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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第12章 始原の人王と未来の真王編

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断章 第37話 事後処理

 ギルガメッシュとエンキドゥの再会については置いておく事にして、その翌日。普通に物事が進み始めた頃だ。その頃になり、再度カイトは呼び出しを受けていた。と言っても呼び出されたのは玉座の間でもなんでもなく、ギルガメッシュが普段使う執務室だ。


「今度はなんですか」

「ははは。そう警戒するな」


 カイトの様子にギルガメッシュが笑う。この間の一件が尾を引いている為か、カイトは少しだけ警戒している様子だった。


「兎にも角にも、とりあえず今のところの後処理について教えてやろうとな。適当に腰掛けろ」

「ああ、なるほど・・・」


 カイトはギルガメッシュの指示に従って、手頃な所にある椅子に腰掛ける。


「まずエンキドゥだが、奴には今に慣れさせる為に適当な仕事を行わせるつもりだ。まぁ、これは5000年前から変わらん。特に気にする必要はない。奴はオレが支える」


 カイトはギルガメッシュの言葉を聞いて、そう言えば彼の机の横に一つ真新しい机が設置されている事に気付く。おそらく、これを使わせるつもりなのだろう。


「次にエレキシュガルとティアマトの二人・・・いや、二柱になるか。この二人だが、とりあえず両方共イシュタルが面倒を見る事にしたらしい」

「ティアマト殿もですか?」

「ああ・・・」


 ギルガメッシュはカイトの問いかけに頷くと、彼女らの為の書類をカイトへと手渡す。別に見られて困る書類でもないし、必要とあらばカイトも駆り出すのがギルガメッシュのやり方だ。と言ってもこんな書類を見た所でどうでも良いのがカイトだ。特に気にする事もなく、一読してギルガメッシュへと返却した。


「にしても・・・今思えば案外すんなりとティアマト殿も応じましたね」

「元々、メソポタミアが滅びただろう事は理解していたのだろうな。元々彼女は超級の穏健派だ。大人しく孫娘の世話になる事を決めたようだ」


 ギルガメッシュはあくまでも推測の話として、語っておく。そもそも彼女は神々の中でもかなりの穏健派だ。最終的にはエアの息子であるマルドゥクによって殺されているが、その経緯はほとんどエアら次の世代の神々が悪い。

 ティアマトについては夫であるアスプーを殺されようとエアらと戦うつもりは無く、配下の神々の抗議の声に圧されてどうしても、という形で戦いになっただけだ。それを考えれば、その圧力もない今は最早数少ない自らの子であるエアを殺そうとは出来なかったのだろう。


「ああ、そう言えばエア殿は?」

「ああ、奴か・・・その件で呼んだのだったな」


 ギルガメッシュはカイトの問いかけに机の中から一通の書類を取り出す。


「これは・・・?」

「桜桃女学院の教師の入院に関する手続きの書類、という所か」

「桜桃・・・ああ、桃女ですか・・・って、桃女?」


 カイトは己が聞いたことのある名前が記されていた書類に首を傾げる。桃女、正式名称は桜桃女学院。歴史としてはこの後カイトが通う事になる天桜学園より遥かに古く、大正期からある女学院だった。


「いや・・・実はな。桃女の学園長とは古い知り合いでな」

「そうなんですか?」

「何故ウルクがこんな太平洋の洋上に浮かんでいると思っている。落下の被害を防ぐ為だけではないぞ」


 首を傾げたカイトに対して、ギルガメッシュは笑う。やはり落下時の被害を防ぐ以外にも理由があったようだ。


「元々、オレは日本に縁があってな。大昔に・・・そうだな。まだオレがウルクの王ギルガメッシュであった頃に、日本に一度へ訪れている」

「はぁ・・・」


 ギルガメッシュ叙事詩には記されていなかったが、当人が言うのだし現にここにウルクがあるのだからそうなのだろう。


「それで、どういう関係が? まさかオレが生まれるのがわかっていて天神市にコネを、なんて言う事は無いでしょ?」

「当たり前だろう。それがわかっていれば貴様の前世の時点でやってきていただろう」


 ギルガメッシュはカイトの言葉にクスクスと笑う。当たり前の話であるが、彼とてカイトが日本に生まれる事がわかっていたわけではない。偶然だ。

 とはいえ、やはり袖振り合うも多生の縁とばかりに輪廻転生の輪を超えて引き合うのかもしれない。そこらは、神ならぬ身にはわからない事だ。


「随分と昔・・・と言ってもオレからするとさほどではないが、日本の大正期。女子学院が多く設立された時代があっただろう?」

「ええ・・・それが?」

「その折に、桃女・・・桜桃女子学院の創設者と少しの縁で知り合ってな。引き合わせてくれた奴から、支援を頼まれた。で、今もスポンサーの一人でな」

「それでねじ込めた、と・・・」

「創設者の一人に名を連ねているからな。そこらは、私学故の柔軟さと言うところだ」


 カイトの言葉をギルガメッシュ当人が補足する。が、ここで問題があったのだ。


「まぁ、それは良いだろう。そこらは完全に偶然だ。が、実はこの話は随分と前から動いていてな・・・」


 ギルガメッシュはため息を吐く。当たり前だが、教員を新しく雇い入れさせるのだ。その困難さは生徒よりも遥かに難しいはずだ。ならば、準備やその他諸々の動きは相当前から動いていないと可怪しいだろう。


「お前が天神市に居るとわかってから、これは好機だとエアが何時でも編入出来る様にしていてな。丁度奴もあの剣を然るべき持ち主に渡せれば、何処か遠くで一度暮らしてみたい、と言っていた。であれば、この際だ、とエアに教員として桃女に入ってもらう事にしていたんだが・・・それが裏目に出てしまったな」

「ティアマト神の復活は流石に先生でも読めませんでしたか」

「エアでさえ、事実から推測するのが精一杯だったからな。流石にそこは大目に見ろ」

「あはは」


 ギルガメッシュの言葉にカイトは笑って流す事にする。彼の言う通り、エアという地球最古の知恵の神でさえティアマトの復活は推測出来なかったのだ。どうしようもなかった。

 そして、今更これを無かった事にするのは如何ともし難い。今日を見越して動いていたが、そこに一つティアマトという因子が加わる事だけは誰しもにも予想外だったのである。


「まぁ、そういうことでしたら、わかりました。こちらで隠蔽の手段等は整えておきましょう。そういうことだったら、大方日本政府は通していないでしょうからね」

「そうなる・・・すまんが任せた。これはそれに関する手続き書の類だ。また後でアルターを介して書類は送らせよう」

「・・・株、買ったんですね」

「当たり前だ。公然と介入出来る手がほしいからな」


 カイトの指摘にギルガメッシュが笑う。どうやら、彼はアルター社の株も持っているのだろう。なお、これは後に聞いた話であるが、どうやらアメリカの企業連合の幾つかの大株主でもあるらしい。下手に彼には逆らえないな、とはその時のカイト――とジャクソン――のぼやきであった。


「ま、そこらはどうでも良いだろう。それで、だ。現状は聞いている」

「どういう意味でですか?」


 カイトは少し苦笑を交えながら問いかける。この様子ではどちらの意味でも知られているだろうことは明白だ。が、これを聞いている時点で言われている意味もわかっている。


「わかっているだろう」

「あっははは。わからないと言った瞬間、また殴られそうですからね」

「サボりグセは何時もの事だったな」

「いやはや・・・あの頃の君は若かった、と。いや、今も若いんですけどね」


 二人はそう巫山戯あうと、少し笑って首を振る。が、勿論過去に浸る為の会話ではない。なので即座に本題に戻った。


「随分と手広く動いている様子だな」

「守りたいなら、全力で。あの地獄でオレが得た結論の一つですからね」

「なら、良い・・・さて、改めて言う必要はないだろうが、支援はしてやる。が、主体的には貴様が動け。ヒメアの存在を悟られては碌な事にならんぞ」

「あっははは。バレた所であいつの守り抜ける奴はいませんよ。取り引きが終了しようと、人類全てと交わされた契約は有効だ。生命である限り、誰も傷つけられない」


 カイトは呆れを多く滲ませながら笑う。ある意味というよりも、カイトとは正反対の存在が彼女だ。彼女は数多の生命体――魔物退治は可能――を作為的に傷付ける事が出来ない。

 事故を装おうと不可能だ。彼女の意思で傷付ける事は不可能なのだ。そういう契約だ。その代わり、絶対に何があろうとも、彼女を人類が傷付ける事は不可能だ。そしてそれ故、彼女の存在が誰かに気取られようともカイトの弱点には成り得ない。


「そうではない・・・貴様への切り札を逆の意味で使われるぞ、と言う話だ」

「あっはははは。それこそ不可能と言うか・・・ねぇ・・・」

「・・・まぁ、それはそうか」


 カイトの言外の指摘に、ギルガメッシュも頬を引き攣らせる。それをやらされた結果が、人類滅亡という正真正銘のバッドエンドの未来だ。過去を書き換えるのを何度もやれるとは思えない。そして、今度は彼女もそれに関しては強固な守りを有している。操ってカイトを殺すのは不可能に近いだろう。


「はぁ・・・もうヤンデレ化したあいつの世話とか勘弁ですよ・・・」

「・・・相当酷かったのか・・・」

「はぁ・・・別世界に魂だけ隔離してざっと地球時間で10年程治療に専念しましたよ・・・下手すりゃ世界まるごとドカン、ですからね。そりゃ、健やかなる時も病める時も、とは夫婦の誓いの言葉としちゃ最適ですけどね・・・」


 どうやら、その当時のカイトは相当疲れたらしい。魂の奥底に眠る当時のカイトが非常に疲れた様な様子を送っていた。


「はぁ・・・朝のお目覚めから夜の就寝までずっと一緒じゃないと泣く・・・ガチ泣きですよ・・・朝っぱらトイレ言ってる隙に泣かれた事ありますからね・・・」

「お、おつかれだな・・・」


 流石にこの後の話はギルガメッシュも想定外だったらしい。相当に疲れている様子のカイトから、ギルガメッシュは彼女の精神状態が非常に拙い所にたどり着いていたのだろう事を理解した。と、そんな話を聞いて、ふとギルガメッシュは今のカイトを思い出して疑問が沸いたらしい。


「・・・ふむ、それならよく説得出来たな。相当に拙かったのだろう?」

「あー・・・まぁ、ここらは必死の説得と言うかなんというか・・・わかるでしょ? 基本的に、あいつは善人なんですよ。で、あいつの行動理念と言うか根幹にあるのが男を寝取られる側としての恐怖ですからね。分け合う事は出来た、のかと」

「ふむ・・・一緒に居られない事が怖かった、ということか・・・」

「そこら、何か言ってませんでした?」

「いや、すまん。あの後は国興しで奔走していてな。あまり全員で集まった事はないし、そもそも過去世の記憶を持ちながら話し合えた事もない」


 ギルガメッシュは少し申し訳なさそうにしながら、首を振る。今の彼ではない彼だが、その申し訳無さというか何もしてやれなかった無念さはあったらしい。


「国興し、ね・・・少し聞いただけですが・・・すいません、わざわざ・・・」

「気にするな。そもそも『王』達には愛想を尽かしていた・・・何時かは、ああなる運命だったのかもしれん・・・いや、それこそが『世界』達の望みだったのかもな。あいつらが一つの国を作ったが、別の国を作ってはならぬとは誰も言っていない。世界の作った規定からさえも逸脱してほしい。そう考えていたのかもしれん」


 ギルガメッシュは遍く世界を創り上げた『世界』達の意思を推測する。時間さえ創り上げた『世界』達の考えはあまりに遠大だし、あまりに人類の思考からはかけ離れている。それ故、推測が正解であるか否かは誰にもわからなかった。


「まぁ、それでも。教え子達の幸せぐらいは守ってやりたかった・・・それを考えれば、ああするしかなかったさ」


 ギルガメッシュは朗らかな笑顔でそう語る。あの当時の事は、今の彼からしても誇らしい事だったらしい。誰かの為に、悪徳を怒る。そんな当たり前の事を当たり前として考えて、彼は世界を割った。

 そこには戦乱があった。血が流された。それでも、彼は後悔はしていなかった。己で己の誇れる事をしたのだ。教え子にして息子を喪った彼に唯一出来る贖罪でもあった。

 そして、なればこそ今のギルガメッシュにも己の正しいと思う事を正しいと言い張れる彼は誇りだった。己もそうだから、だ。そしてそれは、喩え離れようともカイトへと受け継がれていた。


「「お前はお前の正しいと思う道を進め」」


 カイトとギルガメッシュが同時に告げる。それは、当時の二人の合言葉の様なものだ。唯一の家訓とも言えるかもしれない。そして、この後には必ず一つの行動があった。


「さて・・・言った以上は・・・わかっているな?」

「数万年・・・いえ、数億年ぶりに、ですか」

「さてな。世界の時の流れはわからん・・・と、そろそろか」


 ギルガメッシュは時計を見て、扉の方を向く。そして、それと同時。扉がノックされて開いた。そうして入ってきたのは、今風の服――子供用のスーツにも似た服――を来たエンキドゥだ。


「ギル。用意終わりました」

「そうか・・・何か困った事はあったか?」

「いえ、特には。相も変わらず、ウルクの民は優しいですからね。わからない事は教えて下さいました」


 エンキドゥは笑顔で首を振る。どうやら、彼に何かを頼んでいたらしい。と、そんなエンキドゥを見て、カイトが疑問を呈した。


「そう言えば・・・男なんですか? 女なんですか?」


 男装をした少女にも見えるし、少女の様な少年にも見える。エンキドゥはそんな子供だった。ギルガメッシュが対等の存在だ、と言うぐらいなのだからどんな快男児かと思っていたが、少々予想外だったのである。が、それにはギルガメッシュも頷いた。


「ああ、そうなるだろうな。オレも初めはどんな大男がやってくるかと思っていたぐらいだ」

「あはは」


 ギルガメッシュの言葉にエンキドゥが笑う。が、その顔はどう見ても幼い少女に見えてしまう。が、大男だというのだから、男なのだろう。


「これにはきちんとした理由はある・・・まぁ、これは今は語らない事にするか。夜、時間はあるだろう?」

「ええ、まぁ・・・パーティは今日ではなかったでしたよね?」

「ああ・・・っと、そう言えばエレキシュガル達にも招待状を出さねば・・・」

「あ、やっておきました。そこらはわかりましたので」

「そうか。助かる」


 ギルガメッシュはエンキドゥが先に動いていた事に頷くと、それでこの件は横においておく事にする。


「ならば、そこで語ろう。どうにせよ、エンキの奴にも知らせないといけない事も多い・・・知りたいだろう?」

「ええ、もちろん」


 ギルガメッシュの問いかけにエンキドゥが笑う。大昔、まだメソポタミア文明が最盛期だった頃には、彼らはこのように話し合っていたらしい。と、そうして一頻り話し終えて、エンキドゥが改めてカイトの方を向いた。


「あ、ちなみに私は男でも女でもどっちでもあります。謂わば半陰陽という所でしょうか・・・まぁ、一応精神のベースは多分少年として作られていますので、そちらで扱ってください」

「ふむ・・・」


 作られている。つまりは神話に語られている通り、彼は神々によって作られた謂わば泥人形だったのだろう。元々メソポタミア神話では人は泥――とキングーの血――から出来ているとされている。それが可能な権能さえあれば、人を生み出す事も可能かもしれない。そこらは、カイトにはわからないことだった。


「今考える事か?」

「おっと・・・すいません」

「やはり生まれ変われば少しは変わってくるものだな」

「成長した、って言ってくださいよ」

「ははは、そうしておこう。では、付いて来い」


 ギルガメッシュは笑いながら立ち上がり、カイトとエンキドゥについてくる様に告げる。そうして、三人は場所を移動する事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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