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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第11章 ミズガルズ救援編

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断章 次へ編 第38話 エピローグ

 カイトが戦いの後始末まで全てを終えて、日本へと帰国して数日。皇志は病院のベッドに寝かされていた。幸い、ギリギリ防御が間に合った事で頭蓋骨にヒビが入っていたという事もなく検査入院だった。気絶したのは脳震盪らしい。やはり血に狐族の血を受けているからかその程度で助かったらしい。

 とは言え、脳だ。頼むから検査はしてくれ、と家人達から頼み込まれて、更には同じくカイトに頼み込んだ家人達から傷薬の差し入れを受けて、強制入院となっていた。今は神宮寺家が保有する大学病院で検査入院中だった。と、そんな所に意外な見舞いの客がやって来ていた。


「まさか、鬼に見舞いに来てもらう日が来ようとはな」

「はんっ。こっちも清明の子孫の見舞いに行く日が来るたぁ、思ってなかったぜ」


 皇志の問いかけに茨木童子が笑う。曲がりなりにも今は共闘関係にあるのだ。一応トップの一人として、見舞いに来たのである。


「で、検査はどうなってるんだ?」

「これでも人並み以上には丈夫だ。心配しなくて大丈夫だ」

「そうかい。そりゃ、良かった。間に合わねぇとそりゃそれでこっちの名にも関わる」


 茨木童子は見舞いの品であるりんごを勝手に手に取ると、それを齧りながら少しの安堵のため息を漏らす。己が援軍として差し向けられたのだ。援護の結果皇志が死んだ、では格好がつかない。


「あぁ、そうだ・・・貴様の里の方はどうなっているんだ?」

「大江山と鬼ヶ島の事か?」

「ああ」

「どっちもなんにもねぇよ。あそこに手を出すバカじゃなかったらしいな。まぁ、それも何時までやら」


 皇志の問いかけに、茨木童子がため息を吐いた。実は皇家の本邸がある場所から、大江山は近かった。一応大江山は国定公園になっているが、その実彼らが保有しているが故に、要らぬちょっかいをかけないように、と国定公園にされているだけだ。

 なお、鬼ヶ島は更に北の京都府沿岸の日本海に浮かぶ島だ。一般には勿論隠されているし、魔術で隠されている為地図にも乗っていない。大昔に、酒呑童子が滅ぼされる前にその後の顛末を見越した酒呑童子が茨木童子に命じて、力のない鬼達を避難させた場所だった。当時茨木童子には避難させる理由はわからなかったが、後々になって理解したのであった。


「ま、大江山は俺が直々に守ってるし、鬼ヶ島も守りを置いてる。避けて通ったんだろう」

「そうか・・・確かに、道理か・・・ならば、潜入経路は兵庫か・・・いや、舞鶴の報告から考えれば福井の可能性も・・・」

「はぁ・・・怪我の治療に専念しとけ」


 どうやら皇志は元気が有り余っているらしい。入院患者だというのに、何処から敵が入り込んだのか、という考察を始めていた。そんな皇志に呆れつつも、茨木童子はしばらく、そこで過ごす事になるのだった。




 一方、その頃。カイトも放課後になった事で天神市の天桜学園の大学病院へとやって来ていた。流石にぞろぞろと引き連れてくるわけにもいかないので、今回は一人だった。


「失礼します。内藤総理の術後はどうですか?」

「貴方は・・・」


 自室でカルテを閲覧していた医者は唐突に現れたカイトの姿を見て、一瞬困惑する。が、どうやら一応聞いてはいたらしい。即座に詳細のわからないロングコートの男、ということでカイトだと理解したらしい。


「目は先程、覚まされました。幸い処置をすぐに施されたお陰で、命は助かりました。ですが・・・」

「ですが?」

「老齢だった事が、災いしました。失血も多かった。当分意識は混濁したままでしょう」

「そうですか・・・」


 カイトが沈痛な顔をする。どうやら目覚めた、と言っても今はまだはっきりと意識を取り戻したわけではないのだろう。


「後遺症等は?」

「そこはまだ、なんとも・・・ですが、そこについては、あまり心配しなくでも大丈夫かと。応急処置が早かった事と、その・・・秘書の方が庇っていらっしゃった事で頭への致命的なダメージは避けられていました。脳へのダメージで麻痺等が残る事は無いでしょう。それよりも、肋骨が折れて内蔵に刺さっていた事が危険でした。先程も言いましたが、治療があと少し遅ければ命は無かったでしょう」


 どうやら秘書が庇ってくれていた事が、最大の彼の助かった理由なのだろう。カイトも少しの安堵を浮かべた。


「総理のご家族には?」

「全てを、お伝えしました。事情については、どうやらご子息様も覚悟の上だったらしく・・・」

「そうですか・・・もし来られたら、私もご挨拶に伺う、と。この通りあまり真っ当な身分では無いですからね。お願いします」

「わかりました」


 カイトの伝言を医師が引き受ける。カイトはどれだけ頑張っても公に出来ない身分だ。伝言を頼める相手も限られる。その点、内藤の担当医は大丈夫だろう。


「ですが、その・・・秘書と運転手のご家族には全てを、とは・・・」

「そうですか。わかりました」


 医師の言いにくそうな表情に、カイトも大凡を理解する。どうやら、秘書と運転手の方は全てを知れる立場ではなかったのだろう。表向きの発表である落石事故による不慮の事故、と伝えたらしい。こうなっては、カイトも接触はしない方が良いだろう。

 そしてそこらを聞いてから、カイトは本題である差し入れを差し出した。それは小瓶だ。エネフィアから持ち帰った治療薬だった。


「これを。お聞きになられていると思いますが、こちらで扱っている傷薬です。どんな傷でも直せるわけではありませんが、術後が安定しなくなった場合の予備、とお考えください」

「ああ、これが・・・わかりました。確かに、お預かりします」


 医師はカイトから小瓶を受け取ると、一度封を開けてしっかり確認して受け取る。確認は毒ではないか、という所だ。万が一の場合には、自分の身を犠牲にするつもりだったらしい。

 どうやら、信頼できる医師らしい。そうでなければ一国の総理の担当医にはなれないだろう。天道財閥の面子もある。腕も確かだろう。後に聞けば、神の腕を持つ、と言われる程の名医らしい。


「では、またお見舞いに」

「ええ」


 カイトは医師にそう告げると、音もなく部屋を後にする。医師はそれにまるで白昼夢でも見たかの様な感覚を得たが、手にある小瓶が、夢ではない事を示していた。

 後の事になるが、内藤は翌年の中頃にはリハビリを終えて退院となった。退院後刀花達に感謝の時に麻痺等が残っていない事を伝え、その数日後記者会見を行い息子を後継者として指名して代替わりする事を明言して引退した。


「色々と始まるか・・・」


 病院から外に出たカイトは、西の空を睨む。この先に、敵がいる。だが、それとの本格的な戦いはまだ先だろう。と、視線を下ろした所、偶然に弥生が歩いているのを目撃した。


「弥生さん」

「っ・・・あら、カイトじゃない」


 弥生の顔に安堵が浮かぶ。どこか憔悴している様子があったのは、気の所為ではないだろう。


「なんか焦ってたっぽいけど・・・どうかしたのか?」

「あ、ううん。何でもないの」

「そうか?」


 明らかに、何かを隠している。それをカイトも気付いた。


「何か相談あるなら乗るけど?」

「あー・・・うん、ちょっと仕事でね。スランプと言うか・・・まぁ、色々とあるのよ」


 どうやらカイトに気付かれた事には、弥生も気付いたようだ。なので当たり障りもない言い訳を行う。


「・・・まぁ、それなら良いんだけどな」

「ええ。だから、大丈夫よ。で、カイトはどうしてこんな所に?」

「あ・・・あー・・・」


 しまった。今度はカイトが思わず言い淀む。弥生が心配になりカイトも声を掛けてしまったが、どう見ても病院から歩いてきた様にしか見えなかったのだ。疑問に思われるのも当然だろう。おまけにこれでは散歩という言い訳も使えない。かなり拙い状況だった。


「・・・ごめん」


 カイトが小さく謝罪する。流石にカイトでも言い訳は考えつかなかったらしい。魔術を使って弥生の感じる違和感と今の会話を無かった事にして、一緒に歩き始める。


「で、弥生さんは散歩とか?」

「ああ、モデルのバイトの帰り道よ」

「なんだ。大変だな」

「そうねぇ・・・」


 どうやら、カイトとの会話は安堵出来るらしい。弥生が先程までの憔悴を露ほども見せず、カイトの会話に応ずる。どうやら相変わらずモデルのバイトを続けているらしい。


「そう言えば、カイトは今年受験?」

「ああ・・・って、気が早いな」

「あら、私は今頃にはもう志望校決めてたわよ?」

「ありゃ」


 弥生の言葉に、カイトはあくまでも学生に見える風に振る舞う。とは言え、彼の場合は学力は十分だ。試験勉強は必要がない。と言うより、試験勉強やってる暇があれば戦争の訓練と用意をしろ、というのがティナの言い分だろう。学生と裏の顔の二足わらじは辛かった。


「あ。でも貴方の場合、もう決めてるかしら」

「あはは。バレてた?」

「だって、今の所全国トップクラスなんでしょ? 皐月がぼやいてたわよ」

「やれば出来る子なんですよ、オレ」


 カイトの言葉に、弥生がくすくすと笑う。そうして、カイトは弥生の家まで送る事にする。そうして聞くのは、天桜学園の事だ。勿論ここで弥生には志望校が天桜学園だ、とバレていた。


「ふーん・・・そんな学校なんだ」

「キレイな所ねー、あそこ」


 他愛のない話をしつつ、カイトは情報を集める。話してくれた内容の多くは、学友の事やファンがどうたらこうたら、と苦笑混じりだったりが多かった。


「じゃ、ありがと」

「おう。じゃあ、また」


 弥生を家まで送り届けて、カイトと弥生は笑顔で別れる。そうして弥生を家まで送り届けて、しかし、そこで皐月に見付かった。


「あ、カイト」

「おう。昨日ぶり」

「ちょっと来なさい」

「はい?」


 遭遇して即座に、カイトは皐月によって確保される。そして別れたはずの神楽坂邸へと連行されていく。と、そうなれば当然、弥生と再度遭遇した。


「あら?」

「さっきぶりー」

「あらあら」


 皐月が引っ張っていくカイトを、弥生が楽しそうに笑って見送る。そんな様子を、皐月も密かに確認していた。が、そうして連行された先は、皐月の部屋だった。


「なんだよ、いきなり・・・」

「いや、その・・・お姉ちゃん最近変じゃない?」

「・・・何かわかってんのか?」


 カイトの顔付きの変化に、皐月がカイトも気付いている事を理解する。そして同時に、カイトも皐月が弥生の違和感に自分以上に気付いている事を理解した。そうして、皐月が心配そうに声を零した。


「何かあったのかな・・・」

「学校関連じゃ、ないな」

「そう?」

「学校の事を話している時の顔は、少なくとも思い詰めた様子は無かった。なら、学校でいじめとかはなさそうだな」


 皐月の言葉に、カイトは己の見立てを告げる。更に言うと実は天桜学園の内情は調べさせており、いじめが起こる様な学校ではない事も把握していた。なのでその線は確かだろう。調べさせた理由は簡単だ。自分も通う事にしているからだ。問題が起きては困る、と安全かどうかを確認したのであった。


「多分、バイト関連か」

「やっぱりそうなのかしら・・・一度だけ、変な噂が流れている、って聞いた事もあるし・・・」

「変な噂?」

「ちょ、カイト。怖いって」


 カイトの目に宿った剣呑な光に、皐月が手で制止する。芸能界で噂と来るのだ。自分もそこに手を突っ込んでいる事もあって、碌な話にはなりそうになかった。


「変な噂、と言ってもお姉ちゃんがヤリマンとかビッチとかそう言う噂じゃないわよ。どっちかというと、業界全体に流れてるもっとやばい噂。先週お姉ちゃんが気をつけます、って言ってたの聞いたのよね」

「どういうのだ?」

「高校生モデルの女の子達が行方不明になって、見付かった時には精神が崩壊しちゃってた、っていう噂よ。先々週ぐらいからまことしやかに流れてるんだ、って。ネットでもアングラな所じゃ少し話題になってるわよ」

「ほぅ・・・」


 皐月からの情報にカイトの目の色が変わる。確かに、剣呑な話題ではない。少なくとも、カイトが本腰を入れる程度には、見過ごせる話ではなかった。


「まぁ、こっちでも注意してみる。お前も一人で歩かない様に注意させておけ・・・って、あー・・・」

「そういうこと。この見た目が仇になったわね・・・」


 カイトもここでようやく、なぜ皐月が自分を巻き込もうと思ったのか理解する。皐月は今日も今日とてスカートにニーハイソックスだ。スカートとハイソックスの間から僅かに見える素肌が眩しかった。

 まぁ、カイトでそれだ。誰がどう見ても皐月は女の子である。おまけに元々の顔立ちもあるので、これでズボンに変えた所で男には見えない。護衛にならなかった。

 しかも、相手は力に訴えかけてくる可能性もあるのだ。皐月では心許ない。元々ここらで一番の不良だったソラをぶちのめした実績のあるカイトの出番、と相成っても不思議はなかった。


「わかった。一応、注意しとく。何かあったらすぐに連絡出来る様にしといてくれ。こっちもお前からの電話なら、取る様にしておくから」

「ありがと」


 カイトの言葉を聞いて、皐月が感謝を示す。どうやら、要件はこれだったのだろう。既に遅かった事もあって、カイトはそれで神楽坂邸を後にする。


「爺。今暇か?」

『なんじゃ、藪から棒に。暇なわけがなかろう』

「ま、そりゃそうだわな。とは言え、悪いが一つ注意して欲しい情報がある」

『なんじゃ』


 蛇の道は蛇。芸能界の事であれば、大御所である彼に聞くのが一番だろう。ということで、忙しい所を申し訳ないが、一つ蘇芳翁に骨を折って貰う事にした。


「モデル業界に変な噂流れてる、ってこっち・・・表のルートでも入ってきた。なんか知らね?」

『噂、のう・・・表ルートとなると、学生の間・・・たかだか高校生モデルとかそう言う領域か。すまん。流石に儂の所にはまだ入ってきてはおらん』

「ちっ・・・やっぱりか」


 そうだろうな、とカイトも仕方がないと諦める。彼は大御所。対して弥生ら高校生モデル達は新入りの部類だ。謂わば子供と大人の差だ。交流関係はもとより、話題にする内容も大きく異なる。彼の所に入ってくる程になると、余程の大御所か大物が関わった時だろう。とは言え、そういうことであるのなら、一つ確証は持てた。


「ま、それならそれで注意しておいてくれれば良い」

『さしもの勇者も初恋の人が下衆の毒牙に掛かる事は恐れるか』

「うるせ。どっちにせよ悪銭が蔓延って良い事なんぞ何もねぇよ。国が腐敗するだけだ。物のついでだ。私腹溜め込んでるゴミの掃除もやってやる、ってだけの話だ」

『かかかかか。ゴミ掃除とは、辛辣じゃな。一応は人じゃろうに』

「はんっ。下衆に掛ける情けは持ち合わせてねぇんだよ・・・」


 相変わらず辛辣なカイトの言葉に、蘇芳翁が笑う。どう考えても要らぬお節介だ。が、そこは惚れた弱みと言うところだろう。


「とは言え、まぁ、どっかの糞どもが芸能界に手を回してて、その先鋒の可能性が高い。暗殺やらなんやらと駆使して、そこらのお掃除やってるからな。変に入られてもめんどくせぇ。20年は芸能界であれどの業界であれ、綺麗な状態になってもらわにゃ困るんでな。今手を出した不遇を呪ってもらおうってだけだ」

『じゃのう・・・わかった。こちらでも注意しておこう』


 カイトの言葉に蘇芳翁も同意する。芸能界に蔓延っていた薬物や枕営業等については、現在進行系で一掃中だ。その影響の一端も考えられる。なのでカイト達は結構本気で事にあたるつもりだった。そうして、その件については調査する事にして、カイトはその日から少し、弥生の事を気にする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。明後日で断章・11は全て終了です。

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