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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第12章 始原の人王と未来の真王編

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断章 第14話 最も新しき王

 遥か過去。今より1000年以上も昔の事だ。イギリスにおいて、ある王が更に過去の王の来訪を受けていた。


「貴殿が、かの有名なギルガメッシュ殿ですか? 王の中の王。原初の時において王となられたという・・・」


 相対するのは、円卓の王。アーサー・ペンドラゴン。そして、人類最古の王の一人である、ギルガメッシュ。この二人だ。

 この時代はまだ700年頃だ。王者と呼べる者はまさに綺羅星の如くに乱立していた。そしてそれ故、ギルガメッシュは今以上に精力的に各地の王を訪ね歩いていた。なので、アーサーも風のうわさにはギルガメッシュの話を聞いていたらしい。


「然り・・・ここに騎士達を束ねる騎士王が存在すると聞いた。故に、やって来た」


 威風堂々。アーサー王はひと目見て、彼は王なのだろう、と理解する。彼こそが国。彼こそが王の中の王。彼をして、ギルガメッシュは王だと一目でわからされるほどの覇気を彼は纏っていた。

 国を背負う王が別の王と相対するのに、押し負ける事は国そのものの不名誉だ。その覇気は王として当然身に纏って然るべき物だった。


「神々の世を終わらせ、人の世を築いた王よ。よくぞお越しくださいました。おつかれでしょう。少しの酒などをご用意させています・・・どうぞ、こちらへ」

「ああ・・・一夜限りであるが、世話になろう」


 アーサー王の申し出に、ギルガメッシュが頷いて城内へと導かれる。偉業を成し得た王が王として来訪したのだ。ならば、同じ王として対応せねばならない。そうして、ギルガメッシュは少しの間、ささやかな歓待を受ける事になる。


「感謝する、騎士の王よ」

「いえ・・・それで、如何なご用事でしょうか」


 暫くの歓待の後。アーサー王が切り出した。王が王として来訪したのだ。何らかの用事が無いとは思えない。


「問いたいことがある」

「問いたい事、ですか?」

「ああ・・・文明は何時かは終わる。それは承知しているか?」

「盛者必衰の理・・・然るべき事かと存じます」


 ギルガメッシュの問いかけに対して、アーサー王は物の道理として答えた。これはなんら間違いではないし、喩えアーサー王がアルトになった所で変わらない。滅びる事が道理と捉えてなお、足掻けるか。そこの差しかない。


「然り・・・ならば、人祖の王は始祖の王故に、伝える義務があろう」

「? どういう意味でしょうか」

「始祖の王である、ということはこのギルガメッシュこそが、最古の王。それ故にこのギルガメッシュの後ろに貴公らが存在する・・・であれば、始祖の王はその後全てを見る事ができよう」


 ギルガメッシュの言葉をアーサー王は道理と理解する。一番最初である、という事はそれより前には存在せず、後代は彼より後ろに生まれるが故に全員見れる。しかし、二番目は一番目の背を見れたが、一番目が見ている物は見れない。時代が違うが故に、だ。

 そしてこれは三番目になれば一番目と二番目を見る事は出来ず、四番目は三番目より前は見れない。後々になるにしたがって、その前任者達の見た視点は見れなくなる。時間が一方通行である限り、人が歩みを止めない限り、仕方がない事だった。


「ならば、始祖の王たる我は我を含めた全ての王の王道を記録し、何時か来るだろう人類最後の王へとこの星の王者達の道筋を伝える義務があろう。彼より後ろは存在せず、彼こそが、我らこの星の人類の総決算となるのだ・・・それが幾千幾万の月日の先かはオレも知らぬ。だが、これは始祖の王たるオレ以外には出来ぬ事であり、それ故、こうしてオレ自らが出歩いているだけだ。王の視点は王とその友しか見れぬが故にな」


 笑ったギルガメッシュに対して、アーサー王は思わず背筋を凍らせる。彼は己と度量が違う。圧倒的な格上の存在。それを、思い知らされた。

 人類全てを背負う覚悟。そして開祖と名乗る資格。それを、このギルガメッシュは持ち合わせていた。王の中の王とは世辞として述べたつもりだったが、遜色なく、彼は王の中の王と呼ぶに相応しい度量だった。

 そして同時に、彼の思惑は理解した。そして、アーサー王も王の一人であればこそ、その行動には賛同を示した。何時か、終わるのだ。ならその終わりをより良くする為には、自分の力が必要となる。アーサー王とて、それはわかっていたらしい。


「わかりました・・・まだ拙い身ではありますが、貴殿の・・・いえ、何時か来るべき人類最後の王の助力になるよう、私もご助力させていただきましょう」

「理解してもらい感謝する」


 アーサー王の申し出に、ギルガメッシュが頭を下げる。先達としてアーサー王はギルガメッシュを敬うが、立場としては同じ王だ。対等だ。王が王に頭を下げる事はなんら不思議でもない。そうして、この夜。ギルガメッシュとアーサー王の間で、問答が行われる事になるのだった。




 カイトが<<飛行城塞都市>>ウルクへと入る前日。その月日をアルトリウス・ペンドラゴンは思い出していた。この場に居るのは、あの時と同じく彼とギルガメッシュのみ。王と王の対談に参加する事が許されるのは、同じく王か、王と同じ視点を有せる王の友のみだ。


「・・・あの日あの時も、この円卓に座り問答を繰り広げたのだったか」


 アルトが笑う。カイトはいない。一人ひとり、問うべき事は違う。そして、会場も違う。問答に最適な状況を、ギルガメッシュは一人ひとりに作り上げる。だから、彼は呼びつけるではなく、己で出向くのだ。王にとっては彼らの王城こそが、その最適な状況だからだ。

 とは言え、カイトに王城はない。彼は王と呼ばれるが、王ではないからだ。そして今のアルトも王城とは少し言い難い。なので、己の王城の中に彼らに最適な場を作り上げる事にしたのだろう。


「・・・一つ問おう。貴公の王道。それは如何に」


 あの時と同じく、対面に腰掛けたギルガメッシュが問いかける。遥かな過去、アルトはこの問いに対してあまりに馬鹿げた答えを返した。それを思い出して、アルトが笑った。


「王道なぞ歩んだつもりはありません。私は、国に忠を尽くす騎士です故」


 アルトの答えに対して、ギルガメッシュがぴくり、と片眉を上げる。とは言え、これは不快感が滲んだ物ではない。どちらかと言うと、気を良くした感が強かった。


「・・・ふふ、申し訳ない。ついな」

「良い・・・その様子では、理解した様子だな」


 笑顔でかつての自分の言葉を諳んじたアルトに対して、ギルガメッシュが笑みを浮かべる。こんな所で冗談を言える程にまで、彼は成長していた。これをまだ大真面目に言うのなら叩きのめすが、冗談を冗談として許さないのは、王として些か狭量だろう。


「私は私の信じる所を進ませていただく。その道が誤りかどうかは、後々で決められる事だ。私が決める事ではない・・・故に、我が王道に善悪の正否は不要。しかし、我が王道は騎士達が胸を張れる物であると断言しよう。それが、私の王道だ」


 かつてとは違い、騎士達の王としてアルトが堂々と答える。その様は、何時ぞやのギルガメッシュと同じく威風堂々としか言えない。いや、もしかしたらあの当時のギルガメッシュにも匹敵していたかもしれないほどだ。それほどに、彼は堂々たる王者の貫禄があった。

 騎士の王と騎士達の王。騎士道と王道は違う。そして、身が一つである以上、人は一つの道しか歩む事は出来ない。それはカイトだろうとギルガメッシュだろうとアルトだろうと、変わる事はない。それを理解して、己が真に歩むべき道を見つけた男の顔だった。


「では、問おう。貴公は何を怠った」

「私が怠ったものは、部下の調整。同じ騎士道を歩むと思うが故の失態だ」


 ギルガメッシュの問いかけに対して、アルトが答える。間違い、とは彼は言っていない。確かにギルガメッシュからすればアルトのかつての一生涯はあまりに不出来で見るに堪えない物であったが、それでも間違いであるとは言えない。

 そもそも、これは絶対的な正解は出されていない問題だ。道は同じでも方向は千差万別。そこの所を、彼も間違える事はなかった。


「彼らは騎士。かつての私と同じく騎士だ。が、同じ騎士道を歩めども、同じ道を歩む事はなかった。彼らは私の隣を歩いていた。私の真後ろを歩いていたのではない。彼らは私の背を見て歩むが、私の後ろを歩む者は居ない」

「然り。貴公の騎士達は貴公に剣を奉じた騎士であっても、貴公の所有物ではない。そして、貴公の騎士達も等しく人であればこそ、各々の信ずる道を歩んでいた・・・そこを、貴公は見逃していた」

「情けない話だ。貴殿の言葉をあの時きちんと聞けていれば、もう少しは良い結末を迎えられたかもしれん・・・まぁ、今更言っても詮無きことではあるか」


 ギルガメッシュの肯定に対して、アルトが笑いながら首を振る。こんな当たり前のことはない。彼らはイエスマンでもお人形でもないのだ。だからこそかつての彼は同じ騎士として、仲間として、彼らを信じて共に戦ったのだ。いつしか、彼はそれを忘れていた。だからこその、裏切り。ランスロット達ではなく、アルトの裏切りなのである。


「『機械仕掛けの王(レクス・マキナ)』・・・そんな矛盾を指摘されたのだったな、貴殿は」

「『機械仕掛けの神(デウス・マキナ)』。それに至ろうとする愚か者であったが故な」


 ギルガメッシュは笑う。実のところ、ギルガメッシュにはなぜアルトが『アーサー』となったのかわかっていた。というよりも、これはわからない方がどうかしていたからだ。

 だからこそ、ギルガメッシュ王として下した評価が最低だったアーサー王に対して、ギルガメッシュという男のアルトリウス・ペンドラゴンという男に対する評価は高かった。

 自らの譲れぬ信念に基いて足掻き続けた男を見下す男はそうはいない。その果てが喩え破滅であったとしても、だ。だからこそこ、高評価なのである。そうして、アルトが今更わかった事を口にした。


「王には様々な形がある・・・人々を魅了し、引きつける者。それを、人は覇王と呼んだ。公明正大で全ての民草を平等に扱う者。人はそれを賢帝と呼んだ・・・そして民草を虐げ、人の話を聞かない王を暴君と呼んだ。私は、少なくとも暴君ではなく平等な王ではあった」

「ふふ・・・」


 アルトの言葉に対して、ギルガメッシュが笑う。ここまで至れれば、素直に満足の一言しかいえない。今までの前例から背いてでも、再度招いた甲斐があるというものだ。


「然りよ。故に叱責も嘲笑もせん」

「かたじけない。もしされれば、どの口が言うか、と言わせていただく所だった」

「「ははは!」」


 二人の王達が、同時に笑う。王として間違えるな。それはまぁ、正しい意見だ。アルトもギルガメッシュも、王ならぬカイトもその言葉に同意しよう。勿論、かつては王であったティナも同意する。だがだからこそ、笑うしかない。そうして、ギルガメッシュが口を開いた。


「王は王。神ではないし、神にはなれん・・・所詮、我ら王も人よ。間違え、誤る。そこは仕方があるまい。故に王の失態をあげつらう事が出来る王なぞどこに居ようか」

「それ故に、貴殿の編纂か」

「然り。王の誤りを集めていけば、王の失敗はなくしていけるのでな」


 アルトの問いかけに対して、ギルガメッシュが何ら隠すこと無く答える。アーサー王との会談の後も、ギルガメッシュは始祖の王の職責として、数多の王を見届けてきた。そして今回の対談もまた、その一環だ。だが、おそらく。その対談はこれで最後になると二人は考えていた。


「あれから、1000年。いや、貴殿が立たれてより5000年・・・どれだけの王を見られた?」

「万は下るまいよ・・・全て、とは言わぬがな。が、有名どころは全て網羅した。古くはスカサハやソロモン、神武帝、始祖ロムルス、始皇帝。近くはイヴァン4世やシャルル7世、エリザベス一世、昭和天皇・・・時代も男女も地域も敵味方も善悪も区分なく、集めた・・・古い物であれば、オレの意見に賛同したラムセス2世もある。粘土板から紙面に変えるのには、苦労したがな。これで、地球の数多の王達の記録は残せているはずだ」


 5000年の月日に及んで行われた、地球の王者達の記録の編纂。その苦労に対して、ギルガメッシュは苦笑一つで済ませた。そんな事では終わらぬはずの苦労だが、彼にとっては、この程度の事だった。そしてその最後の名は、定められていた。


「・・・そして、私が最後か」

「然り。アルトリウス・ペンドラゴン。貴公を以って、地球の王者達の歴史の編纂は終わりを迎える」


 アルトの言葉を、ギルガメッシュが認める。彼を最後に、編纂は終わる。彼以後に王は一人しか生まれない。遂に、終わりを迎えるのだ。これ以降、民主主義が全盛期を迎える事になるからである。

 だが、それでも。王は必要だ。喩え地位がなくとも。喩え権力がなかろうとも。法を超越してみせる権威を持つ王が必要だ。人類を束ねるのは法では無理だ。御旗が必要なのだ。

 それを成すのが、地球最後の王。『人』全てを統べる人の王。それこそが、ニャルラトホテプ達が探し求める王。始祖の王ギルガメッシュと対であり、最後であるが故に同じく『人』全てを統べる者だった。


「私とアーサー王は違うというか」

「違う。アーサー・ペンドラゴンはカムランの丘での戦いで死去した・・・そこに居るのは、アルトリウス・ペンドラゴンというかつてアーサー王であっただけの王だ。騎士達という友を取り戻し、遂にそれらに支えられる王となった男だけだ」

「・・・孤独な王の為す善行なぞ独善に等しい。共に道を見てくれる友を忘れるな・・・か」


 アルトはかつて、ギルガメッシュに忠告された言葉を思い出す。かつての彼はその意味を理解出来ず友を失って、彼は破滅へとたどり着いた。それを失うな、と忠告してくれた者が居たというのに、なんとも情けない始末だった。

 だが、もう間違わない。今の彼は、孤独ではない。孤高ではあれど、友は多い。今度間違えたとて、殴ってでも止めてくれる友は何人も得た。


「オレもかつて友を失い、道を誤った。同じ失態をしそうになった愚か者が居たが故の老婆心だったが・・・」

「申し訳ない。ついぞ、私は気づかなかった。友の涙一つに気付けぬ王に、どんな救いが与えられようか。全く、馬鹿馬鹿しい・・・では、貴殿の最後の問答・・・5000年の総決算。お付き合いいたそう」

「感謝しよう・・・」


 アルトの求めに応じて、ギルガメッシュが問答を始める。そうして、その夜。この地球で始祖の王と最後から二番目の王の問答が行われる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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