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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第11章 ミズガルズ救援編

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断章 次へ編 第39話 エピローグ・2

 梅雨が近づいた頃。丁度カイトが地球に帰還して一年が経過した日の事だ。遠くある場所にて、ギルガメッシュが動いていた。


「・・・あれから、幾星霜が流れた。世界は両の指では足りぬ程に滅んでは生まれた」


 ギルガメッシュは星々の様に瞬く街の夜景を眺めながら、その時を待つ。


「贖罪は終わった・・・新たなる因果が始まった」


 幾星霜の彼方へと消え去った過去の因果を、彼は思い出す。思うのは、これまでどれだけの日々を歩いてきたか、という事だ。


「今世での5000年・・・思えば、一番長く生きたな」


 ギルガメッシュが何処か儚く笑う。5000年もの間、彼は生き続けた。唯我独尊であった男は、友を得て、過去を知り、世界を背負う覚悟を決めた。それから様々な物を背負ってきた。が、投げ出そうと思った事は無かった。


「さぁ、始めるか、エンキ。どうやら、オレ達の物語はまだ、続いているらしい」


 ギルガメッシュは亡き友へと告げる。それは先程までの儚い笑みではなく、本当に楽しそうな笑みだ。それはどこか、カイトが浮かべる笑みに似ていた。


「いつの間にか、一人では勝てぬ程に強くなった・・・いや、昔からか」


 ごきごき、とギルガメッシュが骨を鳴らす。ここ当分、鍛錬に身が入っていた。


「・・・ウルク跡地へと連絡を繋げ」

「はい」


 ギルガメッシュは配下の一人へと命じ、かつてウルクと呼ばれた都市の跡地へと連絡を入れさせる事にする。都市国家ウルクは遠の昔に滅んだ。今は遺跡が残るだけだ。とは言え、実はまだウルクは、いや、メソポタミア文明は完全には滅んでいなかった。


「エア神よ。まだ居るのであれば、返事をしろ」

『・・・なんでしょうか』

「物好きだな、滅んだ都市に居残るとは」

『『あれ』を守らねばなりませんからね』


 ギルガメッシュの言葉に、エアという神が笑いながら何時も通りの理由で答えた。水神エア。メソポタミアにおいて知恵の神とも言われる、おそらく地球上最古の知恵の神だ。彼はまだ、今もなおメソポタミア文明のあった場所の一つで潜んでいた。


「あれか」

『持ち出すわけにはいかないでしょう。あれは人類が持てる最強にして最悪の武器。あれは唯一この星が生んだ武器です。人類に知られる事もなく、ひっそりと消えていくのが筋でしょう』

「奪いに来るぞ、奴らは」


 ギルガメッシュはエアに向けて注意を促す。『あれ』とはそれほどの力を持つ武器だった。神様さえも滅ぼせる神域の秘宝。射程距離はほぼ無限。威力は甚大。星の中でも最古の文明が有する事を許された地球上最強の武器だ。道士達が狙わないはずがなかった。


『その時は、なんとかしてください。あれを振るう事を許されるのは『王の資格』を持つ者だけです。他は一時的な権限で許されるだけだ。安易に振るうべき品ではない』

「『王の資格』か・・・」


 エアの言葉に、ギルガメッシュが笑う。その笑みの理由に、エアが気付いた。彼は、ギルガメッシュから聞いていた。自分の本当の後継者を見付けたいのだ、と。


『まさか・・・見付けたのですか?』

「ああ。オレの後継者をようやく、探し当てた。5000年。長かった・・・が、見付かった。オレの後を継ぐ『王』が」

『そうですか・・・では、遂に始まるのですね』

「ああ・・・半万年以上続いたメソポタミアは、今年完全に崩壊する。人類の始まりの文明は滅び、これから、宇宙時代の黎明期が始まる」


 エアのどこか感慨深げな言葉に、ギルガメッシュも同意する。推測ではなく、決定だ。その日を以って、地球最古の文明であるメソポタミアは終わる。いや、終わらせる。そして、最初の文明の崩壊と共に、次の時代が幕を開けるのだ。


「エアも準備を行っておいてくれ・・・後は、好きに生きられるぞ」

『まさかその日がこんなに早く来るとは思っていませんでしたよ』

「だろうな・・・」


 ギルガメッシュは信じていた。だが、それは根拠のない信頼だ。エアが信じられないのも無理はない。だが、それでも遂にその日が来るのだ。


「終わらぬ文明は無い・・・では、メソポタミアの終わりを奏でる事にしよう。そして、再び始める事を宣言しよう」


 ギルガメッシュが厳かに告げる。彼は『王』。それも『あれ』に触れる事が許された王だ。それ故、その宣誓は王としての覇気と神々しさがあった。


「さぁ、エンキドゥ。お前が予想さえしなかった未来が始まるぞ。その始まりに立ち会うのは、やはり我ら二人でなければならない」


 最後にギルガメッシュは今は亡き友へと告げる。彼は己の未来を見通していた。未来視等ではなく、友を理解しているが故の未来予想だ。だが、これは流石に予想出来ないとギルガメッシュは予想していた。


「さぁ、ギルガメッシュ叙情詩を再び書き記す事にしよう」


 ギルガメッシュが、宣言する。5000年もの間、歴史の裏に潜み続けた。今はまだ力を蓄える時、と誰も侵せぬ絶対の地に潜み続けた。今の科学技術でさえ成し得ぬ事を、彼は成して潜んだ。が、その雌伏の時がついに、終わりを告げたのだ。


「この5000年でどこまで貴様に近づけたか・・・血が滾るな。行くぞ、勇者よ。この英雄王が相手になろう」


 ギルガメッシュは一通の手紙を手にする。それは招待状だ。ずっと待ち続けた男を呼び寄せる招待状だった。そして彼は更に、もう一通手紙を取った。


「さて・・・新たに『王』としての資格を持つ者よ。奇妙な縁故に、貴様も呼ぼう」


 それは、アルトへの手紙だった。カイトと同時に、アルトも呼ぶつもりだった。


「我ら英雄達はその身に宿す強大な力により、安易な死は許されなくなった。だが、悲劇に堕ちた者がやり直した事は少ない。だのに貴様は書き換えようと血を流し、頭を垂れた。その想いを、見せてもらおうか。そして、聞かせてもらおう。貴様がどの様な王として立ち、どの様な国を作ろうとするのかを」


 ギルガメッシュは二通の手紙を手に、笑みを浮かべる。まさか一度に二人も面白い『王』に会えるとは思ってもいなかった。それ故、彼は楽しげだった。そうして、手の上に乗っていた手紙は消える。


「・・・さぁ、カイト。久しぶりに・・・あぁ、本当に久しぶりに戦い方の稽古をつけてやろう。幾星霜、輪廻転生の輪を超えて、オレもまたオレとして目覚めた。準備期間は終わりだ・・・お前には、王になってもらう。小さいなれどこの世全てを統べたオレの後を継ぐ、この世全てを統べる王様に、な」


 ギルガメッシュが踵を返す。これから一秒たりとも無駄には出来ない。来るのは強敵。それも自分が一度は育てた強敵だ。そしてこれから再び育てる教え子でもある。まずは、どこまで出来る様になったかを確認しなければならなかった。

 だからこそ、休息も鍛錬も万全に行わなければ、ならなかった。そうして、遂にカイトとギルガメッシュが幾星霜ぶりに、出逢う事になるのだった。




 一方、その頃。カイトはそんな事は知る由もなく、久しぶりの平穏を楽しんでいた。この数ヶ月、本当に忙しかった。英国での一件に始まり、ギリシアへ行ったかと思えば『影の国』に放り込まれ、最後はスウェーデンでブリュンヒルダとスクルドからプロポーズだ。

 更にはスウェーデンから帰ってからも皇志の抜けた穴の補佐に皇志が戻ってからも内藤の抜けた穴の補佐に、とせわしなく動き続けて、ようやくの久しぶりの休みだった。


「へー・・・ジャンヌ・ダルクの墓、ねぇ・・・」


 浬が驚いた様にテレビを観る。内容は彼女が呟いた通り、ジャンヌ・ダルクの墓と思しき墓が見付かった、というまぁ、所謂オカルトやSF系統の番組だった。その中の目玉が、この内容だった。

 が、今回は今までの物よりは信憑性が高いらしい、という話でかなり真面目な特集が組まれていた。どうやら今は学術的な観点から墓を開けるべきか、宗教論や人道の問題を考えて開けないべきか、で大揉めしている様子だった。と、そんなテレビの内容を見て、ヴィヴィアンがくすくすと笑った。


「ジャンヌ・ダルク、ねぇ・・・」

「彼女普通に脱出しちゃってたしなー」

「あー・・・やっぱりか」


 モルガンの呟きに、カイトが何処か苦笑混じりに納得する。モルガンが知っているのは彼女がイギリスに住んでいるからだ。当時のジャンヌ・ダルクが何処と戦っていたか、といわれるとそれはイギリスだ。そしてそうなるとモルガンの権力と言うか身分から、表の騎士達にも影響力があった。

 それ故、自分達が殺したジャンヌ・ダルクは実は単なる土塊が化けた人形だった、という話を聞いて半狂乱になりかけていた当時のトップ達を知っていたのだ。

 当然だろう。魔女として殺したはずなのに、まるで本当に運命が助けたかの様な状況だったのだ。何よりジャンヌ・ダルクの奇跡を恐れる彼らが怯えた上に慌てふためいたのも無理はない。が、そっちは知っていても、カイトの反応は驚きだった。まるで驚いた様子も無かったからだ。


「え? どうしてそんな反応?」

「ん? あぁ、だって、分かるからな」

「「???」」


 カイトの反応に、二人が首を傾げる。こちらも、当然だろう。なにせカイトの反応はそれほどまでに不思議なのだ。が、どうやら大方エリザあたりに聞いていたのだろう、と思う事にしたらしい。

 1500年より後に生まれたエルザは兎も角、8世紀頃に生まれたエリザは当時も生きていたのだ。ならば、ジャンヌ・ダルクぐらい聞いていても不思議は無かったし、現に欧州を見聞している際に見たらしい。

 流石に近づく事は無かったらしいが、囚えられて火あぶりにされる、という場面は一応見に行ったそうだ。天使達がどう動くのか、と興味があったらしい。それ故、そこで土塊である事に気付いたそうだ。


「ま、いっか」

「そだね」

「でもなーんか、あの娘気に入らなかったんだよね、私。捕まった、って聞いた時ザマミロって思ったぐらいだし」

「? そう? 私はかわいそうに、って思ったけど・・・」


 どうやらお互いに当時の有名人に対して、思う所があったのだろう。丁度良かったのか二人でこの話題で盛り上がり始めた。


「いや、だってあの娘単なる狂信者じゃない。神の声を聞いた、とか何それ。意味わかんない」

「純粋なんだよ、ジャンヌは」

「変わんないでしょ。純粋さも極まれば狂っている事と変わらないもの。盲信って言うでしょ? それと一緒よ。ただ自分で考えてないだけ」

「あー・・・でも、純粋で一途だったから、じゃないかな」

「純粋さは時として悪い事やってる奴には疎ましく映る物だよ」


 モルガンはどこか呆れ混じりに、ヴィヴィアンに告げる。ちなみに、これがヴィヴィアンの暗喩である事にヴィヴィアンは気付いていない。どうやらモルガンは自分が抜け駆けしようとしたりしている事は理解しているらしい。


「そうかな」

「そうよ。実際、ジャンヌを一番疎ましく思ってたのって教会の奴らでしょ?」

「あー・・・そう言えばそうだね。シャルルって今じゃ暗愚とか言われるけど、自分でやった失策らしい失策ってあの娘を助けなかった事とブルゴーニュ派敵に回した程度だっけ」

「そうね。一応、ジャンヌ・ダルクも助けようとはしたんだけどねー・・・あの当時の教会の奴らってホント聖職者名乗る癖にクズしか居ないし・・・と言うか、私とギネヴィアの名前貶めた奴どこのどいつ? 絶対ジャンヌ見殺しにする様に言ったのそいつと同じ勢力だよ。お陰で私なんて陰険だったり売女みたいに書かれるし・・・」

「あはは」

「いや、笑わない! あんたもマーリンの愛人とか書かれてるでしょうが! 不倫よ、不倫! しかも愛に狂って幽閉した、とか言われてんのよ! あんた自身が! ここ、怒る所! きちんと契約に基いているんだから、正しく評価されなさい!」


 どうやら、話題は今度は教会の愚痴へと変わったらしい。大抵、彼女らが悪役として記されるのは教会の影響が大きい。それは文句はあるだろう。

 ちなみに、ジャンヌ・ダルクを見殺しにしたシャルル7世が書簡と言うか特使を送った、というのは一説だったらしいのだが、当時を生きた者達が言う所を見ると、実際に送ったのだろう。

 シャルル7世はよく暗君として書かれるが、そもそも百年戦争で荒廃したフランスを立て直したのは彼の手腕が大きいし、そもそも敵に囚えられた味方に身代金を払った事が無いわけではない。

 実はジャンヌを見殺しにした理由は未だに歴史の謎とされている所だった。そして、モルガン達もそこらは知らないらしい。なので腐敗した教会の仕業だ、と睨んでいたのであった。それほどまでに、当時のジャンヌ・ダルクの業績と教会の腐敗は凄まじい物だったのだろう。


「あはは」


 そんな二人に、カイトは笑う。妖精達がこういう風にじゃれ合っているのは、見ていて楽しかった。それに、当時を生きた者が当時を生きた者だからこそ知る歴史の真実を語ってくれるのは、素直に面白かった。が、そんな笑みに、モルガンが抗議の声を上げた。


「笑うなー! 私、結構必死なの! ガウェインはバカみたいに書かれるし、アグラウェインだってちょっと無口なだけでホントは良い子なの!」

「大丈夫。オレもアルトもきちんとわかってるって」

「うー・・・」


 モルガンがかなり必死な様子でカイトを見上げる。母親としては、息子の評判もかかっていたのだ。結構必死なのも仕方がないのだろう。

 とは言え、カイトとてガウェインが良い騎士だと言う事は知っているし、アグラウェインが実は良い騎士だ、というのも実際に会って把握している。言われるまでもないことだった。そうしてとりあえずはそれで発散出来たのか、モルガンは溜飲を下げる事にした。


「はぁ・・・なんか疲れた・・・」

「あれだけ騒ぎ回ればね。はい、これ」


 疲れた様子のモルガンに対して、ヴィヴィアンがスポーツドリンクを差し出す。大型化したら居場所が無いので、彼女は迷ってカイトの膝の上に腰掛けていた。


「ありがと・・・でも今思えば、ちょっと不思議?」

「何がよ」

「ううん。モルガン、自分では色々と言いつつ、会ったことの無い人をあんまり貶めたりしないでしょ?」

「自分がされた身だからね」


 ヴィヴィアンの言葉にモルガンが同意する。自分がやられて嫌だから、彼女もしないのだ。なので最終的な評価は自分で会ってから、決める事にしていたのである。

 そうであるが故に、カイトの所に来たのだ。アルトとモルドレッドを任せられるか、と決める為にだ。だが、それ故、今回の事は少し不思議だったのである。


「ジャンヌとモルガン、会ったことないでしょう?」

「うん。結局、連れてこられたのって泥人形だったもの。だから徹底的に遺体焼かざるを得なかったんだものね。お金払って偽物掴まされました、なんて赤っ恥どころの話じゃないもん」

「だから、ざまみろ、って思った事に疑問に思ったのよ」

「・・・あれ? そう言えば・・・どうしてそんな事思ったんだろ・・・」


 言われて、モルガンも違和感に気付いた。何故か、ジャンヌ・ダルクが死んだと聞いた時にふと、そう思ってしまったのだ。普通なら、純粋さを利用された事に憐れみを抱くだろう彼女が、だ。


「「???」」


 二人は首を傾げる。何故か、そう思ってしまったのだ。が、原因がわからない。だがそんな二人は困惑する二人にカイトが密かに笑みを浮かべていた事には、二人は気付かないのだった。




 遠く。遥か遠く。欧州のどこかにて。カイトが<<深蒼の覇王(しんそうのはおう)>>と言われるよりも前の事。少女が一人、十字架の前に祈りを捧げていた。


「・・・」

「ジャンヌ・・・ジャンヌ」

「・・・あ、はい、司教様。何か御用ですか?」

「相変わらず、熱心ですね。まだ、慣れませんか?」

「・・・ええ」


 少女が少し恥ずかしげに、司教の言葉に頷く。少女の名は別にあるが、今は『ジャンヌ・ダルク』をコードネームとして与えられていた。とは言え、司教の言葉を考えれば、それは最近の事なのだろう。さもありなん。今日から名乗る様に命ぜられていたのだ。気付かないのも無理はない。

 少女は非常に美しい少女だった。艷やかな長い金色の髪はどの様な黄金よりも清らかに光り輝き、肢体はこれ以上無い程に整っていた。目の色は青。大空の様に澄んだ青色だった。

 神様にさえ、これほどの美少女は居ないだろう。ティナやルイスと比べても対等に張り合えるだけの美しさがあった。

 とは言え、これでもまだ完成されていなかった。年の頃は13歳程度。まだ、少女の領域を出ていない。背丈もそれに応じて少し低く、顔立ちにも幼さが滲んでいた。


「ジャンヌ。出発の時間ですよ」

「・・・はい」

「しっかり、頑張ってください。蔓延る悪徳に虐げられし民草の悲嘆を、救いなさい」

「はい、司教様」


 司教の言葉にジャンヌと呼ばれる事になった少女は頷く。今日は少女の旅立ちの日だった。と、それ故か、司教が今までずっと疑問に思う事を問いかけた。


「・・・一つ、良いですか?」

「なんでしょうか」

「何時も何を祈っているのですか?」


 司教が問いかける。彼女がずっと真剣に祈っている事は、ここら一帯では有名な話だ。が、何をそこまで真剣に祈るのか、というのは誰も知らないことだった。


「・・・笑わないでくれますか?」

「ええ」

「運命の赤い糸です」

「・・・はい?」


 司教は確かに、笑わなかった。が、代わりに目を丸くした。少女の年頃になれば、流石に運命の赤い糸なぞという俗説を信じる者は居なくなる。いや、居るにはいるだろうが、少女の立場でそれを信じている者は居ない。


「ずっと、生まれた時から誰かを待っているんです。きっと会える。そう信じている。だから、その日が一日も早く来てくれる事を、祈っています」

「はぁ・・・」


 司教は生返事しか返せない。少女はそれほどまでにそれを信じていた。いや、確信していた、とさえ思えた。が、それを信じさせるだけの力が、彼女にはあった。だからこそ、きょとん、となった司教もそれを信じる事にした。


「・・・貴方は生まれながらにして聖術を使いこなし、何の因果か隠居した筈の私の下へと来ました。神が、貴方を導いているのかもしれませんね」

「そうかも・・・しれません」

「はい・・・では、ジャンヌ。ヴァチカンへ行っても、元気で」

「はい、司教様。今まで有難うございました。暇があれば、顔を見せに来ます」

「楽しみに待っていますよ」


 司教が少女を送り出す。そうして徳の高い司教の下で教えられた少女は、ヴァチカンで更なる修行を積んで、その名に恥じぬ功績を残す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。『白の聖女』の本物が出て来るのはここで最初で最後かも・・・

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