に同意する。そうであれば、ギルガメッシュとしても少し嬉しかった。かつて血の繋がりのない親子だったが、こうして少しでも血の繋がりが出来たのは嬉しい事だった。


「そっか・・・それは良い事ですね」

「ああ」

「ギルもカイトさんも、話が大きくズレてますよ」


 二人して和やかなムードになったのだが、そんな二人へとエンキドゥが笑いながら話の軌道を修正する。


「っと、すまん。まぁ、そういうわけだからな。実のところ、日本がエンリルに狙われる理由はある」

「なるほど・・・自分を追い詰めた文明の孫の様なもの、ですからね・・・」

「本来なら、庇護すべきなのだろうがな」


 ギルガメッシュが呆れる。ここらは、流石にエンリルがどう出るかはわからない。思い直して庇護に回ってくれる可能性もあるが、敵に回る可能性もあり得る。

 が、その可能性があるというのは十分に注意すべき内容だ。万が一には一時代の頂点だった神様が敵に回るのだ。気にしなければならない注意事項なのは当たり前だろう。


「まぁ、もし万が一戦いになった時には、オレを呼べ。エンリルとの決着はオレがつけよう」

「わかりました・・・けどまぁ、その時はお手伝いぐらいさせてください。露払いぐらいはね」

「ああ、その時は頼んだ・・・エンキドゥ。お前も頼めるか?」

「あはは。何を今更。私はギルの理解者にして、最大の友。言われなくても今度は抗うつもりです」


 ギルガメッシュの頼みをエンキドゥは快く引き受ける。彼としても正直な所、エンリルは一度思いっきりぶん殴りたい所らしい。そもそも彼の所為で一度死んだのだ。それは当然だろう。


「良し・・・では、カイト。しばらくそこらの情報にも注意しておいてくれ。こちらもこちらのルートから情報を探ろう」

「わかりました」


 ギルガメッシュの依頼をカイトが受け入れる。そうして、この日のお話は奇妙な形ではあったが、エンリルの対策会議にて終了する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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