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何時か世界を束ねし者 ~~Tales of the Returner~~  作者: ヒマジン
第11章 ミズガルズ救援編

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断章 初戦闘編 第25話 陽動部隊の影

 さて、時は少し遡る。襲撃が始まる直前、郭嘉は陽動の本隊となる傭兵部隊を率いている典韋と武松とは分かれて、林冲らを引き連れて大学ともカイト達が守る一番大きな出入り口とも全く別の出入り口へとやってきていた。

 が、ここで一つ疑問になる。どうやって隠されているはずの神域への出入り口を彼らは探し当てたのか、ということだ。その答えは、郭嘉が扈三娘に行わせていた工作にあった。


「扈三娘さんに仕掛けてもらった30個程の札。あれは謂わばソナーの様な物ですね」


 郭嘉は出入り口の前のカフェテラスでそう呟くと、林冲らに出入り口となっている街のひっそりとした所に設置された扉を指し示した。


「あれが、非常口です。神域とは常時接続。万が一の場合に入れる様にされている物ですね。普通に街のどなたも建物の非常口の一つ、としか思っていません」


 郭嘉は視線を扉には向けずに、仲間達へとその扉についてを説明する。仕方がない事なのだが、どうしても神域は異空間である関係で簡単に立ち入れるわけではない。

 カイト達がそうであった様に、いくつかの手筈を踏んで入る事が大抵だ。が、どうしても何らかの事情で即座に行かねばならない事もある。そんな時の為に簡単に出入り出来る非常口が必要だったのだ。郭嘉は扈三娘に設置させた札を使って、それを探り当てたのであった。


「まぁ、こちらは見張られていると考えるのが普通で門番も居るでしょう。生半可な力では通れません・・・というわけで、豫譲(よじょう)さんの出番、というわけです」


 郭嘉はそう言うと、一人の男へと視線を向ける。顔立ちは平々凡々。体つきは中肉中背。取り立てて特徴の無い男だ。言い方は悪いが、どこにでも居る様な男だった。街に溶け込んでいるとも言える。

 なお、豫譲とは中国の春秋戦国時代の人物の事だ。知己の語源にもなったと言われる程の義士であった。『三国志』や『水滸伝』の人物ではないが、役割の関係で武人としての名を与えるわけにもいかず、と春秋戦国時代の暗殺者の名から取ったわけである。ちなみに、原点の豫譲の暗殺そのものについては失敗している。


「じゃあ、お願いしますね」

「承った」


 豫譲は郭嘉の言葉を受けると立ち上がって、それに合わせて扈三娘や林冲らも立ち上がる。残ったのは郭嘉ただ一人だ。下手に離脱する動きを見せるとそれで見破られるかもしれないので、ここで仕事をしているフリをしつつ、少しの間は成り行きを見守るつもりだった。そうして、5分。豫譲達が暫く観光客を装って街をうろついている傍らで、郭嘉は最後の確認を取った。


「こちら郭嘉。荀彧さん、そっちはどうですか?」

『準備は終わった。こちらもそちらに合わせて攻撃を仕掛けるつもりだ』

「そうですか・・・こちらも先程豫譲さんが林冲さんらを連れて出ていきました」

『わかった・・・号令は貴様がくだせ』

「おや・・・良いのですか?」


 荀彧の言葉に、郭嘉が驚きを浮かべる。郭嘉は外様で、しかも道士達に心服しているわけではない者だ。『梁山泊』のデヴュー戦の合図を下させるとは思っていなかったのだ。


『今回は貴様が主導した計画ではないが、陸伯言(りくはくげん)と共に日本側の立案には関わっただろう。そして貴様は自らの管轄外である欧州に出向いている。それぐらいの褒美はくれてやるさ』

「そんなのよりも、女の子が欲しいですねぇ・・・」


 荀彧の言葉に郭嘉がため息を吐く。通常、郭嘉は日本に向けての作戦を練るのが仕事だ。そして今回もそうだ。だからこそ、念入りに荀彧との連絡を取り合っているのである。誰だって自分の計画の首尾と状況は確認したいだろう。

 そんな彼がこちらに来ている理由は簡単で、道士達と言うか欧州側の作戦を立てたまた別の策士の命令だからだ。北欧系の顔立ちを見込まれて、こちら側での活動を頼まれたのである。

 ちなみに、陸伯言もまた三国志の軍師の名で、呉の孫権に仕えた武将だ。陸遜、と言えばわかるかもしれない。郭嘉と荀彧、そしてこの陸遜の三人が、主として日本攻略の計画を立てている面子だった。今回は欧州側の策略を専門に立てる者の依頼により、共同で計画を立案していたのであった。なので今回の作戦の大まかな所はこの欧州を主とした策士のプランに従っていた。


「まぁ、良いですか。では、開始」


 やる気なさげに、郭嘉が号令を下す。興味は無いが、下せるのなら下すだけだ。そうして、それとほぼ同時に爆音が鳴り響いた。大学への襲撃が始まったのだ。


「ふふ・・・まさかテロ行為ぐらいで怒ったりはしないですよね。これは戦争。卑怯だ、と言うのは褒め言葉にしかなりませんよ」


 少し遠くで鳴り響いた爆音に、郭嘉がうっすらと笑みを浮かべる。民衆を犠牲にしない戦争なぞ有り得ない。だからこそ、欧州側の軍師はこの作戦を立案して、道士達は承諾した。郭嘉達も何も言わない。道理だからだ。


「さて・・・では、こちらも動きますかね」


 爆音と銃声が鳴り響き、周囲は俄に騒然とし始める。が、まだ何が起こっているかわからない為、反応は鈍い。ここは遠い。まだしばらくは猶予があった。そうして、避難が始まるまでの間、郭嘉は事の成り行きをカフェで見守る事にするのだった。




 さて、一方侵入しようと行動を開始した林冲達だが、彼らは扉の前で潜入の為の行動を起こす事にした。


「豫譲殿。頼む」

「わかった」


 扉の前で林冲が豫譲へと何かを依頼する。それを受けた豫譲は持ってきていた箱を開いて、ボロを取り出して全員に配っていく。そうしてそれが終わると、全員がそれを頭からすっぽりと羽織った。


「・・・」


 豫譲は全員がすっぽりと覆われたのを見ると、何かを小声で呟いていく。それは小声だった上に言葉も早く、何を言っているのか常人には理解不能だった。ある意味、魔術の詠唱としては正しいのかもしれない。

 と、その詠唱が終わった瞬間、ボロが一気に一同の身体に張り付いて、その姿は神域に存在する一般市民の姿へと変貌していた。そうして武器を隠し姿を変貌させると、豫譲が扉を開いた。

 扉そのものは即座に開ける様になっているので、大した防備はなかった。この出入り口は緊急時の為の物なのだから、仕方がない事だった。とは言え、それがわかっていれば当然だが門番を配置する。なのでそこには衛兵達が武器を構えて立っていた。


「誰だ!」

「た、助けてくれ! 大学で授業を受けていたんだ! だが、講義棟を破壊されて、慌てて逃げてきた!」

「・・・」


 一般市民へと変貌を遂げた豫譲は衛兵達に向けて有り得そうな演技を行う。武器を持っている様には見えず、更には魔力も急いでここに逃げ込んできたが故だと思えば衛兵達にも納得出来たらしい。

 更には、この非常時の出入り口の存在を知っている事が少々災いした。この出入り口はバレていない、と門番達は高をくくっていたらしい。一応きちんと武器を持っていないかの確認はしたが、それだけだった。


「・・・武器は・・・持っていないな。そっちは?」

「こっちも・・・無いな。お嬢さん、失礼した」


 門番達は警戒しつつも武器を持っていない事を確認して、一つ頷いた。流石に事が事だったので、扈三娘の検査も男の門番がしたのは仕方がない、と思ってもらう事にした。謝罪はそれ故だ。そして武器も持っていない事から普通の一般人だ、と思ったのだろう。警戒を解いて、問うべきことを聞いた。


「怪我人は?」

「いや、大丈夫。魔術で走って少し擦りむいた程度だ」

「そうか・・・行って良いぞ。もし気になる事があれば、あちらの医務室へ行くと良い」


 豫譲達を見て武器を持っていない事を確認した衛兵達は豫譲の言葉を鵜呑みにする。そうして、再度衛兵達は門の警護へと戻り、豫譲達は一応自宅へ帰るではなく、門の近くの事務所の様な所で待つ様に命ぜられる。流石に大丈夫だ、と判断しても即座に帰宅させるほど彼らも甘くはなかった。後々きちんとチェックをする、と明言されていた。今は先に安心させる事を選んだのだろう。

 が、どうやらこちらを信用していたからか、門番達は豫譲達を手放しにしてしまう。そして既に外は騒動だ。安全かも、と判断している彼らにまで手が回らなかった、という事情も大きかった。それに豫譲達が頷いて、密かにその場を離れる。


『いや、お見事ですね、豫譲さんの変装術は。神々の兵隊さえも騙せますか』


 と、そんな一同へと、郭嘉が連絡を入れてきた。彼は外で待機しているが、作戦の変更等があった場合に備えて一同の背中へ札を貼り付けていたのである。そんな郭嘉の言葉に、豫譲が答えた。


「このためだけに俺は育てられた」

『そうですか・・・で、次の目標ですが、少しお待ち下さい。ここからは未調査ですからね』


 豫譲の言葉を興味なさげに切って捨てると、郭嘉が札の一枚を実体化させる。そうして彼自身の姿を取らせると、豫譲に持たせていたカバンの中から自分が常に使う道具一式を取り出させた。


『さて・・・では、<<奇門遁甲(きもんとんこう)>>を使いましょうか』


 郭嘉は札を介して、<<奇門遁甲(きもんとんこう)>>なる魔術を展開する。と言ってもこれは僅かな魔力を使うだけだったので、神域で起こっている戦いの影に隠れて誰にも気付かれる事はなかった。


『・・・ふむ・・・』


 郭嘉は所定の所作に従って、道具を配置していく。<<奇門遁甲(きもんとんこう)>>とは方角を占う占いの一種として表の世界でも有名だ。こちらの方向に行けば良いことがある、という事を占うのである。

 とは言え、勿論、魔術としてのこれは未来予測にも近い占いと同じ事が出来るわけではない。これをきちんとした方法と魔術を知る者が使えば、方角を占う事が出来たのだ。

 何の方角か、というと術者が望む物の在り処の方角だ。わかるのが方角だけ、と漠然としているがその分正確性は高いし、術者の力量によっては今回の様に複数の物を探る事も出来た。

 そして勿論、郭嘉はこれを極めている。なので彼の魔道具の上には幾つかの点が浮かび上がった。大きさは一際大きい点が一つに、同じぐらいの大きさが二つ、先3つよりも二回り程小さな点が更に幾つかだ。


『出ました・・・さて、どれを攻めるべきでしょうかね・・・』


 郭嘉は浮かび上がった点を見ながら、次の攻める場所を考える。大きさに応じて、重要度が違う。なので普通は大きな物を狙う様に思えたが、郭嘉は違う指示を下した。


『・・・良し。では、この一番大きな点以外を目指す事にしましょう。細かな点は今は除外。メインはこの中くらいの点を目指す事にしましょう』


 郭嘉の指示を受けて、部隊が二つに分かれる。なぜ一番大きな点を省いたのか、というとどう考えてもそこが一番守りが厳重――スカサハとルイスが守っている所――だからだ。下手にそんな所に行って返り討ちに遭うつもりは無かった。


『さて・・・それでは、私も』


 郭嘉は札を二つに分けた部隊に一つずつ張り付かせると、残りは全て回収する。そうして実体化させた札を再度札の形態に戻すと、それを器用に操って『戦死者の館(ヴァルハラ)』を目指して飛んでいく。

 神域ではカイト達の戦いの真っ最中だし、そもそも札は器用に操れば殆ど魔力を外へは放出しない。なので誰にも気付かれる事なく、郭嘉は札を『戦死者の館(ヴァルハラ)』の中へと潜り込ませる事に成功した。


『えーっと、ここからは・・・』


 郭嘉は『戦死者の館(ヴァルハラ)』の物陰に隠れて、再度<<奇門遁甲(きもんとんこう)>>を使用する。目指すは司令室だ。何をするにもまず頭を潰してからだ。そうして、慌ただしい『戦死者の館(ヴァルハラ)』の中でこそこそと郭嘉が工作を行っていく。


『この下が、司令室ですか・・・』

「そうじゃのう。どこぞの魔術師殿」

『っ!?』


 聞こえてきた声に、郭嘉が思わず驚きを露わにする。ここまでミスを犯したつもりはない。神々さえ欺けた自信があった。この分野に自信がある、という自負もある。だと言うのに、気付かれていた。驚くのも無理は無い。


「気付かんと思うたか。余が指揮官であれば、潜入してまず考えるのは司令室への工作よ。まともに指示が出ねば軍とはまともに動かん。軍勢とは多勢。個ではない。連携が上手く行ってはじめて機能する物じゃ」

『っ・・・金色の魔女・・・生きているかも、とは思っていましたが・・・』


 郭嘉は相手を見て、自らの不利を悟る。如何に彼がどれだけ自信を持っていようと、純正の魔女を相手に勝てるとは思っていない。

 相手は教会がどんな存在よりも恐れる魔術の申し子。それこそ疑わしいというだけで数十万人を虐殺する程の存在なのだ。勝てるとは思えなかった。そして勝てると思わないのであれば、取るべき手は一つだけだ。


「む?」


 ざらっ、と札が一瞬で灰に代わり、消えてなくなる。ティナの目の前にある一枚だけではなく、同時並列で操作していた『戦死者の館(ヴァルハラ)』の中にあった全てが、だ。


「ふむ・・・思い切りが良いのう。正解・・・ではあるが、些か遅い・・・が、今から行っても無駄か。ここは、撤退の手腕を見事と褒め称えてやるとするかのう」


 ティナは郭嘉の撤退の潔さを賞賛する事にして、彼が仕掛けていた工作を全て除去させるべく指示を下し始める。


「司令室の上の炸薬については余が対処する。他に重要なエリアへの対処はお主らがやれ」

「わかりました」


 ティナの指示を受けて、『戦死者の館(ヴァルハラ)』に控えていた『戦乙女(ヴァルキュリア)』達が動き始める。そしてそれに合わせて、一応の所外に居る郭嘉へと追っ手を差し向ける事にした。


「それと合わせて、後で指定する非常口の外に兵を送れ。まぁ、もう逃げとるじゃろうが痕跡ぐらいはあるやもしれん。見付かればめっけもん。見つからんでも当分はこちらへのちょっかいは仕掛けられん。それで良いじゃろう」

「わかりました」

「あぁ、当然じゃが彼奴らが入ったと思しき非常口は塞いでおけ。入った所から出れるとは思うとらんじゃろうがな」

「はい」


 慌ただしく動く『戦乙女(ヴァルキュリア)』達を尻目に、ティナは司令室の上の階層に仕掛けられた爆薬を凍らせて無効化する。後は外で爆破処理すれば大丈夫だろう。他の所にしても同じように簡易な氷属性の魔術で凍らせて終わりだ。ティナが出るまでもない。


「ふむ・・・まぁ、ここまで入り込めるとは少々驚きじゃな」


 爆発物処理を終わらせたティナは郭嘉の腕前を少し賞賛する。途中からティナは郭嘉の札の存在に気付いたわけだが、それにしたって潜入から僅かにラグがあった。僅かな間ではあるが、ティナの目を騙せたわけだ。凄いといえば凄いだろう。


「こういった低出力分野だけは、慣れがものを言うからのう・・・仕方がなし、か。敵も中々の腕前を揃えてきた様子じゃな」

「あ、お師匠様。どうでした?」


 司令室に戻ったティナを出迎えたのは、マーリンだ。どうやらアルト率いる『円卓の騎士ナイト・オブ・ラウンド』は大学で暴れまわっていた傭兵部隊の掃討を殆ど終えたらしい。今は負傷者の救助等事後処理の真っ最中だったらしく、少しだけ気を抜いていた。


「うむ。まぁ、逃げたじゃろうな。あのままカフェにとどまる程バカではあるまい。敵の軍師を一時的に無力化出来た事を良しとしておこう」


 パソコンを操作しながら、ティナが告げる。操作して探すのは、郭嘉の出入りしただろう出入り口だ。彼女は基本的に戦略面において高望みはしない。ということで、一時的とは言え郭嘉に十全の指揮をさせない事を良しとしたようだ。今後を言えば討伐がベストだったが、今回だけを見ればこれで十分なのだ。それで良いだろう。


「さて・・・オペレートに戻る事に・・・うむ?」


 再びオペレートに戻る事にしたティナだが、そこで一つの急報が入っている事に気付いた。それはオーディンら北欧の者達が用意した通信機へ、ではなく自らの用意したネットワークを介してだった。


「なんじゃ?」

『繋がったか! ブルーは居るか!?』

「おぉ、確か皇の長か。随分ボロボロではないか。傷薬であれば、もうしばらくすれば届こう」


 連絡を入れてきたのは、皇志だった。とは言えその姿はボロボロで、傷だらけだった。が、ここは予想通りだったので、ここまではティナにも余裕が滲んでいた。対処しても多少の手傷はもらうだろう、というのは想定の範囲内だ。だからこそ、カイトもその後さえ見越して対処していたのだ。


『私は良い! 今すぐ治療出来る者を手配してくれ!』

「うむ?」

『内藤総理がやられた! 大怪我だ! 生死の境を彷徨っている! 隠蔽どころか命を考えても即座に治療が必要だ!』

「何!?」


 皇志から寄せられた情報に、ティナが目を見開く。今回、実のところ襲撃の主眼は皇志だとカイト達は予想していた。そこを撃退する為に、カイト達は密かに戦力を動かしていた。

 そして皇志の有様を見れば、その予想はおそらく正解なのだろう。地球の現代の戦士の中でも有数の実力者である彼が手傷を負わされるぐらいなのだ。相当な実力者達が徒党を組んで襲撃したはずだ。

 が、そうであるが故に、内藤が狙われたのは想定外だった。皇志は己の実力をしっかりと把握出来ている為、自分以外の所にはかなりの戦力を割いていたのだ。

 だからこそ戦力の集中している内藤を狙うとは思えないし、カイト達は九州とて陽動だと思っていた。そこを狙うのは馬鹿か余程の自信がある場合だろう。が、皇志に襲撃を仕掛けつつ内藤を襲撃出来る程の戦力は、流石に今の道士達とて動かしたくはないはずだった。

 それにそもそも、東京にあちらに戦力が向かった、という報告は受けていない。そして襲撃出来る程の存在が入れる程、日本の防衛網も甘くはない。だからこそカイト達も太平洋側を移動していたはずの内藤の襲撃だけは、予想外だったのだ。とは言え、想定外だからといっても動く事は出来る。


「わかった。即座に治療の為の術者を手配しよう。そちらは他に問題は無いな?・・・む? おい! 大丈夫か!? おい、皇の!」

『・・・』

『限界だった様子だぜ。どうにも頭に一撃貰ったらしくてな。言うだけ言って気絶しやがった』


 沈黙した通信機に焦った様に問いかけたティナであるが、返って来た声は別人の物だった。よく見れば茨木童子と同じぐらいに大柄な男が皇志を支えていた。


「お主は・・・」

坂田 金時(さかたきんとき)。金太郎か金時で呼んでくれ。茨木の奴に頼まれて援護に来た。茨木は今も戦闘中だ』


 坂田金時。物語に語られる金太郎だ。彼は皇志を抱えると、安静にさせる。そうしてティナはとりあえず病院の手配と治癒術者の手配を整えながら、金時から事情を聞く事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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