断章 第2話 米国大統領の信条
時折、米国の政治家の中で密かに語られる事がある。米国大統領ジャクソン・アンダーソンは化物だ、と。血も涙も通わない冷血な男。そう、言われる事がある。
が、彼の性根をよく知る者はこれを否定する。彼は血も涙も通った人間だ。そして情け容赦無い様に見えて、きちんと情けも容赦もあった。あくまでも彼は合理主義者で、それが己の理に適えば情けも容赦も介在させるのだ。だからこそ、この会談も存在していた。
「・・・申し開きがあれば、聞いてあげよう」
「・・・誠に申し訳ありません」
ジャクソンの執務室の彼の机の前で、老年の男が土下座していた。男はアジア系らしく、更には母国語も英語ではないらしい。とは言え、通訳は介していない為、謝罪は少し下手な英語だった。
「土下座、か・・・日本人のやり方だと思ったのだけどもね」
そんな老年の男に、ジャクソンが笑みを零す。話の内容に対して、彼の機嫌は悪くはない。怒りを通り越した結果、逆にさざなみの如くに心が穏やかになったのだ。
そんな彼に残っているとすれば、呆れや失望という感情だろう。だから、笑って許せたのだ。勿論、怒りは物凄いが故のこの反応だ。ともすれば爆発しかねない事だけは、明言しておく。
「少なくとも、君には同情する・・・が。それとこれとは話が別なのだよ、ミスター李」
李という男に対して、ジャクソンは掛け値なしに少しの憐憫を投げかける。彼が必死である事は百も承知だ。だからこそ、この数ヶ月で何度もジャクソンの前に足を運んでいた。
そしてそこらを勘案して、ジャクソンも僅かながらに憐憫の情を抱いていた。が、彼の言うとおり、それとこれとは、話が別だった。
「日本の内藤君は現在も意識不明だ・・・おかげで、幾つもの重要な作業に支障をきたしている。この責任。君たちはどう取るつもりなのかね」
「うっ・・・」
李はジャクソンの問いかけに対して、何も答えられなかった。責任者の処罰さえも、だ。この会話から考えれば、彼は韓国政府の要人なのだろう。正確な所は大統領らしい。
「我々と君達の関係は1953年11月17日から始まり、今に至るまで70年と少し。君たちと共に幾つもの困難を経験してきた。その中で我々はベトナムでの民間人に対するライダイハンや親北派を利用した反日的な活動等にも眼もつぶってきた。君たちも議政府の件、THAADの件等で我々に便宜を図ってくれた。決して、悪い関係では無かったはずだ」
ジャクソンは今までの米国と韓国の関係を説く。彼は決して、同盟国をないがしろにした事は無い。ないがしろにした気もない。覇権国として一定の上から目線はあったが、それも必要な限りだ。
これはもし彼らが負けて覇権国が交代したとて、変わらないだろう。覇権国であるのなら、覇権国なりの些か横暴とも取れる応対をしなければならないのだ。
国と国の間に友情なぞ無いのだ。国と国である以上、上下関係は明白にしなければならない。そしてそれは各国共に密かに理解して、暗黙の了解としてアメリカと言う超大国と付き合っていた。だが、だからこそ、ジャクソンは今回の一件だけは認める事は出来なかったのだ。
「だがね・・・流石に今回だけは、私も呆れるしかない。いや、はっきりと言おう。失望した、と言わせてくれ。これで二度目だ。一度目は、天安門に登った事。二度目は、今回・・・流石に我々も我慢の限界だ」
ジャクソンは演技でもなんでもなく、素で嘆きの色を見せて首を振る。それは何処か、怒りが滲んでいた。
「君たちはね・・・我々の顔に泥を塗ったのだよ。これで二度目だ。一度目は、我慢してやった。だが、もう我慢ならない。今、各国政府がどういう噂を知っているか知っているかね? 知っているだろうが、敢えて教えてあげよう。米国の権勢が揺らいだ、とね。もう確実だ、と。この責任。どう取ってくれるのかね・・・いや、世界各国に対してどう取るつもりかね。君達は間違いなく、今の世界の安寧をぶち壊した。君達が戦争の引き金を引いたと断言しても構わない。最早、我々も止まれない。我々の絶対的な権威を補完する為には、中国と相争うしかなくなった」
怒気を滲ませたジャクソンが威圧的に問いかける。一歩間違えばそれこそ韓国と開戦だ、と言いかねない程の圧力だった。話が本題に入った事で、眠っていた怒りが目を覚ましたのだ。
「大凡、アジアにある我が国の同盟国はその同盟国の間で軍事同盟は結んでいない。とは言え、我々アメリカが軛となっている事により、同じ陣営として纏まっていた。が、君たちはそれを裏切った・・・一度目の天安門に登った事は、許してやった。まだ戻れる、と。だが、二度目は流石に許せるわけがない」
「それは・・・その・・・本件は」
「民間人の暴走。そう言いたいのだろう」
「うっ・・・」
己の言葉を遮って為されたジャクソンの指摘に、李は言い淀む。彼から発せられる圧力は物凄い圧力だった。もしかしたら、気迫だけでカイトをも怯ませられたかもしれないほどだ。
彼は己が英雄やそう言う存在ではないと言うが、間違いなく彼も英雄の一人だった。武力ではなく、知力に優れた英雄。そう言う類の英傑も存在していた。
「確かに、本件は民間人が起こした出来事、と見做す事も出来る。だが・・・君たちは現状で日本政府に対して謝罪出来るかね? そして、次を起こさないと断言出来るかね?」
「っ・・・」
「出来ないだろう。いや、君がした所で私は信じないよ。この十年。君達はあまりに我々の顔に泥を塗りすぎた。その上で、どうにかして欲しい、と頼む為にここに来た。馬鹿じゃないのかね。やるわけがないだろう。私が聞きたいのは、そうではない。韓国の責任のとり方を聞くために、君を招いたのだよ」
ジャクソンの罵倒にも似た指摘に、李が項垂れる。現在、韓国政府は非常に対応に苦慮していた。実は内藤は韓国の世論では猛バッシングを受けており、彼の事故が伝えられると一斉にまるで天罰とでも言わんばかりの論調が蔓延してしまっていたのだ。
さもありなん、だ。韓国政府は自らの権勢を補完する為に日本側を非難する行動を行う事が多く、実は李その人も今回の一件が起こるまでは同じ論調だった。当然だろう。自衛隊の国防軍への変更など、韓国にとって認めにくい問題を内藤は変革してきた。賛同出来るはずがない。
が、そうであるが故にこの状況で民衆をコントロールできなくなってしまったのである。民衆はまさか自分達の国を守る者達が起こした事件とは知らないからだ。
勿論、北朝鮮のスパイによる工作もあるだろう。だが、今までがあるが故に手の施しようがなかったのだ。そうして、ジャクソンが更に指摘した。
「次の総理と目されているのは、天城君だ。内藤君の方策を引き継いだ彼が、次の総理となるだろう。現に日本はそういう風に動いている。次の選挙でも勝つだろう。後には天道財閥と神宮寺財閥の強力な後押しがあり、彼らがマスコミにも対処している。ブルー君とて必死で動いている・・・君はそれをなんとしてでも、阻止したい。それを頼みに来た」
「・・・はい」
「・・・正直ね。君が今回の話を持ってきた時、思わず私は君を撃ち殺してやろう、と思ったよ。今でも、ともすれば腕が引き出しに伸びそうだ」
堪えていた怒りが、ついに表に姿を見せた。アメリカ側へ支援を決定した各国、特にイギリスと日本は別格だった。イギリスは内紛を起こしてまで挙国一致になってくれたし、日本は必死で国防軍の創設等アメリカに対する協力を行ってくれていた。すでに両国ともに血も流した。
その結果の同盟体制で、連合艦隊だ。そしてそうだからこそ、アメリカも日本とイギリスを守ろうと考えた。自分を盛り立ててくれる引き立て役を無下にしては、盟主は担えないのだ。
それを邪魔された挙句、その後継者を変えてくれ、体制を変更してくれ、と言って来たのだ。その時のジャクソンの失望と激怒は察するに余りある物だった。韓国政府として謝罪と責任の取り方に言及してくると思えば、自らへの同情を貰いに来たとは想像もしていなかったのである。
「我々とてね。同盟国を守らない、と言っているわけではない・・・話は変わるけどね。12プラスの25プラスの3プラス……合計40。この数字が何を表しているか知っているかね?」
ジャクソンは一度怒りを収めると、ある数字を出して李へと問いかける。が、これは李には分かるはずもなかった。そして流石にこれがわからなかったとてジャクソンも怒る事は無かった。
「前の3つは日本国が払った人命の数だよ。この間の極東海戦に関連してね。自衛隊の死者12名。異族、陰陽師達の死者25名。総計37名の戦死者。加えて海戦の情報を掴む時に払った犠牲が3名。合わせて40人があの戦いだけで死去した。最後の一つは、その後に我々アメリカ政府が支払ったスパイ活動における犠牲者の数だ。それに加えて、日本では今も25名が寝たきりだ」
ジャクソンは犠牲者の事を忘れたことは無い。流石に天才ではないので名前まで覚える事は出来なかったが、今まで彼の政権下で彼の指示の下死んだ者達については、全ての数を把握していた。
これは、その中でも数ヶ月前の戦いでの犠牲者の数だった。25人の寝たきりのけが人達とて万全を尽くしていると聞くが、完治するかはまだわからないらしい。
アメリカ側が支払った数を含めても79名と犠牲者が少ない様に思えるが、これは幾つもの幸運の結果だ。日本が並外れた存在であった事、茨木童子や玉藻の前等普通は出ないはずの者達が歴史の表舞台に出た事、カイトという桁違いの存在が彼らを率いていた事による幸運だった。
それを、ジャクソン達は忘れた事も目をそらす事もしなかった。そしてそれ故、この幸運はアメリカ側も得られる。そこを、彼も彼が率いるアメリカという国もしっかりと理解していた。
「NORADもCIAも国防総省も全て、もし万が一我が国がかの国の魔術師と戦った場合、敵一人に対して二桁以上の犠牲者が出る、と試算している・・・彼ら一人一人はね。命を対価に、我が国の兵士200人の命を救ってくれたのだよ。元々覇権国を巡る戦いは避けられない。現代の戦争は金でしか起こらない。アメリカの利益と、中国の利益。それは真っ向から対立している。その死者は本来我が国が背負うべき死者だったのだ。それを示せばこそ、我々は日本を一つ上の同盟国として迎え入れた・・・君たちは、日本国民の為に血を流せるのかね。日本は、アメリカの為に血を流した。イギリスも流した。ならば、アメリカも両国の為に血を流そう・・・それが出来るかね?」
ジャクソンが問いかける。だが、無理なのだ。そんなことは。既に指揮権は韓国に返却されている。韓国政府は己の意思で軍を動かさねばならないのだ。そこで日本を守る為に韓国軍を派遣する、となればおそらく暴動が起きるだろう。両国の間には、それほどまでに深い溝があった。
「・・・帰って、考えたまえ。君は朴正熙になるか、否かを。我々は君達には何もしない。これまで君達にずっと施しをしてやったのだ。一度ぐらいは、恩を返してくれたまえ。一ヶ月後、国連の総会がある。そこで、君たちの身の振り方を見せてくれ。それが、私達が出来る最後の猶予期間だ」
最後の猶予期間。その意味をしっかりと、李は理解した。もしこのまま民衆をコントロール出来なければ、アメリカは何ら容赦無く韓国を見放す。日本がある限り、韓国を失った所で東側の国々が海を渡ってアメリカ本土へ来れるわけではない。戦略的に韓国はアメリカにとってほぼ無価値なのだ。日本の負担が増えるだけだ。一応盟主として少しは気にするが、それだけだ。
ここまでされている以上、どの国もアメリカが韓国を見放した所で文句は出せない。打ち切りを告げた所で、逆に内部の引き締めが出来る。本当に、これが最後通牒だった。
「ふぅ・・・4万4692人の死者達になんと詫びれば良いのだろうね、マット。素直に今ほど、死ぬのが怖いと思った事はないよ」
李が帰った後、ジャクソンは相変わらず側に控えてくれていた副大統領に問いかける。彼の述べた犠牲者の数は、朝鮮戦争で戦死したとされるアメリカ軍の兵士の数に戦闘以外で出た死者、それに加えて戦闘中行方不明者――いわゆるMIA――を加えた数だ。その彼らが独立を守り抜いたのが、韓国という国だ。
実は彼としても、その流された血に誓って韓国という国を失いたくはなかった。なんのためにその血が流されたのかわからなくなってしまうからだ。そうして、珍しく弱音を吐いたジャクソンに対して、副大統領が助言を送った。
「彼らも理解してくれるかと。今のアメリカ国民の為、彼らの流した血が無駄ではないですよ」
「そうだろうか・・・」
ジャクソンは少しだけ気弱に、天井を見つめる。どうしても、アメリカの心情として己が血を流した韓国を切りたくないのだ。が、これ以上は流石に耐えられない。だが、流した血の重みが、それを躊躇わせる。それに、副大統領が更に続けた。
「彼らの流した血によって、大戦後の日本は共産化を免れた。これは純然たる事実でしょう。それが数ヶ月前の戦いの勝利に繋がり、それは先の戦いの勝利に繋がっている。アメリカのこの先100年の栄華にも繋がった・・・それは、無駄ではないでしょう?」
「・・・そうだね・・・そう信じるよ。マット、やはり君に副大統領を頼んで正解だった」
ジャクソンが少しだけ笑みを見せる。そう信じなければやってられなかった。そしてなればこそ、彼はその流された血に誓って、情け容赦を捨てる。彼らの犠牲を無駄にしない為には、次の戦いにも勝利を手にする事が彼らの職務だった。
「・・・マット。もし君は敵として街を襲撃する時、何を気をつける様に厳命するかね?」
「はぁ・・・私なら、ですか?」
「ああ。君なら何を重要視するか、だよ」
ジャクソンは副大統領に対して、韓国という国が攻め落とされる前提で話を進める。一応、この動きは第三次世界大戦開始後の話になるだろう。が、それがわかっていて何の手も打たないのは馬鹿だ。
「そうですね・・・とりあえず重要施設の確保でしょうか」
「そうだね。それも、重要だ。だがね、もっと重要な事がある」
「?」
「民間人さ。彼らをどう使うか。それが、一番重要なのではないかね。民間人は戦う力がない。かと言って、軍は民間人を守らねばならない。見捨てるわけにはいかない。足手まといと理解しつつも、だ」
「それは、確かに・・・」
ジャクソンの言葉は道理だった。それ故、副大統領もその言葉を認める。確かに民間人への虐殺行為は後々裁かれる事になるだろうが、戦争中にそんな事を非難するのは敵側だけだ。国際法を戦時という非常時に馬鹿正直に守ろうとするのは愚挙にも程が有った。誰も気にするわけがない。
「民間人は戦争では足手まとい・・・であれば、当然敵側に擦り付けたい、と思うのが普通ではないかね」
「ふむ・・・」
「なら、彼らはこう考えるだろうね。民間人は南進してもらいたい、と。その時の韓国政府の要人達とて南へ逃げるだろう。朝鮮戦争と同じ様にね」
「・・・確かに、そうですね」
「とは言え、こちらに擦り付けられるのは困る。我々とて資源は限られているし、戦争になれば物資は不足するだろう。特に日本は物資の乏しい国だ。あそこのブルー君達には頑張ってもらわねばならない以上、余計な負担は掛けられない・・・であれば、だ」
ジャクソンはそう言うと、カイト達から更に追加で提供された通信用の魔道具を使い、とある部署へと連絡を入れる。
『はい、大統領』
「仕事を頼めるかね」
『かしこまりました。手筈通り、ですね。では、準備に取り掛かります』
「話が早いね」
ジャクソンは連絡相手の察しの良さに笑みを浮かべる。今まで彼が誰と会っていたのか、なぞ相手は知っている。であれば、今までの流れを推測してジャクソンがどういう動きを見せようとするのか、というのは簡単に分かったのだ。そして喩え命ぜられなくても、彼らはやるだろう。そうして、通信を切断したジャクソンは椅子に深く腰掛けた。
「彼らも同意、というわけか。では、大丈夫そうだね」
「何をなさるおつもりなのですか?」
「ふふふ・・・嫌がらせさ。無傷で敵にこちらの技術力を与えたくなんてないだろう? 君は重要拠点を奪取する、と言ったよね?」
「ええ」
「ならば、嫌がらせをするのさ。奪われる事がわかっていて無傷で奪わせる程、我が国は甘くはない」
「なるほど・・・狙いはソウルと釜山ですか」
副大統領の言葉に、ジャクソンが笑みを浮かべる。韓国で一番発展している都市はソウル市だ。あそこには、韓国の約半数の国民が住んでいる。それ故、それ相応には技術力も集まっている。
これを敵に奪われるのは有り難くない。朝鮮戦争では韓国軍が放棄した米軍の最新鋭の武器を敵に奪取されて一度潰走寸前に追い込まれている。同じ轍を踏まない様にしたければ、敵の手に渡る前に破壊するまで、だった。ということで、正確に狙いまで言い当てた副大統領にジャクソンは笑って頷いた。
「マシュー・リッジウェイの著書は私の愛読書の一つだよ」
「ああ、私も読みましたよ」
「ま、そういうことでね。読んでいれば、朝鮮戦争の再来は危惧する。なら、始めから与えた物は破壊して、というわけさ」
「釜山は逃げられない様にするため、と」
「そういうことだね」
ジャクソンが笑う。韓国国民には悪いが、こちらに来てもらっては困るのだ。日本のキャパシティを考えれば半島内に留まってもらわねばならない。とは言え、表向き同盟国なので救援は求められるだろう。救援には行きたくないが、ポーズだけは見せねばならない。
となると、当然その候補地に上がるのは巨大な港である釜山だ。鎮海の軍港も候補に上がるだろうが、敵とて軍港だ。こちらはスパイが入り込んで徹底的に破壊される事になるだろう。
後は釜山が破壊された事で次の候補地選びが難航している様に見せるだけだ。その後は、彼らが中国側に泣きつくだけだ。
「ふぅむ・・・となると、戦争の発端はやはり日本海で再びどうにかして、海戦を起こしたい所だね」
「機雷で封鎖ですか」
「そうだね。そうすれば、日本の南側に注力出来る」
日本海さえ封鎖出来れば、日本の海軍力とアメリカの海軍力は東シナ海に集中出来る。実はこれはそこらも考えた作戦だった。そうして、そんなジャクソンに対して副大統領が提案した。
「では、いっそ竹島を利用するのはどうでしょうか」
「ふむ?」
「韓国と日本の間では、竹島は相変わらず揉めている・・・が、今までは我々の説得等で日本は単独提訴を見送っている」
「ああ、なるほど・・・頃合いを見計らって日本に単独提訴してもらい、一気に両国の国民感情を悪化させるのか」
副大統領の言いたい事をジャクソンが理解して、笑みを浮かべた。悪くはない。そう思ったのである。
「そうです・・・そこで竹島を火種として扱おう、と」
「で、対馬海峡を中心として日本海を機雷で封鎖か・・・良いね。悪くない作戦だ。竹島の単独提訴を押しとどめていた価値があるというものだよ。その上で日本からの石油をストップさせれば、陸の孤島である韓国の船は動かない。半島が中国に呑まれるまでは、ね」
ジャクソンは笑みを浮かべる。これで、韓国の民間人は日本海の荒波を越えられない。有事に陥っているのに飛行機とて飛ばないだろう。勿論、その頃にはアメリカ軍は撤退済みの予定だ。
「となると・・・マット。一つ仕事を頼みたいのだけどもね」
「はい、大統領。北朝鮮と中国へと密かに情報を流し、時が来ればソウルを砲撃する様に扇動すれば良いのですね?」
「そういうことだよ・・・重要拠点と我々が提供した軍の物資については、ラングレーがどうにかしてくれる。ソウルは壊滅するが・・・まぁ、良いさ。後は中国がなんとかするだろう。北朝鮮への我々の介入は是が非でも避けたいはずだからね。その後の朝鮮半島については彼らに任せるさ。ま、それ以外はもうしばらく考える事にしよう」
今はまだ、準備期間だ。敵も味方も揃いきっていない。とりあえず情勢が固まった部分で戦略を立てているだけだ。そうして、ジャクソン達は更に幾つもの戦略を立てる事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。ジャクソンも弱気になる事がある。
2017年5月26日 追記
・誤字修正
ジャクソンのセリフの中の死傷者に対する言及で『37プラスの25プラスの~』で始まる一文において、『37』ではなく『25』でした。計算ミスしていました。修正しました。
・構成修正
上に合わせて、前後で少し誤差の生ずる表記を修正しました。




