断章 初戦闘編 第33話 御門一門の戦い
少しだけ、話は脇道に逸れる。襲撃が始まると当然だがその報告は全て、『梁山泊』の本拠地に集められていた。
『ふぅ・・・さすがに彼らも南北両方の術者達が動くとは、思えないでしょう』
『普通は動くと思わん。私だったとしても、そう思う』
陸遜の言葉に、荀彧が同意する。いくら彼とていくら直接的な同盟を結んでいないとは言えアメリカを介して同陣営に所属する味方の魔術師が裏切るとは想定出来るわけがない。まずは敵味方の判断から、という戦闘の前提が全て狂いかねないのだ。が、それにこそ、この戦略の意味があった。
『呉用・・・いや、郭嘉か。実力だけで筆頭にまでのし上がった男。筆頭軍師の名は伊達ではないな』
『それ、本人に言ってあげましょうよ』
『バカを言え。言えば付け上がるだけだ』
陸遜の言葉に荀彧は笑う。表立って認めてはいないが、実のところ部隊で一番郭嘉を評価しているのは軍師達だった。特にこの荀彧が一番認めていると言えた。
『これで、敵は疑心暗鬼に陥るだろう。まぁ、既に同盟を新たに結び直した中枢は揺さぶれんだろうが・・・それでも、大戦後からある同盟を直接結んでいない所の関係は揺さぶれる。アメリカの権威も損なわれる』
『そう言っても、こんな事が出来るのはあの半島程度ですよ。ほかは普通こんな脅しをした所で簡単には屈しませんよ。こっちの心象をきちんと考えられるのなら、まだ有効な同盟やってる国の面子丸つぶれにする様な事は出来ませんって。おまけに南の方の大統領がアメリカに土下座の真っ最中。思いっきり面子叩き潰していますよ、あれ・・・まぁ、そうなる事を読んで、まだ動かないと思うだろう所を動かしたんですけどね・・・』
どこか侮蔑を滲ませながら、陸遜が盛大に呆れながら首を振る。敵にしても味方にしても、一番疎まれるのは裏切り者だ。それも義憤ややむを得ない理由あっての離反ではなく、脅されての裏切りはどこの国でもどこの軍でも疎まれる。
何故か。簡単だ。力に屈して裏切った者は必ずまた同じ事を繰り返すからだ。なので陸遜の反応は当然の反応だった。彼の中――荀彧と郭嘉の中でもだが――では、敵である日本の陰陽師達以上に遥かに信用出来ないのは半島系の術者達だった。とは言え、そんなどこか青い陸遜に対して、荀彧が苦笑して窘めた。
『言ってやるな。敢えて言うのなら、俺達からは哀れ、と言ってやるべきかもな。あの半島は漢朝より2000年近くもの間我々の半属国だったのだ。あの半島は常に我々に攻められ続けてきた。あの国には我らの・・・いや、中華文明そのものへの恐怖が染み付いている。そして、積み重なった恐怖は逃れようとして簡単に逃れられるものではない』
『まぁ、そうですけどね。とは言え・・・それはわかっていたとしても、少し自信無くしますね。ここまで見事に嵌れば・・・こっちの望む以上に全力で動いてくれていますよ』
陸遜がため息を吐く。既に述べたが、日本側の作戦を手直ししたのは欧州にいる郭嘉だ。特に彼は韓国の大統領がアメリカに謝罪しているのを受けて、その裏の魔術師達を脅迫して動かす様に指示したのである。
つまり、内藤の重傷はほぼほぼ彼の手腕によるものだった。陸遜も同じ軍師として、少し自信を損なったらしい。なお、テロ行為についてはまた別の軍師の提案だ。郭嘉は今回はあくまでも、補佐という立ち位置でそこまでの動きは見せていない。
『始め道士方から外国人と言われた時には盛大に訝しんだんですけど・・・まだまだでしたね』
『ふっ・・・そうか』
自らの不明を恥じ入る陸遜に、荀彧が笑いかける。実は入ってきた順番では郭嘉が二人より後だ。何らかの理由があって、郭嘉は懲罰としてここに送り込まれたのだ。
道士達によって裏切りは無い様に手は打たれていたが、それでも彼らも当初は訝しんだ。が、彼の知性に関して言えば、全員が目を見張る物があった。
それ故、いつしか彼らも郭嘉を信頼する様になっていたのである。それこそ、筆頭にまで上り詰める事を認めるぐらいには、だ。と、言うわけで、荀彧はいつしか尊敬を浮かべる程になっていた陸遜へと向けて、郭嘉唯一の難点である事についてだけは、しっかりと釘を刺しておく事にした。
『が・・・あの女癖だけは、真似するなよ』
『あはは・・・私もあんな情けない理由で道士方に命を握られたくは無いですよ。道士方の一人のお気に入りの女に手を出して、なんて・・・』
『はぁ・・・あの男はどうにも自分の命を軽視しているきらいがある。享楽的と言うかなんというか・・・』
『あ、荀彧さん。追跡部隊の追加報告が来てますよ』
『っと』
愚痴を言われてはたまらない。そう思った陸遜が荀彧へと告げると、荀彧が愚痴を止めて作戦に集中し始める。それは、内藤の乗った車が大破した、という報告だった。
『車は停止しただけで、爆発・炎上はしていないのだな? ならば、追加で攻撃しろ。是が非でも殺せ。敵が来ている? 追い返せ。それが終わるまで、撤退は許可出来ん』
荀彧が内藤を攻めている部隊へと伝達を送る。そうして、戦いは更に続く事になるのだった。
一方、その頃。当然だが刀花達はひた走っていたが、目の前で内藤の乗った車が大破して横転するのを目の当たりにすることになった。
「あぁ!」
「っ!」
目の前で滑り横転した車に、優奈――猫派だった少しお姉さん系の少女――が悲鳴を上げる。とは言え、まだ助かるかもしれない。諦めるには、まだ早かった。なので三人はそれでも速度を緩める事なく、駆け抜ける。と、そこに置いてきた穂波達による援護射撃が飛んできた。
『っ! 敵襲!』
内藤を引っ張り出そうと車を停止させて降りてきた敵だが、飛んできた攻撃の雨に声を荒げる。その言葉に、刀花は敵が朝鮮半島系の魔術師である事を理解した。相変わらず北か南かはわからないが、とりあえず警戒する様に指示したのは正解だっただろう。
「ハングルか」
「半島系と戦った事は無いが・・・刀花、やれると思うか?」
「やれるやれないではなく、やるしかない。ここで内藤総理を失うわけにはいかない」
春香――犬派だったボーイッシュな少女――の問いかけに、刀花はどこか祈るように告げる。彼女らには喩え交流試合だったとしても、朝鮮半島系の魔術師達との交戦経験は無い。
敵についての情報は僅かな知識だけで殆ど無いが、それでも、彼女らがやるしか内藤を助ける事は出来ないのだ。刀花の言うとおり、やるしかなかった。
「優奈。内藤総理の命脈を保たせられるか?」
「わからない。とりあえず傷を見てみない事には・・・っ、駄目。かなり光が薄い。集中しないと無理」
「・・・わかった。なんとか援護する」
優奈の言葉に刀花が表情を険しくする。優奈という少女は少し特殊な魔眼持ちで、人の生命力を光として見れるらしい。それ故怪我人の手当て等に特化していて、この場も内藤の救命の必要性から連れてきたのであった。そして彼女らはこの道中で更に皇志への伝令を送り、穂波達の援護を背に敵へと接触した。
『来るぞ! 女三人だ!』
『一人は・・・皇 皇花だ! 三童子の一人! 油断するな!』
「どけ!」
どうやら敵も刀花の事は見知っていたらしい。長く日本で活動していた者が居るのだろう。とは言え、そんな事は今の刀花にはどうでも良い事だった。なので彼女は容赦無く刀を振りかぶって、内藤の乗った車への道を作った。
『っ!』
どうやら刀花の実力は彼らよりも遥かに上らしい。避けるしか手はなかった様子で、敵の全員が道を空けてしまう。
「援護してくれ!」
『はい!』
刀花は穂波達に側面の攻撃の援護を任せると、<<縮地>>で一気に車へと近づく。そして、車を守る様に刀花と春香が立ち、優奈が天地が逆になった車の割れた窓から中の内藤の様子を確認した。
「・・・これは・・・肋骨がやられてるし、頭蓋骨にもヒビ・・・内蔵は・・・わからない・・・でも、出血が酷い。太い動脈を切っている・・・内蔵もあぶなそうね・・・」
内藤の様子を確認する優奈の顔は険しかった。どうやら途中で幾度か魔術を被弾していたのだろう。横転だけでは説明出来ない傷が見えた。幸い持っていた呪符のお陰でそれによる致命傷は避けられていた様子だが、そこに更に横転や老齢である事等が加わった事でかなり厳しい状況だった。
「行けるか!?」
「駄目! 動かせない! 傷の手当てをして、救急車を待つのが最適!」
既に戦闘を開始していた刀花の問いかけに、優奈がシートベルトを外して内藤を天井に寝かせながら答える。幸い、車が物陰になってくれているお陰で攻撃を直接食らう危険は無い。後は車を破壊されることだけが怖いが、それは刀花と春香の腕前を信じるしかなかった。
「ちぃ・・・」
「ってことは、ここで援軍が来るまで防衛戦か・・・」
刀花と春香の顔が盛大に歪む。想定している事態の中で、最悪の次に悪い状況だった。そして更に悪いのは、敵が必死だという事だ。
『撃て! ここで討たねば始末されるのはこちらだぞ!』
彼らは道士達、ひいては中華文化への恐怖に支配されきっていた。2000年分の恐怖だ。荀彧の言うとおり、逃れようとして逃れられる物ではなかった。それ故、なりふり構わず撃ち込んでくる。その量は雨というに相応しい程で、思わず刀花が顔を顰める程だった。
「彩芽! 車を凍らせてくれ! このままでは燃料に引火しかねない!」
『わかりました』
車の中にはまだ、ガソリンが残っている。そこに引火して爆発炎上すれば、まず間違いなく内藤の命は無い。なので寄せられる攻撃全ての対処が難しい事を悟った刀花は先に手を打ったのである。
「五行相生・五行相克・・・陰陽の秘術はここに極まれり」
凍りついていく車を背に、刀花は刀に力を溜める。敵はこちらに近付いて勝てない事を理解していた。そして同時に、こちらが車の側を離れられない事も、だ。
なので彼らは遠巻きに射掛けるだけしかしてこない。別に近づかなくても内藤を殺す事は容易いのだ。そして刀花は近接系の陰陽師だ。近づかれなければ、攻撃を食らう事は稀だ。ベストな判断である。
「<<五行相克刃>>」
刀花の口決と共に、彼女が皇花であった時代から愛用していた刀に五行の力が宿る。五行とは陰陽師と言うか東洋での属性の考え方だ。それには5つあり、金・火・水・木・土である。
そして五行相克とはその五行に則った属性の相性の事だ。水は火に克ち、火は金に克つ。金は木に克ち、木は土に克ち、土は水に克ち、というやつだ。その相克の力を刀に全て宿すのが、今刀花が使った物だった。
「<<五行相生刃>>」
それに合わせて、春香もまた同じような技を使用する。それは刀花とは違い、五行相生という理論に則った物だ。五行相生というのは東洋独特の考え方だ。火は土を生み、土は金を生む。金は水を生み、水は木を生み、木は火を生むのである。
「後は任せた!」
「おう!」
刀花は春香に逆側の防備を任せると、目の前に迫り来る様々な魔術に対して刀を振るっていく。やはり厄介なのは敵の数だ。30人は下らない。それを援護射撃があるとはいえ、二人だけで守りきるのは難しかった。
『撃て! 相手はたった二人! 車に当てれば良いだけだ! 切り裂かれた所で同時にいくつもやれるわけではない!』
「ちぃ! 数が多い!」
全ての属性の宿った刀を振るう刀花の顔に苦渋が滲む。たった二人で30人近くの敵の攻撃を防ぎきらなければいけないのだ。かといって攻め込めばその時点で車は破壊されるだろう。幸い氷のお陰で車はまだ大丈夫だが、それでも、何発かは切り裂きそこねた。このままでは、ジリ貧だった。
とは言え、幸いな事に刀花の指示が早かった事とここが御子神家が近かったお陰で、すぐに援護が入った。それは秋夜による無数の式神の集団だった。そうして東の空から飛来する無数の紙片の群れに、敵が目を見開く。
『なんだ!?』
『よし! 援護、行くよ! 数が数だから壁にしかなれないけど、休憩取って! 後15分もすれば父さんが援軍を連れてそっち行くから!』
「助かる! 春香、今の内に一度休憩を入れるぞ!」
流石の秋夜とて九州・京都・関東の間の連絡網が寸断されない様にしながら更には総司の所の援護を行って、こちらに援軍を差し向けるのは難しかったようだ。現れたのは陰陽師達の使う式神の中でも一番簡単な人型の紙の式神だけだった。
とは言え、そう言っても数は100は下らないし、それでも敵の攻撃の盾にはなれる。そしてこの場で一番重要なのは、内藤の為の盾になってくれる事だ。
これで十分ではあったし、そもそも東京都内から奥多摩の方にまで100体規模の式神を遠隔で送る事は大人でも難しいのだ。10歳とそこそこの子供が成し得る芸当としては、十分に異常だ。
「・・・やはりこれは刀に負担がかかるな・・・」
式神の盾の内側で、刀花がため息を吐いた。たった5分程しか使っていないのに、刀には僅かに刃毀れとひび割れが生じていた。無理もない事だろう。<<五行相克の刃>>は金気の塊である刀に無理矢理水気や木気等他の属性を宿しているのだ。そのお陰で全ての属性を切り裂けるわけなのだが、その分刀に掛かる負担は大きい。
「優奈。総理の状況はどうだ?」
「なんとか、持ち直した・・・これで運び込めれば、なんとかなるわ。後は、医者次第、と言うところよ」
休憩を取る傍ら、刀花は車の中を窺い見る。天井はかなり血で塗れていたが、その出血源である内藤の顔色は先程よりは幾分よくなっていた。どうやら、最悪の状況は脱する事が出来たのだろう。とは言え、今もまだ優奈は何らかの魔術を使用している様子だ。予断を許さない状況、なのだろう。
「運転手は・・・ちっ・・・」
刀花は続けて運転手を見て、顔をしかめる。さすがに彼女らとて一人ずつしか救えず、救うのにも順番を考えねばならなかった。
車の中には他に内藤の秘書と運転手が居たが、秘書はどうやら内藤をかばったらしく刀花達が着いた時点で死んでいて、横転した時点では運転手はまだ息はあったのだが、この5分の間に息を引き取っていた。間に合わなかった様子である。
「すまない。菩提は必ず、弔わせて貰おう・・・うん?」
『なんだ!?』
運転手の瞳を閉じるて刀花が運転手の冥福を祈るとほぼ同時に、龍の様な遠吠えが響き渡る。驚きから言って、敵の援軍でもなさそうだった。
その次の瞬間。上空から<<龍の咆哮>>が降り注いで、敵の一角を消滅させた。そして更に、森側から攻めていた敵が悲鳴を上げる。
『うぎゃぁ!』
『なんだ!? 蔦が・・・絡まる!?』
『動けない!?』
唐突に起きた異変に、敵が大混乱に陥る。が、そうして降りてきた龍に、刀花は援軍が来てくれた事を知った。舞い降りた龍は蘇芳だ。
彼は偶然仕事終わりに車を乗っていて、この騒動を聞き駆けつけたのである。そして森側で敵を混乱に貶めているのは、菫だ。彼女は木精。木々を操る事は造作もない事で、敵は彼女の陣地の中に布陣している様な物だったのである。
『儂の里の近くで随分とまぁ、暴れてくれた様子じゃのう。ほれ、刀花。その刀ではお主の戦いには耐えられまい。儂の拵えた村正の一振りを持ってきてやったぞ』
「蘇芳殿か! これは助かる! 春香!」
「助かった!」
刀花は蘇芳翁が投げて寄越してくれた村正の大太刀と小太刀のセットを二つ受け取ると、一つを春香へと車を通して送る。蘇芳翁の鍛えた刀は彼女が皇家で使っていた武器よりも遥かに品質が良い。
まだ彼女ら用の武器は出来上がっていないので練習で作った数打ちだが、それでも十分だった。そうして受け取った刀花に向けて、蘇芳翁は更に告げた。
『向こうのお嬢ちゃん達にも、武器を持っていった。里の者も援護に入っておる。心配は要らん』
「重ねて、感謝する」
どうやら穂波達の所にも『紫陽の里』の戦士達が援軍が向かってくれていたらしい。刀花が重ねて感謝を示す。そうしてそれを受けて、蘇芳翁は敵へと視線を向けた。
『さて・・・どうする? 儂はこれでも弱小の龍じゃが、今現在はかの覇王殿の配下よ。それに手を出す意味は、理解しような』
『ぐっ・・・』
脳裏に直接響いてきた蘇芳翁の言葉に、敵が顔を顰める。如何に彼らにも後がないとは言え、カイトに喧嘩を売る事だけは避けたいらしい。と言うか、避けねば下手をすると国そのものが跡形も残らない。にっちもさっちも行かない様子だった。そして更にそのタイミングで、御子神家の応援が駆けつけた。
どうやら車で移動するのも憚られたらしく、全員が全速力で都内から駆け抜けてきたのだろう。救急車は天道財閥が寄越してくれる事になったらしく、音だけは響いてきていた。何処かに魔術で隠れているのだろう。
「皇花殿! 無事か!」
「御子神の増援か!」
『っ・・・』
全周囲を完全に包囲されて、敵が顔を顰める。数の有利も覆された。これでは逃げられるわけもなく、敵に残された道は二つしかなくなった。それはこのまま戦って玉砕するか、降伏して虜囚となるか、だ。
そうして、御子神家の中でもハングルが使える者が、敵に降伏を呼びかける事にする。と、どうやら顔見知りが居たようだ。説得しやすいだろう、と彼に向かって話しかけた。
『お前は・・・そうか、お前が・・・降伏してもらおうか。これまでのよしみで、生命の保証はしよう。故郷に確か奥さんがいる、と言う話だっただろう。降伏してくれ』
『っ・・・』
問いかけられた敵の一人が、顔を顰める。彼とてやりたくてやったわけではないのだ。命令だから仕方がなく、だ。そんな苦悩の見える彼に対して、御子神家の家人が更にダメ押しする。
『これ以上戦った所で勝ち目は万に一つもない。ブルー・・・もう一人の覇王殿にも、そこは頼もう。彼の援軍も向かっている。彼とて降伏した者には手荒はしない。が・・・降伏しなければ、死ぬだけだ』
『・・・』
降伏勧告に合わせて武器を構えた陰陽師達から告げられた更にダメ押しの情報に、敵が無言で武器を捨てる。そうして彼が捨てたのをきっかけとして、全員が武器を捨てる意思を見せた。
すでに蘇芳翁に加えて、三童子の一人である刀花、御子神家の家人達まで居るのだ。しかも京都の戦いは終わった。であれば、遠からず秋夜の式神も来る。そしてこの上、カイトの所の増援まで来ているという。このまま戦った所で犬死を悟ったのだろう。が、その次の瞬間だ。いきなり、敵が一気に燃え上がった。
『『『ぐぎゃぁああああ!』』』
業火に焼かれる敵の悲鳴が、陰陽師達しか居ない山間部に響き渡る。人の焼け焦げる嫌な臭いさえしない。そうして一瞬で敵は灰も残さず、燃え尽きた。どうやら、彼らには始めから降伏は許されていなかった様子だ。様子から見て、彼らも知らなかったと考えるのが妥当だろう。
「・・・これが、敵か・・・」
呆然と誰かが呟く。あまりの出来事に呆気にとられている様子だった。味方となった者でさえ、容赦はしない。恐怖を抱くには十分だった。そうして、殆ど何も残す事は無く、戦いの傷跡だけを残して、刀花達の戦いも終了するのだった。
お読み頂きありがとうございました。




